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『花は散らない』
桃簾la0911)&不知火 楓la2790


「アメリカのアイスは大きくて良いですね」
 桃簾(la0911)は、ライセンサー仲間のヴァージル(lz0103)に教えられて買ってきた、大きなパッケージのアイスを前ににこにこしていた。教えた方は、一回でそれを完食せんばかりの勢いを見せる彼女に、
「全部食ったら病気になるぞ」
 釘を刺している。居合わせた不知火 楓(la2790)がくすくすと笑って、
「ブランデーで味変しても良いかもね。日本酒も合いそうだ」
「お前は肝臓壊すなよ」
「今のところ、健康診断には引っかかっていないよ」
 楓は肩を竦める。桃簾の後ろには、皿を持ったサイレン(lz0127)とワンダー・ガーデナー(lz0131)が並んでいる。
「ぎぶみーあいす! わたしにもアイスを寄越せ!」
「おいらにも! ぎぶみー!」
「良いでしょう。アイスは歓びです。一人で独占する物ではありません。皆で囲みましょう。楓、ヴァージル、あなたたちも皿を持ってらっしゃい」
「お言葉に甘えて、お相伴させてもらおうかな」
 楓はにこりと笑って立ち上がる。ヴァージルを見て、
「君も、桃の身体が心配なら、少しでも減らす協力はしても良いんじゃないかい?」
「わかったよ……アイスは好きだから安心してくれ」
 などと言いながら、自分はカップを持ってきた。反対の手にはコーヒーサーバーがある。
「アフォガードですね。アイスを楽しもうとする良い心がけです」


 和気藹々とアイスを囲んでいると、軍事施設をナイトメア集団が乗っ取った、すぐに撃退せよとの指令が入る。
「武器の類が取られるのは穏やかじゃないね。乗っ取った集団の指揮官はわかっているのかい?」
 楓が尋ねる。すぐに端末に情報が来た。地蔵坂 千紘(lz0095)だ。回復と遠距離攻撃を得手とするエルゴマンサー。指揮能力も持っているので、恐らくその辺の雑魚は、全て彼の配下だろう。
「彼か」
 ちらりと桃簾を見る。彼女の目は闘志に燃えていた。何しろ、アイス教を布教したところ、
「そのカロリーを消費するためにそんな必要以上に暴れてんのか? 猛獣の方がまだ大人しいよ」
 と、モラハラムーブで一蹴されたのである。桃簾だって、三時のおやつにチョコレートを食べてアイスを追加しているわけではない。三時のおやつのアイスにチョコレートを乗っけているだけである。
「それだよ」
 ヴァージルがぼそりと呟いた。
「千紘は機械に強いと聞いています。端末なども取られては一大事。すぐに止めに行きましょう。そしてアイス教に入信させるのです!」
 桃簾は意気揚々と宣言したのだった。


 施設は、千紘が乗っ取ったらしい中央制御室まで二つのルートに別れていた。連絡を取り合いながら二手に別れることにする。反対側から敵を送られて、挟み撃ちに遭っても困る。
「楓、おまえ、ガーデナーと二人で大丈夫か?」
 奇数人で別れる都合上、ガーデナーとコンビを組む事になった楓へ、サイレンが少し不安そうに言う。楓は微笑むと、
「ああ、大丈夫だよ。ガーデナーはこれでなかなか頼りになるからね。それに……」
 鳳凰を召喚する。二メートルほどもある大きな鳥が、優雅に羽根を広げながら楓の傍に控えた。
「これで三人。ね?」
「あなたがそうそうやられるとも思いませんが、何かあったら連絡してください。わたくしも、困ったらあなたを頼ります」
 桃簾が言った。
「桃も負けてるところが想像しづらいけど、そうだね。お互い頼るとしようか。じゃあ、また後で」


 サイレンが死霊沼を、ヴァージルが足止めを使って敵の集団の移動を阻む。桃簾はその隙に、葬剣アルタイルを持って敵陣に飛び込んだ。パワーツイストで薙ぎ払う。移動妨害で向こうはそう簡単に散り散りにはならない。
「ヴァージル、妨害を頼みます」
「よしきた!」
「サイレン、合わせます!」
 ヴァージルの支援射撃が飛んだ。それと桃簾の言葉を合図に、サイレンはもう一度死霊沼を。桃簾は足を掴まれたナイトメアたちを、まとめて龍震虎咆で撃ち抜いた。追い討ちを掛けるようにオーバーストライクが飛んでくる。まだしぶとく残っていた一体を、桃簾は剣で強かに殴り飛ばした。

 敵をあらかた片付けてから先に進むと、廊下は電子錠の掛かった扉で仕切られていた。端末の蓋を開けると、テンキーと画面が並んでいる。どうやら、何か入力しないといけないらしい。
「ぱすこーどヲ入力シテクダサイ」
 AIが電子音声で言った。サイレンが槍を取り出して、
「こう言うのはぶっ刺せばどうにかなると相場が決まっている」
 と言い出す。それを桃簾が制した。
「いえ、サイレン。わたくしに任せなさい」
 彼女はそう言うと、テンキーのある端末に手をかざす。
「アイス女神の名において命じます……開けなさい」
 バチィッ! と剣呑な音を立てて端末から火花が散った。画面が破損する。
「女神サマノ……言ウトオリニイタシマス……」
 気の抜けた音を立てて扉は開いた。
「洗脳じゃねぇか」
 それを見て、サイレンと同じく銃弾で破壊しようとしていたヴァージルが呟いた。


「それぇ! 突撃ぃー!」
 ガーデナーが鋏を持って敵陣に突っ込んだ。鋏を振り回す。彼に対して反撃を試みたものは、楓が薙刀を振るう。知覚薙刀・凛月の斬撃は、鳳凰の炎を纏って更に遠くまで届くのだ。更に、因陀羅の矢で雷を落とす。
「ガーデナーは桃と戦い方が近いから、合わせやすいね」
 友人との絆が、比較的新しい仲間との連携に生きるのだからこれほど嬉しいことはない。楓からの的確な援護を受けて、ガーデナーは張り切って敵を滅多切……攻撃した。
 電子ロックはガーデナーが鋏を突き立てて破壊した。これで開いてしまうのはラッキーだったかもしれない。進む度に敵も強くなっていくので、楓は頃合いを見て聖炎翔破を発動した。鳳凰が炎の羽ばたきで敵を焼き払う。あっという間に、そこで動くものは楓とガーデナーのみになった。
「まだ強いのが出てくるかも知れないけど、その時はその時に考えよう」
 と、ガーデナーに言うと、兎のヴァルキュリアは、じぃ、と楓を見下ろしていた。
「楓ぇ、おまえ、とっても綺麗だったねぇ」
 いくら味方を焼かないとは言え、あの聖炎を、ガーデナーは怖いとは思わなかったようだ。楓の顔を見つめている。黒髪の楓は、明るい炎に照らされると、ぱっきりとコントラストが浮かび上がるのだ。中性的で、整った楓の顔立ちは、破壊の炎に照らされても……いや、破壊だからこそ、美しいのかもしれない。

「まるで天使みたいだったなぁ。おいら、天使なんて会ったことないけど、きっと楓みたいに綺麗なんだなぁ」

 しげしげと眺めている。楓は少し目を伏せて微笑むと、
「僕は天使じゃないよ」
 もし、天使という物がいるならば──傍らの鳳凰、その瞳を見やる。夏に咲く、真っ赤な鳳仙花。暖かい目。その首を撫でた。
「──楓!」
 声が掛かって、彼女はそちらを振り返った。桃簾が安堵の色を浮かべてこちらに手を振っている。後ろからサイレンとヴァージルが続いた。どうやら、二つのルートが合流する地点にたどり着けたらしい。
「良かった、無事だったのですね」
「桃こそ。無事で良かった。合流できたと言うことは、この扉がそうかな?」
「その様ですね」
 一行の前には大きな鉄扉があった。桃簾が電子ロックを破壊する。女神様の言うとおり。


「やあ、桃簾に楓じゃないか。まさか君たちが来るとは思わなかったよ。ここまで来るの、大変だったでしょ? 相当カロリー使ったと思うから、もう帰って良いんだぜ」
 制御室に突入すると、千紘はいつもの弓道着を翻してにこやかに迎えた。相変わらず一言多い男である。
「今日こそ、お前をアイス教に入信させましょう」
 桃簾は教典杖の底で床を叩いた。胸を張り、
「アイスは節度を持って食べれば健康に問題はありません。アイスに問題があるのではなく、過剰に摂取することが問題なのです。それは力と同じ事。力を持つ者は己を律しなくてはなりません。アイスはわたくしたちの節度をはぐくみます。アイスのある生活は逆に健康に良い。わかりますね?」
「『※医学的根拠に基づいた発言ではありません』ってテロップ出しとけよ」
「お前には人権教育が要りそうだな」
 ヴァージルが言うと、千紘は肩を竦めた。何やら端末のようなものを取り出す。
「悪いけど、もう軍本部の中枢にアクセスできるパスコードは貰ったよ。これからクラウド共有すればテキサスインソムニア全員見られるから、すぐにパメラがサイバー攻撃を……桃簾わかる?」
「言っていることはまったくわかりませんが、お前のその端末を破壊すれば良いことはわかりました」
「千紘、細かいことだけれどね、そういうのは、実行してから言う物だよ。その前じゃ、止めて下さいと言っているようなものさ。桃の電化製品クラッシャーを知らないわけじゃないだろう?」
 楓もまったく狼狽えずに微笑む。千紘は鼻を鳴らし、
「もうこの送信ボタン押せばクラウドに行くから」
 彼が画面に表示された「Send」ボタンをタップしようとしたその時だった。
「ねーねー、楓」
 ガーデナーが楓の袖を引っ張った。
「ん? どうしたんだい、ガーデナー」
「ここに、自爆ボタンってあるんだけど」
 楓はガーデナーの肩越しにそれを見た。わかりやすい、大きな赤いボタン。ご丁寧に「自爆」と書いてある。こう言うのって、もっと押すまでの過程が長いんじゃないのかな。こんな簡単に押せて良いのかな。ダミーかな?
「逆に、押してしまっても良いのかな」
「えっ!? あっ、ちょっと!?」
 千紘が目に見えて慌てた。どうやら、本物か……少なくとも彼は本物だと思っているらしい。楓が他の三人に合図する。サイレンとヴァージルは盾に持ち替えて頷いた。
「わたしたちが守ってやるから派手にやれ」
「ガーデナー、押して良いよ」
「良いのかい!? やったー! おいら、一回こういうわかりやすい自爆ボタン押してみたかったんだー! それー!」
 ぽち、とガーデナーはボタンを押した。遠くで爆音がする。建物が揺れた。
「あれぇ? 何も出てこないぞー?」
「この爆音聞いて何も思わねぇのかよ!? お前のその耳何なんだよ!? 飾りかなんかか!? ああ、着ぐるみだからそりゃお飾りだったよな!!!!! この【自主規制】!!!!」
 千紘が絶叫した。
「ガーデナーはヴァルキュリアだから、音声認識は本物の兎とは違うかもしれないね」
 楓が着ぐるみの頭を撫でながら言う。音は徐々に近づいてきた。
「そうじゃねぇー!」
 もちろん、わかって言っているのである。爆音は、既にこの部屋に近い。
「来るぞジル! 桃簾と楓も構えろ!」
 サイレンが仲間たちに警戒を促し、盾を構えて腰を落としたその時だった。鉄扉が吹き飛び、爆炎が室内に飛び込んでくる。
 ゼルクナイト二人が幻想之壁で他の三人を庇った。永遠にも感じられる爆音と光。やがて、それらは止んだ。サイレンとヴァージルは盾を降ろした。あちこちの設備が破損して、煤けている。
「あいつは?」
 千紘の姿は見えない。楓が上を指した。天井は爆風で抜けてしまっている。
「あれじゃないかな?」
 彼女の指先、その延長を見ると、千紘がくるくる回転しながら空の彼方に飛んでいくところだった。
「次はこうはいかないからなー………!」
 声と姿が見る見るうちに遠ざかる。やがて、キラーン……と星になって千紘の姿は見えなくなった。
「これにて一件落着ですね。施設は壊れましたが、ナイトメアが悪用するものもなくなったので問題ないでしょう」
「そうだね。千紘も、いざとなったらあれで破壊するつもりだっただろうから、結果は同じだよね」
「そうだな。ガーデナーが押せるところに置いてあったんだから、あいつの危機管理がなってないな」
 口々に頷く女三人。ヴァージルはコメントしなかったし、ガーデナーはよくわかっていないようだ。ボタンを押したのはおいらだぞー?
「……とりあえず、戻るか……」
 ヴァージルの提案には誰も反対しなかった。ぶっ壊れた施設を背に、五人は車で走り去るのだった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
ドタバタ戦闘コメディをお届けします。
なんというか、この面子は「敢えてつっこまないタイプのツッコミ不在」って感じがしますね。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
おまかせノベル -
三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年01月04日

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