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『つなぐ』
常陸 祭莉la0023)&アグラーヤla0287


 終末の炎。
 あの赤い地獄の中で、機械を介し繋いだ手。

「思い返せばさ」

 グロリアスベース内、アサルトコア用ドッグのブリッジにて。
 アグラーヤ(la0287)は修理されている愛機、XN-01『アニヒレイター』を見上げて呟く。

「よく生きてたよね、私達」
「……ほんとに。……アグが生きててよかった」
「うん、私も。マツリが生きててよかった」

 アグラーヤの隣には常陸 祭莉(la0023)がいる。そして二人が並ぶように、アニヒレイターの隣には祭莉の愛機であるXN-01『ニーズヘッグ』が佇んでいた。
 人と悪夢との尊厳を懸けた決戦が終わっても、人の忙しさは変わらない。むしろ決戦で数多のアサルトコアやキャリアーが大破したので、グロリアスベース中のドッグはてんやわんやのてんてこ舞状態だった。XN-01を始め、ノヴァ社の機体を取り扱うこのドッグも然り。ノヴァ社所属の技術者らがあくせく働いており、ドッグ内は騒がしいものだった。
 機体も酷いものだが、祭莉とアグラーヤの体も酷い怪我を負ったものだ。ようやっとベッドの住人から脱出したところだが、まだあちこちに包帯が巻かれている。激しい火傷に、グランドフィナーレによるコード「666」システムの身体的負荷。まだ本調子では動けなさそうだ。
 先程アグラーヤが言った「よく生きてたよね」、を祭莉は改めて噛み締める。彼女と二人、パイロットよりも酷い有様に損傷してしまった愛機達を見上げている。
 黒と、赤の機体。ボロボロの状態で、ニーズヘッグとアニヒレイターは――今も尚、手を繋いでいた。

「……手、繋いでくれたよね」

 我武者羅だった。無我夢中だった。しかし冷静になると、戦場のど真ん中で恥ずかしいことをしてしまった――思い返すとより気まずくて、祭莉は隣の彼女を盗み見た。祭莉は長躯の部類ではあるが、同じぐらい背の高いアグラーヤとはほとんど目線の位置は変わらない。

「うん。マツリが傍にいてくれて心強かったよ。痛かったし熱かったけど……怖くはなかった」

 横顔のまま、アグラーヤは微笑んだ――美しい造詣。銀色の長い睫毛と、ルビーのような深紅の瞳と、つんと通った鼻筋と、柔らかな唇の曲線から、顎にかけての整ったライン。その笑みは誇らしげだった。祭莉と二人で放ち、ゴグマを叩き伏せたあの一撃を思い出していたのだ。
 死に物狂いで、命懸けで、地獄を超えて迎えた、黎明のような勝利。その光景を、アグラーヤは一生忘れないだろう。

「……ちゃんと、アグから何も奪わせなかったよ」

 眩しい横顔から視線をそらして、祭莉は言う。

(でも、ゴグマは倒したから約束はこれで終わり)

 あの眩しさを閉じ込めるように、祭莉は束の間だけ目を閉じる。
 守る為に近くにいる必要は、もうない。一緒には、いられない。本当は――彼女の一番近くにいたいけれど、一緒にいればいるほど、祭莉の脳は痛むのだ。それはまるで、こんな人間が幸せになってはいけないと、自罰するかのようだった。
 なのに。

「そうだね。ありがとう――私もマツリも生きてる。これからも一緒だ」

 アグラーヤは簡単にそう言ってのけるのだ。「一緒だ」と。
 もちろん、シビアな世界を生き抜いてきたアグラーヤは「永遠」なんて言葉を信じてはいない。何事もいつか終わる、誰だって死ぬ、そして死は唐突にやってくる。避けられもしない、不変の絶対真理。
 それでも――友達が生きている世界の方が良い。共に在る温かさと幸せは、孤独からは生まれない。そして寄り添うぬくもりは、寄り添い合う者が多い方が温かいのだ。

 大きな作業音で一度、会話は途切れる。
 二人の視線は繋がれた機体の手へ。あの掌には、無限のような刹那が詰まっている。
 ふと、祭莉は作業中の技術者へ声をかけた。

「あの……あれって、廃棄に?」

 指さすのは、繋がれている二機の手だ。ちょうど、手を繋いだまま溶けて固まってしまった機体の腕を切り離すべくと作業が進んでいたから。
 あのまま使うのは無理ですからね、と技術者は頷く。スクラップにして金属などは再利用するそうだが。

「だったら」

 アグラーヤと祭莉の声が重なった。はた、と二人は目を合わせる。

「……アグから先に言ってよ」
「いいの? じゃあ――」

 あの繋がれた手が欲しい。アグラーヤはそう言った。
 祭莉は目を丸くする。自分も同じことを言おうとしていたから。
 まあ構いませんがと技術者は片眉を上げた。それより、かなり大きいし重いですが大丈夫ですか、と。

「あっ……それもそうか。でも大丈夫、私たぶん持てるよ」
「アグ、持って帰れるかどうかじゃなくて、置く場所的な意味……」
「あ〜……ちょっとドアを通らないか。車庫……も入るかなぁ」
「わざわざ倉庫を借りてしまいこむのも……なんだか……」

 そうだ、と祭莉は閃いた。

「……身につけるものにしたら、どう……かな」
「身につけるものって?」
「アクセサリーとか……そうだな、たとえば……ドッグタグなんて」
「いいね、賛成」

 そういうことで、と技術者に頼んでみる。
 二人はゴグマ戦での英雄だ。お任せ下さい、と彼らは快く承諾してくれた。


 ●


 それが完成したのと、機体の修理が終わったのは同日だった。
 祭莉とアグラーヤは件のドッグへと足を運ぶ。彼らの傷もすっかり癒えていた。案内された先には見事なほど綺麗になった機体が二つ、静かに隣り合って並んでいた。修理に関する業務的な説明も一段落すれば、「ご注文のものです」と技術者は一見してリングケースのような箱を二つ持ってきて、二人に手渡した。
 ありがとうございます。お礼を言ってから、祭莉とアグラーヤはケースを開いた――中には注文通り、それぞれの名前が刻まれた、同じデザインのドッグタグが収められている。ニーズヘッグの黒、アニヒレイターの赤が混じった、黒の中に深紅の光沢を持ったタグだった。日に透かすときらきら、赤と黒の瞬きが瞳を吸い込むかのようだ。

「……」

 今更ながら――まるでカップルがペアでアクセサリーをつけるみたいだ、と祭莉は唇を控えめに引き結んだ。そういう変な下心はなかったのだけれども。

「あ、そうだ。ねえマツリ」

 アグラーヤがドッグタグをしげしげと眺めながら言う。

「何か文字を刻まない? 記念にさ」
「文字……いいね」

 だったら、とアグラーヤはEXISでもある細身のナイフを取り出した。いかなる時も不測の事態に備えてEXISを携帯しておくのはライセンサーの基本だ。「お先にどうぞ」とナイフを祭莉に手渡した。彼はそれを受け取ると、ふと考えてから。

「……あのさ。アグのドッグタグに、文字刻んでも……いい?」
「ほんと? いいよいいよ。お願い」
「じゃあ……」

 渡される、アグラーヤの名前とライセンサー登録IDが刻まれたドッグタグ。祭莉がその裏側にナイフで刻んだのは……一文字だけだった。それは縦の一本線だった。

「数字の1……見分け、つける用」

 嘘を吐いた。本当は、「I」だ。
「常陸祭莉/ボク」というアイ。恋心というアイ。それを、相手が肌身離さず着けるものに刻むという意味。
 正直になれないからそうしたけれど――逆にこっちの方が恥ずかしいか。意図が相手にバレないことを、切に願う。

「じゃあ私もマツリのに刻もう。何がいいかな……」

 アグラーヤは刻まれた一本線の真実は知らないまま――祭莉からナイフと彼のドッグタグを受け取り、しばらく考える。熟考の後、彼女もまたナイフで文字を刻んだ。

 ――「Ты нужна мне.」

「ロシア語」
「うん」

 刻み終えた文字を見た祭莉が首を傾げる。彼は彼女の故郷の言葉を知らない。

「トゥイ ヌシュナ ムニェ――」

 アグラーヤは刻まれた文字を指でなぞる。

「とぅい……アグ、どういう意味?」
「……後で調べてみてね」

 くす、とアグラーヤはイタズラをする少女のように含み笑った。
 もしも祭莉が調べたのなら、彼はその言葉の意味を知るだろう。「私にはあなたが必要です」、という心からのメッセージを。

「ほら、マツリ。じっとしてて」

 ナイフをしまい、文字を刻んだばかりのドッグタグを掲げた。意図を察した祭莉は頭を差し出す。アグラーヤの手で、彼の首にドッグタグがかけられた。
 じゃあボクも、と祭莉も同じように。アグラーヤの首に、想いを刻んだ黒赤の認識票をさげてあげた。チェーンに押さえられた長い銀髪をふわりと指の背で持ち上げる。さらさらでつややかで、シャンプーのいいにおいがする。おしゃれに頓着しないひとだから、おそらく彼女の妹がいつも髪の手入れをしているのだろう――そう思ったところで指先が一瞬だけアグラーヤの白い首先に触れ、思わず祭莉は手を引っ込めてしまった。

「あ……ごめん」
「なにが?」

 祭莉が手を引っ込めた理由をアグラーヤは知らない。長い銀髪の毛先が揺れている。「なんでもない」と祭莉はお茶を濁した。アグラーヤは不思議そうにしたが、それ以上の追求はしなかった。それよりも、自分の首に下げられたドッグタグの方に彼女の意識は向いていた。

「もしも……」

 嬉しそうに、長い指先で自分のドッグタグをつついて揺らしながら。

「私の体がバラバラになっても、これでマツリに見つけてもらえるね」
「縁起でもないこと言わないで……アグをバラバラになんて、させないし」

 そう返しはするけれど、祭莉も同じ気持ちだった。もしも自分の体がバラバラに砕けても、このドッグタグでアグラーヤに見つけてもらえる。それは――自分で「縁起でもない」言っておいて、の話ではあるけれど――まるで独占欲のような嬉しい気持ちが確かにあった。死んだ自分を一番最初に見つけ、抱き上げてくれるのは、彼女なのだ。ピエタ像がふと脳裏を過ぎった。

(……アグは泣いてくれるのかな)

 泣いてくれたら嬉しいな、と思う自分は人として外道なのだろう、内心で自嘲する。……そして、心に抱いた感情を祭莉が口にすることは、決してない。
 一方で、祭莉にたしなめられたアグラーヤは苦笑を小さく浮かべていた。

(私がバラバラになっても、真っ黒に焼き潰されても、どんなに酷い姿になっても、きっと見つけてね)

 アグラーヤは、ふとどこかで聞いた童話を思い出す。シンデレラ、だったか。王子様が、ガラスの靴を頼りに、お姫様を見つけてくれる物語。

(……私はお姫様なんかじゃないけど)

 そしてもちろん、バラバラになるつもりも毛頭ないけれど。思ったり願ったりするのは、心の勝手だった。
 なんとはなしにお互い、お互いのドッグタグを見つめていた。
 そうしていると、不意にアグラーヤは祭莉と手を繋ぎたい気持ちになった。あの時は祭莉から手を差し伸べてくれたから、今度はアグラーヤから手を差し出した。

「マツリ、」
「うん、アグ」

 気持ちは祭莉も同じだったらしい。あの時とは違って生身の手で、握り合った。温かくて、安心する――同時に祭莉は頭痛を覚えたけれど、表情に出すことはなかった。

「これからもずっと、一緒に居たい。マツリは頼りになるし、一緒にいると楽しいし……落ち着くっていうか」

 アグラーヤは思ったことをそのまま口にする。恋も愛も知らないまま育った、ある種の無垢さのまま大きくなってしまった彼女に、繊細な心の機微や情動の移ろいは分からない。でも、祭莉が自分に好ましい感情を向けていることは分かっていた。その「好き」を分析することはできないけれど、嬉しかった。だからこそいっそう大事に想うのだ。

「うん」

 繋いだ手と手に視線を落とし、伏目になった祭莉は小さく微笑んだ。

「……一緒に、居れたらいいね」

 目の奥が痛い。今顔を上げてアグラーヤの透き通った赤い瞳を見つめたら、この痛みが溢れ出してしまいそうだから、ずっと目を伏せたままでいた。アグラーヤはいつだって相対する相手の目を、まるで心の奥まで射貫くようにじっと見るから。

「日本ではこういう時、小指を絡めるんでしょ」

 おもむろにアグラーヤは繋いだ手をずらして、自分の小指を祭莉の小指に絡めた。

「何か歌を歌うんだっけ。針を千本飲ませるってことだけは知ってるんだ」
「……ゆびきりげんまんね。じゃあ、ボクが歌おうか」

 ゆびきり、げんまん、うそついたら。
 無垢な願いを乗せた。「一緒に」、と。



『了』

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました!
【DD】の決戦も、本当にお疲れさまでした。
これはガンマのメチャクチャ妄想なんですけど、アグラーヤさんの方が祭莉さんよりちょっと手が大きいと萌えるなぁと思いました。小さい頃から武器を握ってきたのでガッシリしていて、手の造詣が男前かも……。
でもそんな二人も、同じ型番の機体で手を繋げば、同じ大きさの手なんですよね。いいですね……。
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グロリアスドライヴ
2021年01月14日

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