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『薄暮の後には月が出る』
日暮 さくらla2809)&柞原 典la3876


 日暮 さくら(la2809)は夜叉の外套を翻して窓を伝っていた。EXISインカムからは、バディを組んでいるヴァージル(lz0103)の声が聞こえる。
『こちらで争うような物音があったと通報がありましてね。ナイトメアの目撃情報もありましたので、自分たちが出動しました』
 前職が保安官代理であることもあって、この手の説明には慣れているようだった。その間に、さくらは目当ての窓を見つけてその脇に控えた。部屋の中からは宴会の声が聞こえるが、耳のインカムに注意を払う。
『わたしだ。これから突入する』
 サイレン(lz0127)の声が聞こえた。
「了解しました。目撃者は?」
『うさぎが脅した』
 鋏を振り回すヴァルキュリア、ワンダー・ガーデナー(lz0131)のぐるぐるお目々に見つめられて脅されたら、大体の一般人は言うことを聞くだろう。相手には悪いが、想像したらちょっと面白い。
『いいぞ。せーのでぶちやぶろう』
「了解です。せーの!」
「SALFだ! おまえたち大人しくしろ! わたしは下のやつほど優しくないぞ!」
 さくらが窓から飛び込むのと、サイレンが襖を開けて踏み込むのは同時だった。中の人間たちは、驚いて彼女たちを見る。部屋の奥にある再生機から、宴会の音が流れていた。
「あなたたちがここで宴会に見せかけて、SALF関連施設の襲撃を目論んでいるのはわかっています。彼女の言うとおり、大人しく……」
 しかし、突入したのが、十代の少女二人だった、という事が相手の傲慢を誘った。なんだ、女二人じゃないか、と。男性が多かったレヴェルたちは、それぞれが隠し持っていた武器を持ってこちらに向かって来た。さくらは無拍逆襲撃で反撃。当然峰打ちだ。サイレンは容赦なく死霊沼で足止めをはかる。
「大人しくすれば、命までは取りません」
 さくらは白刃の切っ先を突きつけた。それでもなお無駄なあがきを見せる者の武器は、ジャックポットで弾き飛ばした。
『俺だ。一階は制圧。応援いるか?』
 バディの声が聞こえる。
「お願いします」

 ほどなくして、この会合は取り締まられた。応援も駆けつけ、続々と拘束されたレヴェルたちが連れ出される。
 少し離れた所に、一台のバイクが見えていた。他のライセンサーや警察にそちらを任せて、さくらとヴァージルはバイクに歩み寄る。
「何か事件ですか?」
 バイクの主は艶やかな微笑みを浮かべてこちらを見た。柞原 典(la3876)だ。ヘルメットを抱えて、革のバイクスーツに身を包んでいる。
「助かりました。ありがとうございます」
 さくらが丁寧に礼を述べる。典はヴァージルを見た。
「……助かったことは認めるが、お前どこであんな情報手に入れたんだ?」
「なんや、日暮嬢さんみたく素直に礼言ったらどうなん?」
 唐突にお国言葉へ切り替えた。ヴァージルは肩を竦め、
「ありがとう」
「感情がこもってへんわぁ。何なら態度で示してくれてもええんやで」
「それにしても、あなたも毎回私たちの仕事を見届けに来るとは律儀ですね」
 さくらが言った。

 典は情報屋である。以前はさくらたちと同じライセンサーであったが、とある事件をきっかけに引退。今はどこでどう仕入れているのか、ライセンサーに情報を売ることで生計を立てているようだった。色仕掛けなども使っていると噂されており、ヴァージルはその度に難しい顔をしている。
 さくらと組む前に、ヴァージルは典と組んでいた。息の合ったバディであったが、傍を離れた途端、典の在り方はもうヴァージルの知るものではなくなっていた、妖艶なる謎の情報屋。ヴァージルにとっても、すっかり私生活の見えなくなってしまった典。ヴァージルから「謎の」という形容詞を付けて差し支えなかった。
 けれど、典はヴァージルを嫌ってはいないようで、今でも「兄さんとのデート、報酬に追加してくれたら仕事したるよ?」などと言ってからかっている。そう言うときの典は輝いているなぁ、と密かに思うさくらである。

 そんな二人を見て、サイレンが呟いた。
「あの二人、どっちが右でどっちが左だと思う?」
「利き腕なら、ヴァージルが右で典が左です」
 軌道修正を図るさくらなのであった。


 そんな中、SALF内で一つの作戦が持ち上がっていた。
 テキサスにあるインソムニア・サンドキャッスルの支所と呼べるナイトメア要塞。そこを破壊すると。南部にあるテキサスから、アメリカ北部を襲撃するための中継地点になっている。アメリカ中部の、だだっ広い草原のど真ん中に建てられていた。
 ヴァージルは典に連絡を取った。何かあの要塞のことで知っていることはないかと。典はあると答えた。そして待ち合わせ場所に、かつてヴァージルと食事に行ったドイツ料理屋を指定した。

 二人が指定の店に行くと、典はポメスをつまみながら待っていた。仕事の話をするときは、彼もアルコールは摂らない。一緒に来たさくらを見て、
「なんや、子連れかいな」
「そうです」
 彼女は真面目くさって頷いた。
「相変わらずお堅いわぁ」
 典が色仕掛けで情報を得ると聞いて、「破廉恥はいけないと思います」と毎度真顔で諭している。一方の典は、まだ十代に留まるさくらを時たま「お子様」扱いすることもある。付き合いが浅いこともあり、ヴァージルのおまけ、という認識のようだ。
「で、情報って言うのは?」
「ポメス代も情報料に追加させてもらうな」
「わかったよ。それで、知ってることを教えてくれ」
「ん。あの支所な、最上階がぼうっと光っとるんやけど、それは知っとるな?」
 その光る最上階にコアがあると目されている。
「せやけどなぁ、それ囮やねん」
「本物が他にあると言うことですね」
「そ。あのインソムニア、やたらと小手先のはったりだけ上手いエルゴマンサーがおるやろ」
「あいつか」
 弓使いのエルゴマンサーだ。
「提案者はそっちやて。で、コアは五階建ての三階に置いてあるらしい……ちゅう話や」
「なるほど。ところで……」
 ヴァージルは少々心配するような顔つきになった。
「それ、誰からどうやって聞いたんだ?」
「ソースは明かせんなぁ。信用に関わる」
 典は艶然と微笑んだ。ヴァージルが何か言おうとしたその時、さくらの端末に連絡が入った。サンドキャッスル支所が動いた。急だがこれから突入する。合流してほしいと。
「ヴァージル」
 さくらはバディに声を掛けた。
「サンドキャッスル支所が動きました。これから破壊作戦を前倒しで開始するそうです」
「了解。じゃあ、典、俺たちはこれで。情報ありがとう」
「兄さん」
「ん?」
 ヴァージルが振り返ると、典が彼を抱きしめた。
「気ぃ付けて」
 意外な思いでそれを聞いていた。なかなか離れようとしない典の背中に腕を回し、軽く叩く。
「ありがとう」
 行ってくる。ヴァージルのその言葉を別れにして、ライセンサー二人は出発した。


 サンドキャッスル支所にはサイレンとガーデナーも合流していた。到着した二人を見て、
「わたしたちは露払いをするから、おまえたちは五階に行け」
「いえ、それは囮だそうです」
 さくらは今しがた典から得てきた情報を、かくかくしかじかと聞かせた。ガーデナーは首を傾げて、
「電気代がもったいないぞー」
「電気はパクってんだろ。連中が金払うわけねぇ」
「わかった。じゃあわたしたちは陽動する。大騒ぎしながら五階にいくから、その間に三階のコアを壊せ」

 ガーデナーに「好きなだけ喚いて暴れて良い」と言ったところ、彼は十二分にその役割を果たした。ここに書くことは憚られるが、俗に言う「奇声」と呼ばれるものを上げて五階に向かって突進する。サイレンがそれに付き添った。少し遅れて、さくらとヴァージルも後を追う。ただし、行き先は三階だ。
 ちょっと! お前来るの早いよ! ていうかお前たちだけかよ!? あ、ちょっと、鋏はやめてぇ〜〜〜!!!!
 階上からは、弓使いエルゴマンサーの悲鳴が聞こえた。目を剥いているのが想像できる。二人は顔を見合わせて、三階に入った。

 コアの警備には、レヴェルと小型のナイトメアたちが当たっていた。どうやら、五階に陽動を送り、少数で三階のコアに来ることは読まれていたらしい。情報が流れること自体を予想していたとも言える。
「さっきの間抜けな悲鳴もわざとか……」
「あれは真に迫っていたように思えますが……」
 奇声と共に飛び込んできたガーデナーを前にしたら、いかにエルゴマンサーであろうとも冷静ではおれまい。
 それは置いておくとして、ライセンサーのイマジナリーシールドを破壊するのに特別な道具は要らない。殺人鬼がチェーンソーで襲いかかって来たら、状況によってはライセンサーの方が死ぬ可能性すらある。それを向こうも理解しているのだろう。二人で相手にするのは、確かに無謀な数だ。
 しかし、だからと言って引き下がるわけにもいかない。
「覚悟は?」
「知れたことを」
「だな」
 笑みを交わす。二人は同時に銃を抜いた。銃に対する向上心は、この二人を結びつける物の一つだ。
 一触即発のまさにその時、二人の背後から、頭上を越えて何かが放り込まれた。さくらが目を見開く。
「伏せて!」
 ヴァージルを引っ張って、その場に伏せた。次の瞬間、それが……閃光弾が炸裂した。悲鳴が上がる。
「ナイトメアは任すわ」
 聞き覚えのある声がした。ヴァージルが顔を上げると、立っているレヴェルを背負い投げで転がす、銀髪の男が見える。すぐにナイフでライフルのスリングを切り、武器を取り上げた。ライセンサーを辞めた彼は、EXISを持っていないのだ。
「典!?」
「話は後です! 典、レヴェルは頼みます!」
 さくらは刀に持ち替えると、ナイトメアに羽断ち・迅による二連撃を喰らわせた。ヴァージルはライトバッシュで殴打を与える。
 視界を取り戻したレヴェルの一人が、銃口を典に向けた。
「典、伏せてください」
 さくらが合図すると同時に、素早くヨルムンガルドを抜いて相手の拳銃を撃ち落とした。丸腰になった相手は、ヴァージルが襟首を掴んで引き倒す。
「両手を背中に!」
「ヴァージル、後ろです!」
 さくらの声に振り返る。すぐ傍まで迫っていたナイトメアに銃弾を撃ち込んだ。


 三階の制圧は済んだ。気が付くと、五階でエルゴマンサーを追い払ったガーデナーとサイレンが降りてきていて、コアに鋏と槍をざくざく突き刺していた。あっという間にコアは破壊されて、拠点は機能停止する。ヴァージルたちは典を伴って要塞を出た。
「助かったよ」
「本当に。ありがとうございます」
 二人は彼に礼を述べる。ヴァージルが少々難しい顔をして、
「それにしても、俺が五階の陽動行ってたら会えなかったな」
「ん? いや、俺兄さん助けに来たんやで。発信機渡したやん」
「そうだったのですか?」
 さくらが驚いてヴァージルを見る。私には教えてくれても良かったのでは、とその顔は言っていた。責めるのではなく、信用がなかったのかと少々しょんぼりしてもいる。
「違う、知らない……」
 典がヴァージルに抱きついた。腰の辺りをまさぐられて仰天する。
「典!?」
「破廉恥は良くないと思います!」
 さくらが叫んだ。
「お堅いなぁ。それに破廉恥ちゃうよ。これやこれ。兄さん気付いとったのかと思うたよ」
 典の指には、小型の機械が挟まれていた。
「……あの時か!」
 出発前に抱きしめられた時、密かに忍ばせていたらしい。
「……なんや、兄さん。鈍いなぁ」
「ヴァージル、それは少々迂闊だったと思います……あの、責めているのではなくて、心配です」
「わかってる……」
「え、なんや、俺と嬢さんで扱いちゃうやん」
「さくらは純粋に心配してくれてるってわかるからな。お前は面白がってるだろ」
「心配しとるから、こないなもん付けて兄さんのピンチに駆けつけてやったやろ」
「ほんとかぁ? これで恩売って報酬吊り上げようとしたんじゃねぇのか?」
「わかる? ほんだら、デートしよ」
 典はヴァージルの腕を抱いた。ヴァージルはさくらを見る。彼女は頷いた。
「行ってきて下さい。仕事には報酬が必要です。報告は私たちが」
「悪いな……」
「いえ、あまり飲み過ぎないで下さいね」
「気を付ける」
 報道のヘリも来ていた。さくらはその音を聞きながら二人を見送ると、サイレンとガーデナーを促して撤収の準備を始めた。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
最初のご発注イメージから大幅に外れているのだとは思いますが、楽しんで頂ければ幸いです。
普通だったら、三階の待ち伏せは典さんの裏切りを疑われそうなところですが、さくらさんもヴァージルも典さんのことは信じてそうだなと思いました。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年02月01日

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