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『アフリカに咲く花』
ジュリア・ガッティla0883


 アフリカのサバンナを列車が走る。ボックス席に向かい合わせで座ったジュリア・ガッティ(la0883)とアイザック・ケイン(lz0007)は車窓からのんびり景色を眺めた。

「まさかもうケニアに行かれるとは思わなかったわ」
「SALF職員が現地で働いてるから列車の需要があるんだ」
「アイザックも忙しいでしょう」
「僕もアフリカに遊びに行きたかったから、誘ってくれてとっても嬉しいよ」

 クリスマスの決戦から4日。後方勤務の職員達は残務処理で慌ただしい。それでも叶えたい約束があった。

「デッドフレイ、ヴィクトリアの滝はまだ無理だけど、ケニアならね」
「南アフリカの調査はまだこれからかしら?」
「うん」

 夏のバカンスに、アフリカの景色を見て絵にしたいとジュリアは言った。その時アイザックは紅茶を淹れると約束した。



 ケニアの街から少し遠出して自然が残る土地まで来た。
 ジュリアは持ち込んだ画材の準備をする。ラフ用のスケッチブックに鉛筆、カンバスと油彩画用の道具。折りたたみ式の椅子と机。

「イーゼルはどの辺りに置く?」
「ここにお願い。助かったわ。一人で運ぶには重いから」
「僕の荷物は少ないから問題ないよ。お茶を淹れる道具とこれくらいかな」

 取り出したのは一眼レフカメラ。

「年代物ね」
「実家にあったんだ。ジュリア君みたいに絵は描けないけど、写真なら撮れるかなって。色々撮って回るよ」
「それは良いわね」
「ジュリア君も撮って良い?」
「良いけど、一声かけてね」
「もちろん」

 無防備な姿を撮られるのは少し気恥ずかしい。
 スケッチブックと鉛筆で、構図を考えながら何枚かラフを描く。
 その中で一番気に入った景色を描こうと定めた。
 絵の具を油で溶いて、程良い柔らかさに調整し、最初は大胆に色を置いていく。本来油絵は時間をかけて描くものだが、今回は速乾性の高い絵の具で一気に書き上げるつもりだ。
 筆を変え、色を変え、繊細な描き込みをする時は呼吸を止めるくらい、夢中で書き続ける。
 光の角度が変わってきた頃に一呼吸をついて、筆を置いた。
 そのタイミングでアイザックがマグカップを差し出す。

「お疲れ様。はい、紅茶」
「ありがとう。温かい。手がかじかみそうだったから助かるわ」
「ショートブレッドもあるから、よかったら食べて」

 ステンレスマグは保温性が高く壊れにくく、個包装のショートブレッドは手を汚さずに食べやすい。
 一口飲むと、ふわりと香りが広がり、体に染みる温かさだ。

「力強くて、親しみのある味ね。美味しいわ」
「ケニア産の紅茶だよ。昔はたくさんヨーロッパに輸入されてたんだ」
「紅茶を作れるくらい、この土地は豊かだったのね」

 アフリカの様々な土地で、色んな思いで生きてきた人々を見てきたジュリアだからこそ、感慨深い思いがある。

「凄い集中してた。本当に絵が好きなんだね」
「たぶん昔からよ。小さい頃、ナイトメアが現れる前の世界を映した旅番組が好きで、見ながら絵を描いていたわ」
「子供の頃から描いてたんだ」
「アフリカの動物を見て『見に行きたい!』って親に言って、困らせてたっけ。あの時のまま。画用紙をクレヨンで塗り潰してたのが、キャンバスと絵筆に変わっただけね」
「僕もピラミッドに行きたいって駄々をこねたよ」

 子供の頃の想い出を語り合い、くすくすと笑いあう。

「ジュリア君と僕、似てるなって何度も思ったんだけど、お互い家族との大切な想い出があるからかもしれないね」
「似てる?」
「墓参りの時、アフリカへの希望や不安を言ってくれたよね。僕とまったく一緒でびっくりしたよ」
「アイザックも不安だったの?」
「うん。本当にアフリカを取り戻せるのか、成功しても友人達が死んでしまわないか。ずっと不安だった」

 言いながら切なげに空を眺める。

「ジュリア君と違う任務の時でも、いつも思ってた。同じ大地で、僕と同じを思いを抱えて戦っている人がいる。それは本当に心強いことだったよ。報告書を見るのも楽しみでね」
「私の受けた任務の報告書見てたの」
「もちろん。アフリカ関連は全部見てるよ」

 仕事中毒ぶりに呆れつつ、憂いを帯びた目でジュリアは俯く

「頑張ったけど、救えなかった命もあったわ。気づかず見過ごして悔しい思いをしたことも」
「全て救えるほど僕らは万能じゃない。解っていても歯がゆいよね」

 けれど今こうしてアフリカを取り戻し、平和な景色を絵に写真に残すことができる。その喜びを静かに噛みしめた。

「夕方になったら声をかけるから思いっきり描いて。紅茶も保温ポットに入れておいたよ」
「ありがとう」

 休憩を終えてまた絵筆を手にする。
 また何度もアフリカに来るのだろう。けれど今日のこの景色は、今しか描けない。この時間をキャンバスに切り取りたい。
 離れてバランスを確認し、細かく書き足していく。
 なんとか日が傾き始める前にだいたい描き終えた。

「できたわ」
「……凄い、綺麗だね」
「帰ってからまた加筆するから、まだ完成ではないけれど」

 絵を覗き込みアイザックは微笑む。今日はいつも以上に柔らかい笑みに見えた。普段誰に対しても公平なアイザックらしからぬ近さだ。

「この絵、完成したら貰ってくれないかしら。誕生日祝いに」
「え、僕の誕生日覚えててくれたの?」
「もちろん。私もいつまでSALFに居るか分からないし、形に残る物を贈りたいなって」
「……ありがとう。とっても嬉しいよ。大切な宝物にするね」

 今日一番の無邪気な笑顔を浮かべて、キャンバスを持ち上げた。本当に嬉しそうな姿にジュリアは微笑みつつ言った。

「この先、長いお別れがあっても絵を見た時に、貴方の仲間に居た絵が好きなライセンサーを思い出してくれたら嬉しいわ」

 ジュリアが明るく笑うと、アイザックは真剣な眼差しで告げる。

「ジュリア君を忘れることはありえないよ。一生僕の心に刻まれている」
「……え?」

 予想外に真剣な様子にジュリアが驚くと、アイザックははっと気づいたようで、目を逸らし恥ずかしげに手を顔に添える。少し頬が赤い。

「ちょっと大げさすぎたね。ごめん」
「ううん。とても嬉しいわ」
「そうだ。ジュリア君に見せたい物があるんだ」

 アイザックはイーゼルにキャンバスを戻し、ジュリアを連れて歩き出す。

「わあ……綺麗ね」

 そこには一面に白い花が咲く大地があった。なんの花か名前も知らない。荒々しい草原に咲く、野性味溢れる光景はなかなか見応えがあった。
 ちょうど日が暮れ始め、日差しが白い花を赤く染め始めていく。

「この景色、絵に残したいわね」
「写真に残そうか」

 そう言ってアイザックは写真を撮った。
 夕焼けを背景に、白い花達の上に立つ、凜々しいジュリアの姿を。

「帰ったら現像して送るよ。絵のお礼にね」
「ありがとう。楽しみにしてるわ」



 帰りの列車は行きより混んでいて、アイザックとジュリアは隣り合わせに座った。
 一日遠出した疲れもあって、窓の外の景色を見ながらジュリアは眠気と戦う。
 その時ふっと肩に重みを感じた。振り向くとアイザックがうたた寝をしたまま、ジュリアの肩に寄りかかっていた。
 寝顔の近さに驚いたが、疲れているだろうと思うと払いのけるのも忍びない。
 そのままにしてジュリアはまた窓の外を眺めて微笑んだ。


 後日手紙と写真が送られてきた。
 一緒に同封されていたのは一枚の栞。
 オレンジの紙に白い押し花。まるであの日の夕焼けを切り取ったように。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
●登場人物一覧
【ジュリア・ガッティ(la0883)/ 女性 / 20歳 / 絵筆で時を閉じ込める】


●ライター通信
いつもお世話になっております。雪芽泉琉です。
ノベルをご発注いただき誠にありがとうございました。

字数の都合でリプレイで描ききれなかった、ジュリアさんをたっぷり描けると思いましたが、ノベルでも字数が足りません。それでもできるだけ詰め込みました。
ケニアのナイロビでジダンの演説があったくらいなので、あの辺りなら絵が描けそうと思いました。
ジュリアさんとアフリカに行くなら、アイザックも嬉しいだろうなと思うので、だいぶ浮かれております。

何かありましたら、お気軽にリテイクをどうぞ。
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雪芽泉琉 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年12月29日

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