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『カーテンコールを青い蝶へ』
矢花 すみれla3882)&天野 一羽la3440

「すみれちゃん、おめでとう! あの役は正式に、すみれちゃんに決定だって!」
 電話を切った天野 一羽(la3440)はそう言って声を弾ませる。
 連絡を待っていた矢花 すみれ(la3882)は「当然じゃな〜い」と言って一気に体中の力が抜けたような様子を見せた。
「だって、どれだけ練習したと思ってるのよ〜! 毎晩毎晩、任務の合間を縫ってボイトレにダンスレッスンにフェンシングの特訓まで! 本当に大変だったんだから!」
「あははは、本当にお疲れ様。だけど、ここからが本番だね。僕も『マネージャー』として、今回の仕事をきっちりこなさないと」
 スーツ姿の一羽はそう言って黒フレームの眼鏡をくいっと上げて見せた。
 すみれがそれを見てぷっと噴き出す。
「似合ってるわよ、その恰好。みんな完全に一羽をあのプロダクションの社員だと信じてるみたいね」
「僕もそれらしく見えるように頑張ってるからね。ところですみれちゃん実はね……」
 一羽はそう言ってすみれの隣に座り、端末を開いた。

 すみれは先日、SALFの任務のためにとあるミュージカルのオーディションを受けた。
 ミュージカル製作会社がレヴェルの支援者の出資を受けているという噂があり、すみれと一羽がその調査を行う事になったのだ。
 そこですみれはとあるプロダクションの所属女優になりすまし、同じくマネージャーになりすました一羽と共にオーディションに参加。
 テーマである「姫騎士」を演じられる剣の技量を認められ、またダンスの技術を買われて見事メインキャストの座を射止めたのである。
「明日がキャスト全員の顔合わせで、明後日からは朝6時半に稽古スタートだって。上がるのは17時の予定だけど2時間くらいは伸びるかもって」
「前からそれは聞いてたから平気よ。でも、これから毎朝4時に起きるの辛いわね……」
「あ、金曜日はお昼からだって。だけどその代わり、ディレクターさんから夜来てほしいって言われてて」
 一羽はディレクターから、すみれをスポンサー会社の重要人物との会食に連れてくるように言われたという。
 スポンサー会社、と聞いてすみれはピクリと反応した。

「出たわね……例の『怪しい会社』。来るのは部長?」
「そうそう。ディレクターさんが『すみれちゃん、顔のきく人の一押しがあればかなりいいところまで行けると思うんだよねぇ。天野君、そうでしょ? 君のとこ、映画に出るようなスター欲しいんじゃない?』って言ってて」
 SALFが「レヴェルの支援者ではないか」と目をつけているのがこのスポンサーだった。
 会食は恐らくミュージカルとは関係のないものではあるが、ライセンサーであるすみれと一羽にとってこれは「本命」に近づける大チャンスだった。
「ようやくここからが本当の本番、ってところね。だけど私、会食の席でその部長って人にセクハラまがいなことされそうじゃない?」
「だ、大丈夫だよすみれちゃん! それは僕がちゃんと阻止するから!」
「本当? 頼むわよ? まぁ、こういう展開になる可能性があるから私と一羽がペアで、って事になったのよね。上手くやりましょ」
 すみれと一羽は翌日からミュージカルの稽古に参加し、ついに金曜日を迎えた。
 スポンサー会社の部長は会食時間前から稽古場にやってきて、すみれやほかのキャスト達の様子を見学していた。
 
「いざわが故郷を取り戻すため! 歌おうぞ、我が同志たち!!」
 銀に光るサーベルを高々と掲げすみれが声をあげると、場はオーケストラの演奏に包まれる。
 すみれの演じる姫騎士が魔王軍の攻撃で故郷を失い傷ついた人々を奮い立たせ、全員で武器を取り奮起の歌を力強く歌うシーンだ。
 部長は衣装の裾を翻し、剣を振るって踊るすみれの姿を見つめ、「いいねぇ」と声を漏らした。
「彼女のかわいらしさと気の強そうな表情があの姫騎士役にピッタリじゃないか」
「ありがとうございます」
 一羽はマネージャーらしくそう言って頭を下げた。
 すると部長はこう言ってにやりと笑った。
「きっとこれから、いろいろ大人な経験を積むことで演技の幅が広がることだろうね」
「大人な経験……ですか」
「そうそう。今夜はよろしく頼むよ」

 間違いなくこいつは警戒すべき大人だ。
 部長の態度に、一羽はそんな印象を覚えた。
 そして案の定、会食の席ですみれの横を陣取った部長はお酒が入った途端、セクハラまがいな態度をあらわにし始めたのである。
「すみれちゃん知ってる? 今朝ドラの主役やってるあの子、俺の元カノだったんだよ〜?」
「へ、へぇ〜……そうなんですかぁ〜!」
「そうそう。最初はすみれちゃんみたいに純粋そうでフレッシュな感じだったんだけど、俺と付き合ってだんだんセクシーな色気が出てきてさぁ」
「え〜そうなんだぁ。なんで別れちゃったんですかぁ?」
 腰を抱かれそうになるのを必死でかわしながら、無理やり笑顔をつくり、適当な相槌を打つすみれ。
 だが幼馴染である一羽はすみれが「ブチ切れ寸前」なのを察していた。
「あ、あの部長さん、今日は稽古の様子を熱心に見ておられましたけど、今回の作品いかがですか?」 
 一羽はそう話題を向けながら、すみれに「今のうちに離れて!」と視線で合図した。
 すみれは軽く頷き、店員にオーダーするフリをしてさりげなく部長から距離を取った。

「やっぱりさぁ、演出と衣装が今回は力が入ってるよねぇ〜。まだ大道具と装置は完成してないみたいだけど、すみれちゃんが戦うボスの最終形態の登場シーンもきっと見ものだよ」
 ウィスキーを煽りながら、部長はそう言った。
 すでに呂律も怪しく、かなり酔いが回っているらしい。
「ねぇすみれちゃんさぁ、本物のバケモン見たことある? バケモン」
「化け物……ですか?」
「やっぱ、姫騎士ちゃんの演技にも『ホンモノ』見たことあった方がリアリティー出ると思うんだよねぇ! これからさ、『すごいもの』見に行きたくない??」
「えー、何ですかぁ?? 見たい見たい♪」
 うっかり触られないよう距離を取りながら、すみれは話に乗るふりをする。
 すると部長はすっかり気分を良くした様子で、同席していた部下に「車出せ!」と言った。

「お付き合いいただいてしまい、申し訳ありません……10分くらいでお帰りいただいて大丈夫ですので」
 運転を命じられた部下は、助手席の一羽にそうすまなそうに言った。
 後部座席ではすみれが何度も肩を組もうとする部長を巧みに回避している。
 車はそのまま、海沿いの倉庫街の一角に向かった。
 すみれと一羽がそこで見たのは、青く光り輝く巨大なオブジェのようなものだった。
「見て! これだよ本物は! 分かる? 生きてるの!」
 部長はそう言ってすみれの肩を叩いた。
 網目状の薄く硬い膜で覆われた10mはあろうかという円錐形のその物体は台車に乗せられ、巨大な倉庫のコンクリートの床に横たわっていた。
 固定用のロープの下には膜の中にあるものが青く発光し、時折脈打つように動くのが確認できた。
(間違いないな……これは、巨大なナイトメアのサナギだ)
 一羽がすみれの方を見ると、すみれも大きく頷いて見せた。

「これは明らかな違反行為ですよ、部長さん。僕達はSALFのライセンサーです。この件は報告させていただきます」
 一羽はそう言って、さっきからずっと通信装置のスイッチが入っていたことを告げた。
 恐らく、すぐにここへ応援のライセンサー達も駆けつけるだろう。
 部長は一羽やすみれを無知な若者と高をくくっていたらしく、何が起きたのかわからないような顔をしていた。
「見る限り、これは大きな蝶型のナイトメアのようね。販売目的? それとも単なるコレクションの1つかしら? これはあんたの指示でここに置いてあるの? それとも会社のもっと偉い人の命令?」
 すみれはそう言いながら部長に迫った。
「正直に言いなさい? 隠さない方が、罪は軽くて済むわ」
「くそっ! 俺をはめやがったのか!!」
 部長は顔色を変え、その場から逃走を図った。
 だがアルコールが入っていたせいか、足をもつれさせ、倉庫の壁際によろめいた。
 その瞬間、アラームが鳴り響き、天井から水が激しく噴き出した。
 消火用のスプリンクラーの手動開放弁に触れたようだ。

「み、水?! まずいぞ!!」
 部下の男がそう叫んだ時だった。
 何かが避ける音がして、ナイトメアの蛹がむくむくと動き出した。
 網目状の膜が破れ、飛び出したのは真っ青な羽と、人間のような形態をした頭部、そして腕だった。
 水をかけたことで孵化したのは、蝶の羽を持った巨大ナイトメアだったのである。
「キロロロロロロロロロロ!!!!!!」
 ナイトメアはカッと口を開くと、奇声を倉庫中に響き渡らせた。
 その瞬間、部長とその部下は悲鳴を上げ、床に転がった。
 何らかの音波が発生し、イマジナリーシールドを持たない者の動きを奪ったのである。
「一羽! いくわよ!」
 すみれは荷物からレイピア「タルジュラキーク」を引き出し、構えた。
 そして倒れた2人を庇うように立つと、その切っ先をナイトメアに向け、牽制する。

「SALFの資料で見たことのあるナイトメアだわ。多分、羽が乾くと飛行能力が上がって手が付けられなくなる! 今のうちに一気に倒すわよ!」
 すみれは前へ出ると、レイピアを振りかざし、ナイトメアに向かって素早い二連撃を繰り出した。
 旋空連牙・技の鋭い剣を受け、ナイトメアはとっさに身を引いたように見えた。
 だが次の瞬間、奇声を発しながらすみれに向かって飛び掛かった。
 カッと開いた口からは、鞭のような触手が伸び、すみれの腕に突き刺さる。
「きゃああああ!!!」
「すみれちゃん!!」
 ナイトメアに躍りかかられたすみれの悲鳴を聞き、一羽は反射的に雷撃砲「イカヅチ」を構え、引き金を引いた。
 放たれたエネルギー弾は雷鳴のような音を響かせながら、ナイトメアの青い羽を貫く。
 その衝撃に煽られたナイトメアはバランスを崩し、羽には大きな穴が開いた。
 一羽は「逃げて!」と叫びながら銃身を構えなおす。
 すみれはその間に素早くナイトメアの傍から離れた。

(刺された瞬間、体の力が一気に抜けたわ……あの触手で相手のエネルギーを吸い取るのね)
 呼吸を整え、すみれは持ってきた荷物の方へ走る。
 そして武器を幻月の鎌「パラセレネ」に持ち替えた。
(あの大きな相手なら、レイピアよりこっちの方がいいわ!)
 ナイトメアは一羽の攻撃を警戒し、すみれに背を向けた状態で距離をとろうとしていた。
 今がチャンスと見たすみれはパラセレネを振り立て、その背に切りつけた。
「逃がさないわよ!!」
 イマジナリードライブの白い刃がナイトメアの背を大きく切り、4枚の羽のうち1枚が落ちた。
 すみれは相手が振り返る前にそこから大きく距離を取って離れると、「一羽!」と叫んだ。
「捕まえて!!」
「OK! ここならいける!」

 一羽が繰り出したのは、イカヅチの砲撃ではなかった。
 イマジナリードライブによる真っ赤な炎がナイトメアの周囲を包み、燃え上がる。
 咲き乱れる赤の炎に包まれ、ナイトメアは悲鳴を上げた。
 多くの虫と同じく、火に弱かったのだろうか。
 真っ青な羽が焼け落ちるようにボロボロになり、悶え苦しんでいる。
 とどめを刺すなら今だった。
「食らいなさい、さっきの仕返しよ!」
 武器を再びレイピアに持ち替えたすみれはナイトメアの心臓を狙い、鋭い突きを繰り出した。
 その体はドッとコンクリートの上に倒れ、動かなくなった。

 件の会社にはその後調査が入り、ナイトメアの生体を不法に所持したことや数多くのレヴェルとの繋がりが明るみになり、多くの逮捕者を出した。
 だがすみれがオーディションに参加したミュージカルの制作会社にはその件はあまり関係ないと分かり、ミュージカルも無事に上映されることになった。
「まさか、本番まで参加することになるとは思わなかったわ。SALFもよく許可してくれたわよね」
 メイクを仕上げ、すみれが大きく深呼吸した。
 姫騎士の衣装に身を包んだすみれに一羽が「頑張って」と声をかける。
「似合ってる。すごくきれいだよ!」
「ありがとう。じゃあ、行ってくるわね」
 オーケストラの音が響き、幕が上がる。
 レイピアを携えたすみれはマントを翻し、威風堂々、歌声と共にスポットライトの中へと歩いて行った。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼ありがとうございました、九里原十三里です。
今回はおまかせノベルということで、矢花 すみれ(la3882)さん、天野 一羽(la3440)さんのお話を1から作らせていただいております。

お2人には今回、潜入調査的なことをやっていただきました。
すみれさんにはせっかくダンスのスキルがあるという事なので、そういったことを活かせるミュージカル女優に。
一羽さんはそのマネージャーに変装、という事で最後は真実を突き止めナイトメアを倒す、そしてミュージカルにも出演しちゃう! という展開になっております(笑) 

改めまして今回はご依頼ありがとうございました。
どうぞ最後までグロリアスドライヴをお楽しみください!
おまかせノベル -
九里原十三里 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年12月28日

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