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『温泉に行こう!』
cloverla0874)&柞原 典la3876


 クラーティオ(lz0140)を労りたい+一緒に遊びたいclover(la0874)が温泉旅行を企画、柞原 典(la3876)がそれにヴァージル(lz0103)と自分の同行を申し出て、地蔵坂 千紘(lz0095)とグスターヴァス(lz0124)も巻き込んだ。グスターヴァスは足兼財布と言った所か。なお、ヴァージルは少女型で金色のお目々をしたcloverを見るや、一瞬で姉認定したので、美少女の言うことだけやたらとよく聞く、聞き分けの良いエルゴマンサーになり果てた。
「と言うことで、戦闘禁止っ! 守ってねっ!」
「わかったよ……」
「わかりました……」
 渋々頷いているのはヴァージルとグスターヴァスである。千紘とクラーティオは割り切ったもので、既に典も交えて談笑していた。典がコンビニの袋から飴を取り出し、
「飴ちゃんやるわ」
 少年の手に乗せた。
「わぁ、ありがとうございます」
 一行を乗せたミニバンは、グスターヴァスの運転で温泉施設に辿りついた。

 温泉は混浴なので、全員水着である。cloverはシンプルなタンキニ。典は青と紺グラデーションのサーフパンツ。ヴァージルは迷彩柄、グスターヴァスもまた地味な海パンであった。千紘とクラーティオはそれぞれ、葉っぱや木などがプリントされた柄。
「何でブーメランパンツじゃないの?」
 cloverはジト目でグスターヴァスを見上げる。
「何で年頃の少年少女の前でそんな際どいもん着るんですか」
「ぼくはもう、三十年くらい十二歳をやっているので、気にしなくて良いですよ」
「俺は五年くらい十七歳してるーっ。さ、クラーティオ座って! 頭洗ったげるっ!」
 cloverはそう言って、クラーティオをシャワー台の一つにつかせた。シャンプーを手に取って髪の毛で泡立てる。あっという間に、クラーティオは泡アフロと化した。
「おかゆい所はございませんかーっ?」
「ないでーす」
「はい、じゃあ流すよーっ。目つぶっててねっ」
「はーいっ」
 きゅっと目を閉じたクラーティオ、その頭からシャワーでお湯を流す。濡れ髪はぺたんこになり、洗い立ての犬のようである。
「じゃー、次はお背中流しまっす!」
「お願いしまーすっ」
 案外ノリノリのクラーティオである。


 ヴァージルが初恋の典は、これを機に彼を構い倒したいと思っている。その一方で、やはり好いた相手には構われたいと思うのが人情で。
「兄さん、背中流したろうな」
「え? いや、良い。要らん」
「遠慮せんでええんやで。俺の顔、近くで堪能してや」
「はっきりそう言われるとめちゃくちゃ腹立つな。つっても、後ろにいられちゃ見られねぇだろうがよ」
 そう言いつつも、諦めて大人しく流されるヴァージル。
「ぐっさんもやけど、流石にええ体しとるなぁ」
「借り物だけどな」
 そう言われても、典は故人に会ったことがないので、この姿は彼だけでしか知らない。広い背中を洗って流す。肩甲骨についた泡を洗い落とした。視線を感じて振り返ると、千紘がこちらを見ていた。どうやら、典の身体に残る傷に驚いているらしい。
「あ、ごめんじろじろ見て」
「まあ、今日は許したるわ」
「ライセンサー業での傷? そんなに重体とかあったの?」
「ちゃうよ。ほとんど一般人時代のや。ええと、右腕が高三の時で……」
「こうさん? サードグレード? サレンダーじゃなくて?」
 目を丸くする千紘。
「何で降参して刺されなあかんねん」
「何で高三が刺されないといけないんだよ」
「そうとも言うわな。左肩はここに犯人がおる」
「お前が悪いんだろ」
 悪びれもしないヴァージル。その様子を、ひっそり見守っているcloverとクラーティオである。首までお湯に浸かりながら頭を近づけ、
(柞原おにーさん、きらきらしてる……っ)
(嬉しそうですね〜。ぼくの村の人が、ぼくに思われて羨ましいって言ってましたしね。ヴァージルくんはどう思ってるんでしょうね)
(でもでもっ、柞原おにーさんの顔が好きみたいだし、「いつもみたいに笑ってくれよ」って言ってたから、もしかしたら……っ! だって、笑っててほしいってことじゃん?)
(もしかしたら!? きゃーっ!)
 二人でひそひそと囁き合って盛り上がっている。cloverは恋バナが気になるお年頃だし、クラーティオも村の管理で、気楽に他人の関係を気にする余裕なんてなかっただろう。cloverと一緒に、良い雰囲気の二人を見てはしゃぐのが楽しいのかもしれない。

 風呂上がり。典は「これが作法や」とヴァージルにもコーヒー牛乳を渡し、腰に手を当てて飲んでいる。なお、金の出所がグスターヴァスなのは推して知るべし、というかなんというか。
「ヴァージル、浴衣着るの上手いじゃん」
 千紘がタオルを首に掛けているヴァージルを見て言うと、典がにこりと笑い、
「見られたもんやなかったから俺が着付け直した」
 ちょっと得意げな彼に、千紘は肩を竦めるだけに留めた。何しろ、「兄さんのことあんまり苛めんといてな」と言われているのである。からかおうと思えばいくらでもからかえるが、ヴァージルを好いている人の前で言うのも違うだろう。
 湯上がりの典は、わざとなのか無意識なのか、普段以上に色気を発揮している。少し上気した頬で艶然と微笑み、ヴァージルに寄りかかった。


 一行は卓球台に移動した。これよりダブルスの卓球試合を行なう。チーム分けは、cloverとクラーティオの見た目十代ペア、典と千紘の狡猾ガン振り人類ペア、グスターヴァスとヴァージルの金髪ペアとなっている。
 まず、cloverペアと典ペアで対戦した。順調にラリーを続ける。cloverはあまり得意ではないらしく、大きなモーションで空振りしたり、転びそうになったりしていた。顔面でボールを受けた時には流石に場が一瞬静まり返ったが、幸いにも大きな怪我はなかった。
「怪我はないですか?」
 クラーティオが眉を寄せてぶつけた所を検めている。
「うん、大丈夫っ、ありがとーっ! よーしっ! 見てろーっ!」
 その後もラリーは続いた。典が不意を突いて、キレのあるスマッシュを放った。cloverは目を見開き、
「にゅあーっ!」
 思いっきりラケットを振るった。途端、手が軽くなる。
「……あれ?」
「……おい」
 目を開けると、ラケットがない。ヴァージルの低い声がした。見れば、得点板の隣で、すんでのところでキャッチしたらしいそれを持っている。
「あっ、ごめんごめん! 張り切りすぎて飛ばしちゃったみたいっ」
「……しようのねぇ奴だな」
「うわ、兄さんほんまクローバーさんに甘い……」
「まあ、子供も平気で撃つよりはマシだけどさ……それにしても、柞原さんが卓球上手いとは思わなかった」
「卓球台あるとこに十八年おったからなぁ。それなりには」
「典」
「なんや兄さん」
「浴衣直せ」
 下着に浴衣一枚だけの典は、動き回って着付けが乱れている。乱れた浴衣から覗く、白い肌……。
「……このまま兄さんと対戦して、集中させへんのも手かなぁ……」
 にんまりと笑う。なお、浴衣の下にTシャツ短パンを着込んでいる千紘は同じくらい気にしていない。
「じゃあじゃあ、俺たち次審判やるねっ。クラーティオも一緒に見てて」
「はーい」
「っしゃ。何か遠慮のいらねー相手だ。やるぞやるぞ」
 千紘はラケットの素振りをしている。

「大人げないですね」
 得点板をめくりながら、クラーティオがぼそりと呟いた。卓球ネットを挟んだ左右では、ピンポン球と一緒に奇声が飛び交っている。
「ッシャオラァ!」
「ンギエエエエエ!!!!!」
 千紘のスマッシュを、グスターヴァスが取り損ねたり、
「ほーれ兄さん、取ってみ」
「オアアアアアアア」
 典のえげつないコーナー狙いのサーブをヴァージルが辛うじて打ち返したり。
「これじゃぼくたちの方がお行儀は良いんじゃないでしょうか」
 クラーティオがぼそりと言いながら得点をまためくった。驚いた事に互角である。
「すごいっ……めちゃくちゃだけど試合になってる……っ」
 そのままデュースを幾度となく繰り返し……典がグスターヴァスに対してサービスエースを決めて勝敗は決した。
「世の中狡猾さだよ。君たちもずるい大人になって勝利をもぎ取ろう!」
 千紘がドヤ顔をする。
「クラーティオに変なこと教えないでっ」
「cloverくんに変なこと教えないでください」
 十代に怒られる二十五歳であった。


 食事は部屋食だった。瓶ビールも運ばれてくる。未成年と、希望した千紘はソフトドリンクだ。典は追加で日本酒も頼んでいる。
 cloverは張り切ってクラーティオの小皿に醤油を足してやるなどしていた。千紘が栓を抜いた烏龍茶の瓶からグラスに注ぎ、
「はいっ、クラーティオの分ね。このお魚おいしそーっ。クラーティオは? お肉の方が好き? 俺のお肉ちょっと分けてあげよっか?」
「大丈夫ですよ。好き嫌いはあまりないので!」
「良かったーっ」
 cloverは自分の事のように嬉しそうだ。
「俺、クラーティオいっぱい頑張ったから、ご褒美があっても良いと思うんだよねっ」
「そんな、頑張っただなんて」
 褒められて満更でもなさそうなクラーティオである。
「美味しい?」
「はい、とても」
 クラーティオは興味深そうに酢の物を食べていた。
「こう言うのもたまにはええね。お、兄さん箸あかんかった?」
 ヴァージルが箸に苦戦しているのをめざとく見つける典。
「じゃあ、フォークもらってあげ……もごもご」
 千紘が立ち上がろうとするが、典に手で口を押さえられた上で着席させられる。
「俺が食わせたるわ。はい、あーん」
「あぁん?」
「いや、凄め言うてるのとちゃうねん」
 ヴァージルは渋々ながらも、雛鳥の様に口を開けて典に食事介助をされるのであった……。

 食事が終わると、cloverは自分が持ち込んだ菓子類を取り出した。
「食後のおやつーっ! 俺のオススメのお菓子どーぞ♪」
「わあ、美味しそうですね。頂きます」
 クラーティオは早速チョコ菓子をひょいとつまんで口に放り出した。
「美味しい! もう一つもらっても良いですか?」
「良いよーっ! どんどん食べちゃって」
 最初は遠慮がちにしていたクラーティオだったが、やがて「これなんですか?」「あれも食べてみたいです」と言って色々とお菓子を試した。cloverはにこにこして袋を開けている。大人たちはおこぼれに預かった。


 宴会はその後も盛り上がりを見せ、隠し芸大会が開催された。
「ほんだら、俺は回し蹴りでペットボトルの蓋開ける奴やるわ。兄さん持ってて」
「俺に当てるなよ」
「当たってもフィールドあるから問題ないやん」
 典は良い笑顔でヴァージルにペットボトルを渡した。渡された方は、渋々と両手でペットボトルを持ち、片膝を立てた姿勢で差し出す。
「兄さん動かんといてな」
「動かねぇからさっさとしろ」
 ごくり……。
 ギャラリーが固唾を呑んで見守っていると、典は浴衣の前を派手に開きながら回し蹴りを放った。ヴァージルも半ば意地でそれを受け止める。蹴りがキャップを掠めた。一拍置くと、キャップが直上にすっぽ抜ける。成功だ。
「え!? マジ? すごいね」
「柞原おにーさんすごーい!」
 拍手喝采。典はにっこりと笑うと、ヴァージルからボトルと蓋を受け取って下がった。
「浴衣直せ」
「はいはい」


 その後も、千紘が影絵を、グスターヴァスがカードの高速シャッフルを披露するなどした。 そうこうしている内に、たくさん食べたお腹と、アルコールが少し落ち着き、枕投げが催された。チームは若い三人のヤングチームと、比較的年長のアダルトチーム。後者に組み分けされた典、
「俺がアダルトチームって、何か響き危なない?」
「酔っ払ってんのか?」
 ヴァージルがぼそりと呟いた。
「夜の枕投げ大会だっ……」
 cloverが厳かに言った後、
「あれ、でも枕投げって昼にやるの?」
「昼にやったから祟られると言うことはないと思う。酒飲んでる人は気を付けて、具合悪くなったら離脱すること。じゃ、作戦会議を一分取るから」
 千紘の宣言で、それぞれのチームは顔を突き合わせて作戦を練る。
「千紘おにーさんかクラーティオ、作戦考えてっ」
「的が大きいので、グスターヴァスのおじさんを蛸殴りにしましょうか?」
「いや、柞原さんを狙えばヴァージルが出てくる筈だから、そこを狙おう。そうするとぐっさんがフリーだからぐっさんにも当てられる。どう?」
「あの人を集中攻撃して、守ってあげる人がいるとは思えないんですけど」
 ぼそりと呟くクラーティオ。千紘とcloverは笑いそうになるのを呑み込んだ。
「と、とにかく、まずはその作戦でいってみよーっ!」

「えーい!」
 クラーティオがヘアピンカーブを描く投擲で典を狙った。
「兄さん守って」
 典がヴァージルを盾にする。ここまで読み通りだ。
「オラァ!」
 打ち合わせ通り、千紘が猛烈な勢いでヴァージルに枕を投げつける。当てられた方は眉間に皺を寄せ、
「遊びではしゃいでんじゃねーぞ!」
「苛めんといてなって言うたやろ」
 笑顔の典から反撃が飛んでくる。顔面に当たった。おかしい、柔らかい枕なのに何でこんなにダメージが。中に固い物は入っていない。執念か。
「それーっ! 喰らえ喰らえーっ!」
 一方、cloverはグスターヴァスに枕を投げては拾い、投げては拾い、としている。クローバーくんは結構反応が高いんですよね……と、しみじみするクラーティオだ。いつも先手だった、クローバーくん。
「ぼくも加勢しますーっ!」
「ああ〜! やめてぇ〜!」


 消灯時間になった。枕をそれぞれの布団に戻す。
「俺、知ってる。こういう時って布団は一つ、枕は二つなんでしょ?」
 クラーティオが可愛くて仕方ないcloverは同じ布団でも良いくらいなのだが、ぐれんのわんこをじぃと見つめた。
(怒られちゃうかな……)
 せめて隣の布団が良い、という事で二人はぐれんのわんこを挟んで川の字を作った。そのままおしゃべりをしていたが、クラーティオは何もかも初めての事で、はしゃぎ疲れていたのか、いつしか寝入ってしまった。
「……おやすみ、クラーティオ」
 cloverはその頭を撫でる。ぐれんのわんこにも挨拶して、自分も目を閉じた。

「兄さん?」
 典は小声でヴァージルに呼びかけた。返事はない。寝入っているようだ。そろりと布団をめくり、隣に入り込む。
(ぬくい)
 ヴァージルは気付いていないようだ。それか、わかってて許しているのか。
(許してくれてるんやったらええなぁ)
 そんなささやかな願い。少し二人で話したかった、と思わないでもないが、今日はこれで満足するとしよう。典もすぐに眠りに落ちた。


 明け方。cloverは目を覚ました。向こうの布団、典とヴァージルが並んで寝ているところから小さな声が聞こえる。
「おはよう、兄さん」
「お前、いつの間に……」
「兄さんぬくいわぁ。寒かったから丁度ええね」
(こ、これはもしかして……っ!?)
 目がぱっちりと覚めてしまった。布団を被って、顔だけ出しながらそちらを見る。いつの間にかクラーティオも起きていた。彼はcloverが向こうの二人の話に聞き耳を立てているのを見てそれに倣う。同じ部屋なんだから聞こえちゃっても仕方ないですよね。
(あの二人は一緒に寝たんですか?)
(柞原おにーさんが忍んで行ったみたい……っ)
「お前もわかんねぇ奴だな……」
 ヴァージルがごにょごにょ言っている。二人は他愛のない話をしていた。やがて、ヴァージルの声はどんどん小さくなっていき……。
「兄さん?」
 また寝息を立てていた。典はむくれ、
「もう……! ん?」
 視線を感じたらしく、こちらを見る。二つの布団からそれぞれ金と緑の大きな瞳が覗いているのが見えただろう。金の傍らには小さな紫も。
「お子様にはちぃと早いな?」
 にこり。典に微笑み掛けられて、二人は布団を勢い良く閉じた。笑いが止まらなくなってしまう。いつの間にか、二人は二度寝をしていた。


 そして、チェックアウト。
「楽しい時間ってあっという間なんだねーっ」
 cloverは名残惜しく旅館を見上げた。グスターヴァスに促されて、車に荷物を積み込んで行く。
「cloverくん」
 その袖を、クラーティオが引いた。
「どうしたの?」
「あの、ありがとうございました。楽しかったです」
 クラーティオは少しだけ、恥ずかしそうに言った。cloverはぱっと顔を輝かせて、
「ほんと? 良かったーっ」
 彼が楽しんでくれたなら一番嬉しい。cloverは少年の手を取った。

 その様子を見ながら、典はヴァージルの腕を引いた。
「兄さん」
「何だよ」
「何か俺に言うこと、ない?」
「忘れ物してねぇか?」
「阿呆……」
 典はそれだけ言うと首を振って、荷物をぽいぽいと積み込んだ。一服してくる、と断りを入れると、ヴァージルを連れ出した。喫煙所でライターを渡して煙草を咥える。
「兄さん、火」
「しょうがねぇな」
 ヴァージルは慣れた手つきで火をつける。
 どんなに甘い言葉より、これが一番なのかもしれない。
「柞原おにーさんっ、出発するよー」
 少しすると、cloverがクラーティオを連れて呼びに来た。典は煙草の火を消すと、ヴァージルの手を掴んで、車に戻る。

 思い出を乗せて、車は発進した。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
イフだからできる温泉旅行、いかがだったでしょうか。
こういう時空は大好きなので私も楽しかったです。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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2021年01月12日

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