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『地に没し、空へ飛ぶ』
cloverla0874


 ニジェール・インソムニアに所属していたエルゴマンサーのクラーティオ(lz0140)は、決戦の前に人型を抜け殻の様に脱ぎ捨て、大蛇になって戦った。その前に、彼は自分の抜け殻を列車型ナイトメアのウロボロスに預けている。放り出したそれが、戦いに巻き込まれてズタズタになるのが嫌だったのではないか、と言う推測は立てられていたが、実際のところはわからない。死人に口なしだ。

 clover(la0874)は、グスターヴァス(lz0124)に弔いの相談をしていた。作戦終了後、抜け殻も大蛇の遺骸も、SALFに収容されている。
「大蛇の方はどうなるのか、おじさん知ってる?」
「今のところ、焼却で進んでいるみたいですね」
「火葬ってこと? 骨壷とか、残るのかなぁ」
 お弔いじゃなくて、ゴミ燃やす感覚ですよ、とは流石のグスターヴァスも言わなかった。焼却処分だ。ヴァルキュリアが何やら書いて捨てたメモ帳の切れ端と同じ扱いになる。尤も、エルゴマンサーレベルとなると、口を利くと言うこともあって、比較的弔いモードになる、と言うのがグスターヴァスの印象だ。
「まあ、そうですね。火葬みたいなもんですね。骨壷に入るかはわかりませんけど」
「きっと、すごくおっきい骨壷じゃないと入らないね」
 そもそも、アメリカは土葬が多いので、なおさら焼却に弔いのイメージが薄いグスターヴァスである。土葬にするのは、復活の日を待つから。だからエルゴマンサーである大蛇の遺骸は、感情的には焼いてしまいたい。ただ……。
「抜け殻の方は、ちょっと待ってもらっています」
 グスターヴァスは告げた。どう言うことだろう、とcloverは目を瞬かせる。
「お墓作りたいんでしょ。埋めに行きますよ」


 グスターヴァスはキャリアーを出した。乗せているのはcloverとぐれんのわんこ、小さな箱に納めたクラーティオの抜け殻だけだ。
 天気の良い日だった。お葬式だから黒い服着なくちゃ、と言って、cloverは黒いワンピースに身を包んでやって来ている。その黒い膝の上に棺を置き、番犬の様にぐれんのわんこを乗せていた。箱はうんともすんとも言わない。カタカタと震えることもなかった。
 グスターヴァスは、彼にしては珍しく静かだった。窓の外は、段々覚えのある物になる。
「あれ? ここって……あの村じゃない?」
「墓地の一角に埋めます。彼らはどうせレヴェル扱いですから、クラーティオの抜け殻を心の拠り所にして結託しようとしても、SALFの監視に引っかかるでしょう。ここにいつ戻って来られるかもわからないですし」
 そう言って、SALFを説得して許可をもぎ取ったと言う。尤も、当事者たる年配の世代はもう折り合いをつけた。何かやるとしても若い世代と子どもたちで、彼らのことも説得してくれるだろうとは思っている。

 村の奥に、墓地はあった。墓石がたくさん並んでいる。比較的新しい物もあった。この三十年の間に亡くなった人の物だろう。グスターヴァスが穴を掘った。小さな箱を埋めるだけだから、それほど深く掘らなくても良い。やがて、箱が入るだけの穴を掘ると、cloverがその中に箱を納めた。土をかけて埋め戻す。墓標の代わりに、板を立てた。村人が戻った時、この覚えのない墓を見たら、多分わかるのではないか。
「またね。『次』会うときまでね」
 cloverはぐれんのわんこを抱いて微笑み掛ける。グスターヴァスに促されて、墓地を出た。無人となった村の中を歩いてキャリアーへ向かう。
「俺、村の人達の事もなんとかしてあげたいって思うんだよね」
「ケアは必要でしょうね」
「クラーティオと約束したからね。四葉のクローバーは約束を破らないよ」
 名は体を表しますね、とも言われた。それは約束のことではなかったけれど。
「『彼らを頼みます』って言われてるし」
 cloverは空を見上げた。それを言われたのは、あのキャリアーの上だったなと思い出す。彼らが……特に、クラーティオが一緒に来ないと知って泣いたような、小さな子どもたちが良い方向へと進めるように自分に何が出来るか考えたい。期待に応えたい。先日、ゴーストタウンのカイロを見て回った時に、色々と考えたのだ。もし、彼が何らかの形で見ているとしたら、がっかりされるようなことはしたくない。
「でも、俺一人じゃ思いつかないから、一緒に考えて」
 具体案はないのだ。グスターヴァスは空を睨んで唸り、
「演説で、何か思うところはあったようですけど、それもある程度の年齢以上からでしょうしねぇ」
 子どもたちは、クラーティオがいないことにどう折り合いを付けるのか。
「話し合いにおいては、相手の言うことを否定しないのが基本ですからねぇ。その上で、こちらの話にも耳を傾ける気になってくれれば。とは言え、人類がクラーティオを討伐したことを完全に納得することはできないでしょうね」
「そうだよね……」
「あくまで子どもたちには関係なく、クラーティオはあなたたちを愛していた。けれど国連軍とは折り合いが付かなかった、で良いんじゃないかと私は思いますよ」
「おじさんはさー」
「はい」
「クラーティオと和解する気ってあったの?」
 ないです、と言下に切り捨てるわけにも行かず、グスターヴァスは言葉を選ぶ。
「八割討伐ですね。八方丸く収まる方法があるなら、和解もありだったかもしれませんが、数十年単位で被害が拡大した後では、ナイトメアは存在そのものが火種ですから。本格的に侵攻してきたの、私が六歳の時ですよ」
 誰でも良いからナイトメアに一矢報いたい人間は、クラーティオを攻撃しようとするかもしれない。クラーティオが簡単に殺されるとも思わないが、それはそれでまた無用な戦いを招いただろう。グスターヴァスも、侵攻を受けた間に子供時代を過ごした人間として、簡単に納得できない。
「そっかー……だとしたら、できる限りのことはしなくちゃ」
「あら、張り切ってますね」
「この世界に俺がいられる時間はそんな長くないけど、生きてる間は頑張りたいなーって」
「……え?」
 長くない。少女から聞く言葉ではない。グスターヴァスは驚いてcloverを見下ろした。相手は彼の反応に首を傾げ、
「……あれ? 俺の耐久年数ってあと数年なの話してなかったっけ?」
「き、聞いてません……」
 グスターヴァスは動揺しているようだった。けれど、当の本人がけろっとしているので、何と言って良いのかわからないようである。何とかならないんですか……いや、ならないからこうしているのだろう。あるいは、何とかなるとしてもそれを本人が望んでいないか。
 やがて、キャリアーが見えた。cloverは駆け出し、
「キャリアーまで競争しよーっ! 俺が勝ったら何かおごってねっ!」
「え? あ、ちょっと! フライングじゃないですか! 待てー!」

 上空を何らかの鳥が旋回している。cloverが転ばずにキャリアーに到着すると、見届けたかのように、どこか遠くへ飛び去った。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
実際エルゴマンサーの処分ってどうなるんだろう……とは思いましたが、私が「燃やさないとお別れできない」感覚なので焼却としています。グスターヴァスはああですが、個人的には火葬のつもりです。
墓標に花冠乗せるかどうかで迷ったんですが、特別な人が他にいるかなと思って描写していません。OKでしたら心の眼でご覧ください。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年01月18日

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