▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『カメリア』
會田 一寸木la0331


「手に負えないと思ったら遠慮無く連絡をくれ」
 そう言って依頼者は洋館の前で會田 一寸木(la0331)を降ろすと直ぐ様車を走らせ行ってしまった。
 一寸木は渡された鍵で門を開け、手入れされなくなって久しいと思われる庭園を抜ける。
「……どっかで見たような気がすると思ったら、手がハサミになっている男が住んでいた館に似てるねー」
 先日付けっぱなしにしていたテレビでやっていた大昔の映画を思い出し、頭を掻いた。
「……ハサミ男が襲ってきたらどうしようか……流石にそれは管轄外……」
 一寸木には戦闘能力というものがほとんど皆無だった。
 アサルトコアの扱いに関してはそこそこに自信が無いわけでは無かったが(あるとも言って無い)そも、前線向きでは無い。
 ただの――どこにでもいる、一介の整備士なのだから。

 玄関を開けると、白い埃がふわりと舞った。
 口元のマスクで埃対策はバッチリだったが、慌ててバイザーを降ろし目を守る。
 周囲を見回す。
 室内は埃が溜まっている以外は綺麗に片付けられている。
「ゴミ屋敷とかじゃ無くて良かったー。さて、まずは1階から見ていこうかなー」
 目的の場所は大体1階、かつ搬入口が近い所と相場が決まっている。
 ガレージが東側にあった筈だ。
 そちらへと向かう。
「ビンゴー」
 扉を開けると、そこは今までのクラシカルなイメージとは違い、無機質かつ機能的な研究室があった。
 そして、手術台めいた硬質なベッドに横たわる、女性の裸体があった。

「人形の解体、ですかー?」
 流しの修理屋、その噂を聞きつけたという依頼人が来たのは先週だった。
「なるべく人目に触れず、その存在を抹消して欲しい」
 依頼人曰く。それはセクサロイドであり、晩年そんなものの研究に身内がかかずらっていたと知れると大変困るのだという。
「わかりましたー」

「さてと。へー、確かに綺麗な肌だなー。人工樹脂も本物の質感に近い」
 瞼を開き、眼球を確認する。
「確か亡くなったのが2年前……って言ってたから当時の最先端だねー、ふむふむ」
 頭の先から爪先までざっと全身の外観を確認した限り、丁寧に作られている。
「でも当時だってセクサロイドぐらいあっただろうに、何の改良がしたかったんだろうねー」
 メインコンピューターの電源を入れると、パスを入れるよう指示が出る。
 んー……と考えて、机の引き出しを開ける。
 一番上にあったノートを取り出すと、はらりと写真が落ちた。
「……この人を再現したかったのかな?」
 古ぼけた写真の中では台の上の顔とそっくりの女性が笑っている。
 写真を挟み込みつつノートを開けばそこには試行錯誤の日々が綴られていた。
「うーん、PC内に残さなかったのはハッキングを回避するためかなー?」
 それとも、そういう性質の人だったのか。紙至上主義みたいな? 今でも電子書籍反対派とかいるしなーと呟きながら頁を捲る。
「……うーん、パスっぽい物はないなぁ」
 早々に諦めて、一寸木は自分が持って来たノートPCを取り出すと有線で繋ぎ、強制的にパスワード解除に出る。
「あんまり得意じゃ無いんだよなー……あ、行けた」
 蛇の道は蛇。ハッキングに強い仲間に作って貰ったパスワード解析プログラムが良い仕事をしてくれた。
「今度お礼しなきゃなー」
 バイザーを撥ね上げ、まずは回路を確認。どの物理回路も正常に繋がっている事を確認する。
「……ということは、思考プログラムか感情プログラムの方に問題があったのかなー?」
 ざっと目を通したノートには思うように動かない苦悩が綴られている。
 ただの“人形”ならば、依頼人の指示通り問答無用に解体して部品単位で裁いてしまおうと思っていた。
 しかし、少なくとも外観は完璧で、回路にも問題はなさそうであるならば、一度は起こしてみたいという好奇心が勝った。
 こんなにも愛されていたのに、ヴァルキュリア化しなかったこの“人形”と彼らとの違いを見てみたかった。
「スプラッタ寸前のガラクタがヴァルキュリア化してイマジナリードライブ使えたりするのになー。なんでキミは覚醒しなかったんだろー?」
 首を傾げ、指を動かす。
「えーと、人工知能プログラムは……あーアップデートすれば動かせるかなー」
 アンドロイドやメイドロボットなどの人工知能プログラムを有する個体はそれだけでプログラムが複雑化してしまう。
 しかし近年研究が進み、人工知能プログラムは目覚ましい発展を遂げ、そのジャンル毎のパック販売などもされるようになっている。
 これらプログラム系を耳孔の奥にあるプラグと接続し、直接アップデートしたものをインストール。
「電源は……あぁ、鼻でいいのか」
 鼻の頭をグッと押すと、静かな駆動音と共に顔から首を通って指先へ、腹部を通って両脚の爪先へと熱が伝わっていくのが分かった。
 そして“人形”はゆっくりとその双眸を開いた。

「初めまして、ボクは會田 一寸木。整備士だよ」
「初めまして、カイタ。私はリン。博士の姿が見えないのは、何故?」
「博士は2年前に亡くなったんだ。キミはそれからずっと眠っていて、2年振りに起動したんだ……わかるかい?」
「……最終シャットダウンと現日時確認。2ヶ月と1日のズレがありますが、概ねカイタの情報は正しいと言えます。では、博士はもういない?」
「うん、いない。それでキミの次の行き先を決めなくちゃ行けないんだけど、キミはどうしたい?」
「質問の意図が分かりません」
「1.全てを初期化して、新古品セクサロイドとして次のご主人を待つ。
 2.パーツ単位に分解して、ジャンク品として売りに出される。
 3.廃品として廃棄工場へ行く。
 ……この3つかな」
 残酷とも取れる選択肢を順々に指を立てながら提示していく。
 するとリンは少し小首を傾げるような仕草の後、一寸木の薬指を指差した。
「3です」
 一寸木は驚いて「え?」と声を上げた。
 なお、表情筋は死んでいるのでマスクの下は全く変わっていない。
「博士は常々『一緒に死ねなくてゴメン』と言っていました。私は博士の理想の人物にはなれませんでしたが、博士が死に追従することは出来ます」
「それでいいの?」
「はい」
 口調こそ肉声に近い柔らかな声音だが、そこに感情の機微はやはり感じられなかった。
「初期化も死みたいなものだと思うんだけど」
「私の全ては博士の物です。博士が死んだなら、全てを廃棄します。それとも、譲渡の契約がありますか?」
「……いや、ないかな……今後の手順の説明はいる?」
「シャットダウン後の内容なら不要です」
「了解。それじゃ、お休み、リン」
「おやすみなさい、カイタ」
 起動させた時とは逆に、爪先・指先から熱が消えて行く。
 その様子を一寸木はじっと見つめていた。

「解体出来なかった」
 がっくりと肩を落とした一寸木はそれでも“人形”との約束を守って彼女を廃棄工場へと運び、そしてスクラップにした。
 依頼人からはお礼の言葉と代金を貰った。
「“人形”とヴァリキュリアの差は大きかったな……」
 博士が最後まで調整していた『心』は終ぞ彼女の中に宿ることは無かった。
 それでも人形は人形のまま、博士の後を追った。
「この結末で博士は満足なのかなー?」
 博士の願いの一つは叶ったのだろうか。

 電話のベルが鳴る。
 次の依頼が舞い込んできた。
 一寸木は頭を切り替えると、秘密道具を抱えて外へと飛び出していったのだった。






━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【la0331/會田 一寸木/アンドロイドに花束を】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

 この度はご依頼いただき、ありがとうございます。葉槻です。

 解体・整備するノベルは今まであったようなので、どちらも出来なかったバージョンでお届けしました。
 アサルトコアとアンドロイドじゃ全然違うと思うのですが、一寸木さんならいけるだろうと。
 ご受納頂けましたら幸いです。

 口調、内容等気になる点がございましたら遠慮無くリテイクをお申し付け下さい。

 またどこかでお逢いできる日を楽しみにしております。
 この度は素敵なご縁を有り難うございました。


おまかせノベル -
葉槻 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年01月29日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.