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『Ex.snapshot 014 ラシェル・ル・アヴィシニア × 皆月 若葉』
ラシェル・ル・アヴィシニアla3428)&珠興 若葉la3805

 みゃー、とか細い声がする。

 アヴィシニア家のすぐ表。
 まるで御宅にお邪魔する予定の客人――皆月若葉(la3805)と、その客人を迎えに出ていた家人――ラシェル・ル・アヴィシニア(la3428)の二人に向かって、の様な感じで。
 そんな、猫の鳴き声らしい「声」が聴こえて来た。

 で。

「声」に気付いた若葉とラシェルは当たり前の様にすぐその「声」の方を見る。

 と。

「あ、タマさんだ!」
「ああ、どうしたんだ、タマさん? ……って」

 二人共に「いつもの如く」親しく呼び掛けた時点で、俄かに惑い一時停止。

 そう。
 二人共「その姿」を視界に入れた時点で反射的にタマさんだと思ってしまいはしたのだが。
 良く良く見直すまでもなく、どう考えてもその姿は――「その猫」は、タマさん、では無い。

「彼ら二人」の知るタマさんは、それなりに大人ではあるだろう猫である。
 すらりとした黒猫で、足先と尻尾の先だけが白い。
 日々強かに生きているのだろう野良猫だが、気紛れで悪戯者ながらも懐っこくて気のいい奴である。若葉の家の方にもラシェルの家の方にも良く遊びに顔を出す。若葉は常々可愛がってもいるし、ラシェルは家族とも思っている位である。

 ので、そんな二人共、今「その姿」を視界内に認め、反射的に声を掛けた時点ではその「タマさん」だと思った訳だ。

 が。

 タマさんと比べたならこの当の猫はどう見ても幼く、先程「みゃー」と掛けられた鳴き声だって妙にか細くたどたどしくも高音で――そう、まるで『タマさんが幼い頃はこんな感じだったんじゃ、と思える様な仔猫』にしか見えないのである。

 若葉の方はそんな姿におおーと驚きつつもすぐに近寄り、様子を見ながら――大丈夫そうかなと見たら、ちょっと失礼するよ、と気を付けつつ優しく抱き上げた。……仔猫の方は、何するのっ、とばかりに少し覚束無い感じでじたばたもしたが、抱き上げられてしまえば概ね素直な物である。……その辺りもまたタマさんぽい。

「うん、毛色も同じだし、なんか雰囲気とかもタマさんっぽいよね。タマさんの子供かな?」
「……!」
「ラシェル?」
「そうだな。そうなるよな……」
「?」



 タマさんの子供かな。……それが確かに真っ先に思い付いて然るべき可能性である。
 が、ラシェルには咄嗟に違う考えが頭に浮かんでしまっていたらしい。

 ――そう、異世界から来た別のタマさんかもとか。

「そっか、だからびっくりしてたんだね」
 納得。
「ナイトメアに何かをされたのかもとも過ぎったな……」
「あはは。そういう事件もあったっけねぇ……。んー、そうだったら解決してあげないとだけど……多分、そういう意味では大丈夫じゃないかなって思うよ?」
「ああ、そうだな」

 当の「タマさんそっくりの仔猫」はと言えば今はぴちゃぴちゃと平和にミルクを舐めている。あの後ひとまずアヴィシニア家の屋内にまで連れて来て、そもそもが鳴いて呼ばれた事もあり――お腹が空いてるのかな? と見てのその対処になったのだ。当の仔猫を抱いて来た若葉のその言と、ラシェルが冷蔵庫にミルクを取りに向かったのがほぼ同時で、そこは二人共同じ事を考えていたらしい。
 若葉がここに来るに当たって他に用が無かった訳でも無いのだが、こうなってしまえば自然と仔猫の方が優先されてしまう。

「ここまでタマさんとそっくりとなるとつい……な」
「例えばラシェルの叔父さん達と俺達みたいに、って事?」
「まぁ、そうだ。……明らかに考え過ぎだった」

 ラシェルは放浪者である。つまり、異世界の存在で――この仔猫も自分と同じ様な存在ではとつい思ってしまった訳だ。
 そして彼の元居た世界には、若葉とその伴侶――と良く似たラシェル自身の叔父達も居たりする。
 今ここに居る若葉と同年代であるラシェル、の叔父と言う訳で、勿論こちらの若葉とは年頃が随分違うのだが――その叔父達を若くしたら本当にそっくりだと若葉達本人もラシェル達兄妹から聞かされている。
 ……ラシェルの頭に咄嗟に浮かんでしまった「考え過ぎ」な考えには、そういう下敷きがあった訳だ。

「でもそんな風に考えたくなる位に似てるよね。意外と本当にそうだったりして?」
 実は異世界のタマさんとかだったり。
「いや、初めに若葉が言っていた様にタマさんの子供……もしくはタマさんと血縁のある誰かの子供だろうな」
「でもさ、まだおかあさんと一緒に居る位にちっちゃくないかな、この子」
「確かにな。ただ……近くに母親が居る様子も無かったが」
 それに今の所、うちのすぐ周りで猫が子育てしていた様子は無いと断言出来る。
「うーん。じゃあ、迷い猫かな?」
「かもしれないな」
「だったら飼い主さんかおかあさん、見付けてあげたいよねっ!」
「……元々の用事はいいのか?」
「うん! そんなに急ぐ事じゃないから……この子の方が優先順位は上だよっ!」
「わかった。なら――やるだけやってみるか」



 二人がまず始めたのはネット内での尋ね猫のページ作りと、直に配布したり貼り出したりする為のチラシ作り。白椿の御守りが揺れるスマホでタマさんそっくりなその仔猫の写真を撮り、「心当たりのある人居ませんか」の文言と共に発見場所、見た目の特徴、年頃、サイズ、性別等仔猫自体の情報を書き連ねる。また自分達の主観にはなってしまうが、仔猫の性格や雰囲気も何かの足しにと書き添えておく。

「こうやって改めて一つ一つ確かめさせて貰ってみると、やっぱりなんかタマさんぽいね」
「そういえばいつものタマさんは今日は見掛けてないが」
「ん、俺も今日は会ってないなぁ」
「……」
「……」
「まさか、な」

 ラシェルと若葉は反射的に当の仔猫を見てから、お互いの顔を見合わせる。
 喋る言葉と作業の手が止まったのに気が付いたか、当の仔猫もまた二人をじーっと見上げた。
 同じ紫の色をしたラシェルと若葉二人の瞳と、仔猫の金色の瞳。三つの視線がふと絡み合う。

 そんな中、出来上がったチラシとしてぴーがちゃとプリントアウトされた紙がプリンターから吐き出されて来た。
 かと思ったら。
 金色の視線がまず逸れる。そして――その持ち主の仔猫は、何が気になったのかチラシにダイブ。している間にもそこに次のチラシが――……

「わああ、ちょっと待ってっ!」
「……こら。お前の親探しの為のチラシだぞ」

 言いつつチラシから仔猫を退かすが、その時点でくしゃくしゃになったチラシが数枚。ぴーがちゃぴーがちゃと次がプリントアウトされる音が空しく響いている。
 まぁ、仔猫が元気な事は何よりなのだが。



 チラシを片手に、御近所を探す。皆で連れ立って、本人(猫)の仔猫も連れて。と言っても流石に仔猫までは一緒に歩いている訳ではなく、抱き上げて連れているのだが。時折、若葉とラシェルで交代しつつ、捜索作業を回り持ちでやっている。

「見付からないねー」
「……ネットの方でも目撃情報は悉くがタマさんの方みたいだな……仔猫じゃない」
「それっぽい親子の目撃情報も無いしねぇ……飼い主さんも名乗り出て来ないし」
「まぁ、初日だからな」

 仕方ない。言いつつ、ラシェルは抱いて連れている仔猫の頭をぽむと優しく叩く様に撫でる。仔猫の方でも特に嫌がるでもなくそれを受け入れてはいたが……不意に何やらじたばたし始めた。降ろして、とでも言いたげな仕草。

「ん、降りるか。母親でも居たかな」
「あ、そういえばいつも猫の集会この辺でやってるっぽくなかったっけ?」
「そういう事か」

 じゃあ、とばかりにラシェルは抱き上げていたその仔猫をゆっくりと足元に降ろす。と、降ろされるなり仔猫は行く場所が決まっていたかの様にまっしぐらに走り出した。降ろしたラシェルも、その傍らに居た若葉の方も小走りで仔猫を追い掛ける。何かを見付けたのか、誰かを見付けたのか、どちらにしても、行先は見届けたい。
 仔猫は迷わずどんどんと進んでいく。人様の御宅の植え込みや御庭を通り抜け、一路同じ方向へ。となると人の足では直接追えないから、見失わない様に気を付けつつ――自分達の足で回り込める限りの場所を選んで追い掛ける。
 が、そうやって追い掛ける内、流石に人の足では全く追い切れない場所にまで入って行ってしまった。

「振り返りもしないで行っちゃったねぇ……」
「……変な所に迷い込んでなければいいが」

 それは母親を見付けて合流の為に追い掛けた……等なら僥倖だが、酷く興味を惹かれる何かがあってついついそちらに向かい、戻りたくとも戻って来れなくなった……なんて事になってたら大変である。

「確かめよっか」
「確かめられるだけはな」

 頷き合い、若葉とラシェルは最後に仔猫が消えた先になる人様の御宅に声を掛ける事にする。



 声を掛けた御宅の敷地内。頭を下げて確かめさせて貰ったが、結局そのままその仔猫は見付からなかった。勿論そこの家の人に心当たりが無いかを聞いてもみたが、心当たりらしい心当たりは無いらしい。

「見付からないね」
「……だな」

 木の上に上って降りられなくなってしまったとか、何処か隙間に入って行って出られなくなってしまった――等の気配は、一応、無い。
 となればここもまた通過点で、更に先の何処かへ行ってしまったか。
 二人共にそんな風に思い始めた頃。
 不意に植え込みから、するりと黒猫が姿を見せた。あ、居たと反射的に思う――が。

 今度は、色々覚束無い仔猫ではなく大人の猫だった。
 と言うか、今度こそ本当にタマさんだった。

 現れたかと思うと、ラシェル、若葉と続けて足元にするりと体を擦り付ける様にして甘えて来、何かをねだる様に、なー、と鳴いている。勝手知ったる相手とばかりの態度。……やっぱりタマさんである。
 ラシェルと若葉は再び顔を見合わせた。
 タマさんは、どうかした? それより何か頂戴、とばかりに澄まして二人を見上げている。

「……やっぱりあれタマさんだったのかな。……タマさん、そうなの?」
「お前今まで何処に居たんだ? さっきまで俺達と居たのは……お前じゃ、ないよな?」

 タマさん当人(猫)に訊いては見るが、勿論答えは返らない。
 タマさんの方でも頭上に疑問符でも浮かんでいる様な表情にも見えなくは無いが――どちらにしても、はっきりする訳も無い。



 それから。
 タマさんそっくりな仔猫の消息は、それっきり何故かぷっつりと消えていた。
 そしてちょうど入れ替わるかの様に、いつものタマさんが今日もアヴィシニア家に遊びに来ている。ご飯の残り――と言う建前でわざわざ取っといてあった――魚の切り身を頂いてから、ゆったりのんびり毛繕い。

 先日予定していた元々の用件を済ませる為に訪れていた若葉と、その若葉を迎えていたラシェルにしてみれば――そんなタマさんの姿に、どうしても先日の仔猫の姿が重なってしまったりもする。

「にしても、あの子ホントにどうしたんだろうね」
「確かめる限りでは、良くない情報は出て来ていないのが救いだが……」
「タマさんと入れ替わりみたいに消えちゃうんだもんね……」
「本当に異世界のタマさんだったりしてな。……それであの時、元の世界にきちんと帰れた、とかな」
「だといいね。ちゃんと元の世界のおかあさんと会えてて欲しいよ」

 勿論、本当に異世界のタマさんだったなら、だけど。
 微笑ましくタマさんを見つつ、若葉。ラシェルは、ああ、と感慨深げに相槌を打っている。……もし本当に異なる世界に来てしまっていたとしたなら、別れた相手と再び会うのは中々難しかろう。それは自分なら技術の進歩で異世界調査すら可能になった様な世界から来たのだから話は違って来るが、それでも元の世界で“英雄”として記憶すらあやふやなまま召喚された両親の生まれ育った世界は知らない。
 だからこそ、いつか見付け出したいと言う目標がある。その世界が知りたい。そこに両親の大切な人が居たのなら、再会させてあげたい。
 大切な人の為に、大切な人の心も守りたい。
 そんな事までつい考えてしまっている自分が居る。

 だからって訳じゃないけれど。
 可能ならいつか、あのタマさんそっくりな仔猫が無事母親に会えていたかどうかも確かめてみたいかもしれないと、目標――の様な、けれどあやふやな物が一つ増えた。

 勿論、全てが仮定、ただの戯言かもしれない話になるけれど。
 そんな風に考えてみるのも、悪くないのではなかろうか。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 ラシェル・ル・アヴィシニア様、皆月若葉様には初めまして。
 今回はおまかせノベルの発注有難う御座いました。
 果たして初めましての当方で本当に良かったのかと思いつつ。お待たせしました。

 内容ですが、おまかせノベルならではの自由レギュレーションであるのをいい事に、何故か御二人共通の御友人?にして御家族?なタマさんピックアップの様なそうでもない様な流れに、御二人の関係性等を絡めて弄らせて頂いた様な形になっております。
 致命的な読み違え等無ければ良いのですが……如何だったでしょうか。

 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。
 では、またの機会が頂ける時がありましたら、その時は。

 深海残月 拝
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2021年01月19日

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