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『地獄の底、あるいは泡沫、舞台裏』
雨月 氷夜la3833


 ――それはあるかもしれないし、ないかもしれない、どこかの世界。

 最期に見たのは全てを染める赤い炎。
 ふと目を覚ませば揺蕩うのは黄金の霧。甘い香り。
 雨月 氷夜(la3833)はその光景に覚えがあった。金色濁乱停滞楽土、不眠城『酒池肉林』。全てを覆う黄金の中、幸せな夢を見せる停滞の地獄。
 そして――そこに誰がいるのかも、彼は知っていた。

 逢えるかもしれない。
 誰もいない黄金の世界を、氷夜は独りきりで走り出す。
 砂糖のように甘い水をばしゃりと踏んで、駆けて、駆けて――

「バルペオル!」

 彼は、エルゴマンサー・バルぺオル(lz0128)はそこにいた。白亜の玉座の頂、黄金の煙管を吹かし、気だるげに座っていた。
 氷夜は笑顔を弾けさせる。不躾と言われようが構わない、玉座を蹴って跳び上って、その大きな体に抱き着いた。しゃらん、と黄金の装飾が揺れて鳴った。

「よぉ、俺様だぜ! 地獄の果てまで会いに来てやったぜ!」
「……近い。ベタベタすんじゃあねぇ」

 ガッと蹴られた。「あー」と甘ったるい地面に落ちる。ブレない対応が、氷夜には嬉しかった。本物だ、と思えたから。地面に大の字のまま悪魔を見上げている。緩やかに煙管を吹かしたバルペオルは、黄金の瞳で人間を一瞥した。

「存外に……早かったな」
「ゴグマに燃やされちまった★」
「ああ、アイツが出てきたのか。運がなかったな」
「――、」

 自ら焔に飛び込んだ、ことは伏せた。事情や理由がありすぎて、今ここで言える気がしない。
 ただ、考え抜いた上であることは事実。尊厳をかけたあの最終決戦での選択に後悔はしていない。

(あの選択をしなければ、きっと俺は俺を許せなかったから)

 沈黙する氷夜を、バルペオルはじっと見下ろしている。感情と光のない眼差し。そこに肯定も否定もなく、追及も好奇心もなく、ただただあるがままを受け入れる深淵がある。――それが、氷夜には心地よかった。殺意も敵意も狂気も破壊も好意も全て、真正面から受け止めてくれるから。安心した。まるでぬるま湯の中を漂うような。

「……あ。そういや名前、言ってなかったような気がする。雨月氷夜ってンだ」
「ふーん」
「なあ、そっち行っていいか。ベタベタしないからさ」
「好きにしろ」

 拒絶はなかった。では、と氷夜は今一度、白亜の玉座を上る。天辺は広く、触れ合わないギリギリのところで腰を下ろした。すぐ傍の距離でバルペオルの横顔を見る。

「バルペオル、ずっとここにいたのか」
「……さあね」
「俺様もここにいてイイ?」
「ハ」

 悪魔はのたりと嗤った。

「ここにいるも何も、どうせどこにも行けないんだろう」
「……ふふ。まァね。どこにも居れない、だから『ここ』が相応しいのかも」

 酒池肉林。行き止まりと停滞の無間地獄。見上げても空は見えず、蜘蛛の糸はなく、ただただ絢爛なだけの黄金に閉ざされている。

「氷夜、飽きるまでここにいたら」
「……うん。あっ名前呼んでくれた」
「あ? 識別名は呼ぶ為にあるんだろうが」
「ふふ、ふふふ」
「そこで笑うのか? 変な奴だな」
「俺様、変な奴だからサ」

 だから地獄に墜ちたんだ。そう言外に言って。
 煙管貸してよ、と手を差し出した。そうすればずしりと重い黄金のそれが、存外あっさり氷夜の手に渡される。先ほどまで悪魔が口にしていたそこに唇を重ねて――甘い、甘い、何も考えたくなくなる無聊慰めの煙を吸って――ふ、う、と吐き出した。黄金の煙は、霧に紛れて解けて消える。

「……南陽インソムニアの時、オマエは俺様に『人間から退治されないように気をつけろ』って言ったよな。アレはどういうつもりで言ったンだ?」

 その場のノリだったのか、本気の心配だったのか。
 バルペオルは抑揚のない声で答えた。

「お前さぁ、人間殺したことあるだろ」
「……」
「ナイトメアとの戦いをもっとずっと楽しみたいなら、法律守ってイイコでいろよって意味で言ったんだよ」
「心配してくれてたンだ?」
「あれだけ俺達に喧嘩売っといて、結末が獄中死とかクソくだらねーーーってこと」
「アンタは終わりにこだわるな」

 くつりと含み笑った。もう一口、煙管を吹かして、言葉を続ける。

「死にやがったら地獄でお前らを喰ってやる、って言ってたけどさ……俺様のこと、喰うの? ぶっちゃけ噛むぐらいならイイぜ」
「はぁ、まるでそうして欲しいような口振りだな」
「……そうかもね」
「痛いぞ」
「痛くして欲しいのかも」

 氷夜は手を差し出した。青白い手首を晒す。バルペオルは面倒臭そうに溜息を吐くと歯列を剥いた。人ならざる鬼の牙は強く噛めば氷夜の手首など容易く貫通してしまう代物だが、加減して手首を切る程度に留めてやった。それでもザックリ切れて、鮮血が滴り落ちる。

「はい終わり終わり。満足か? 別に食欲もねーし仕舞っとけ」
「おー。地獄でも血ィ出るんだな」

 しみじみと赤が滴っていく手首を見る。そのまま、氷夜は目を細めた。

「……なァ、バルペオルは『雨月氷夜』をどう思ってたンだ?」
「人間だよ。それ以上でも以下でもない。ただ、羊の中で頑張って羊のフリしてる狼っていうのかね……消化もできない草しか食えないのは、さぞ大変だろうなとは思ったよ。俺の地獄で眠っていれば楽になれたものを」
「アンタの地獄じゃないけど、ここはもう一緒の地獄だよ」

 地獄だというのに、氷夜のかんばせはどこか晴れ晴れとしていた。

「……そうだ! どっか遊びに行こうぜ。きっと楽しいぜ!」
「どっかって、どこだよ」
「ゴグマとか探してさ、会いに行こうぜ。中には謝りたい奴もいるしな……。なんなら、地獄にナイトメアの一国を築いちまうか?」
「指揮官なんざお断りだ。ザルバ探してサルバに押し付けろ」

 バルペオルは鼻で笑った。「じゃアそうすっかなー?」と氷夜は無邪気に笑う。

「なァ、一緒に行こうぜ。冒険しようよ。いいだろ――」

 黄金絢爛に装飾された、怪物の大きな手を握る。本心からの想いを込めて引っ張った。
 バルペオルはそれを見る。深く深く息を吐いて、ペッとその手を払いのける。

「だぁからベタベタすんな、あんまり人間に触られると落ち着かねぇんだよ、そわそわする」

 そう言って、氷夜の頭をいきなり掴むと、それをわざとらしく支え代わりに抑えつけるようにして「よっこらしょ」と起き上がり、玉座から下りる。霧の魔神は着地せず、ふわりとわずかに浮いている。

「……で、どこに行くんだよ。つまらなかったら縊り殺すぞ」

 人間を見上げる黄金の瞳。停滞の魔神が能動的意思を示したことは、果たして気まぐれか。

「そうだなァ――」

 氷夜は心から笑って、玉座から下りると隣に並んだ。
 こんな地獄も悪くない。「アンタの笑った顔が見たい」「なんで俺がお前の言うこと聞かなきゃならねぇんだよ」と他愛のないやりとりをしながら、二人の姿は黄金の霧の中へと消えていく――。



『了』

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました、グロリアスドライヴでもお世話になりました!
きっと楽しい地獄になると思います。
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グロリアスドライヴ
2021年01月06日

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