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『花咲く想い出と共にある日々』
白野 飛鳥la3468


 降り注ぐ地中海特有の日差し。海風に乗って漂う汐の香りと、アーモンドの花の甘い香りが混じり合い、人々が賑やかに祭りを楽しむ光景を、白野 飛鳥(la3468)は思い出し、自然と笑みが零れた。

 イタリア南部の港町で、今年もアーモンドの花祭りが行われた。飛鳥は2年前この祭りに行った。
 また来たいと思っていたので、今年も一人で行くことにした。2年前の祭りでジェラートを売り歩いたのを懐かしく思いながら、のんびり歩いて美しいアーモンドの花を眺める。
 本当は伯母と一緒に行きたかったが、都合が悪かったから。せめて伯母へのお土産にと、アマレットとシチリアレモンを買って帰った。

 とある春の日の一日。家へ帰ってきた飛鳥は自宅のキッチンに立っていた。
 伯母のために祭りで飲んだ、アマレットとシチリアレモンのカクテルを再現しようと思ったのだ。
 自分用に買ったドラジェを一口囓ると、こちらの世界に来たばかりの頃のことを思い出した。
 この世界に来たばかりの時は右も左も分からない、一般人から戦う人になりたてだった頃。アーモンドの花祭りの任務を受けた。
 ギリギリ未成年で、カクテルが飲めず悔しい思いをしたなと懐かしく思う。今は堂々とカクテルを作って飲める。その成長にほんの少し心が温かくなる。
 2年前の祭りの日は探し続けた伯母の行方が解らず、いつか再会したいと願いながらレモンジェラートを食べた。甘くて酸っぱい味わいが幼い頃の記憶と重なって、どこか懐かしく感じたのを今でも覚えている。

 あれから2年。ずいぶん濃い時間を過ごしたと思う。

 伯母に会いたくて、会いたくて、星に願いをかけて。
 それが実ったのか、ランタン流しの河辺にて、伯母を見かけた気がした。対岸にちらと見かけただけで、言葉も交わさず。会えたかもしれないのに、すれ違ってしまったのが歯がゆくて。
 けれど、それが再会の予兆だったのだろう。
 その後、無事伯母と再会できて、隠れ家レストランで一緒にティータイムを過ごした。
 あの日も春だった。店の庭に咲く枝垂れ桜が満開で綺麗だったのを覚えている。
 伯母はお茶を好み、景色を楽しみ、とても喜んでくれた。
 会えない時間を埋め合わせるように、互いの話をし、心を開いて。
 春は想い出の季節なのかもしれない。

 それから二人の思い出の時間を積み重ね、今は穏やかな日常を送っている。共に酒や、彼女の好きな茶を飲み、何気ない話をする。そんな平凡な時間が愛おしい。
 二人ともライセンサーで、危険な戦いに赴くこともあったし、任務中に大怪我をする事もあるが、それも良い経験だ。特に飛鳥はロシアと中国の戦いでは厳しい任務に飛び込むこともあった。
 だからこそ、穏やかな日常が尊くもあった。
 何も出来なかった頃より多くの事が出来るようになった。それが嬉しく思わず頬が緩む。

 教わった分量でカクテルを作りに挑戦だ。
 グラスに氷をいれて、計量したアマレット30mlを注ぐ。そこにシチリアレモンの絞り汁を加え、最後にソーダを注いで、軽く混ぜる。
 できあがったカクテルは、仄かにレモン色をした透き通った色合いで綺麗だ。味見に一口飲む。
 口の中で爽やかなレモンの香りと、アーモンドの甘い香りがふわりと広がる。炭酸が口の中で弾けて、甘酸っぱく、微かな酒精がほんのり身体を温かくしてくれた。
 伯母は味覚が解らないらしい。けれど、香りを楽しむことを好む。
 この香りの良いカクテルも楽しんでくれると嬉しい。
 キッチンで午後のお茶会の準備をして、飛鳥は小さく頷いた。

「これで、良いかな。もうじき帰ってくるよね」

 そろそろ伯母が病院から帰ってくるはずだ。
 伯母は余命宣告を受けている。残された時間で、彼女に何ができるか。飛鳥はずっと考え続けている。
 悔いのない生き方がしたい。
 元の世界にいた頃は、伯母と別れる日がくるなんて考えたこともなくて。急に伯母がいなくなって、酷く後悔した。
 もうあの時みたいに後悔しないために、一日一日を懸命に生きよう。そう思えた。

 お茶会の準備をしに、リビングに向かう。
 リビングのテーブルにお気に入りのテーブルクロスを敷いた。
 窓から春の麗らかな日差しが差し込み、窓辺に置かれた鉢植えには春の花々が咲いている。花達は日の光を浴びてイキイキして見える。
 目で春を感じられて楽しい。
 鮮やかな花が咲くのをみて、伯母と一緒にエオニア王国に行ったこともあったと思い出す。
 マートルの花が咲く6月のお祭り。一緒に露天を見て回って互いに贈り物をおくり合ったり。花祭りのお花畑で共に踊ったこともあった。
 ミーベルアイスやミーベルジャムを楽しんだり、6月のエオニアでは伯母といくつもの想い出を作った。
 きらきらした美しい想い出の数々に、思わず目を細める。
 花で思い出した。芝桜を一緒に見に行って足湯に浸かったこともあった。あの時は飛鳥が大怪我してたから、伯母はずいぶん心配してくれたんだっけと懐かしく思い出す。
 伯母と出かけたと言えば、岐阜県飛騨市での慰労会に一緒に行ったこともある。伯母にとって飛騨という土地は、色々と因縁があるらしい。伯母の友人達に紹介されて、賑やかに過ごした。

 伯母と過ごした日々を思い出すだけで、飛鳥の顔に笑顔の花が咲く。心が温かくなる。優しい魔法みたいだ。
 またドラジェをかじって思う。
 本当は、伯母とアーモンドの花祭りに行きたかった。持ち帰れるならアーモンドの花を持ち帰りたかったけれど、できなかったから。
 せめて目で見て花を楽しめればと、アーモンドの花が入ったハーバリウムを買ってきた。テーブルの上に飾る。
 カクテルだけでなく、伯母が好きな紅茶も用意しよう。お茶請けはジンジャークッキーとドラジェ。ショウガの香りなら楽しめるかもしれない。ドラジェもカリッとした食感は感じられるだろうか。

 玄関の扉が開く音がした。
 飛鳥はぱっと笑顔を浮かべて、玄関へ迎えに行く。

「お帰りなさい」

 世界で一番大切な貴女のために、精一杯のおもてなし。
 最後の刻まで、心穏やかな日々が過ごせますようにと祈って。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
●登場人物一覧
【白野 飛鳥(la3468)/ 男性 / 21歳 / 花に想う】

●ライター通信
この度はノベルをご発注いただき誠にありがとうございました。
雪芽泉琉です。

今回は過去のシナリオを振り返りながら、伯母さんとの想い出を中心に振り返る感じにしてみました。
過去シナリオから花や春に因縁を感じたので、そういう優しさを出せたらと思って書きました。

何かありましたら、お気軽にリテイクをどうぞ。
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グロリアスドライヴ
2021年02月01日

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