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『対等に並び立つ関係』
神取 アウィンla3388


 日暮れの首都エオスはミーベルステファノスの話題で賑やかだ。
 エオニア支部の斡旋所にて神取 アウィン(la3388)は必要書類にサインする。祭りの最終日を飾る海のライブで屋台を出す手続きである。
 几帳面な彼らしい、きちっとした字が並ぶ書類を差し出した。

「これで、屋台の申請手続きは終了です。お疲れ様でした」
「宜しく頼む」

 きちんと礼をして出口へ向かう。
 本当は彼女とこれから飲みに行けたら良かったが、あいにく今日は一人きり。
 エオニアと言えばランテルナというくらい行きつけだが、エオスからはやや遠い。
 どこで飲むかと悩んでいた時に支部の入口で、アイザック・ケイン(lz0007)と出くわした。

「やあ、アウィン君」
「ケイン殿。仕事終わりか?」
「今日は戦闘訓練をしてたんだ。事務仕事ばかりだと落ち着かなくて」
「鍛錬は良いものだ」
「今日は一人? この後時間ある?」
「ああ、一人だし時間はあるが」
「これから飲みに行こうと思って。アウィン君は酒好きだよね?」
「むろん、好きだ。……そうだ」

 懐から取り出したるは日本酒の小瓶。
 祭りで飲むように、日本酒を多めに盛ってきていたから、1本くらい飲んでも構うまい。

「わあ! 日本酒か!」
「ああ、こちらでは珍しいか」
「うん、嬉しいな」

 日本酒瓶を抱きしめんばかりに浮かれるアイザックを見て、アウィンはふと気づく。
 いつも戦闘任務ばかりで、ゆっくり話す時間はなかった。これは良い機会かもしれない。

「ケイン殿と酒が飲みたい」
「うん。僕も一緒に飲めるの嬉しいな」

 こうして飲兵衛同士、飲みに行こうとあいなった。



 カフェバーのカウンター席に並んだアウィンは、居心地が悪そうに肩をすくめた。
 目の前に日本酒とショットグラスが並んでいる。

「……店に酒を持ち込んで良いのだろうか」
「大丈夫。ここ僕の店だし」
「ああ、ここが止まり木か。噂には聞いている」

 店内を見渡し、飾られた品々に目を細める。温もりを感じる良い店だ。

「まずはエールで乾杯してから日本酒。良いミーベル酒とワインもあるんだ。これくらいいけるよね?」
「それだけ飲めるのはありがたい」
「じゃあ、再会を祝して乾杯」
「乾杯だな」

 乾杯して、すぐに二人はエールをぐいぐいと飲み干した。
 白身魚のマリネや海老のフリットが、意外と日本酒に合う。ぷりっとした海老の歯ごたえとサクサクした衣は、どこか天ぷらを思わせた。

「これ飛騨のお酒なんだ」
「ああ、因縁深い土地でな」

 飛騨とはどんな場所か。彼の地に欠かせない兄妹の存在から語りだし、愛しい彼女とのなれそめに繋がって、いつしか惚気話になり、無自覚に表情が柔らかくなる。
 そんな顔を見るのは初めてのアイザックは微笑ましいものを見るような笑顔だ。

「年上でしっかり導いてくれるのに、時々見せる隙がだな、とても愛らしい」
「うんうん、わかるな。僕もしっかりした女性が見せる隙はぐっとくるね。特に自分の前だけだとなおさら」
「そうだろう。思えば年上好きなのかもしれない。初恋の人も年上だった。18と遅い初恋なのだが」
「僕も同じ年くらいに年上の女性を好きになったな。あれが初恋かも」
「そうなのか? ケイン殿ならモテそうだが」
「10代は忙しかったんだ」

 13歳で父が戦死し、早く大人になって戦場に行きたいとがむしゃらに訓練に明け暮れ。16歳でSALFに入ってからは前線を駆け回った。
 恋をする余裕もない青春だった。

「先輩ライセンサーでね、格好いい女性だったよ。告白もできずに戦死してしまったけどね」
「……そうか。俺も告白はできなかったが、ケイン殿の方が、だいぶ壮絶だな」

 酒のせいか、男同士の気安さか、アウィンの口調も砕けている。
 しんみりとした話を打ち砕くようにミーベル酒に手をつけ、アイザックは笑う。

「ランテルナで二人を見かけた時、微笑ましいカップルだなって思ったよ」
「あの時は挨拶もせず、失礼した」
「いや、あの空気に割り込むなんて、無粋なこと僕にはできないよ」
「ランテルナは二人の思い出の地でな」

 6月の花飾り作りの話に変わり、また惚気話に戻る。ミーベル酒をくいくい、あっという間にボトルを空にして、アイザックがワインを持ってくる。

「これは当たり年のワインなんだ」
「‘16年の赤ワイン! これも彼女と飲んだ、大切な酒だ」
「喜んで貰えると、開けがいがあるよ」

 ワインの因縁からエオニアでの想い出へ、永遠に続きそうな惚気話の果てにやっと気づいた。

「……すまない。つい自分の話ばかり」
「ううん。人の恋バナって、良い酒の肴だし、聞くの好きだな」
「それなら良かった。ケイン殿はどうなのだ? その、今でも年上好きとか」
「うーん。年齢は問わないけど、自立した女性が好きだから、年上も好きかも」
「なるほど。若くてもしっかりした女性ならか?」
「そうそう自分のやりたいことがしっかり定まって、凜と立つ人がいいな。それに家族を大切にする人、同じ夢を追える人がいいな」
 家族を大切に思うアイザックらしいと思いつつ、酒をぐびり。
「アウィン君達は、僕の理想のカップルなんだよね」
「理想?」
「大学教授と医者。それぞれ違う道を目指して、互いの仕事を尊重し、支え合って家事も分担する。そういう対等に並び立つ関係に僕もなりたい」
「医者どころか医大を受ける資格もまだない。家事だって、この世界に来てから練習したもので、まだまだだ」
「僕も料理はあまりしなかったんだ。練習し始めたのは最近だよ」
「そうなのか。……だいぶ年下であるし、彼女に甘えてばかりで、支えていると言える自信がない」
「でも、今日一人で来たのはどうして?」
「彼女が学会で忙しくて、俺が先に来て手続きを終わらせようとしてな」
「それも、立派に彼女を支えてるよ。まあ、男だし、もっと頼りがいがある所見せたいって気持ちもわかるけどね」

 そう言いながら、バシンとアウィンの背を叩く。
 気さくな態度に、思わず笑みを漏らしアウィンはふと気づいた。ライセンサーとしてだけでなく、人として、男として先輩のアイザックの話を聞いて、勉強したら。彼女に相応しい男になるヒントが貰えるかもしれない。

「男がリードするものではないのか? ケイン殿なら女性をエスコートするのも、お手の物だと思うが」
「もちろん。女性はエスコートするよ。それが英国紳士さ。でも24時間エスコートし続けるのはどうかな? 家族になるならね」
「なるほど。少しは気を緩めたい時もあるな」
「うん、僕も甘えたい時はある」
「男に甘えられて嬉しい物か?」
「好きな人ならきっと嬉しいよ」
「情けない所を見せても?」
「それも可愛げあると思われるかもよ。それに僕は僕を叱ってくれるくらいの人がいいな」
「叱られたいというのは……解らなくもない。導いてくれるということだろう」

 アウィンは愛しい人を思い浮かべ、甘く微笑む。
 彼女が色んな世界を教えてくれた。視界に移る世界に彩りをくれた得がたい人。
 あの笑顔を守りたい。

「信頼するからこそ、互いに隙を見せられるのだろうか」
「そうだね。弱さを認め合って僕らは生きていくんだ」
「弱さを認めるのも強さだろうか」
「うん。それも強さだね」

 年の差を気にする自分さえも受け入れろ。人生の先輩からのアドバイスを心に刻んだ。

 そんな恋愛談義がいつまでも止まり木で弾む。
 二人が開けた酒の瓶が何本だったか、誰も覚えていない。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
●登場人物一覧
【神取 アウィン(la3388)/ 男性 / 24歳 / 意地と愛に悩む男】


●ライター通信
いつもお世話になっております。雪芽泉琉です。
ノベルをご発注いただき誠にありがとうございました。

「【祝夏祭】終祭festival」の直前を想定してます。
アイザックとアウィンさんが穏やかに飲める時期となると、この辺りになるかなと思いまして。
男同士の飲み会ということで、男の見栄や意地と、弱音も交える感じにしてみました。
楽しんで頂けたら幸いです。

何かありましたら、お気軽にリテイクをどうぞ。
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雪芽泉琉 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年12月29日

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