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『ドラマ「コールドロータス」劇場版 「氷の星を落とせ」』
柞原 典la3876)&cloverla0874)& 桃簾la0911


 大西洋インソムニア「フェアリースター」。七芒星を描く要塞で、これまでに柞原 典(la3876)やヴァージル(lz0103)が相手取っていたグスターヴァス(lz0124)や地蔵坂 千紘(lz0095)の本拠地だ。しかし、彼らは主ではない。
 そこの主は桃簾(la0911)というエルゴマンサーということである。「クイーン」と呼ばれている。鴇色の長い髪、黄金の瞳、額の赤い紋様……放浪者の女性を捕食して擬態している。ヴァージルが前職に就いている時の話だ。
「あの嬢さんが出て来たかぁ」
 典は苦笑しながら、作戦会議に同席していたclover(la0874)とクラーティオ(lz0140)の様子を窺った。二人は桃簾の写真を見て釈然としない顔をしている。
「桃姐、こんなことになっちゃって……」
 cloverが呟いた。こんな年若い少年少女を悲しませるなんて、やっぱりろくでもねぇ……とヴァージルが思ったその時、
「おっぱいが悪用されているっ……!」
 五度見した。美少女の口から飛び出す「おっぱいの悪用」というワードのインパクトたるや。
「ああ、桃簾嬢さんはcloverさんが新人の時によう面倒見てはったお人で……」
 典がかくかくしかじかと説明を始めた。その後、放浪者のクラーティオが入り、cloverは彼とバディを組む事になる。その後も、桃簾とはクラーティオ含めて交流があり、三人は姉弟の様に仲が良かったのだそうだ。
「そうだったのか……」
 痛ましい表情の少年少女を見やりつつ、典にこっそりと、
「で、なんであっちのお嬢ちゃんは、おっぱいとか昼間から大声で言ってんだ?」
「cloverさんな、ヴァルキュリアで、元々は男の子として振る舞っててん」
「あー……そうだったのか」
 見た目の性別で判断してはいけない。……cloverがおっぱいを公言することについては、今回は言及しないとして。確かに、桃簾はモデル体型と呼んで差し支えのないプロポーションだ。今もそっくりに擬態しているが……やはり表情が微妙に違う。どちらも威厳のようなものは感じさせるが、エルゴマンサーの方はやや見下すような印象がある。
「コアのエネルギー源はアメリカ全土で攫われた人間の生体エネルギーか……えぐいことしやがるな」
 そして、悪いことに、このコアと繋がっている砲台は、フルチャージで都市の一つくらいなら軽く壊滅させられると言う。時間がない。一刻も早く、インソムニアの破壊、一般人の救出をしなくてはならない。


 七芒星の頂点。それらを同時に破壊することで、二十秒程度コアの機能を停止させることができる。アサルトコア部隊が破壊し、生身が突入する、という段取りだ。
 clover、クラーティオペアは桃簾の撃破とコアの破壊を目指し、典とヴァージルは、グスターヴァスと千紘の撃破を目的とする。
「俺と兄さんおったら、ぐっさんとモブは釣れるやろ」
 キャリアーの中で典が呟くと、ヴァージルはやや複雑そうな顔で、
「そうだな……良いんだか悪いんだかわからないけど」
 グスターヴァスは典が好きでヴァージルが嫌い、千紘は典が嫌いでヴァージルが好き……面倒な相関図だ。
 典はインカムで少年少女に語りかけた。
「クロさんクラさん、コアは任せたで」
『りょーかいでっす! 任せてねっ!』
『頑張ります』
 持ち場について待機していると、アサルトコア実行部隊から連絡が入った。これより侵入箇所の破壊を行なう、と。
「了解、やってくれ」
 ヴァージルが応じた。少しすると、アサルトコアからの一斉攻撃が始まった。十メートルを越す人型が、巨大な剣やバズーカを振り回す姿は圧巻である。やがて、七箇所全てに穴が空いた。生身部隊突入せよ、との連絡を受けて、典たちは走った。


 コアの光が消えた。桃簾はそれを見て、敵襲を悟る。配下に呼びかけた。
「グスターヴァス、千紘。お前達の獲物が来たようです、出迎えてあげなさい」
「思ったより早かったな」
 千紘は溜息を吐いた。先日のテレビ局での戦闘で受けた傷が、まだ完全に癒えていない。不調と言って良い状態である。グスターヴァスも、倒壊した廃屋に埋まった時のダメージが残っている。しかし、数十秒もすればコアが復旧し、継続回復が付与されるので、粘れば勝てるだろう。地の利はこちらにあるのだ。
「では、言って参ります」
 グスターヴァスが恭しく桃簾に一礼した。千紘もその隣に並び、
「桃簾も気を付けなよ。ああ言うの、昔の思い出を未練がましく並べ立てて来るんだから」
 千紘は子供を殺さない、とヴァージルに言われたのが相当癪に障ったらしい。桃簾はにこりと微笑み、
「コアの糧が何を言おうと、わたくしの信念に揺らぎはありません」
「そりゃ頼もしいや」
 二人は武器を持って出て行った。


 インソムニア内部には冷気が充満している。壁が氷なのだ。
「寒っ! 何やここ……」
 典はヴァージルにひっついた。
「氷の要塞か。話には聞いてたが」
 ヴァージルも顔をしかめる。念のため、履き物にはスパイクを装着してある。彼が一歩踏み出したその時、床の一箇所がへこんだ。ガコッ、と何かが作動する音がする。
「ん?」
「兄さん危ない」
 典がヴァージルの腕を思いっきり引っ張った。さっきまでヴァージルがいた所を、振り子の様なハンマーが襲う。
「なっ……!?」
「あんまりすたすた歩いても、あかんみたいやねぇ」
 典が呟いた。

 他にも、古典的なトラップがいくつも仕掛けられていた。吊り天井、迫る壁、踏んだ瞬間逆さ吊り……シンプルではあるが、道中で出現する雑魚の相手をしながらトラップを回避するのはなかなか骨が折れる。
「ほれ、こっちやで」
 典が敵を誘導してトラップを踏ませた。発動して、宙吊りにされた敵はヴァージルが射撃で始末する。ヴァージルが同じトラップに引っ掛かったが、そのまま射撃を続けたり、迫る壁には、倒した敵を挟んで隙間を作るなどして切り抜けていく。
「はあ、cloverさんら、無事やろか」
 能力を疑っているわけではないが、単純に心配である。
「信じるしかねぇな」
 ヴァージルは首を横に振った。


 cloverたちが入り込んだ箇所からは迷路が続いていた。
「壁に触りながら歩くと迷わないんでしたっけ?」
 クラーティオが片手で斧を担ぎながら、もう片方の手を壁に付ける。シールド・オブ・メガロスを持ったヴァルキュリアは、思案して、
「“壁は壊すもの”って桃姐が言ってた」
 生前の桃簾が言っていたことを思い出す。それは別に「迷路は壁をぶっ壊して攻略なさい」という意味ではないとは思うが、今、この場に限って言えばそう言う意味になるのではないか。
「せーの!」
 cloverは盾を振るって壁をぶっ叩いた。氷でできた壁にひびが入る。クラーティオも加勢した。斧を振り下ろし、cloverが入れたひびから崩して行く。ガラガラと音を立てて、氷の塊が崩れ落ちた。
「ネジでもあれば抜いちゃうんですけど」
「それは俺たちも危なくなるから駄目だと思う」
 まだまだ子供のクラーティオを諭すのも、cloverの仕事の一つだった。

 しばらくすると、マンティスの群が現れた。どうやら、迷路で迷わせた所をナイトメアで襲撃、各個撃破を狙ったようだが、マンティスたちも、迷路が壊れていることに戸惑った模様である。ここ、こんなに広かったっけ? cloverは叫んだ。
「壁がないから困ってるんだっ!」
「よーし! 喰らえー!」
 クラーティオが斧を持って駆け出した。cloverは猟犬を彼の護衛に付けた。エクステンデッドで暴走を付与してから、続く限り大暴れする、というのがクラーティオの戦い方である。大暴れ。これはクラーティオの言である。年齢の割に大人びている印象のある彼だが、こういう所は子供らしくて可愛い、と思うcloverであった。そして、暴走はシールドがガンガン削れていくので、せめて他のダメージは肩代わりしてあげたい、と思っている。
 衝撃波でマンティスたちが蹴散らされた。


「あれ?」
 ヴァージルは振り返った。典がいない。離れてしまったようだ。
 霧の様な、ひんやりとした空気。少し曇っていて、視界が悪い。
「──兄さん」
 典の声がした。振り返ると、安心したような表情の典が立っている。彼はにこにこしながら、小走りにこちらへ駆けてきた。
「ああ、良かった。こないなところで一人にされたら、怖くてしゃーないわ」
「止まれ」
「え?」
 ヴァージルは「それ」に拳銃を向けた。相手は憐れみを誘うような表情を浮かべる。
「兄さん、どうして?」
「典は現場でそんな甘いことは言わない。それに」
 微笑む。
「本物の方が美人だよ」

「ん?」
 ヴァージルとはぐれたことに気付いた典は、息を吐いた。恐らく、何か仕掛けて来る。
「典か?」
 不意に声が掛かった。ヴァージルの声に聞こえる。
「意外と近くにおったねぇ」
 典が返すと、
「ああ、良かったよ。怪我はないか?」
 前髪を撫でられる。さらに抱きしめようとして、相手は戸惑った。セレブロの銃口が顎に付いている。
「典?」
「あのな、兄さん、そんな気色悪い触り方せぇへんから」
 艶然と笑う。
「それにな、本物の方がもっと美人やで」
 銃声が轟いた。

「おー、おったおった」
「あ、良かった。突然いなくなるからびっくりしたじゃねぇか。どこ行ってたんだよ」
「それ、こっちの台詞や」
「よく言うぜ」
 確かめるまでもなく、互いが本物であると悟る、二人は肩を寄せ合って先へ進んだ。

 千紘とグスターヴァスには、ほどなくして行き会った。トラップを乗り越えた二人よりも、ここで休んでいた筈のエルゴマンサーたちの方が消耗しているように見える。
「モブ、無理せんと休んどったら?」
 典が微笑んで千紘を挑発すると、彼はライフルを取り出して頷いた。
「そうさせて貰おう」
 すると……その後ろから大きな足音がした。姿を現したのはロックだ。本来は屋外で使役するタイプなのだろう。かなり大きい。千紘はロックの後ろに回った。遮蔽物にするつもりか。
「モブ、せこいなぁ」
「勝てば官軍だよ」
 千紘は笑うと、こちらに向けて発砲した。


「ようこそ。歓迎しますよ……コアの糧として」
 コアの間で、桃簾は余裕の微笑みで二人を迎えた。少年少女はそれぞれ盾と斧を構える。
「桃姐のおっぱいを悪用するなーっ!」
 cloverが啖呵を切った。この、面倒見の良いヴァルキュリアが時折見せる、女性の胸への執着に、時たまついて行けなくなるクラーティオ、一拍遅れて、
「今日こそ決着ですよ! 桃簾おねーさんのおっ……名誉にこれ以上傷は付けさせませんっ!」
 先輩に倣おうとしたが、途中で恥ずかしくなったようで言い直した。
「可愛らしいこと。そんなあなたたちを糧にするのも心が苦しいのですが、致し方ありませんね」
 口でそう言いながら、本心ではこれっぽっちも心苦しいとは思っていなさそうな表情だ。彼女は長い杖を持っている。桃簾が愛用していたアイス教典杖だ。cloverが気付き、
「その杖……」
「ああ、これですか。美しいので、わたくしが頂きました」
「返してください」
 クラーティオが有無を言わさぬ口調で迫る。
「では……奪い返してご覧なさい」
 桃簾は優雅に移動した。移動しながら、杖を振るう。生前の桃簾はグラップラー×スピリットウォーリアだが、この攻撃力を鑑みるに、どうやらスピリットウォーリアの性能が強く出ているようだ。大嵐屠に似た攻撃。
「うわっ!」
 cloverは咄嗟に幻想之壁を発動してクラーティオも守った。
「俺が仕事で失敗した時はアイスをくれて励ましてくれた!」
 何なら、おっぱいを彷彿とさせるようなアイスの存在も教えてくれた。そんな桃簾が、cloverたちと敵対するなんて……。
「知りませんね」
 桃簾は微笑む。cloverが防御し、クラーティオがその間に攻撃した。しかし、彼女は豪快に杖を振るい、二人をまとめて吹き飛ばす。床から氷の棘が突き出てシールドを刺した。クラーティオが体勢を立て直して、同じく大嵐屠で反撃する。
 そんな、互いに譲らぬ激しい戦いが続いた。教典杖がりんりんと鳴っている。何度目かの鈴の音を聞いたその時だった。
「──!」
 三人でアイスを分け合う光景が、桃簾の脳裏に浮かんだ。
(桃簾おねーさん、食べ過ぎですよー)
(桃姐、俺、あのグレープ味が気になるかもっ……)
(ふふふ、良いですよ。クラーティオ、あなたもどうですか? 三人で分ければ、食べ過ぎという事もないでしょう)
「この記憶は……アイス……?」
「そう、桃姐はアイスが大好きだったんだ」
 cloverが言い募る。桃簾は顔を上げた。クラーティオが斧を持ち上げている。ヴァルキュリアは言葉を続けた。
「捕食された今だってきっとアイスを食べたいって思ってるかもしれない」
 クラーティオが斧を振り下ろす。
「こんなアイスのない所に居させられてるなんて可愛そうだよ」
 cloverのその言葉と、クラーティオのソウルインパクトが届いたのは同時だった。勝敗はそれで決した。勝利の女神が……否、今はもういない、アイスの女神が二人に微笑みを見せた様な……そんな気がした。
「……なんと、人の想いの強いことか……」
 桃簾は膝を突く。その指先がより白く……雪となって崩れ始めた。インソムニアの方々に空いた穴。そこから吹き込む風に乗って、雪片は流れていく。
「桃姐……」
 cloverとクラーティオは、その雪片の最後のひとひらが出て行ってしまうまで、それを見送っていた。しかし、いつまでもぼーっとしているわけにはいかない。
「そうだっ! コア壊しちゃわないとっ!」
 球形のコアだった。逆さ円錐の台に乗せられている。周辺に霜が降りていて、なんだかアイスみたい。
「桃姐、最後のアイス、俺たちが食べちゃうね」
 cloverは少し泣きそうな顔をしながら、鎌を振り下ろした。


 典たちは、手こずりながらもロックを撃破して、エルゴマンサーたちを相手取っている。元より回復能力のある相手は相当粘ったが、少し経つと異変が現れた。継続回復がなくなったのだ。
「クロさん達ようやった」
「お友達が多くて結構なことだよ」
 千紘は舌打ちする。桃簾とコアがやられた、ということだ。呑気にしている場合ではない。彼はライフルから弓に持ち替えた。得意の武器にしたと言うことは、彼も本気を出すと言うことだろう。
 元よりスペックの落ちた彼は、遮蔽物を失った時点で相当な不利に立たされた。ヴァージルは迷わない。精密射撃でその場に留まり、攻勢に転じる。相手からの反撃は、槍を持った典が射線の妨害でカバーした。
「邪魔臭いな」
 千紘は満身創痍だったが、同じように集中して弓を引いた。弦がキリキリと引き絞られる。その矢に力が集まっていく。
 その、大きく開いた胸に、ヴァージルはとどめの一発を打ち込んだ。千紘は致命傷を受けながらも、最後の悪あがきと言わんばかりに一射を放つ。それは……典の脇をすり抜けて、ヴァージルの胸に突き刺さった。
「──!!」
 衝撃にうずくまる。しかし、血も出なければ、身の内側を抉るような傷みもない。
「……? あ……」
 不審に思って、恐る恐る、それが当たった辺りを見れば……蓋のひしゃげた懐中時計が転がり出た。文字盤のガラスまでもが衝撃で割れ、秒針は止まっていた。
「最悪だ……」
「また買うてやるから」
 典がその頭を撫でる。ヴァージルは壊れた時計を内ポケットにしまい込んだ。典は立ち上がり、グスターヴァスへ歩み寄った。百旗槍キリエを構え、
「俺が審判下すのは人類やのうて、あんたらも合わせた『俺の敵』へや」
 冷たく、凄絶な笑み。グスターヴァスは、身の破滅を悟ってもなお、その姿に見とれたような顔のまま。
「美しいですね、わたしの……冷たい蓮」
「あんたのちゃうわ」
 紅蓮が散った。


 エルゴマンサー撃破とコア破壊の報を受けて、救出部隊も突入した。囚われた人々を助け出し、キャリアーが離陸すると、大西洋インソムニアは振動しながら沈み始めた。
「終わったねぇ……」
 典がそれを眺めながら呟く。ヴァージルは彼の肩を叩いた。
「あっ! 柞原おにーさんたちっ! 無事で良かったーっ!」
 そこで、教典杖を持ったcloverとクラーティオが駆けて来た。典も微笑み、
「二人ともようやったわ。せや、アイス奢ったろうな」
「えっ、本当に? 良いのっ?」
「ええよ。何食べたいか、考えといてな」
「ありがとーっ!」
「珍しいな」
 ヴァージルが典をまじまじと見て言う。
「お前が奢ってくれるなんて」
「え? 俺の分は兄さんが奢ってくれるんとちゃうの」
「ややこしいな」

 大西洋の騒ぎは、そのアイスクリームショップに影響を与えなかった。テレビを見ながら、すごいねぇ、と感心している店主に、通りすがりのライセンサーの振りをして声を掛け、アイスを購入する。子どもたちの分は典が、大人の分はヴァージルが支払った。
「桃姐に乾杯しよっ」
 cloverが三段重ねにしたアイスのカップを持ち上げた。アイス教典杖を鳴らす。涼やかな鈴の音が風に乗って吹き抜けた。

 死してなお、友を思った彼女に、人を救った彼女に、この音を捧げよう。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
劇場版! という事で、決戦の緊張感が出ていればと思います。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年01月18日

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