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『運命の赤い糸』
ヤロスラーヴァ・ベルスカヤla2922)&天野 一羽la3440)& アイラ・カウラla2957


 薔薇香るランテルナのチャペルから、荘厳な鐘の音が聞こえた。
 神父の前で花嫁を待ちわびる新郎の天野 一羽(la3440)は、緊張と胸の鼓動を鎮めるために、軽く深呼吸した。
(新郎として、しっかりしないと)
 チャペルの入口から父親に付き添われ、ゆっくりとヴァージンロードを歩くヤロスラーヴァ・ベルスカヤ(la2922)のウェディングドレス姿を、列席者のアイラ・カウラ(la2957)は眺める。
 思わず涙ぐみそうになって、ぐっと堪えながら、二人でドレス選びをした日を思い出した。


 結婚式のドレス選びに、ヤロスラーヴァは親友のアイラを伴った。
 試着室からでてきたヤロスラーヴァは、恥ずかしげに首を傾げる。

「ね、アイラさん。こういうの、その……どうでしょう?」

 ヤロスラーヴァが選んだのはAラインのウェディングドレスだ。
 フリルやリボンで華やかに可愛らしく飾るのではなく、パニエでふんわり広げたラインや、生地の美しさで魅せるエレガントで大人っぽい。
 優しく柔らかなアイボリーがまたよく似合う。ドレスが落ち着いている分ヴェールは少し華やかに、縁にたっぷりレースをあしらったマリアヴェールだ。
 アイラは眩しげに目を細め、優しく微笑む。

「……綺麗よ、ヤローチカ。あなたが選んだんだもの。それが一番の衣装でしょう」

 実際よく似合っている。
 大切な親友の結婚式が近づいてる。その実感にアイラはこみ上げる想いがあった。思わず涙ぐんでしまう。

「……」

 アイラは群れない一匹狼で、親しい人は少ない。そんな彼女のたった一人の特別な親友。それがヤロスラーヴァだ。
 当然思い出も思い入れもたくさんある。幸せな門出を祝いたいが、同時に置いて行かれるような寂しさもある。

「もう、アイラさんてば、涙ぐんじゃってますよ」
「な、泣いてなんかいないわよ。そもそも、本番ですらないじゃない」

 ヤロスラーヴァに慰められて、恥ずかしげにアイラは俯く。強がる親友へ、ヤロスラーヴァは微笑んで手をとった。

「ほら、お嫁に行ってもずっとお友だちですから。ね?」

 結婚してもアイラが大切な人であるのは変わらない。一番の、一生の親友として関係は続いていく。
 そう想いをこめてぎゅっと握ると、アイラはぱっと顔をあげて、大切な親友をぎゅっと抱きしめた。

「……幸せになるのよ、ヤローチカ」
「もちろんです。私達は幸せになるために結婚するのですから」

 ヤロスラーヴァもアイラを抱きしめ返し、優しく囁く。

「私の幸せの中には、アイラさんの笑顔も含まれるんです」

 だから笑って。そう言うヤロスラーヴァの言葉に、また涙ぐむアイラだった。

 その後アイラのドレスも選んだ。ヤロスラーヴァが可愛らしいドレスばかり勧めてくるから、アイラが恥ずかしがって困るのもまた、いつも通りの二人だった。



 神父の前で、花嫁は父親から新郎へ、引き継がれる。
 一羽の隣にヤロスラーヴァが並んで、神父の言葉が続く。
 ヴェールに隠されて見えないヤロスラーヴァの顔を想像し、一羽は出会ってから今日までの日々を想い浮かべた。

 始まりはイタリアのお祭り。満開に咲き乱れるアーモンドの花の下で出会って、一緒にジェラートを食べた。
 アーモンドの花はどこか桜に似ている。日本人の一羽は自然とそこに意味を感じてしまう。
(桜は縁の徴。あの日から僕達は赤い糸で結ばれてたのかな)
 そうでなければ、あの日1度会っただけで終わっただろう。
 連絡先も交換せず、旅先でちょっと話しただけなのだ。そのまま二度と会わない可能性が高かった。
 それなのにフランスのアルザス地方のお祭りで、偶然再会した。妖精のようなドレス姿のヤロスラーヴァを見た時、運命かと思った。
 プレッツェルを食べながら、妖精パックの話で笑い合って、ほろ酔いのヤロスラーヴァの美しさに見惚れて。その日やっと連絡先を交換し、友人になったのだ。

 想い出に浸っていた一羽は、列席しているアイラの事も思い出す。
 空飛ぶ結婚式場の参列者モニターの仕事で、ヤロスラーヴァからアイラを紹介された。
 ヤロスラーヴァとアイラという、綺麗なお姉さん達の仲睦まじい間に挟まれて、ドキドキ落ち着かなかった。
 最初はあまりにアイラが素っ気なく、嫌われてるのかと思ったが、不器用なだけで優しい人だと知った。
 和のお茶会に招かれて、茶道のお茶を頂いた時、作法を知らず困った一羽を助けてくれたのはアイラだ。
 日本人以上に着物を着こなし、お茶の作法も完璧なヤロスラーヴァとアイラの姿に感動したものだ。

 それから一羽はバレンタインのエオニアを思い出して、思わず頬が赤くなりかけて、ぎゅっと唇を噛みしめる。
 二人っきりでスイートコテージに泊まるという、恋人みたいなことをしておきながら、ヤロスラーヴァはまったく気づかずのほほんとしていて、一羽は一人やきもきした。
 お誕生日に一緒にワインを飲もうと約束して。まるで誕生日デートの予約のようで、いつもの如く振り回されてるだけだと、必死で言い聞かせた。
 でも、そういうヤロスラーヴァののんびりマイペースな所も、一羽は好きになったのだ。

 実際、一羽の誕生日の日、二人でワインを飲んだ。その時は恋人になっていたのだが。


 神父の言葉が終わり、いよいよ指輪の交換だ。
 ヤロスラーヴァが手袋を外すと、一羽は白魚の指先にそっと触れて、指輪を通す。

「色々あったよね。ボクたち」
「そうですね。まるで世界を旅してるみたいでした」
「前に、ここでモデルをやったけど、ホントに結婚式を挙げることになるなんて。でもあの時、一羽くんが好きだって、意識したのですよ」
「そうなの?」

 愛の告白は口にするより。積み重ねた時間で恋人になる。ヤロスラーヴァはそういう人間だった。
 あの日に至るまで、一羽と過ごした、様々な時間の積み重ねが、二人の愛を育み、今に至る。
 その幸せを噛みしめながら、ヤロスラーヴァは一羽の手をとって、指輪をはめる。

「エジプトでプロポーズしてくれた一羽くん、かっこよかったですよ」
「そ、そうかな……エジプトも綺麗だったね。不思議と異国に縁があるよね」
「ええ。二人の思い出の地は、ヨーロッパに近い所ばかりですね」

 日本人の一羽と日本在住のヤロスラーヴァなのに、二人の思い出の地は異国が多い。
 それもまた、国際結婚である二人らしい縁なのかもしれない。

 指輪の交換を終えて、いよいよ誓いのキス。
 小さな旦那様のために、ヤロスラーヴァが少しだけ屈むと、一羽はそっとヴェールを持ち上げた。
 上品に化粧されたヤロスラーヴァが最高に美しくて、思わず見惚れてしまう。
 真っ赤になった一羽の顔も愛らしく、ヤロスラーヴァも思わず微笑んだ。

「一羽くん。私をお嫁にしてくれてありがとう。愛してます。ん……」
「ヤローチカ、ボクこそありがとう。絶対幸せにするから。愛してる……」

 そう囁き会って、一羽はそっとヤロスラーヴァの腰に腕を回し口づけた。ヤロスラーヴァも一羽をふんわり優しく抱きしめる。
 年上の優しい花嫁の柔らかな愛に包まれるような、安堵と多幸感を感じ、一羽がそっと目を開けると、ヤロスラーヴァは柔らかく微笑んだ。

「ふふふ。これで私も天野ヤロスラーヴァ、天野夫人といったところでしょうか」
「天野夫人。そうだよね。世界一幸せな夫人にしないと」
「よろしくお願いしますね、あなた」

 ヤロスラーヴァにとっても一生忘れない口づけだ。心から一羽と結ばれ、夫婦となれたことを改めて実感する。
 柔らかく暖かなキスで幸福感に心が満たされ、見つめ合った。
 列席者や神父の存在すら忘れ、まるで二人だけの世界になった気分で、永遠にも思えた幸せな時間を噛みしめる。



 チャペルで挙式を終えたあとは、ローズガーデンで披露宴だ。
 ランテルナのローズガーデンは一年を通して様々な薔薇が咲き誇り、今日も日差しを浴びて生き生きと咲き誇っていた。
 まるで二人の門出を祝うように。

 親族や親しい友人だけを呼んだ、こじんまりとした、しかし温かみのある披露宴を皆で楽しむ。
 ヤロスラーヴァの両親も、最初は一羽の幼さに驚いたが、ライセンサーとして立派に自活し、命がけの場面も彼女と乗り越えてきた話を聞き、すぐに二人の仲を認めたらしい。
 一羽の両親も、日本人以上に日本人らしいヤロスラーヴァと、すぐに打ち解けた。
 両家が和やかに話が弾む、幸せな宴となった。

「ここで1つ祝電を読み上げさせていただきます」

 披露宴の司会者が読み上げたのはエオニア王国の王女パルテニア・ティス・エオニス(lz0111)からの祝電だ。国家元首から結婚祝いの電報が届いたことに、列席者達が驚く。
 しかし二人はエオニアの観光に関わる仕事もし、何よりライセンサーとして戦ってきたエオニアの恩人なのだ。
 ライセンサー贔屓の王女が、祝辞を贈るのも当然ではある。

「……結婚ね」

 二人の挙式を見守ったアイラは、内心色々考える。結婚に興味はないが、親友が幸せになるなら、いいものなのだろう。

「ちょっと不安だけど、あの子も何だかんだ幸せにしてくれるでしょう」

 一羽とは何度も顔を合わせ、早々にヤロスラーヴァへの想いに気づいていた。一羽の気持ちにまるで気づかずヤロスラーヴァが振り回すのを見ていて、可哀想だと思っていた。
 そんな二人がやっと結ばれて、正直ほっとした。
 一羽のこともアイラは認めていて、大切な親友を預けるに足る男だと信じている。

 いよいよブーケトスという時間が来て、ヤロスラーヴァはまっすぐにアイラの元へ向かう。
 ブーケをアイラに差し出して言った。

「これはアイラさんに貰って欲しいです」
「私は結婚なんて……」
「幸せのお裾分けです。アイラさんにも幸せになって欲しいので」

 ヤロスラーヴァの言葉に、思わずまた涙ぐみそうになり、ぐっと堪える。

「……綺麗ね、ヤローチカ。あんな幸せそうな顔、初めて見たわ」
「そうですか?」
「ええ。親友の私が言うんだから、間違いないわよ」

 そう言う時、恥ずかしげに目を逸らす。するとすぐ側にいた一羽に気づいた。

「ヤローチカのこと、よろしく。幸せにしてあげなさい」
「はい。でも、僕1人で幸せにする訳ではないと思います」
「……え?」
「えっと……ヤローチカにとって、アイラさんは大切な親友だから。その……皆で一緒に幸せになるんじゃないかなって、思って」

 まごまごとしつつ、けれどアイラを気遣う姿に、一羽の成長を見た気がした。

「ありがとう。そうね。皆で幸せになるのね」

 そう言って、青空を見上げた。
 夫婦の如き寄り添って飛ぶ、一組の鳥。その少し後ろで、対の鳥を見守るようにもう一羽の鳥が飛んでいた。
 これからもあんな風に、三人で仲良くやっていくのかもしれない。
 親友達の幸せを見守る日々もまた、悪くない。そうアイラは思った。

 イタリアで結ばれた赤い糸の縁は、世界を旅して愛を育み、エジプトで永遠を誓い合い、エオニアで新しい一歩を踏み始めた。
 誰もが祝福する二人の幸せは、約束されているのだろう。
 それが赤い糸の運命だから。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
●登場人物一覧
【ヤロスラーヴァ・ベルスカヤ(la2922)/ 女性 / 26歳 / お姉さん花嫁】
【天野 一羽(la3440)/ 男性 / 20歳 / 幼い新郎】
【アイラ・カウラ(la2957)/ 女性 / 29歳 / 祝福の隣人】

●ライター通信
いつもお世話になっております。雪芽泉琉です。
ノベルをご発注いただき誠にありがとうございました。

挙式の時期の指定がなかったので、いつ行ったとしても問題ない感じに仕上げております。
お二人の出会いからプロポーズまで、シナリオにて見守らせていただきましたので、感慨深かったです。
どうかお幸せに。

何かありましたら、お気軽にリテイクをどうぞ。
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雪芽泉琉 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年01月12日

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