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『幸せは希望の上に』
cloverla0874


「コートジボワール編終わったねー」
「終わりましたねー」
 clover(la0874)を演じた少女と、クラーティオ(lz0140)役の少年は、紙パックのジュースを飲みながら休憩室に座っていた。それぞれ別の撮影があったのだが、たまたま行き会って一緒におやつタイムをしていたのだ。テーブルの上には、四葉柄の紙ナプキンを敷いてスナック菓子を広げている。cloverの膝の上には、当然の様にぐれんのわんこが鎮座していた。

 ドラマ「グロリアスドライヴ」のコートジボワール編最終回。撮影自体はだいぶ前に済んでいたが、先日放映された。視聴者が物語を見届けて、本当の意味で「終わった」のだと思う。
 cloverはしばらくクラーティオの顔を見ていた。それに気付いて、クラーティオが首を傾げながら視線を返すと、不意にcloverの瞳からぽろりと大粒の涙がこぼれ落ちた。
「クロおねーさんどうしたんですかっ! お腹痛いんですか?」
 大人を呼んでこなくちゃ、と思ったクラーティオだったが、その頬にcloverの手が伸びた。むにむにとほっぺたを触られる。
「はみゃみゃ」
「……こっちのクラーティオくんは生きてるよね。大丈夫だよね?」
 まるで触っていないと生存が確認できない、と言わんばかりの切実な声。涙目のcloverが自分を見つめているのを見て、クラーティオはきょとんとしてしまった。
「録画したの何度見ても泣いちゃって」
 まるで現実のクラーティオも死んでしまったような不安感に襲われることもあるらしい。感情移入してしまったようである。優しいcloverらしい。作中のヴァルキュリアは、随分と敵の少年に心を砕いていた。
「クラーティオにも蛇のエルゴマンサーにも、ほんの少しでも『幸せ』とか『希望』とか届けられたのかな? 届いてたらいいなあ」
 ほっぺたをむにむにされながら、クラーティオは考えた。ここで「届いてますよ!」と即答してしまうことは簡単だが、それでは何か、気を遣ってるみたいで逆に悪いような気がしている。ちゃんと自分の言葉で言わないと駄目な気がする。「クラーティオ」を演じた自分だからこそ。
「『幸せ』はわかんないです。それは、強みの防御を捨てた戦いを選んだクラーティオにはなかったと思います」
「そっか……」
「でも、『希望』はあったと思います」
 cloverは目を瞬かせた。長い睫毛に涙の粒が引っかかっている。
「だって、cloverくんに『彼らを頼みます』って言ってた訳ですし、cloverくんにはずっと『希望』を見ていたんじゃないですか? 後付けになっちゃうんですけど……」
 もちもちと、少年のほっぺたを触りながらcloverは話を聞いていた。
「だから、“次”にcloverくんがやってあげたことを話してあげたら、『幸せ』はもしかしたら見つかるかも知れませんよ。四葉のクローバーみたいに」
「そっかー……そうだと良いなぁ。きっと“次”はあるよね、私は信じてるっ!」
「もちろんですっ!」
「でもcloverも寿命そんなない設定なんだっけ……うーん……」
 Webで配信された弔いルートのおまけミニドラマでも、cloverの残り時間については言及されていた。
「あっ、じゃあ、生まれ変わった先で姉弟とかになるっていうのもいいかも♪ だって、先の未来なんて誰もわからないし」
「良いですね! ただ、クラーティオは結構お姉ちゃんにべったりになりそうな……」
 お姉ちゃんに近寄る不届き者は、あの手この手で遠ざけてそうだなと思うクラーティオである。蛇とかけしかけそう。怖。自分の役柄ながらなかなか過激である。
「今のクラーティオくんが弟になってくれても私は良いよー」
 今だって、cloverは少年のことを弟に欲しいくらいに思っている。年下の可愛いお友達だ。学校の友達にオフショットを見せると「ほんとに姉弟みたいだねー」とよく言われるのだ。
「その内、姉弟役での共演がしたいですね」
 クラーティオの何気ない一言に、cloverのつむじで跳ねている毛束がぴょこっと動いた。
「良いねっ! どんなドラマに出たい?」
「推理ものとか出てみたいです! コートジボワール編、ちょっとサスペンスっぽかったので、ちゃんとしたサスペンスに出てみたい」
 サスペンスもどきは最初だけで、後は普通にエルゴマンサーとのバトルになったのだが。
「推理ものかー。湯けむり温泉殺人事件?」
「トイレに起きたときに物音を聞く子供の役で」
「あるある」
「『ぼく、見たんです! あれはきっとこの辺りの言い伝えで言われている怪物なんですよ!』って警察の人に言う役です」
「あるある。犯人は子供がそう言ってるからいいやと思ってあとで決め手になっちゃうんだよね」
「そうですそうです」
 二人で二時間ドラマあるあるを言い合いながらくすくすと笑う。


「もし、グロリアスドライヴの世界に生まれ変わったら、もうナイトメアはいないわけだから、戦うことはなくなるよね。残党狩りはあるかもだけど」
 ぬいぐるみを抱きながらcloverが言うと、クラーティオは頷いた。
「そうですね。作中よりぐっと平和な世界になっていると思います」
「平和な世界でたくさん遊んでほしいなー」
「旅行にも行きたいですね。クラーティオは三十年、アフリカに引きこもってたから、前世の記憶のあるなしに関わらず旅行に行きたそう」
「旅行かー。クラーティオくんはどこに行きたい?」
「ぼくは乗馬体験したいなぁ。蛇の背中に乗って逃げるシーン、あったじゃないですか。本物の動物乗ってみたいなぁ。蛇は左右だけど、馬は上下に動くから勝手が違うと思いますけど」
「行く? 乗馬体験」
「行きたい! です!」
 クラーティオは万歳して叫んだ。
「クロおねーさん、乗馬服似合いそうですよね」
「そうかな。そうだったら良いなぁ」
 端末で乗馬服や乗馬体験について検索し、この馬が可愛い、だとか、走ってる姿が良い、だとか言い合いながら二人はお菓子を摘まむ。
 その眺めは、さっきclover役の少女が……作中のcloverも望んだようなものなのかもしれない。生まれ変わった二人の、姉弟としての何気ない日常。
 “次”に会えたら、こうやって行きたい旅行を考えるのだろう。そんな空気がそこにはあった。

 やがて、それぞれの休憩時間が終わった。またね、と再会の約束をして、二人は休憩室を出て行く。軽い足音が二つ、それぞれ別の廊下を走って行った。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
幸せって割と「思えば幸せだった」とか「これが幸せなのか……」と実感するイメージがあるので、「クラーティオ」の「幸せ」についてはこんな感じかなぁ……と。ただ、安心は幸せの土台だと思います。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年02月01日

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