イラストコンバート第二弾 ハイブリッドヘブン スタート!

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『絶筆』
小宮 弦方la4299

 小宮 弦方(la4299)は病室に置かれたパイプ椅子に座り、弓長十斗(lz0084)の手元を見つめていた。
 端末の画面を叩く指先は震えている。
 だが、すべてを吐き出さなければ。
 その衝動のままに、十斗は自分の目にした全てを言葉にしようとしていた。
(理解できないか……)
 今わの際に、コウル(lz0125)は十斗を笑った。
 お前は人間らしい。
 彼はかつて十斗の兄だったものの顔で、そう口にしたのだ。
(だが、どうだね……? 私や「プリンセス」の在りようは、君達人間というカテゴリーにはないものと……完全に言い切られるかね?)

 コウルはなぜ、そう口にしたのか。
 弦方はコウルというエルゴマンサーがこの世からいなくなって暫く、ぼんやりとした懊悩の中にいた。
 彼はナイトメアとしての自分が生まれる前の前身、映画監督の連石斐斗の作った作品の「続編」を作るのだと嘯いていた。
 だが創作者を自称する彼が、結局は何を作ろうとしていたのか。
 本当のところを語らぬまま、コウルは死んでしまったのだ。
(コウルが追い求めていたのは、ナイトメアの新たな進化の形? 人らしくあるための追求? そもそも、コウルは行動原理はナイトメアとして? 元の人間として?)
 考えれば考えるほど、コウルに対する問いの回答がわからなくなる。
 弦方は十斗とコウルのやり取りの記録を何度も読み返した。
 彼は自分の最後を十斗に見せつけながら笑っていた。

「コウルが現場に残したものの中にパソコンがあったはずです。それを見せてもらえませんか?」
 SALFの調査担当者にそう依頼すると、数日後に弦方がそれに触れる機会が与えられた。
 数々の事件解決のための重要な証拠品であり、弦方が中を見るのに許されたのは数時間だった。
 弦方はバックアップを取るためのデバイスを接続すると、指紋を付けぬよう、手袋をした手でパソコンを起動した。
 SALFや関連事件を追う日本の警察が注目していたのは、コウルが「続編」として書き残した映画脚本だった。
 それはコウルの生き様や行動目的を色濃く反映したものであり、エルゴマンサーとしての彼の存在論拠そのものというべき存在だった。
 だが弦方はそれよりほかに注目すべきものを見つけた。
(これは……もしかして元々は連石斐斗の所有物だったのか?)
 本体に残されたファイルに、コウルでない者が作成したと思しき文書やメモがあった。
 それは斐斗が映画「コウル」の脚本を執筆する際に使った資料のようだった。

(音声データがあるな。これは、誰かへのインタビューなのか?)
 テープレコーダーで録音した音源と思しきその音声ファイルには、とある人物に対する1時間近いインタビューが記録されていた。
 斐斗が話を聞いていたのは、リアルに「殺人」を生業とする人物であった。
『俺達がやってる仕事は、ある意味ナイトメアよりよっぽど非道かもしれないな。あいつらは食うために人間を殺すのが基本だろう? 肉食動物が草食動物を食うのは仕方がない。そうしなきゃ死ぬからだ。正当な理由さ』
『でもあなたは依頼された仕事を生活のためにこなしているだけでしょう。それとは違うんですか?』
『まぁ……そうだけど。はは、連石監督、アンタもやっぱりコッチ側の人間なんだな』
 殺し屋は最初、斐斗を普通のまっとうな側にいる人間とみなし、それに配慮するような話し方をしていた。
 だが斐斗がアンダーグラウンドな世界の生き方に同調する人物だと分かると、語り口に次第に遠慮がなくなっていった。
 依頼人がどんなに残酷な方法で殺すことを依頼してきたか。
 淡々とした口調で殺し屋は語った。

『肉屋で肉を買うのと同じような感覚なのさ。牛や豚が屠殺されるところなんて普通の人間は見やしないだろ? 殺しだって、自分が手を下さず金だけ出すからリアルな感覚が薄い』
『何となくバーチャルな感じというか?』
『そうそう。それから、ナイトメアが出始めてから俺たちは仕事がやりやすくなった。あいつらの仕業に見せかければいい。ナイトメアの名前が出れば、それ上は警察も調べない』
『ああ……SALFの案件になってしまうと』
『だから、ナイトメアが出る以前よりずっと殺しの依頼も増えてる。間違いなく、な。だから、ライセンサーが調べても殺したはずのナイトメアが見つかんない、って話けっこうあるんじゃないか?』
 笑い交じりのインタビューを聞きながら、弦方は気分が悪くなり、何度も音声を中断した。
 ナイトメアが蔓延る世界の裏にある、ある種の人間達が持つ醜さ。
 斐斗はそれを当事者から生の声として聴きとろうとしていた。

『ナイトメアの恐怖が世界に蔓延しようが、疫病が流行ろうが、大地震が起きようが、人間は人間同士で恨み合うし、浅ましい事も考えるし、基本的なことは何も変わらない……そういう事でしょうか?』
『そうそう。まともでいたい、普通でいたい奴ほど考えたくはないはずだ。人類共通の敵に一致団結してキヨラカな心で立ち向かう健気な人間たち、ってのも俺からいわせりゃある意味バーチャルだぜ? そんなん、2次元の世界にしかねえっての』
 殺し屋はナイトメアという脅威に立ち向かう人間たちの世界を、彼ら独自の方向から見ているようだった。
 ナイトメアと人間を、善と悪で分けることなどできるのだろうか――インタビューを通し、殺し屋と斐斗はそんな疑問に至ったようだった。
(コウルというエルゴマンサーは……連石斐斗が持っていた「人間というものの闇の部分への尽きない関心」を引き継いでいたのか。あいつが描きたかったのは、そういうものか)
 今わの際に、コウルは恐怖におののく十斗を笑った。
 そして自分達に注がれる「どうして」という彼の視線を笑った。
 これがナイトメアだ。
 これが人間だ。
 何を以ってそれをお前に判断できるのか、両者を善悪の天秤にかけることなどできるのか――と。

(コウルは人間とナイトメアに、大した違いなどないと考えていた……そういうことなのか?)
 弦方は音声ファイルを閉じ、しばらくそう考えた。
 そして再び1つ1つファイルを開いていく中で、1つの短いメモを見つけた。
 メモはコウルによるものだった。
 書かれていたのは、明らかにライセンサーにあてたと思しき遺言めいた文章だった。
 コウルはそこに、自分が人間にもナイトメアにもなれない狭間の存在だと書いていた。
 人間とは何か、ナイトメアとは何か。
 その疑問を抱えたまま死んでいくだろう。
 コウルは自分の死をそう予言していた。

「君たちはただより強くあり、わき目も降らずにただ我々に勝たんとするべきなのだ。滅びぬために戦い、滅ぼすために戦え。我々という生き物も、それに全力で抗うべきなのだ」
 弦方は最後の言葉を声に出して読んだ。
 生き物として、存続のために種と種の戦争に終始せよ。
 ただ生まれ生きる、それだけのために抗い、戦え。
 それはコウルが見出した答えであり、彼がそう在れなかった姿でもあった。
(善や悪ではなく、ただ生きるための……コウルは、そうは在れなかったのか)
 弦方はコウル、そして連石斐斗の在りし日の姿に、自分と何か通ずる「悩める青年」の貌(かお)を見た気がした。
 それゆえに自分は、彼らの作り出した映画「コウル」というものに魅かれたのかもしれない。
 何となくそう思いながら、弦方はパソコンの電源を落とした。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼ありがとうございました、九里原十三里です!
エルゴマンサーコウル(lz0125)が死んだその後日談、という事で小宮 弦方(la4299)さんの視点で書かせていただいております。

コウルの前身である映画監督の連石斐斗が生前残したものに触れつつ、コウルというエルゴマンサーがどういうものだったのか、弦方さんがそれをどう解き明かしていったのか、というのを扱っています。
キーとなるのはコウルが残したパソコンなのですが、シナリオで扱った事件の中心にあるのがコウルの描いていた脚本だったので、多分斐斗が残した資料とかもそこに残ってたんじゃないかなというお話です。

改めまして今回はご依頼ありがとうございました!
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2021年01月18日

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