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『二人で紡ぐ魔法の時間』
神取 アウィンla3388)&神取 冬呼la3621


 2061年。春が来た。


 神取 アウィン(la3388)。昨年暮れに高認試験〜合格通知。
 それを引っ提げ、今年の始めに大学入試〜不合格〜追加合格のお報せ。
 神取 冬呼(la3621)。夫を支えながら、大学教授として教え子の卒業・進級の背を押したり尻を蹴飛ばしたりフォローをしたり。
 年が明け、新入生受入れや学会の文化財保全活動支援へ更なる力を入れたり。

 病める時も健やかなる時も、受験生の時も就活生をバックアップする時も、愛し、敬い、慈しみ、挙式準備をも進めてきた。
 4月に入ると、アウィンは大学生としての生活もスタート。
 そうしてようやく、春が来た。
 春と書いて、きゅうじつと読む。
「そうだ、遊びにいこう」
 朝食後。
 しわ呼と化していた冬呼はテーブルに突っ伏し、ダイイングメッセージの如く指先でオープンしたばかりの遊園地名を記した。
 4月の半ば。春まっさかり。
 疲労を吹き飛ばす花の香りと陽光が、意識の向こうで手招きしている。




 遅咲きの桜のつぼみがほころぶ、自然豊かな山間の地方都市。
 ひときわ目を引く巨大観覧車を中心とした遊園地に、キャンプ場やアクティビティも充実したレジャー施設がオープンした。
 都会の遊園地に比べて絶叫系もマイルド気味らしく、賑わう声は悲鳴より歓声が多い。
「色々と目まぐるしかったし、今日は存分に羽を伸ばそうか」
「娑婆の空気は良いねぇ……。このまま召されそう」
 動きやすいように髪をまとめてきた冬呼だが、前髪サイドから下ろしている部分が羽のようにパタパタし始め、ふわ呼と化している。
「召されそうなアトラクションもあるようだが、俺の手が届く範囲でな?」
 アウィンは、冬呼の手首をやんわりと繋ぎとめた。
「とはいっても、警備のバイト経験はあるが実際に遊ぶのは初めてなんだ。ふゆ、オススメがあったら教えてくれ」
 アトラクションの順序や待ち時間との組み合わせなど、そこには戦略的要素も絡むと聞く。
「うーん、そうだなぁ」
 疲労でぽややんとした体に、ジェットコースターで春風を叩き込むのも気持ちよさそう。
 さすがに飛ばしすぎかも。二人腰かけタイプの回転ブランコもいいなー。
 パンプレットと人の流れを見比べていた冬呼の視線が、ふと一箇所で止まる。
「王子様……」
「うん?」
「あっくん! リアル王子様! わたし、見たい!!」
「……うん?」
 ゴージャスなメリーゴーランドを指し、カタコトで叫ぶ冬呼の目は随分と血走っていた。
 
「これでいいのか?」
 金の馬具を着けた白馬に、アウィンが跨る。
「最高です。白馬の王子様……!!」
 故郷では王族相当の身分であったから、確かに実物といえるが。
「意外な一面だな」
 この世界の読み物でアウィンも触れたことはある、少女の夢の結晶たる『白馬の王子様』。
 冬呼も、少なからず憧れを抱いたりしたのだろうか。その夢を叶えられたなら嬉しいとは思う。
 動き始めた木馬に合わせ、冬呼が連写をスタート。
(いや……何かが違う気もする)
 目線や手の位置へ指示が入るようになり、その声のテンションの高さに不安を覚え始めた。
「ふゆ……――」
 2人で楽しむものではないのだろうか、こういったものは。
 寂しい。アウィンは視線を妻へ投じた。
 そして絶句することとなる。

 彼女の後ろには大勢の撮影者がおり、「私のなので! 無断撮影はちょっと! 許可をとればとかじゃなくて!!」などと撮影どころではなくなっていた。

「ちょっと、成分を補給したい」 
「存分に」
 メリーゴーランドから降りた夫にしがみつき、冬呼はその匂いを胸いっぱいに吸い込む。
「こんなに距離を感じたのは初めてだったよ……。お陰で目が覚めた。もう、他の人の前で白馬に乗らないでね」
「乗る時は、ふゆも一緒だ」
 ぽふぽふ。日差しを受けて、暖まった髪を優しく撫でてアウィンは微笑む。




 続いて、冬呼が指したのは。
「シューティングゲームもさ、動かない的を相手じゃつまらないでしょ? そこでアレ! どうかな」
 UFOのような1人乗りの機体で、上下を操作しつつ表示されるターゲットを撃ち落としてゆくアトラクション。
 ライセンサーであればアサルトコアの要領で操縦できるだろうし、アサルトコアとは関係なく生身のステータスでも挑める。
「グラップラーの、手数と身軽さを活かすならここ……!」
「サブとはいえスナイパーを甘く見てもらっては困るな」
 眼鏡のブリッジを押し上げるアウィンの瞳は、冷たい輝きを見せた。

 左手にレバー、右手にレーザー銃。
 敵影の動く先を予見し、ジャストの位置でトリガーを引く。
「あーっ、それ、私の敵っ」
「ふゆの敵は俺の敵。そうだろう?」
「そうだけど、そうじゃない!」
 空中で言葉を交わしながら、互いにハイスコアを目指して撃つべし撃つべし!!

 ネメシス夫婦の結果発表ー!
「これがネメスナの本気だ」
 百発百中。更にウィークポイントを突いたボーナス上乗せ。
「スコアほぼ理論値ぇ」
 冬呼も限りなく満点に近い数値ではあったが、敗北を認めざるを得ない。


「そろそろ絶叫系も良いかなー。その前に、ちょっと冷たいもの食べる?」
「賛成だ。少し熱くなったところだ」
 アイスクリームのワゴン車を発見し、休憩タイム。
「む……糀ジェラートだと」
「地元の町とのコラボかー。そそるねぇ」
 季節限定の高級イチゴソフトや、養蜂場の蜂蜜アイスといったこだわりのラインナップが並ぶ。
「くっ、だけど……併設している牧場のミルクソフト……これは避けて通れないっ」
「分け合えばいいな」
「感謝!!」
 アウィンは塩糀のジェラートを。
 冬呼は、しぼりたて特濃ミルクソフトをカップで。
「…………」
「…………」
 互いに、一口目で長い無言となる。
 予想を超える美味だった。
「これが米の力か……。酒の香りを想像していたが、甘味が柔らかで味が深い。余韻がある」
「バニラだと思った……違った……すごく……ぎゅうにゅうです」
 ぽわーっとした後、
「「ひとくち食べてみて!!?」」
 互いにアイスを差し出し合った。
「美味い。とても濃厚だな……。これは、そこいらの牛乳では出せない味だ」
「ふあー……塩糀でこれなら、桜は黒胡麻はどうなっちゃうんだろう。香りの組み合わせの相性が神か!!」
 地方発送はしていないと聞いて項垂れた2人は、帰る前に再び寄ることを決める。




 トロッコのような木箱が、レールの上を進み始める。
 ゆっくりゆっくり高度を上げてゆき、施設を一望できる高さまで。
(初絶叫系だが、これは悪くないな……)
 豊かな緑の香りに癒されながらアウィンがそう感じたのは、頂点へ辿り着いた時まで。
「あっくん、来るよー!!」
 来た。
 急速な落下、そして浮遊感。
 コースターはひねりを加え森の中を突っ切る。
 上昇、下降、青空、回転、水面、あ 鳥が飛んで行った
 すぐ隣では、愛しい人の歓喜の声。
 走馬灯は、このようなものだろうか。

「大丈夫?」
「すまん、面目ない……少々予想を超えていた」
 ジェットコースターを降りたあと、足元が覚束ないアウィンをベンチまで連れて行った冬呼は、そのまま膝枕をさせる。
 額に掛かる前髪を、軽く梳いてやる。
「揺れる乗り物って、向こうにはなかったって言ってたもんね……。ごめんね……」
 放浪者であるアウィンに、ジェットコースターは刺激が強すぎたかもしれない。
 せめて、もう少し段階を踏んでから挑戦すればよかった。今なら待ち時間なしと聞いてつい。
「だが楽しいぞ。少し休めば行けそうだ……もう少しふゆの膝枕を堪能してからが良いが」
「……よかった」
 しょんぼりする冬呼へ、アウィンは微笑して見せた。
 楽しかったことは本当だ。未知の体験はいくらでも望むところ。




 えぐいフリーフォールや回転ブランコを経て、お食事タイム。
 施設はいくつかあったが、メルヘンなお城仕様のパーク内レストランを選んだ。
 併設している牧場提供のメニューは、本格的なソーセージやチーズが使用されているという。
 先ほどのソフトクリームからして期待値は高い。
「私は山の幸ランチにしようかな。山菜は土地によって味わいが違うしね」
「グラスワインは酒に入るだろうか」
「絶叫系は体験したし……行きますか?」
 悪戯っぽく互いに視線をかわし、食前酒という名目でロゼを2つ。
「あっくん。あーん、する?」
「する」
 朝採り野菜のサラダは、シンプルなドレッシングで野菜の旨味を引き出している。
 メインは鹿肉。たしかにこれも山の幸か。
「ふゆ」
 アウィンからは、ハーブ入りソーセージを。
 ボイルしてから軽く焼き目を付けたそれは、味も香りも格別。
「ビールにすればよかったかな」
「追加で頼むか?」
「我々は何をしに来たのか……」

 アイスクリームは地方発送や持ち帰りができないけれど、他の牧場製品のいくつかはテイクアウト可能だという。
「ビアシンケンは確定だね。チーズもいくつか……迷うなぁ」
「自然一体型の醍醐味だな。意外な発見だった」
「だね!」
 遊園地に来て、酒の供を選ぶことになるとは。




 空が広い。
 雄大な山々に囲まれた湖で、アウィンはゆったりとオールを漕ぐ。
 向かい合わせに座る冬呼は、水面に手を泳がせていた。時折、魚が跳ねる。
「心が洗われるねぇ……」
 心地よい解放感と疲労感だ。
「春だな……」
「今日、来てよかったぁ」
「家で寝潰すのはもったいなさすぎるな」
 冬呼が切り出さなければ、遠出することもなく『普通の一日』として終わっていた可能性が高い。
 巨大観覧車やコースターの喧騒を遠く感じた。
 ここ最近のバタバタが嘘のように、心が落ち着いている。

 ゆえに、油断した。

 慣れない水上バイクが暴走した客による、盛大な水しぶきが飛んだ。
「だっ、大丈夫!!?」
「俺は平気だ、ふゆは……」
 客は謝罪を叫びながら彼方へ消えてゆく。程なくスタッフが救助すべく追いかけて行くのを、2人は見送った。
「あは。あははは! アクシデントが足りないと思ってました」
「シャツは、土産屋で買えるだろうか」
 ずぶ濡れのアウィンは、眼鏡をふきながら己の上着を引っ張った。




 イメージキャラクター『フォールン・エンジェル(緑眼のシロクマ)』のTシャツに着替えた夫を、妻は愉快気に激写しまくる。
 キャラの横には『クマで来た!』という筆文字入りだ。
「あっはは、あるよねー、こういうご当地キャラ……由来不明の!!」
「山だから熊はわかるが……なぜ白なのだろうな」
「ツキノワちゃんは、リアルが過ぎるかな」
 出没注意ダイレクト過ぎる。
「友人たちの土産も、ここで選んでいこうか」
「そうだね。ハムやソーセージも悪くないけど、遊園地土産じゃないね」
 フォールン・エンジェル印の炭酸水などを手に取りながら、冬呼も品選びに参加する。
 友人ひとりひとりに合わせたものを選んでゆき、
「トオヤ殿とミコト殿には何が良いか」
 飛騨に住む友人、三木 トオヤ(lz0068)・三木 ミコト(lz0056)兄妹に思いを巡らせる。
「うーん、お揃いだけどお揃いすぎない何か……?」
「ふむ……。2人ともバイクに乗っているし、ベタだがキーホルダーはどうだろう?」
 自分達ともお揃いで。
「いいね、うちも車はあるし」
 キーホルダーであれば、フォールン・エンジェル以外にも種類は豊富だ。
「誕生石仕様クマちゃんマスコット……! 不覚にも可愛い」
 首元で結んだリボンの中央に、それぞれの石が飾られている。
「トオヤ殿が10月、ミコト殿が4月か」
「こないだ、お祝いしたばっかりだね。ふふ、ガチだったら凄いことになるよ」
 ダイヤモンドと称したこの石は、何を使っているのだろう。
「あと1年で、ミコトちゃんを交えて宴会ができるねぇ」
「……楽しみだな」
 冬呼の体を考えると、先のことを『楽しみ』と言い切ることは難しい。
 それでも、確定ではないはずの未来を変えるためにアウィンは医師の道を選んだ。
 未来を心から楽しみにできるように。




 病める時も健やかなる時も、学生生活が始まっても教授職に付随する業務が山積しても、季節は巡る。
 変えたい未来がある。
 そのための『今』を、最高に楽しむ。生きる。
 2人だからできる、2人にしかできない、あなたとわたしの大切な時間を、さめない夢の中で過ごそう。




【二人で紡ぐ魔法の時間 了】

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼、ありがとうございました。
春を迎え、初めての遊園地! お届けいたします。
兄妹へのお土産もありがとうございます! 最終的に何を選んだかは、お2人に委ねる形で。
お楽しみいただけましたら幸いです。
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2021年01月04日

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