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『未来で待つ大人達』
月居 渉la0081


 年が明けて忙しさが一段落した頃、本日はエオニア王国のカフェバー止まり木の休業日。
 月居 渉(la0081)に手料理を食べてみたいとリクエストされた緒音 遥(lz0075)は、パチンとウィンクしながら、自信満々の顔で皿を差し出す。

「男は肉でしょ! オネーサン知ってるんだから」

 どんと取り出したるは肉汁が滴るローストビーフ。添えられたマッシュポテトもクリーミーだ。

「これは、お酒が進みそうだね!」

 アイザック・ケイン(lz0007)も上機嫌である。
 何せ渉が二人のためにと、バイト先から美味しい日本酒を持ってきたのだ。こんなご馳走と一緒にだされて、場所を提供するだけで良いとはなんと贅沢な。
 今日はこの3人だけで、この店を貸し切った。アイザックの店長特権である。

「牛タンシチューと豚角煮もあるわ」
「わぁ! 美味しそう。でも、シチューはやっぱりご飯が欲しいな」
「そういうと思って、鍋でご飯炊いておいたわよ」
「さすが緒音さん!」

 ガツンと肉が食いたい男心を理解してるのは、緒音がオネーサンだからだろう。なお、緒音は自分の為におでんを作っておいた。

「おでん? 初めて見るけど、良い匂いだね。これもジャパンカルチャーかな?」
「アイザックさんは初めてですか? この辛子をちょっとつけても美味しいですよ」
「ちょっと待った。食べる前に乾杯しちゃいましょ」
「あ、そうですね。えっと改めまして、長いナイトメアとの闘いが終わったことを祝して、お疲れ様でした&乾杯!」
「「乾杯」」

 三人のグラスが、コツンとなる。
 未成年の渉はミーベルジュースのソーダ割りで、緒音とアイザックは渉が差し入れた日本酒を飲む。

「この日本酒はさっぱりしていて良いね。ローストビーフとも意外と合うよ」
「やっぱり私の感は正しかったわ。これ熱燗にしても美味しい酒ね。おでんに合うわ。あとで温めましょ」
「喜んで貰えて嬉しいです」

 機嫌が良い大人組を眺めて、渉もご機嫌だ。
 今日は祝勝会であり、2人を労うためでもある。長い闘いを続けられたのも、2人のバックアップがあったからだと、渉は思っている。
 ご飯にかけた牛タンシチューを渉がほおばると、ほっぺが落ちそうなほど美味しくて、盛り盛り食べてしまう。

「凄い……肉が、蕩ける。なんかワインの味かな? 大人の味って感じで、凄い美味しいです」
「ふっふっふ。圧力鍋でガツンと煮込んだから、柔らかいのよ」

 なお豚角煮も当然、柔らかく味がしっかりしみて、肉汁たっぷりジューシーである。

「この豚肉、甘い香りがしますね。アニスかな?」
「八角よ。まあ、ヨーロッパではアニスとも言うかしら」
「中華風の角煮だと、八角は欠かせないですね。脂たっぷりでも、この香りがあるとぺろりと食べられちゃいます。……おかわり!」
「はいはい。渉君。ご飯はたっぷりあるから、焦らずに」

 ご飯のおかわりを皿に盛りつつ、緒音は日本酒を温めた。

「日本のお酒も温めて飲むんですね。初めてですが、これもなかなか」
「かーっ! 寒い時期には熱燗に限るわ」

 緒音のおっさんの如き唸り声が、店内に響く。

「後でおでん汁いれて、出汁割りにして飲みましょ。そのためにおでんにしたんだから」
「このおでんの出汁は、確かに美味しいですが、酒を出汁で割るのは面白いですね」

 アイザックはジャパンカルチャーに興味津々だ。
 料理と飲み物を十分に楽しみ、長い闘いを労い合う。
 ある程度お腹が落ち着いてきた頃合いに、渉は気になっていたことを問いかける。

「緒音さん。アイツどうなるんですか?」
「……まあ、懲役刑なのは確かだけど、あとは何年になるか、ここからの努力次第かしら?」

 アイツとは、緒音の昔馴染みの志鷹紅葉(lz0129)の事である。
 紅葉を思い出すだけで、緒音の表情はげんなりした。減刑のための物証探しだけでも一苦労だ。

「刑務所の中でもワガママらしくてね。大人しく模範囚してろって感じよ!」
「らしいですね。でも、緒音さんは諦めずに、全力を出すんですよね」
「アイツになんと言われようが、私が一日でも早く一緒に飲める日が来てほしいからやるのよ」

 そう言い切った緒音の表情が清々しくて、元気そうで渉はほっとした。そこでアイザックが笑顔で提案する。

「僕も少し手伝いましょうか? 志鷹紅葉のレヴェルとしての活動範囲はヨーロッパでしょう。僕の管轄ですから、コネもありますよ」
「それは助かるわね。私はずっと日本支部だったから、こっちに伝手が少ないもの」
「日本支部にいた頃はお世話になりましたから」

 二人が仲良く協力する姿を見て、渉は嬉しくなった。
 以前二人はニュージーランドの任務で、意見が合わずに喧嘩したと聞いている。
 そんな遺恨も感じさせずに付き合えるのは、さすが大人同士だなぁと感心する。

「いいなぁ。俺も……緒音さんとアイザックさんみたいに、SALFのどこかで働いてみたいんです。まだまだ勉強することいっぱいだけど、いつか二人の下で一緒にお仕事できたら嬉しいな」
「後方支援に興味があるの? オネーサンに任せなさい。ばっちし教えてあげる」
「やったー……って、アイザックさん、どうしたんですか?」

 喜びかけて渉は首を傾げる。どことなくアイザックの笑顔が元気がない気がした。

「いや。渉君がSALFで一緒に働いてみたいと言ってくれるのは嬉しいんだけどね。僕がそれまでSALFにいるか解らないなと思って」
「え? アイザックさんSALFを辞めるんですか?」
「今、考え中かな。でも辞めるとしても後方勤務だけで、ライセンサーの資格は残しておくから、任務は一緒にできると思うけどね」
「そっか……。いつまでも一緒か解らないですね。でも、俺が一人前になったら、こうやってご飯食べながら褒めてください!」
「もちろん。成人したら渉君のためにカクテルを作るよ」
「わぁい! 楽しみにしてます」

 渉の未来はまだこれから色んな可能性があって。けれどいつか辿り着く未来に、二人が待っていてくれるだろうと思うと、わくわくするほどに楽しみだ。

「早く大人になりたいな……」

 そう呟く渉の肩に、二人の手がぽんと置かれる。

「そう言っていられるのも今のうちよ」
「若いうちにしかできない遊びを、今のうちにしておくと良いんじゃないかな」
「若いうちにって、そんなお二人ともまだ若いじゃないですか」
「僕ももう28だしね。30も近づいてきて、無理が効かなくなりそうだよ」
「ああ!! 聞きたくない。年齢の話なんて、私は永遠の29歳だから!!」

 緒音の悲鳴が木霊する。アイザックはしみじみ言った。

「医大は普通の大学より年数長いですからね……」

 医大を出て、研修医になり、ライセンサーとして闘った後に、オペレーターに転向したとなると、それなりの年になる。永遠のとつける辺り30以上なのは確実。アラフォーの可能性も?

「緒音さんがそうなら、アイツもかな? 良い年した大人とは思えない態度だけどな……」

 渉は紅葉の無駄に良い顔を想い浮かべ、ああいう大人にはなるまいと心に誓う。
 そしてアイザックと渉は無言で頷いて、この話題はここで終わりにすることにした。

「緒音さん、渉君。また乾杯しよう。美味しい料理に」
「美味しいご飯を作ってくれた緒音さんに感謝して」
「「「乾杯!」」」

 大いに食べ、飲み、賑やかに話し続ける。三人の宴が何時まで続いたのか、誰も知らない。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
●登場人物一覧
【月居 渉(la0081)/ 男性 / 18歳 / 未来を夢見る少年】

●ライター通信
いつもお世話になっております。雪芽泉琉です。
ノベルをご発注いただき誠にありがとうございました。

時期は今年の1月上旬くらいをイメージしてます。
雪芽のNPCの中で料理スキルが1番高いのは緒音です。何でも作れるけれど、食べ盛りの男2人と一緒ならこうなるかなと考えました。
緒音の性別は聞いても良いけど、年齢はブラックボックス。なお紅葉は緒音と同じ年です。
お気に召していただければ幸いです。

何かありましたら、お気軽にリテイクをどうぞ。
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雪芽泉琉 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年01月12日

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