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『ドラマ「コールド・ロータス」 特別編「青いトパーズ」』
柞原 典la3876


 初めて組んでから、四年になった。
 オリジナル・インソムニアも攻略され、SALFの仕事内容も変化している。ナイトメアの残党狩りは続いているが、その頻度も減った。
 柞原 典(la3876)は、相方のヴァージル(lz0103)の部屋に週の半分は宅飲みして泊まる、と言うのが習慣になりつつあった。ヴァージルの部屋には衣類の収納ケースが増えた。ついでにストックの酒も。兄さんとやったら安心して飲める、と典は笑った。
「悪酔いしても、面倒見てもらえるやん?」
「そこまで飲むなよ」

 という事で、この日も典はヴァージルの部屋から一緒に出勤した。今日の仕事は、ナイトメアの残党狩りだ。ここまで逃げおおせているので、そこそこ力を付けた個体が揃っている。
「兄さん!」
 典の合図でヴァージルが妨害。その隙に攻撃する。敵が攻勢に出ればヴァージルが庇い、シールドの削れた彼を典が癒す……という流れ。ワンパターンと言えばそうかもしれないが、タイミングなどは戦闘ごとに違うので、そこの調整は阿吽の呼吸と言ったところか。
 典が鉢特摩を放った。敵は真っ赤な花びらと一緒に吹き飛ぶ。それを皮切りに、他のライセンサーたちが総攻撃。ヴァージルもライフルから射撃攻撃を行なおうとして……別の個体がじりじりと遠ざかろうとしたのを見た。逃走か。
「逃がすな!」
 それを、ヴァージルが射撃で牽制した。先の個体を仕留めたライセンサーがそれを聞いて攻撃に転じる。典が天罰を降らし、足止めをした。


 特に大きなトラブルもなく仕事は終わった。一緒に帰宅して、鞄やコートを置くなり、手洗いするなりして居間に座ると、ヴァージルは少々改まったような顔をしていた。何だろう、と首を傾げる。後ろ手に何か隠している。
「手出せ」
「ん?」
 典は左手を差し出した。穿った観点から物を言う人間は、「期待していたのではないか」と言うかもしれないが……これは彼の利き腕である。
 その中指に、ヴァージルが青い宝石の付いた指輪を付け……付け……。
「あれ?」
 中指ではサイズが小さくて入らなかった。
「あれ……? ちゃんと測ったのに」
「え? 測ったん? いつ?」
「酔っ払って寝てる時」
「それ、兄さんも酔ってる時やん」
 どうやら、測り間違えたらしい。典は中指に第二関節で引っかかっている指輪を抜き取ると、その左側の指にはめた。
「こっちなら入るからええやん。おおきに」
 微笑む。それから、しわしわになったヴァージルの顔を見て、
「あ、右手の方が良い?」
「利き手と反対の方が邪魔にならないんじゃねぇのか」
「考えとくわ。利き手やないと細かったりして逆に合わんこともあるからなぁ……ああ、装備品の話な」
 他人から送られたアクセサリーを付けることなどないに等しい人生だった。典はそれを電灯にかざしてしげしげと眺める。ヴァージルは少したどたどしい口調で、
「アメリカでは……」
 そこで言葉に詰まった。典はわかっていないような微笑みで首を傾げ、
「アメリカでは、何?」
「結婚四周年にブルートパーズを送る風習がある」
 少し早口で言い切った。結婚という言葉に照れがあったのだろう。素面だから。酔っ払ってたら口説き文句みたいなこと言う癖に。
「ふーん。日本の銀婚式とか金婚式みたいなもんやろか」
「ああ、やっぱり長い結婚生活祝う風習って、どこでもあんだな。まあ、なんだ。組んで四年ってことで」
 典はしばらく指輪と、照れ臭そうにしている相方の顔を眺めていたが、やがて自分の荷物を探り、
「俺も兄さんに渡す物あるんや」
 そう言って、小さな直方体の箱を取り出す。指輪ではなさそうだ。リボンを解いて開けると、中には青い石のついたネクタイピンが。
「……これ」
「そ、ブルートパーズ」
 典は歯を見せて笑う。
「同じ事考えてたっちゅうことやね」
 それを聞くと、ヴァージルの頬が少し赤く染まった。渋面を作り、
「お前も知ってたんじゃねぇか、説明させやがって」
「だって兄さんおもろかったんやもん」
 まだネクタイは解いていない。ヴァージルはそっと取り出して、付けてみた。電灯に、繊細な青色が輝いている。
「どうだ?」
 はにかんだように笑って尋ねると、典も頷いて、
「似合う」
「ありがとう」
 贈り主が似合うと思ったならそれで充分だ。ヴァージルは少し前から考えていたことを思い出す。もうこの際だから言ってしまおう。
「あと、もううちに住めよ。その方がお前の面倒見てやれるし」
 典は生活力がない。いや、全くないわけではない。この歳まで自活していたのだから。ただ、目の届くところにいてくれた方が、安心できるというかなんと言うか……要するに、前より気に掛ける度合いが上がっていると言うことだ。
「せやけど俺がおったら、兄さん恋人出来ても連れこめんやん」
 典としても嫌ではない。嫌ではないのだが、ヴァージルの幸せを願っている身としては、そう言うところに少し気を遣ってしまう。気を遣う。この自分が、と少々おかしくもあった。
「連れ込む……」
 想像したのか、少し上を見上げたが、すぐに苦笑いして首を振り、
「その時はその時だろ。ルームシェアしてるって、最初に言っとけばあとは自分たちで考えれば良いだろ」
「ほう、連れ込むっちゅうか、恋人作る気はまだあるんやねぇ」
 典は面白そうにヴァージルを見上げた。
「言うて、兄さんすぐ俺の話するから彼女できひんのよね……」
「何で知ってんの?」
「付き合うてるのかって、よう言われるんやわ」
「何て答えてんの?」
「想像に任せるって」
 それじゃまるで付き合ってるみたいじゃないか。夫婦の真似事は幾度かしたけれど、それが現実になるところは少し想像が難しくて。けれど、誤解した奴はそのままでも良いか、という気もしてしまう。
「ほんだら不束者やけど、宜しゅうお願いします」
 三つ指を突く。ぽかんとしている彼へ、
「昔の日本式や」
 トパーズはアメリカの風習だから、と言うことだろうか。
「よっしゃ、渡すもん渡したし、決めることも決めたし、飲も飲も。兄さん、つまみ」
「へいへい」
 ヴァージルは買い置きのつまみを出した。典はグラスと酒を。
「乾杯しよ」
「じゃ、四周年に」
 乾杯。

 これからの未来にも。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
ちょっとした思いつきから始めたドラマパロでしたが、ここまで続くとは思わず。お付き合い頂いてありがとうございました。私も楽しかったです。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年01月18日

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