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『この身、修羅となりて』
伊吹 マヤla0180

 12月25日。クリスマスの決戦の日の朝、伊吹 マヤ(la0180)は前線基地で治療され目覚めた。
 早朝に行われたグレイ伯爵(lz0121)との死闘の末に、戦闘不能に陥って、仲間に運び込まれたのだ。

 目覚めてすぐに、倒れる直前の事を想いだし、マヤは不快げに眉根を寄せた。
 伯爵本人を切り刻みたくても、忌々しき結界が阻んだ。
 ならば斬って進むだけと、取り巻きの巨人を巻き込んで、狂える血を放ち続けた。
 マヤの刀によって巨人が倒れ、骸となった。
 やっと邪魔者が消えた。結界も残り僅かと思った、その時だった。
 伯爵は仲間の間を走りこんできて、マヤに銃口を向けた。軌道の読めない弾丸は地面に跳ね、マヤの身体へ撃ち貫いた。障壁が砕け散って、マヤの身に赤い花を散らす。
 意識を失う刹那、伯爵の表情をくっきり思い出した。嗤っていた。『家畜』などと雑種如きに見下された気分で反吐がでる。

 それは、故郷を焼いた雑種に似ていた。
 それは、いつか殺した雑種に似ていた。
 自分達が殺す側だという傲慢。殺される可能性を微塵も考えない怠慢。

 思い出すだけで、マヤの心の底に眠る憤怒の焔がチリチリ燃える。
 奴らを鏖殺すべし。
 でなければ、怨の一文字たゆたう心の奥底、更なる果てに、憎しみの焔でマヤは焼かれるだろう。

 起き上がって、手当てされた包帯を引きちぎる。まだ血が滲んでいたが、知ったことかと捨て置いた。
 緋色の瞳は、淡々と外を見つめる。その瞳の奥に、憎悪の焔が宿っていた。
 ボロボロの黒いスーツに再び袖を通すと、職員の制止を振り切って、愛刀を携えて外へ飛び出す。

「寝てばかりでは腕が腐るというものだ」

 重傷を負ってなお、止まれない。止まるわけがない。
 重い身体を引きずって、走りついた先は、伯爵と闘った場所だった。
 既に仲間は撤収し、敵の残党も狩られ、骸すら存在しない、ただの荒野。
 けれどそこに、確かに自分へ傷を負わせた、憎き雑種がいたのだ。

 日はすっかり登り切り、空は澄んだ青空を見せ、澄んだ空気を肺に吸い込んだ。
 アフリカの大地に吹く風が、マヤの黒髪を撫でて揺らす。
 すらりと愛刀を抜くと、伯爵の首を跳ねるイメージで、力強く一閃。
 ざくり、地面に突き刺さった刀は、まるでそこに存在した伯爵の残滓にトドメをさしたかのようだった。

「地獄の底で精々足掻け、雑種が」

 一瞬だけ、アイスブルーの瞳の老人を想い浮かべる。
 伯爵が何をしてきたのか、どれだけ憎まれていたか、それは共に戦った者達を見ているだけでも解った。

 だが、それが何だというのだ。
 ナイトメア憎し。その一念で戦い続けてきたマヤにとって、伯爵とて他のナイトメアと何も変わらない。
 ただの殺すべき敵である。
 それより赦さざる仇は、いずこかで、今もなお生きている。そうマヤは信じている。
 
 マヤはどさりと地面に座り込むと、煙草を咥えて、火をつけた。吐き出した煙は朝の空気に溶ける。
 死んだ敵に最早未練はなく、表面的にはいつも通り理知的な佇まいに見えた。
 輝くような愛刀の刀身に、己の顔が映るのを見ながら、煙草をふかしつつ呟く。

「正直言って、貴様らが私の故郷の仇とは思わん。奴らは貴様らなど霞む程に悪辣非道で凶暴だった」

 マヤの故郷はナイトメアとの戦争で滅亡した。あの憎しみと絶望を、決して忘れない。赦さない。
 必ずや、あの仇を見つけ出し、八つ裂きにする、そう誓ってる。
 それに比べれば、この程度の戦いは、児戯に等しい。

 刺さった刀身は朝の光を浴びて輝き、それを愛でて峰を撫でる。共に戦い続けた相棒を労うように、うっとりと妖艶に微笑みかけて。
 刀を愛でて、戦いの余韻に浸って、マヤはすっと笑みを消した。
 この地のナイトメアを刈り尽くしたとしても、まだ飽き足らない。本当の敵は別にいる。
 痛む身体に鞭打って、勢いよく立ち上がる。煙草を放り捨てて、靴で踏み潰す。
 それから緋色の瞳で、ニジェールの方角を、淡々と眺めた。

「されど腐ってもナイトメア、奴らへの見せしめのためにこの世から消えてもらう」

 今日、これからインソムニア攻略作戦が行われるのだ。
 例えこの身が危うくなろうとも、大人しくベッドで寝てる気はさらさらない。
 土で汚れた刀身を、引きちぎった袖で拭うと、そっと口づけた。
 この刀はこれから、獲物の血を吸う、凶器なのだから。愛すべき相棒だ。
 マヤの顔に悪鬼羅刹の笑みが浮かぶ。

「この地の雑種は、今日で滅亡する。そして仇敵の尻尾を掴み、必ずやこの手で根絶やしにしてやる。たとえこの身が塵になろうとも」

 心に『怨』の焔を抱えて、刀に『憤怒』を乗せて、雑種の首を斬って捨てる。
 斬っても、斬っても、まだ足りない。もっと雑種の血を寄越せと、心がせかす。
 これから死戦が始まると意識しただけで、血管の中で血が沸騰するような、高揚感を感じた。

「血塗れの人生など元より覚悟の上。私の本当の戦いはまだ始まったばかりだ」

 そう豪語して、不敵な笑いと共にその場から走り出す。
 目指すは最後のインソムニア。雑種の巣窟。
 決戦に遅れをとってなるものか。
 狙うは首魁の首1つ。もっとも激戦の地となるだろう。この身では届かないかもしれない。
 ならば首魁への道の露払いになっても構わない。多くの雑種を蹴散らせることに変わりはないのだから。
 獣にすら及ばぬ雑種の首を、一つでも多く跳ねてみせる。

 ふと思い出す。伯爵と闘った時、邪魔者がいた。
 見上げる程に高く、骸骨の顔をした巨体、目障りな雑種。

「あのでくの坊……ガルラ兵といったか。アレを壊すのもまた一興」

 伯爵をガルラ兵は護った。同じくナイトメアの首魁を別のガルラ兵が護るのだろう。
 それを叩き潰し、切り刻む。巨体であるが故に、その首は跳ねがいがあった。

 故郷を焼いたナイトメア、憎し。
 絶えぬ怨念、絶えぬ憤怒、絶えぬ業火。
 鬼神に生まれ、軍人として生きて、今や羅刹と化す。
 憎き仇を討つ日まで、狩るべき雑種がこの世に存在する限り、切って、切って、切りまくる。
 死せよ、ナイトメア。
 悉くを殺し、首を斬る。地獄の焔で焼き尽くし、灰燼に帰し、屍を塵芥とす。
 我は修羅道を往く。
 いつか再会する仇へ続く、地獄道を。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
●登場人物一覧
【 伊吹 マヤ(la0180)/ 女性 / 27歳 / 修羅道に落ちた鬼】


●ライター通信
ノベルをご発注いただき誠にありがとうございました。
雪芽泉琉です。

伯爵との最終決戦のその後を描かせて頂けて、雪芽個人としても嬉しかったです。ありがとうございました。
マヤさんのかっこいい修羅道を描けていると良いのですが。

何かありましたら、お気軽にリテイクをどうぞ。
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雪芽泉琉 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年01月25日

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