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『人々を救う白き山』
鐘田 将太郎la3223

「よし、完璧だぜ。鐘田将太郎の特製おにぎり、いっちょあがりっと」
 日本人なら、やはり米だ。夜食用にと作った幾つものおにぎりの美しい光沢を見て、鐘田 将太郎(la3223)は満足げに頷く。
 具は何にしようか。タラコか、梅か。先日相談に乗った相手から貰った、新鮮な鮭もある。白米はシーチキンとも相性が良いし、唐揚げや海老天を入れるのもありだろう。いっそ、卵で包んでオムライス風にしても良いかもしれない。
 何と言ったって、米は主食だ。合う具よりも、合わない具を探す方が難しかった。
 悩んだ末に、今夜は米そのものの魅力を最大限に発揮してくれる塩むすびにする事にした。綺麗な三角形のご飯の上に、同じく白い塩が雪のように降りかかる。
 おにぎりはシンプルな料理だというのに、店や作る人によって味も見た目も十人十色、それぞれ違う美味しさに感じるから不思議だ。
 米を愛してやまない将太郎は、当然おにぎり作りにもこだわりがある。今まで数え切れないほどの作ってきた経験のおかげで、一番自分好みな握り方というのも把握していた。今日のおにぎりも、完璧な仕上がりだ。
 将太郎の掌ほどのサイズの白い山が、皿の上で行儀よく列を作る。一つは温かい内に食べ、残りは大学院の課題に取り組んだ後、良い具合の冷たさになった頃合でいただく事にしよう。
 この米は、冷めても美味い。というより、温かい時と冷めた時、それぞれ違った美味しさがあるのだ。
 早速、一つのおにぎりを口に含む。口の中いっぱいに、炊きたてのご飯の優しい風味が広がった。
「……美味い」
 無意識の内に、将太郎の口からはそんな言葉がこぼれ落ちていた。いたってシンプルな言葉だが、それは食べ物に対して捧げる事の出来る言葉の中で、これ以上ないほど最大の賛辞だ。
 米を噛むと同時に、将太郎はその美味しさも噛みしめる。疲れた時は米が一番。
 むろん、疲れていなくとも、この味は無類なのだが。

 ◆

 自室に戻った将太郎は、意気揚々と机へと向かった。 
 一つの区切りがついたとはいえ、まだ世界に完全なる平和が訪れたわけではない。それに、大きな悪が潰えたとしても、奴らに苦しめられた過去は決して消えない。
 ナイトメアのせいで心に傷を負った者達の悲しみが、倒した悪と共に消えてくれるわけではないのだ。
 今もなお、眠れぬ夜を過ごす者や、失った命を思い涙を流す者……過去の悪夢から抜け出す事が出来ずに苦しんでいる者がいる。
「俺の戦いは、まだこれからだな」
 一度つけられた傷は、なかった事には出来ない。――けれど、その傷を癒やす事は出来る。
 大きな戦いが終わったため、以前よりも受ける任務の数自体は減るだろう。今年からは臨床心理士になるため、大学院の勉強に本腰を入れていくつもりだ。
 けれど、当然ライセンサーを辞めるつもりはないし、米農家である祖父の手伝いも手を抜く気はない。
 爆斧を振るう事も、米を作る事も、寄り添い声をかける事も、きっと誰かを救う事に繋がっている。
 勉強に米農家、ライセンサーの三足のわらじを脱ぐ予定は、今のところなかった。今後も将太郎は自分のしたいと思う全ての事に全力で打ち込み、楽しんでいくつもりだ。
 課題をこなしていく将太郎の傍らには、最高の味だと自信を持って言える米で作られたおにぎりと、今朝届いたばかりの一通の手紙があった。
 以前、任務で助けた者から送られてきた手紙だ。優しく声をかけてくれた将太郎の言葉が励みになった、そう便箋には綴られている。
 こんな風に手紙を貰った事は、今日が初めての事ではなかった。将太郎の机の引き出しの中には、何枚もの感謝の言葉の詰まった手紙が丁寧にしまわれている。封筒で出来たその白き山は、将太郎が今まで何人もの人々を救ってきた証でもあった。
 ただでさえ勉強で忙しいのに、休日は米農家を手伝い、任務がある時はライセンサーとして戦場に立つ日々。まさに山を登るような、大変な毎日だった。
 けれど、その今までの経験は確かに将太郎の糧となり、出会った人々との触れ合いは、学んだ心理は、臨床心理士の道を歩む彼の大きな助けにもなるだろう。
 誰かを救ってきたこの経験自体が、これから先、誰かを救う事にも恐らく繋がっている。
「……おっと、もうこんな時間か。そろそろ休憩しようかね」
 疲れた時には、やはり米が良い。美味しくて温かな食事の存在は、人々の身体と心を癒やす事に必要不可欠なものだ。
 将太郎は自分の握ったおにぎりを手に取り、頬張った。
「美味い。やっぱり、米は最高だな」
 この先、世界が更に平和になって、一人でも多くの者がこの味を安心して楽しめるようになれば良い。
 米の美味しさをじっくりと堪能してから、将太郎は再び、そんな未来へと続いているに違いない勉学に励むのであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
何人もの人を救ってきたであろう将太郎さんへの労いと、これから先も頑張っていくであろう彼へのエールを込め、今回は好物であるおにぎりに関するお話にいたしました。
将太郎さんのお口に合うお話になっていましたら、幸いです。何か不備等ありましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
それでは、このたびはご依頼誠にありがとうございました。またいつかどこかでご縁がありましたら、その時はよろしくお願いいたします。
おまかせノベル -
しまだ クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年01月08日

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