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『Melty Love, Melty Kiss』
吉良川 奏la0244)&吉良川 鳴la0075


 クリスマスの決戦から5日。
 忙しかったライセンサー達に、ようやく平和なクリスマスがやってきた。
 水無瀬 奏(la0244)と吉良川 鳴(la0075)のクリスマスは、二人きりでエオニアのlanternaにご一泊。

「久しぶりのランテルナだね!」
「……半年ぶり、くらいかねぇ? ブライダルモデルだっけ?」
「……うん」

 あの日を思い出して、奏は頬を赤く染めた。モデルとはいえ、女の子の憧れの花嫁衣装を、好きな人の隣で着られた。
 チャペルの方を向いて、あの日を思い出し、思わず胸を押さえる。
 一方鳴はというと、スイートコテージの方を見ていた。バレンタインに二人で過ごした部屋がある。

「本当は、あの日と同じ部屋に、泊まりたかったねぇ」
「さすがにスイートは難しいよ。予約は三ヶ月待ちだって。でもこの部屋もとっても良いよ!」

 1階建てのコテージはこじんまりとしていたが、温かみのある内装だ。
 クリスマス気分を盛り上げるツリーやリースの飾りも残っている。欧米では年明けまでクリスマスシーズンらしい。

「あの時は、まだ幼馴染みだったけど、今日は違うもんね」
「奏は、ね。無自覚にもほどがあったけど」
「だって! まだ……あのときは……」

 遠回しの告白めいた台詞を、華麗にスルーしてしまった奏は恥ずかしそうにむくれた。
 ぽんと奏の頭に手を置いて、鳴はアホ毛にキスを落とす。

「次は、本命チョコくれるんでしょ?」
「今年より、もっと美味しいチョコ作るよ!」
「……」

 奏の壊滅的な料理センスを知っている鳴は思わず沈黙した。
 せっかくのクリスマス。余計なことを言って気分を壊したくない。

 一方奏も緊張していた。
 家族として一緒に暮らしていたし、独り暮らしの鳴の家にはいつも遊びに行っている。恋人として泊まりで旅行をしたこともある。
 けれど恋人になって初めてのクリスマスで、ロマンティックな想い出の場所で、二人っきりで泊まるのだ。
 思わず恋する乙女の顔になってしまう。



 高級レストランに相応しい服装に、二人は着替えた。
 奏は空色のシフォンたっぷりのワンピース。ふんわり広がるプリンセスラインのスカートはふくらはぎくらいまでで歩きやすい。歩く度に、ゆらゆら揺れる姿は、まるで波のようだ。
 鳴も黒いタキシードにワインレッドのネクタイを締める。前髪につけたヘアピンの数は相変わらずだが、ネクタイをビシッと締めると、いつもより大人っぽい。

「かっこいいよ! 鳴君」
「奏も。よく、似合ってる、な」

 夕食前に二人はカフェバー・Lunariaで、ティータイムを楽しむことにした。
 クリスマススペシャルデザートがあると聞き、奏は目を輝かせて注文。鳴は甘い物が苦手だから珈琲だけに。
 白い皿に、雪のように粉砂糖がかかったガトーショコラ、ふわふわスフレチーズケーキ、フランボワーズのシャーベットが並ぶ。
 カクテルグラスに盛られたフルーツにはジュレがかけられ、輝いて見えた。
 食用薔薇の花弁、ホイップクリーム、チョコレートソースで飾り付けられ、食べるのがもったいないくらい美しい。
 思わず奏は写真を撮った。

「鳴君! 凄い綺麗で、美味しそうだよ!」
「よかった、ね」
「うん、甘くて、酸っぱくて、ほろ苦くて……凄い、大人の味」

 ほっぺたを押さえて、ふんにゃりと笑みを浮かべる奏を見てるだけで、鳴はお腹いっぱいだ。
 その時ふと気づいた。

「奏」
「ん? どうしたの……」

 鳴の手が伸びてきて、奏の頬に触れた。唇の脇についたクリームを親指で拭い取り、ぺろりと舐める。

「甘い」
「な、鳴君!!」

 真っ赤になった奏が可愛くて、一房髪をすくいあげ口づけを落とす。奏の顔を覗き込み、口を開けた。

「そんなに美味しいなら、一口、欲しい」
「鳴君、甘いの苦手じゃ……」
「果物くらいなら。奏、食べさせて」

 つまりあーんのおねだりだ。赤面が臨界突破して、ぷしゅーっと湯気が上がりそうになりながら、奏はフォークで刺した苺をそっと差し出した。

「ん……ジュレが甘い」

 ぐびっとすぐに珈琲を飲んで口直し。

「今日の鳴君も……甘いよ」
「クリスマスだし、ね」

 そう言いながら、鳴はスプーンでシャーベットをすくって差し出す。

「奏も」
「え、ちょっと、待って」
「早くしないと、溶ける」

 あわあわしつつ、奏は何故か目を閉じて、口を開けて待った。
 スプーンが口に入るのと同時に、耳元にキスを落とす。

「どうして、目を瞑るの?」
「だって、恥ずかしくて……」

 クリスマスシーズンのカフェということで、カップル率が高いが、それでも自分達はずいぶん目立って見える。
 傍目にも糖度が高い。

「ほむん。じゃあ、これ以上は二人っきりのとき、かねぇ」

 奏は全力で、頭を縦に振った。



 カフェでのんびり過ごした後、レストランへ向かう前、鳴は奏に声をかける。

「奏、先行ってて」
「……あ、……うん」

 煙草を一服してくるのだろうと察した。
 慣れない甘い物を口にした後だ、口なおしもしたいだろう。
 いつものこと。なはずなのに、奏は酷く寂しく感じた。
 鳴がいつもより甘いから、ちょっと離れるだけで寂しく感じてしまった。


(雨に濡れた子犬みたいに、しょぼくれて……)
 煙草の煙を吐き出しながら、ため息を零す。

「これでも、色々我慢してるんだけど、ねぇ……」

 今日の鳴は甘いというが、今日の奏が大人しすぎるのだ。
 いつもだったら、猪突猛進、元気いっぱいに飛び出してくるのに、まるで借りてきた猫みたいで。
 意地悪をするとむくれ、甘やかすと恥ずかしがって困る。
 どうしろと言うのだ。そんな奏の全部が可愛いのだから、なおさら困る。
 吸い終わった煙草を携帯灰皿に押し込み、ぷらりと歩き出すとある物が目に付いた。



「鳴君、遅いよ!」
「……ごめん。ちょっと、ね」

 遅れてきた鳴から、煙草の香りが漂った。それだけで、奏の心はずきりとする。

「飲み物どうする? 奏はミーベルジュースでいい? エオニアだし。俺もせっかくだしミーベル酒にするかねぇ」
「う、うん。ミーベルジュースで」

 お酒とジュース。鳴は大人で、奏は未成年だから仕方がないけれど。煙草も含めて、年の隔たりが二人の距離のように寂しさを感じてしまう。
 いつか、二人で一緒にワインを開けるような、大人のクリスマスディナーがしたい。そう憧れる。
 そんな時に鳴が、ぽんとテーブルの上に二匹の猫のマスコットを置いた。

「売店で売ってた」
「わあ! 可愛い。あの子達に似てるね」

 薔薇の髪飾りをつけた猫達は二人の飼い猫に似て見えた。思わず笑みが零れる。
 オマール海老のビスクが運ばれてくると、奏の鼻がすんとなる。

「良い香り……」
「さっきまでしょぼくれてたのに、食事がきたらもう笑顔って、現金だし」
「ち、違うよ! 鳴君が優しいから、だよ」

 へらりと笑って鳴はグラスを手に取った。

「乾杯、しよ」
「うん。乾杯」

 二人のクリスマスを祝って。グラスがコツンと鳴った。



 ディナーの後のデザートは断った。さっきデザートは食べたばかりだ。
 それにお腹いっぱいにしすぎると困る理由がある。

「……鳴君」
「はいはい。踊るんでしょ? あの時みたいに」
「うん! でも、あの時と違うよ。だって……恋人だもん」

 前回ここで踊った時は、まだ幼馴染みだった。だから無邪気に手を取れたけど、今日は手を差し出されただけで、どくんと胸が弾む。
 手に触れただけで、熱い。
 立ち上がって並んで歩き、引き寄せられて胸の中にすっぽり収まる。居心地が良くて、思わずその胸に顔を埋めたくなる。
 どくんどくん。鳴の心臓の音が早く聞こえた。

「奏。上、向いて。俺の顔を見て」
「う、うん。そうだね」

 ダンスは互いの顔を見て踊るものだ。
 鳴のリードが安定してるから、奏は自由奔放に踊り回れる。
 くるり回ると、ひらりスカートの裾が揺れ、ふわりポニーテールが舞う。
 トンッとジャンプして見せても、必ず鳴が受け止めてくれる。
 音楽に乗ってる時は、緊張も薄れて、年の差を気にする気持ちもなくなって。ただただ楽しく明るく笑う。

「鳴君と一緒に踊るのやっぱり楽しいね!」
「奏のそういう笑顔が、一番似合うな」
「どういう顔?」

 今にも歌い出しそうなほどご機嫌なのに、どうやら自覚はないらしい。
 そんな奏らしさが愛しくて、頭の天辺にキスを落とした。



 ダンスの後は二人で薔薇園を歩く。
 奏は弾むように歩いてはしゃいでいた。

「わあ、星が綺麗だね!」
「そうだねぇ」
「ここはいつも薔薇が咲いているけど、やっぱり季節によって違うんだね。前に来たときと違う薔薇だよ!」
「はいはい、転ばないように」
「もうっ。大丈夫だよ。子供扱いして」

 奏が先に歩き出し、その後をのんびり鳴が続く。
 くるりと振り返った奏が、はにかむように微笑んだ。

「鳴君と無事、また来られてよかった……」
「お互い、大変だったからねぇ」

 地球の命運をかけた戦い、アフリカの決戦。いつだって激戦地に飛び込んでいく二人は、大怪我を負うことも多い。
 死線をくぐり抜けて、やっと取り戻した平和を噛みしめられる。
 ナイトメアとの戦いに決着がついたライセンサーカップル達は、大きな決断に出る人が多くなっていた。
 例えば……結婚とか。

 自然と二人の視線が、チャペルに向かう。

「本番も、ここでしようか……」

 ぽつりと呟いた鳴の言葉の意味がわかってしまって。
 奏は笑顔を浮かべかけて、はっと気づいて俯く。
 鳴は大好きだ。だからもちろん結婚したい。二人をよく知る両親も歓迎してくれるだろう。
 けれど……アイドルとしてはどうなのだろう?
 18歳といえば、アイドルの全盛期だ。まだまだ輝きたい。結婚は早すぎる。でも、そんなの奏の勝手だ。そこまで鳴に甘えて良いのか。
 お母さんは、いつ、どうやって決断したのだろう?

 鳴が一歩近づくと、奏が一歩引く。
 二人の距離が近くて遠い。
 鳴がむっとした顔でずかずかと距離をつめ、今にも逃げ出しそうな奏の腕を掴む。

「とりあえず、座るし」
「う、うん、そうだね」

 手近なベンチに奏を座らせると、鳴はその前に立った。
 奏が見上げると、真剣な顔をした鳴と目が合う。

「プロポーズの練習、な?」
「……え?」
「本番は、奏が良い時まで、待つから」
「……待たせて、ごめんね」
「なんで、謝るの?」

 慰めるように、わしゃわしゃ頭を撫でる。奏はぐしゃぐしゃになった頭を慌てて押さえた。

「鳴君!」
「奏は考えすぎ。俺も、まだしばらく、恋人気分を、楽しみたいし、ねぇ」

 何せ、まだ付き合って半年なのだ。焦る必要はない。
 そういう想いを込めて、奏の前で膝をつき、左手をとって、指先に口づける。

「奏の一生を、俺に欲しい。俺の一生も、奏にあげる、から」

 二人の人生はまだまだ長くて、ずっと側にいるのだから。二人のペースで共に歩もう。
 奏は真っ赤になって、声が震えそうになりながら、こくりと頷いた。

「……いいよ。全部、あげる」

 やっとかすれた声が出た。嬉しすぎて思わず泣きそうになって、ぐっと堪えて笑顔を浮かべる。
 その笑顔を見て、鳴は奏の腕を引き寄せて、その頬に口づけた。
 両頬に手を添えて、額に、目元に、雨のようなキスを降り注がせる。
 奏が恥ずかしげに目を閉じると、二人の唇が重なった。
 冬の寒さを忘れる、溶けるような甘さのキス。

「今日の鳴君、いつもより、甘い」
「恋人同士の、初めてのクリスマスだしねぇ。これでも、意地悪は我慢、してるんだけど」
「え?」
「甘くないほうが、よかった?」
「そ、そんなことないよ。嬉しすぎて……ドキドキが止まらなくなるだけで……」
「奏、可愛すぎ」

 また一つキスを落としてひょいと抱え上げた。お姫様抱っこだ。
 奏の顔が、ぷしゅーっと赤くなる。

「な、鳴君!」
「ここは寒いから、もう帰ろう」
「う、うん。良いよ。でも歩けるし……」
「こっちの方が、あったかい」

 しっかり奏を支えて歩き出すと、奏も慌てて鳴の首に腕を回す。
 年の差とか、アイドルとか、そういうのは忘れて、今日は鳴だけを見て、二人だけの時間を楽しもう。
 そう心に誓って奏は寄りかかる。
 鳴の胸の鼓動が早い。大人の余裕に見えても、鳴もドキドキしてくれてると思えたら、嬉しくてふにゃりと微笑む。
 すると、また口づけが振ってきた。

 コテージに着くまでに、溶けるようなキスの数がどれだけ多かったか、数え切れない。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
●登場人物一覧
【水無瀬 奏(la0244)/ 女性 / 17歳 /可愛すぎる彼女 】
【吉良川 鳴(la0075)/ 男性 / 24歳 /甘すぎる彼氏 】


●ライター通信
お世話になっております。雪芽泉琉です。
ノベルをご発注いただき誠にありがとうございました。

お砂糖たくさんでとリクエスト頂きましたので、全力で糖度高めにさせていただきました。
アイドルの結婚っていつ頃するのだろう?と考えたらこうなりました。
お二人の結婚はいつか解りませんので、今回はあくまで予行練習ということで。

何かありましたら、お気軽にリテイクをどうぞ。
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2021年01月04日

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