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『KONOMAMAZUTTO』
ミハイル・エッカートla3184)&パウロla3198


 ジュージューと肉の焼けるいい音が響き、いい匂いが充満した店内。
 各テーブルからは年の瀬ということも手伝って楽しそうな談笑が漏れ、やや浮かれたような雰囲気に包まれている。
「……何が悲しくてこいつと2人で……」
「もふ? 何か言ったでふか?」
 必死にメニューとにらめっこしていたパウロ(la3198)はいつもよりローテンションのミハイル・エッカート(la3184)の呟きに小首を傾げるが、ミハイルは「なんでもない」と首を横に振って頬杖を付いた。
 本来ならば、営業の可愛い子と一緒に焼肉の予定だったのだ。
 「焼肉大好きなんですよ〜」とか言ってたから、張り切ってこの高級焼肉店で有名な“野々猿”を予約したというのに「あー、すみません今日彼氏とデートになっちゃったので……また今度お願いしま〜す♪」とか今日(当日)になって言われたのだ。
「ガッデム!」
「さっきから、どうしたでふか?」
 突然の叫びにビクリと身体を震わせたパウロは、情緒不安定とも見えるミハイルにジト目を送りながらも心配せざるを得ない。
「……いや、すまない、なんでもない。ほら、頼むモノは決まったか?」
「もふ〜! 最初は上ネギ塩タンで決まりでふね。それからカルビ、ロース……あ、上ハラミも忘れちゃだめでふね〜!」
 ウッキウキで答えるパウロにミハイルは「ハイハイ」と興味なさそうに相槌を打ち、店員を呼ぶ。
「……あと、ユッケ2人前と、キムチ盛り合わせを一つ」
「あ、ライスも一つ追加でお願いしまふ〜」
 相変わらずよく食べるなとやや呆れた目線を送りつつ、ミハイルは「とりあえず以上で」と店員を帰す。
「それにしても、急に『焼肉を食べに行こう』なんて、どうしたでふか?」
「……急に肉が食べたい気分になったんだよ」
「もふ〜。確かに冬でも夏でも焼肉は良いものでふ」
 ご機嫌なパウロはうんうんと頷きながら、肉の到着を待ってそわそわして……、ぽむっと手を打った。
「あ」
「あ?」
「あれでふね? さてはボーナスとやらが出たでふね!」
「……あー、そうだな」
 残念ながら、ミハイルのボーナスはライセンサーとして活動すればするだけ減給されるため、雀の涙ほどしか無い。
 ……その分ライセンサーとして働けば別途報酬は出るのだが、装備の手入れだとか交換だとかの維持費が案外かかるので、結局手元に残るのは僅かばかり。
「……ナイトメア対応の部署にいるのに減給されるってのは、おかしくないか?」
「んん??? お仕事大変なんでふか?」
「あー、そうだな。それなりに大変だ」
「忙しいのは良いことって言いまふよ〜」
 (いかんいかん。今日は心の声がダダ漏れているぞ、気を付けろミハイル!)
 両頬を挟むように手のひらで叩いた所で、ビールと烏龍茶が到着。
「乾杯」
「かんぱーいでふ!」
 グラスとグラスを軽く合わせて、2人は喉を鳴らして一気に飲む。
「あーーーー美味い」
「ぷはー。美味しいでふ。ミハイルさん、そんな一気に飲んで大丈夫でふか?」
「酒は飲んでも飲まれるな、という。俺は飲まれたりはしないぞ」
「それならいいんでふけどね〜。あ、塩タン来たでふね」
 ミハイルはトングを取ると、網の上にタンを並べ始める。
 肉の焼ける良い香りがダイレクトに空腹の2人の鼻腔を直撃する。
「……そろそろ……」
「まだだ。一度裏返して……ほら、食え」
「もふ〜♪」
 パウロの取り皿に焼けたタンを載せ、自分の皿にも取る。そしてまた次の肉を焼き始める。
「もっふ〜〜〜〜〜!!」
 美味しさに頬を押さえて踊りださんばかりのパウロを見て、ミハイルは苦笑しながら自身もタンを頬張る。
 しっかりネギ塩で下味が付いたタンは表面のサクッとした歯ごたえがあるにも関わらず、噛むほどに柔らかく肉の甘みが感じられる。次の一枚はレモンを付けて食べたが、レモンの酸味が肉の甘みをさらに引き立て、実に美味い。
「……美味いな」
 2人は会話もそこそこにひたすらにタンを焼いては食べ、食べては焼く。
 その間にもライス、カルビ、ロース、ユッケ、キムチが到着。
「口の中で溶ける美味しさでふね〜。もっと食べていたいでふ〜」
 幸せそうに肉を頬張り、ライスをかっ込むパウロ。
「うむ、美味い」
 ミハイル自身も肉の旨味にささくれ立っていた心がほぐされていくのが分かった。
 焼肉は偉大だ。
 ユッケはごま油の風味が味付け肉の甘みを引き立て、卵黄が味をまとめる繋ぎとなっている。実に酒が進む。
「ごはんおかわりお願いしまふ」
 パウロはご飯が進んで仕方が無いらしい。
 少しだけコチュジャンを追加して、ピリリとした辛さを楽しむのもオツな物だとミハイルは笑む。
 次いでカルビとロースは共にタレ肉だったので、まずはカルビから焼き始める。
 美味しい香ばしさの事を『メイラード反応』という。加熱調理によって食材に含まれるアミノ酸やタンパク質と、糖が結びつき化学反応を起こし、褐色物質であるメラノイジンや香味成分を生成するのだ。
 それに加え、タレ焼肉はタレに含まれる糖分がカラメル化することにより更に香ばしさが生まれる。
 ゆえに焼き加減のコントロールが重要となる訳で、両面にしっかり焼き目を付けつつも、内部に赤身を残すくらい……レア〜ミディアムが望ましい。
「……ここだ!」
 ミハイルが絶妙な焼き色を付けたカルビをパウロの取り皿へと載せる。
「もふ〜! いい焼き色でふ〜!」
 フゥフゥと息を吹きかけ、パクリとひとくち。
「どうだ?」
 自身も焼き上げたカルビを取り皿に取り、ロースへと取りかかる。
「〜〜〜〜〜〜!!」
 その頃、パウロの口の中では赤身と脂身の旨味とタレのマリアージュの結果、宇宙が爆誕していた。
 鼻に抜ける香ばしさ、噛めば噛むほどに刺激され続ける唾液腺。しかし無情にも肉はほろほろと解けるように口腔内から消えてしまう。
「ミハイルさんの焼き加減も絶妙でふが、これはお肉そのものが素晴らしいでふね〜!」
「まぁ、その辺のチェーン店とは違うからな」
 カルビと比べると比較的脂の少ないロースは、厚みにもよるが、ささっと表面を炙るぐらいでも十分美味しく食べられる。
「ほら」
「ありがとうでふ〜」
 差し出されたロースを有り難く受け取り、パウロはカラメル色の焼き色を楽しみつつ、頬張る。
 肉の柔らかさはそのままに、カルビとはまた違った軽さの中にしっかりとした赤身の旨味がタレと絡み合ってこれはこれで実に美味い。
 ビールと烏龍茶のおかわりを挟みつつ、時々キムチで口の中を変えつつも、2人の舌鼓は打ちっぱなしである。
「お肉って本当に美味しいでふね〜。このままずっと食べ続けていたいでふ〜」
「人類が原始時代から食べ続けてきた物だぞ……恐らくDNAに刻まれた美味さなんだろうな」
 網の端っこで野菜を焼き、ちゃっかりピーマンはパウロの皿に全部移して、ミハイルはタマネギとナスを堪能する。
 カルビとロースが終わった所で一度網を交換して貰って、上ハラミを焼き始める。
「そう言えば上ハラミって内臓に当たるらしいぞ」
「そうなんでふか?」
 ちなみに、ハラミは横隔膜の筋肉に位置する部位を指す。とはいえ、味わいは上質な赤身肉に近く、部位や個体によってはサシが入り旨味も強い。しかも、比較的リーズナブルで家計に優しい。
 昨今、細かい部位の名称が明記している焼肉店も増えたため、肉の部位についてのうんちくを語る前に壁に表示があったりするのだが、ザブトンが肩、イチボがお尻の希少部位であるぐらいを覚えておくと一つの話題提供となったりはする。
「リブロースとサーロインはどこなんでふか?」
「どっちもステーキなどで人気がある部位だが、リブロースは背中から胸の部分で、サーロインはリブロースよりも腰寄りだ。ちなみに、サーロインはあまりにも美味いからサー(Sir)の称号を授けられ、サーロインと呼ぶようになったという説が有力だ」
「もふ〜! ミハイルさんは博識なんでふね〜」
 ピーマンをモグモグしながら感心するパウロ。
 ミハイル自身、先日までは知らなかったが、今日のために仕入れた知識だ。……披露している相手がパウロというのが物悲しい所だが、それでも素直に感心し褒められれば悪い気はしない。
 海老、イカ、ホタテといった海鮮塩焼きも堪能し、ホルモンへ突入する。
「レバーって焼きすぎるとバサバサして美味しくなくなるでふ。焼き加減難しいでふ」
「一気に焼くからそうなるんだ。網の外側でジックリ焼くのがポイントなんだ」
 食感があまり気にならないという人なら表面をババッと焼いて食べるのも有りといえば有りだが、やはりジックリ全体を焼いた物の方が美味しい。
 ハツも全体をジックリ焼くのがいいが、レバーほど気を遣わなくても表面の色が変わって弾力を感じるようになったら食べ頃。なお、薄切りなら脂が透明になる程度まで焼くのが良い。
「ぎゃー! 火が上がったもふー!!」
「落ち着け。別に炭になったりしない」
 炎からハツを拾い上げると、ペシペシと炎の立っている網を肉で叩いて消火。ミハイルはそのまま自分の皿にハツを取るとペロリと平らげる。
「また火が上がったもふー!」
「やかましい。ちょっと、氷1個寄越せ」
「もふ? 氷? 烏龍茶の?」
「そう、早く」
「あ、うん」
 パウロはコップから器用に氷を1個だけ取り出すと、それを空き皿に取ってミハイルに渡す。
 その間にミハイルは焼けたハツを救い出すと、氷をトングで摘まんで網の上……炎の上に置いた。
 ジュッという音と共に炎が消える。
「あーーーなるほど。そうするんでふね〜」
「店に寄っては最初から氷を出してくれる所もあるぐらいには常識だと思うが……」
「お肉をお店で食べることが滅多に無いから初めて知ったんでふ」
 ……若干切ないことを告白された気がしたミハイルだが、どうにも感心顔で胸を張りつつ言っているので、パウロとしては別に気になっていないようだ。
「そう言えば、網の交換は頼めばやって貰えるとか、炎が上がったら氷を当てるとか……いつ頃知ったんだったかな……」
 子どもの頃だっただろうか、それとも思春期を越えてからだっただろうか。
 社会人になる頃には知っていた気もするが、どうにもその辺りはもやがかかったように曖昧だ。
「僕は今日初めて知ったでふ。だから今日はミハイルさんとの焼肉記念日でふ!」
「やめろ」
 その表現は傷心のミハイルに効く。本来なら初デートの焼肉記念日となるはずだったのだから。
 焼肉をこれでもかと堪能した2人は、締めにミハイルが冷麺を、パウロはビビンバを頼んだ。
「ライスも食べてビビンバも食べるのか……」
「チャーハンライスは美味しいでふよ?」
「……そうか」
 そういえば世の中にはおにぎりをおかずに白飯を食べる人もいるというから、まぁ、そういうことなんだろうとミハイルは思考を停止して、冷麺を啜る。
「も〜入らないでふ〜。ごちそうさまでふ〜」
「ごちそうさまでした、と。あぁ、よく食べたな……」
 満腹による幸福感に満たされながら、ミハイルは店員にチェックを告げる。

 ……提示された金額に目玉が飛び出そうになったのはここだけの秘密だ。

「こんなに美味しいお肉をいっぱい食べたのはこの世界に来て初めてでふ。ミハイルさん本当にありがとうでふ〜」
「……あぁ、ドウイタシマシテ」
 お腹いっぱい胸いっぱい。美味しいお肉で幸せいっぱいになった心身とは裏腹に、一気に財布の中身が軽くなったミハイルは遠い目をしながら返事を返す。
「今度は僕が何かご馳走しまふね。何がいいでふかね〜?」
 足取り軽く跳ねるように歩くパウロと、徐々に食べ過ぎた事と明日からの生活を考えるとお腹が痛くなってくるミハイル。

 対照的な二人の帰り道を12月の満月は静かに照らしていた。






━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【la3184/ミハイル・エッカート/いつかはふたりで焼肉を】
【la3198/パウロ/今日は焼肉記念日】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度はご依頼いただき、ありがとうございます。葉槻です。

 ひたすら焼肉を食べたいという葉槻の願望が如実に反映されたノベルとなりました。
 目を通して頂いた結果、焼肉を食べたい気持ちになって頂けたら幸いです。

 口調、内容等気になる点がございましたら遠慮無くリテイクをお申し付け下さい。

 またどこかでお逢いできる日を楽しみにしております。
 この度は素敵なご縁を有り難うございました。


おまかせノベル -
葉槻 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年01月08日

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