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『Ex.snapshot 016 クーデリア・クレーエ』
クーデリア・クレーエla0175

 ――『貴女は冒険者の方が合っているかもしれない』。

 体よく追い出されたと人は言う。そう。扱いに困っての厄介払い。周囲にしてみれば――彼女を神に仕える騎士とするべく育てて来た神殿の人々にしてみれば、しみじみそんな感じだったりする。その事をどう告げれば彼女の心を傷付けず、同時に納得もさせられるか。神殿の人々がひたすら思い悩んだ結果、彼女――クーデリア・クレーエ(la0175)本人へと已む無く言い渡した言葉がそれ――だったのだが。
 クーデリア当人はと言えば全く気にしていないしそんな“困られていた”自覚も無し。特に疑いもせず言われた言葉通りにしか受け取っていないし、それですんなり問題無く過ごせている“今”がある。双方平和であるならそれで全て事も無し。わざわざ誤解を解く必要も無い。
 そんな訳で、クーデリアは無事冒険者として世界を股に掛け旅をする事になる。腕っ節とその気風だけを頼りに。一人で。
 ……まだ十六歳の女子なんだけど。

 銀と青を基調とした騎士らしくも女性らしい鎧を身に纏い、クーデリアは山間を行く。携えているのは己が身長よりも長く大きな大剣。振り回すどころか持ち歩くのさえままならないのでは、と思われそうな所だが、実はそうでもない。彼女にとってこの大剣は、きちんと実用している頼れる武装である。
 目的地は、この先。
 ……と言うか、今歩いているこの辺りはもう、既に目的地と言っていい。

 クーデリア自身が、ある意味で囮でもあるのだから。
 山間に出る「化物」を何とかして欲しいと言う依頼を受け、彼女は今この場に出向いている。周辺に人気は無い――化物騒ぎが起きているなら周辺の民も警戒して当たり前。そんな中、目的地近くなれば道中何処で襲われてもおかしくない。そして囮の意味もあるからと言う事で、敢えて一人でここまで出向いて来てもいる――クーデリアならそれで事が成立する位の力はあると見做されている。……その位の軽めな任務ではある。

「……あーもうまだ襲って来ないのかな。そろそろめんどくさくなってきたかも。で……この先にある筈の分かれ道右側……の方で襲われる率が高いって話だったのよね」

 クーデリアは現在地を確かめようと地図を出す。そうするに当たり取り敢えずとばかりに大剣を地面に突き立て置いて、地図の方を、じー。そうしている様子はそこはかとなく粗雑で、隙だらけにも見えなくもない。

 だから襲撃が“その時”になったのかもしれない。
 不意に鋭い風が逆巻く――唸りを上げて、四つ足の獣がクーデリアを襲う。数は一体。狼にしては大き過ぎ、熊にしては小さ過ぎる様な微妙な大きさで、それこそ化物の如き妙な圧も持っている。
 そんな獣が、立ち止まって地図を見ていたクーデリアに躍り掛かっている。

 が。

 うわっと、とちょっとびっくりした様な声を上げつつも、クーデリアはその襲撃を危なげなく躱す。躱しながらも当たり前の様に大剣の柄を確と握り直し、コンパスで地表に弧を描く様な挙動で刃の切っ先を引き摺り回したかと思うと、クーデリアは次にその刃を振るうべく軽々と大剣を振り被る。そうするだけでも俄かに炎の幻影が巻き起こり、刃に纏わりつく様に燃え上がった。
 そうしているすぐ側で、“壊れた”地図――躍り掛かって来た獣の爪により両断された“地図端末”が思い出した様にぽとりと落ちている。

「ってうわっ、この地図借り物なんだけどっ……まぁ仕方ないよね」

 こいつら倒せばその辺は不問になるでしょ。思いつつクーデリアは己の力を解き放つイメージを“イマジナリードライブ”に働き掛け、“EXIS”である大剣に力を籠める。今はこの“獣”を――“化物”を――“ナイトメア”を倒す事こそが肝要。……だからその過程で借り物な地図端末の一つ位壊したって不可抗力だよね。全然平気だよね、うん。そう自分に言い聞かせつつ、クーデリアは躊躇いも無く獣型ナイトメアを狙って渾身の一撃を叩き込んでいる。バーストクラッシュ。力のイメージを自分中心に巻き込む関係で、周囲まで巻き込んでしまう強烈な一撃。一人で来たからこそ遠慮無く使えるスキルでもある――いや、クーデリアの場合、状況によっては味方と共に来ていたとしても気にせず使ったりもするかもしれないが。
 ともかくその一撃で――獣型ナイトメアはあっさりと撃沈した。クーデリアはその姿を認めて目をぱちくり。えーと。何これ。これでもう終わり? 流石に簡単過ぎない? え、嘘だよね? 思いながらも撃沈した獣型ナイトメアに爪先でちょいちょいと蹴りを入れる。様子見。それでも動かない――かと思いきや。
 何度目かの爪先の衝撃?で、キャン、と哀れっぽい声を上げたかと思うと、飛び起きるなり獣型ナイトメアは脱兎の如く逃げ出した。……いや脱兎って言ってもこのナイトメア兎型じゃないけど。でもまぁ、要するに普通に敗北した獣の行動そのままの、後の事など野となれ山となれな逃げっぷりを見せてくれた訳である。まるでそれまで倒れていたのが嘘であったかの様な素早さ。
 が、勿論黙って見逃す訳は無い。

「っ――と。何だよもう!」

 速い。となれば――クーデリアも次の手を使う。身を焦がす程に己が血を沸騰させる様なイメージをイマジナリードライブに働き掛けEXISで具現、その昂揚のままに咆哮を上げつつ、横、縦と十字に引き裂くブラッディクロス――ブラッディゲイザーで獣型ナイトメアに追い打ちを掛ける。これなら射程それなりにあるし――などと考えている程の事もなく、その十字は逃げ出した獣型ナイトメアをすぐさま切り裂いていた。
 今度こそ獣型ナイトメアは、どうと地に伏し、動かなくなる。

 ブラッディゲイザーに続いてクーデリア本人も、倒したナイトメアに近付くだけ近付き、生死確認。
 取り敢えずまた爪先や――大剣の剣先でつんつん。よし。今度こそ間違いなく動かない。



 クーデリアはSALF本部のオペレーターと連絡を取り、事後処理を任せるとすぐさまグロリアスベースに帰投する。ナイトメアからこの世界を救うライセンサーのお仕事、としては珍しく故郷――所謂剣と魔法の世界なのだが――と似た雰囲気がある場所での任務だったから気紛れで受けてみたのだが、やってみると正直あんまり関係なかったなーとも思っている。
 結局、旅の途中に放浪者として転移して来た“この世界”は“この世界”でしかない訳で。ちょっとした加減でその辺りの事はすぐ思い知らされる。……例えば今回の場合だと、渡された地図が紙じゃなくて端末だったとか(因みに「壊したのは不可抗力だった」で特に弁償とかも無く済んだ)その辺の感覚。最早何処を見ても街からして人々からして技術からして故郷世界とは全然違っていて驚きの連続だったのだが――取り敢えずクーデリアにしてみればこの世界に来て凄く嬉しかった“故郷との違い”もあったりする。

 そう。好物である甘い物の種類がとても豊富な上に、美味しいのだ。

 だから、任務明けには自分へのごほうび。鎧は脱いで、お気に入りのパーカー――狐耳にふっくらした尻尾つきで可愛い奴。こういう凝った服もこっちの世界ならではかもしれない――を着込んで目当ての菓子店へと繰り出し、極上の時間を謳歌するのだ。

「んふふ……やっぱごほうびって言うならケーキだよねケーキ」

 さあて、今日は何処のお店に行こうかな?

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 クーデリア・クレーエ様には初めまして。
 今回はおまかせノベルの発注有難う御座いました。
 果たして初めましての当方で本当に良かったのかと思いつつ。お待たせしました。

 内容ですが、おまかせ、となるとキャラクター情報やら過去作品からして「こういう事あるんじゃないか」と考えてみたキャラ紹介的な日常、がまず思い付く所なのですが、元居た世界想定の話かと思いきや、実はそうでもなかった……様な感じになってます。
 致命的な読み違え等無ければ良いのですが……如何だったでしょうか。

 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。
 では、またの機会が頂ける時がありましたら、その時は。

 深海残月 拝
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グロリアスドライヴ
2021年01月25日

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