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『永遠に続く宝物』
ヤロスラーヴァ・ベルスカヤla2922)&天野 一羽la3440


「おめでとう!」

 列席者からの祝福の声が、ヤロスラーヴァ・ベルスカヤ(la2922)と天野 一羽(la3440)を包みこむ。
 2人の顔には幸せそうな笑顔が浮かんでいた。
 パニエでふんわり広がったAラインのスカートが風に揺らめく。上品なアイボリーのドレスはヤロスラーヴァの美しさをさらに引き立てた。
 まるで薔薇の園・エオニアのランテルナに咲く、白バラの花嫁だ。
 薔薇達に祝福された2人は、幸せな未来へ向け歩き始める。


 そんなエオニアのランテルナでの挙式から10年の月日が経った。
 ヤロスラーヴァと一羽夫婦は、二人にとって慣れ親しんだ日本に2人の新居を構えた。
 平和な日本で、のんびりした2人らしく、ゆったり幸せに結婚生活を送っていた。
 以前は二人で共働きもしていたが、最近ヤロスラーヴァは仕事を休職し、一羽は一家の大黒柱として忙しく働いている。
 愛する妻を守るためなら、大変な仕事も頑張る一羽も、今年で30歳になる。
 結婚当初はまだ幼さの残る愛らしい顔立ちだったが、今はすっきり大人らしい精悍さもみえ、落ち着いた柔らかな物腰は、職場でも評判だ。
 一羽は長い出張を終え自宅へ急いだ。

「ふぅ、疲れた。まぁでも、記念日には帰ってこれたし、よかった」

 今日は10年目の結婚記念日だ。どうしても間に合わせたいと仕事に励み、何とか早く終わらせた。
 10年目の結婚記念日を錫婚式と呼ぶ。紙から始まって10年たつと、やっと金属になる。
 錫のように柔らかさと美しさを兼ね備えた夫婦になるように、という意味もあるらしい。
 そんな大切な日だからこそ、どうしても2人で過ごしたい。焦る気持ちで走って帰宅し、一羽はやっと自宅の玄関を開けた。
 出張疲れで走ったから、思わず息があがる。

「……た、ただいま」
「お帰りなさい。あなた。まあまあ、ずいぶん汗をかいて」

 出迎えたヤロスラーヴァは、優しく額の汗を拭った。
 36歳になったヤロスラーヴァは美しい大人のご婦人という風情で、おっとりした美貌は未だ衰えない。
 とてもアラフォーには見えない美魔女ぶりである。

「うん、早く帰ってきたくて。はい、これお土産のケーキ。崩れてないと良いんだけど」
「まあ、嬉しいですね。食後のデザートにしましょう」

 本当は結婚記念日のケーキで。おめでとうプレートも乗っているがサプライズだ。
 まだ呼吸が乱れた愛する夫を優しく抱きしめ、唇にお帰りなさいのキスをする。
 走ったせいで乱れた髪を整えるように、ヤロスラーヴァの手が優しく一羽の頭を撫でた。
 さらに微笑んで頬にキスを落とすと、慣れたように一羽も頬にキスを返す。
 昔はだいぶ照れくさかったが、この欧米式の愛し方に一羽も慣れた。

「食事にします? お風呂にします?」
「……うーん。ひとまず少し休んで、お風呂かな」
「どうぞ。鞄とジャケットは貰いますね」

 ヤロスラーヴァは荷物を受け取って、一羽のスーツのジャケットを脱がせる。
 やっと愛妻と二人きりの時間という頃に、電話がかかってきた。

「……ん? ボクに電話だ。ごめん、ヤローチカ」

 スマホの表示を見ると、ヤロスラーヴァと一羽にとって、長年の親友である女性からだ。

「お久しぶりです。お元気でしたか? ……」

 最近仕事が忙しく、会ってなかったが何の用だろう? そう思いつつ、一羽は朗らかに電話で相づちをうつ。
 その間に、こっそりヤロスラーヴァは自室に戻った。
 取り出した服をじっと見て、微かに不安な表情をする。

「……勢いで決心しちゃいましたけど、大丈夫でしょうか?」

 ちょっとだけひるんだものの、えい! と気合いを入れて着てみる。
 10年目の記念日だからこそ、用意したサプライズがあるのだ。
 そのために親友は電話で時間を稼いでくれている。というより、親友がこのサプライズをけしかけたのであるが。
 この10年の間、幸せ夫婦を見守り、祝福し続けた友人からの贈り物なのだろう。

「一羽くんが喜んでくれると良いのですが……」

 ヤロスラーヴァは少しだけ不安な顔を見せ、しかし最後には微笑んで、愛する夫の元へ向かった。



 出張疲れのまま、自宅についてほっと一安心し、さらに友人からの長電話を受けて、一羽はすっかり疲れてしまった。
 リビングのソファに座ると、睡魔が襲ってきて、うっかりうたた寝をしてしまう。
 30歳の男ともなるとだいぶ大人のはずだが、寝顔はまだあどけなさが残っていた。

「……あら。一羽くん、お疲れのようですね」

 ヤロスラーヴァは愛する夫の寝顔を見て、愛らしく微笑み、そっと頬にキスをした。

「ん……」
「……愛してますよ。あなた」

 頬に、額に、唇に。雨のようにたくさんの軽いキスを降り注がせる。
 愛しい、愛しい旦那様へ、愛を囁くように。

「ん……ヤローチカ……」

 一羽は柔らかな唇の感触に頬を緩ませ、微睡みからゆっくりと目を開ける。
 ぼやけた焦点が一気にくっきり鮮やかになり、驚きで目を丸くした。

「……。ん……。ヤローチカ? もう、寝てるからって……えっ? ええっ!?」

 目を開けるとそこには、ウェディングドレス姿のヤロスラーヴァがいた。
 デザインはシンプルに、パニエでふんわり広げたAラインや、生地の美しさで魅せるエレガントで大人っぽいドレスで、優しく柔らかなアイボリーがまたよく似合う。
 それは結婚式にヤロスラーヴァが着たドレスだった。
 まるで10年前の結婚式に戻ったみたいに、夢のような光景だ。
 驚いて目をぱちぱちさせる一羽を見て、ヤロスラーヴァは不安げに問いかける。

「ええと、一羽くん。……どう、でしょう?」
「それ……結婚式の時の……? その……とても綺麗だよ。ヤローチカ」
「はい。記念すべき10年目の結婚記念日なので、バウリニューアルにしようと思って。まだ着られて良かったです」

 バウリニューアルとは、結婚の節目の記念日に、改めてお互いへの愛を誓い合うセレモニーのことだ。
 ヤロスラーヴァは10年前に結婚式で着たものと、同じドレスを用意していた。あれから10年もたつというのに、同じサイズが着られるのは驚きだ。

「そっか……バウリニューアル。うん、とても良いね。ありがとう。僕も特別な日をお祝いしたかったよ」
「また10年後も幸せな記念日を迎えましょう。お約束、です。愛してる……。ん……」

 ヤロスラーヴァが一羽を包み込む様に抱きしめ口づけると、一羽もそれを受け止めて抱きしめ返す。
 それは10年前の薔薇の園と同じ。今度は二人きりの愛の誓い。
 二人が誓いの口づけをして離れると、抱きしめたまま、じっと見つめ合う。

「ボクのほうこそ、幸せだよ。ありがとう。……式の時の約束は守れたかな?」
「はい。世界一幸せな天野夫人になれました。あなた。結婚してくれて、幸せな日々をありがとうございます」
「とっても綺麗だよ、ヤローチカ。愛してる」
「一羽くんも、とってもかっこいいです。愛しています」

 ヤロスラーヴァは溢れるばかりの愛しさで、一羽の頬に、額に軽いキスを続ける。
 くすぐったい笑みを浮かべながら、一羽もまたキスを返した。
 この10年への感謝と、さらなる未来への誓いを込めて、何度も口づけをかわしあう。
 末永い愛を誓いなおした後、ヤロスラーヴァは悪戯っぽく微笑んだ。

「ふふふ。10年後は3人で迎えることになりますね」
「……え? 3人? それって、それって……!!」
「はい。3人で、です」

 その意味を理解して、ヤロスラーヴァのお腹をじっと見た後、思わず一羽はぎゅーっと抱きしめた。
 数日前に妊娠したことが判明したばかりで、サプライズの告白だ。
 新しい家族の誕生を聞き、一羽もとびきりの笑顔で喜んだ。

「また10年後の家族みんなでのバウリニューアルは、またこれを着たいですね」
「その時は僕もヤローチカに相応しい、スーツを着こなせるようにしないとね」

 中年太りになんてなってられない。
 ヤロスラーヴァがいつまでも美しい妻で居続けるなら、一羽もまたいつまでもかっこいい夫であり続けたい。

「あなたはいつまでも、私の世界一の旦那様です」
「ヤローチカも、僕の世界一の奥さんだよ」

 名残惜しげに離れて、一羽ははにかみながら微笑む。

「買ってきたケーキ食べようか」
「先にお風呂どうぞ。夕食の準備しておきますね」

 その後2人は10年目の記念日を祝い、いつまでも愛の言葉を囁きあった。



 数ヶ月後。艶やかな黒髪と黒い瞳の、パパ似の可愛らしい女の子が生まれた。
 初めての子育てに悪戦苦闘しつつ、しかしヤロスラーヴァも、一羽もたっぷり愛情を注いで娘を育てた。
 そして、さらにもう一人の子宝に恵まれる。2人めは金髪に青い瞳のママ似の綺麗な男の子だ。
 2人の子宝に恵まれ、一羽は仕事に励みながら家族サービスを忘れず、ヤロスラーヴァも家事と子育てをしつつ一羽を支え続ける。
 笑顔の絶えない、温かく優しい4人家族は仲睦まじい日々を過ごした。


 結婚から20年後、ヤロスラーヴァと一羽は、約束通り子供を交えてお祝いのバウリニューアルを行うことにした。
 20年たってもまだ、あのドレスが着られる美しい体型を維持したヤロスラーヴァも凄いが、一羽もまたいつまでも、初々しい愛らしさを残した美中年になっていた。
 おめかしして恥ずかしげにママの袖を掴む娘と、パパの手をぐいと引いてにこにこ微笑む息子。
 どうやら2人は容姿だけでなく、性格も2人に似たらしい。
 娘はこっそりヤロスラーヴァの耳に囁く。いつか自分もそのドレスを着てみたいと。
 ヤロスラーヴァは娘の細やかな願いに、優しく微笑んで頷いた。

「そうね。貴方が結婚するときに、着てくれたら、ママも嬉しいわ」

 幼い我が子の頬にキスを落として、ヤロスラーヴァは微笑む。
 上品なアイボリーのAラインドレスは、母、娘と二世代にわたって引き継がれる大切なウェディングドレスとなった。
 この宝物は天野家の幸せと共に、ずっと側にあり続けるのだろう。
 異国で出会って、赤い糸で結ばれた2人は、永遠に仲良く幸せな日々を過ごすのだった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
●登場人物一覧
【ヤロスラーヴァ・ベルスカヤ(la2922)/ 女性 / 26歳 / 末永くお幸せに】
【天野 一羽(la3440)/ 男性 / 20歳 / 末永くお幸せに】


●ライター通信
お世話になっております。雪芽泉琉です。
ノベルをご発注いただき誠にありがとうございました。

お二人の10年後がどうなっているか、想像しながら書いてみました。
お気に召して頂けるお幸せなエンディングになってると嬉しいです。

何かありましたら、お気軽にリテイクをどうぞ。
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2021年01月12日

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