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『因果を断つモノ』
フェイ・F・ブランディングla2893)& ネムリアス=レスティングスla1966

●信号
 フェイ・F・ブランディング(la2893)は、己の黒い両腕を見下ろした。
 それは機械化された義手で、今までは自分のオリジナルの信号を受信していたのだが。

 その信号が途絶えて数ヶ月経つ。


 フェイは放浪者だった。
 どうやってこちらの世界に来たのかは定かではない。その時フェイは眠っていて、目覚めた時にはもうこの世界だったのだ。
 元の世界とは違う世界だと気付き、またオリジナルとなる存在――『奴』もこちらの世界にいると知った時は、奴を倒し、奴より優れていると証明することしか考えてなかった。
 誰に証明するつもりだったのか……おそらくは、奴より強いと納得することが自分自身の存在証明だったのだろう。
 でも。

 今のフェイにはそれが自分の全てではなくなっていた。

 『姉』と出会ったから。
 血の繋がりはないが、フェイを気遣い、世話をし、優しく包み込んでくれる存在。
 今は本当の姉弟のように一緒に暮らし、フェイは生き方が変わった。
 今までは奴のクローンであることに、どこか『周りの人間達とは違う』という一種の疎外感や罪悪感のようなものを感じ、自分は何者なのかと度々考えていたが、姉のおかげでもうそんなことはどうでも良くなった。
 彼女はフェイはフェイでいいと無条件に受け入れてくれる。
 フェイもそれでいいと思うようになったのだ。
 自分が何者かということに振り回されず、自分らしく生きたいと。

 そんなふうに自分が変われるなんて思ってもいなかったけれど、今の姉がいる生活はフェイにとって大切なものになった。


 そして今現在――。
 信号が消えもう数ヶ月だ。生きているなら奴の信号を発する義手を修復するはずで、それがないということは、死んだのだろうとフェイは思っていた。
 結局奴と相対して自分の方が優れていると証明する機会はなかったけれど、それでも構わなかった。
 それなのに。

 消失したはずの奴の信号を、義手が再び受信したのだ。
「生きていたのか――?」
 フェイは腕を見下ろしながら硬い声でつぶやく。
「でも、まさか……」
 今更そんな訳はない、ような気がする。
 しかし奴の信号はしっかり受信していて、それは確かだった。
 何かの誤作動か誰かのいたずらか。はたまた未知なる力の仕業か。
「確かめに行くしかねーか……」
 不審に思いながらも、フェイは信号の発信源を追うことにした。

●残留思念
 ネムリアス=レスティングス(la1966)は戦いの果てに消滅した。
 とある孤島で、大きな爆発もあったほどの激しい戦いだ。ネムリアスは己の全てを賭けて、まさに命を燃やして戦い宿敵を滅し、自分も消えたのだ。
 その時の思いが大きく強すぎたのだろうか。
 それとも残留思念と呼べるモノがイマジナリードライブに反応したのか。
 本当のところは誰にも分からない。
 だが、ネムリアスの想いは力へと変わり、蒼い炎が残骸となり果てた義手にまとわりつく。
 すると、義手の中から大小様々な金属のプレートのような物が出て来て組み合わさり、炎に形を与えていった。

「お……、お……おぉ……!」

 義手を媒体に、ネムリアスは今までの外見とは違う、全身を金属の鎧で包んだ仮初の体を手に入れた。
 体中から蒼い炎を噴き出させ、バイザーで覆った顔に赤い眼光が灯る。尖った指を持つ手は動きを確かめるかのように何度か握られては開かれ、細身でありながら力強いその姿は、まるで蒼焔の魔人のようだ。
 それから、義手はとっくに機能しなくなったはずの信号を発信しだした。

「来い……ここへ……。俺を倒すためだけに生み出されたクローンよ」

 ネムリアスは、自分のクローンであるフェイを呼び寄せようとしていた。

 奴はきっと、昔の俺のように、一度ならず自分の存在意義を考えたことがあるに違いない。
 幸か不幸か自分が宿敵を追っている間奴と会うことはなかったが、だからといってその考えに囚われなくなった訳ではないだろう。
 奴は問題を先送りにしていただけだ。やがてそれは奴の心を苛む。
 自分がいなくなれば奴がそれから解放されるのか。
 いいや、とネムリアスは仮初の首を緩く振って否定した。
 このままだとむしろ中途半端に感情が宙ぶらりんなままで、余計心の奥底で燻ぶらせるだけになる。
(奴が俺のようにならないように)
 ネムリアスは結局自分自身を許せず、自分の全てと引き換えに宿敵を倒すことでしか己の存在意義を見出せなかった。
 だけど奴にはそういう修羅の道を歩んで欲しくない。
 大事なものを失う前に。
「せめて、奴の作られた意味を果たさせてやろう……」
 それは奴のオリジナルである自分を倒すこと。
 奴はきっと来る。

 確信を持って、ネムリアスはフェイが現れるのを待っていた。

●対決
 地図にもない孤島――。
 遠くには山の稜線が浮かび、夜の明けない浜辺が向こうまで広がっている。景色だけは平和そのものの砂浜に、フェイの追っていた信号の発信源がいた。
 そいつの姿は知っていたものとは違っていたが、フェイにはすぐにそれが『奴』だと分かった。
「本当に奴からの信号だったとはな……」
 半ば意外そうに、半ば予想通りだとばかりに、フェイは独り言ちる。
 奴の立つ青白い砂浜に、フェイは距離を取って降り立った。

 黒い仮面に黒い外套、黒い義手の両腕のフェイと、蒼焔を纏う白銀と蒼の魔人は、お互いを認め対峙した。

「貴様はこの世に存在するべきではない」
 蒼焔の魔人ネムリアスは宣言するなり、フェイに対する敵意をむき出しにして突然襲い掛かる!
「!!」
 蒼い炎を伴う拳が、矢継ぎ早に繰り出される。
 怒涛の猛撃をギリギリで避けるフェイ。
「なめんじゃねえ!」
 まだ少年の体格とはいえ、戦闘のために作られたフェイの戦闘センスはかなりのものだ。
 すかさず自分も拳を繰り出し蹴りを放って応戦するが、それらはことごとくネムリアスの炎の幻影でさばかれてしまう。
「お前の力はこんなものか?」
 馬鹿にしたように魔人が挑発すると、フェイは未熟な精神の子供らしく、
「こんなもんじゃねぇよ!!」
 と苛立ちも露わに拳を振うが、中らない。
 それでもネムリアスは攻撃の手を緩めず、時には言葉でもフェイを追い詰めていった。

 疲れを知らないのか、蒼焔の魔人は拳で打ちかかっては足を払ってきたり、頭突きをしてきたと思ったらいつの間にか後ろに回り込んでいたり、次々と攻撃を仕掛けて来る。
 フェイはそれらを避けるだけで精一杯で、防戦に傾きつつじりじりと後退させられる。
「どうした? 防御しているだけでは勝てないぞ? こんなもんじゃないなら、その力を見せてみろ」
「うるせぇ! 言われなくても、お前をブッとばしてやるからな!」
 フェイはネムリアスの拳が頬をかすめた瞬間、数少ない攻撃のタイミングにここぞと手刀を突き出した。
 しかし、手刀は炎に突っ込むばかりで何の手応えもなく、逆に腹に膝蹴りのカウンターを食らってしまった。
「ぐはッ」
 思わず身を折ってよろける。
「情けないな。粋がるしか能がないのか」
「黙れ!」
 ネムリアスの辛辣な言葉にフェイは怒り叫びつつも、心を冷静に保とうと努める。
 挑発に乗せられた力任せの攻撃は無駄だと何度目かでようやく悟ったところだが、かといって隙を狙って出す拳はかすりもしない。
(一発中りさえすれば……!!)
 奴とて無傷でいられるはずはない。
 だが、どれだけ火力があろうとも中らなければ意味がないのだ。

 フェイはどうやったらネムリアスに攻撃を中てられるのか、打開策を見つけられないままどんどん追い込まれていく。
「お前は、ただの無力な子供だ」
 魔人の嘲りが、フェイの認めたくない所を的確に突いて来る。
「くっ!!」
 ネムリアスの素早い回し蹴りをフェイは胸の前で交差した腕で受ける。しかしあまりの勢いに弾かれ、膝を付いてしまった。
(足が――!)
 早く体勢を整えなければと思うも、体力が尽きかけていて体が思うように動かない。
 すでに目の前までネムリアスが迫っていた。
「っ!!」
 ネムリアスはフェイを見下ろす。
 その黒い仮面の下にある少年の顔を。
(己の限界を超えていけ)
 でなければいつかフェイは後悔することになるだろう。
 フェイへの思いを胸に、ネムリアスは言った。
「弱いな、その程度では……所詮お前も、大事な人を守れない」
 この揺さぶりで奴が自分の力を引き出すことができれば。けれどもフェイの耳にはネムリアスの気持ちまでは届くはずもなく。
 勝ち誇ったように魔人の口から放たれた言葉が、フェイの胸を抉った。

 不意にフェイはネムリアスの記録を思い出した。

 ネムリアスは恩人でもある大事な人を殺されただけでなく、その亡骸さえも創造主達に利用され、己の手で葬ったのだ。
 まるで自分の目の前で起こったかのように再現される記録。その光景にフェイは自分と姉の姿を重ねてしまった。
 瞬間、体の内からマグマのように感情があふれ出す。
「違うッ! 俺は……お前のようになったりしない!」
 フェイの拳が眩く光った。
 スキルシャインエッジを発動し、光速で蒼焔の魔人を殴り飛ばす。
「俺はお前を超えていくッ!」
 続けて灼熱砲『レッキングブラスト』を放つ。
 フェイの全身に赤い稲妻が走り、極限まで凝縮したエネルギーを集めた両腕を十字にクロスした。
 腕から赤い稲妻を纏った必殺光線が、一直線にネムリアスへと向かって行く。魔人の体を赤い光線が貫いた。
 そこからさらに技を繋げて、フェイは義手の掌から八裂光輪『クリムゾンスラッシュ』を射出する。
「大事な人は俺が守る!」
 自分を本当の弟のように思い、優しさを、愛情を、誰かを大事だと思う心を教えてくれた姉を、誰にも傷付けさせるものか。
 深紅の超高速回転する光輪を手にネムリアスとの間合いを詰めたフェイは、姉への思いのありったけを込め、躊躇いなく魔人の仮初の体を大きく切り裂いた!

●炎は消えて
(――これでいい――)
 ネムリアスは満足していた。
 フェイは見事限界を超え自分を打倒し、彼自身の力を、確固たる己の生きる意味を示したのだ。
 崩れゆく仮初の体の奥で、ネムリアスは微笑んでいたのかもしれない。それは誰にも見られることはなかったが。
「……俺のようになるなよ。あばよ」
 最後にそう言い残して。
 ネムリアスだったものの意識、残留思念は役目を終えたとばかりに蒼焔と化し、海から吹く風に頼りなく揺らめき小さく千切れ始める。
 炎が散って行くのを見つめながら、フェイはネムリアスの真意を悟った。
「……化けて出るなら他にやることがあっただろう? 成仏しろよ、糞オリジナル」
 憎まれ口のようにそうつぶやく。
 消滅しても思念が蒼焔の魔人となり、フェイをここに呼び寄せるほどに……、奴は奴のクローンである自分のことを気にかけてくれたのだ。
 優しい言葉ではなかったけれども、それはそんなネムリアスに対する、フェイにとっての精一杯の手向けの言葉だった。
 フェイは蒼い炎がすっかり霧散してしまうのをずっと見送っていた。何だかそうすることが、礼儀のような気がして……。

 夜の明けない砂浜で、静寂がすっかり辺りを包んだその場に残ったのは……、壊れてボロボロになった片腕の白銀の義手だけだった――。



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご注文ありがとうございました!

今回はネムリアスさんの、フェイさんに対する父親のような兄のような思いが伝わるように、そしてフェイさんのこの戦いでの成長を意識して書かせていただきました。
最後はちょっとしんみり、という感じも悪くないと思っていただけたら嬉しいです。

どこか解釈が違うという所や、ご希望に添えていない描写などありましたら、小さなことでも構いませんので、ご遠慮なく(お早めに)リテイクをお申し付けください。

OMCが終了する前に、またご注文いただけたら嬉しいです。
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2021年02月01日

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