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『我儘な願い』
LUCKla3613)&ソフィア・A・エインズワースla4302)&アルマla3522)&アクイレギアla3245)&リンド=M=ザクトシュヴァインla4247

「正直頭おかしいですからね?」
 映画鑑賞仕様のイシュキミリ(lz0104)が、それはもう嫌そうに顔を顰めてみせた。
 砂製の依代で、ここまで見事な「嫌気」を表わせるのは見事のひと言である。
「今さらだな」
 LUCK(la3613)はツーポイントフレームの眼鏡を押し上げ、仏頂面に不敵な笑みを返した。
 まあ、イシュキミリのセリフと態度は当然のもの。なぜならここはLUCKの率いる小隊のたまり場で、今は彼らの年越しパーティーの会場だから。そこに彼女がいるという今の状況、普通にクレイジーだろう。
「たいちょー、テーブルの用意できましたー!」
「わふふ。テーブルクロスはぼくがふぁさーしたです」
 ソフィア・A・エインズワース(la4302)とアルマ(la3522)の双子――金髪美少女ともちもち謎生物の組み合わせで、とてもそう見えないのだが――が、LUCK宅のリビングテーブルのセッティングを終えたことを報告してきたが。
「んきゅ! ラクニィのおてづくりごりょうり! あじみするです!」
「こら兄貴! いい子でおすわりだよー、待てっ」
「きゅうう」
 すでに似てないどころか、飼い主ともち犬の域にまで到達しているのはどうかと思うが、
 と、ここでイシュキミリの両手を取り、上下に振り振り友好の意を示したのはアクイレギア(la3245)だ。
「あ、どーもどーも。ウチの隊長にストーキングされてるそーでご愁傷さまでっす。いやいや、私なんにも知りませんし言わないんですけど、あれですね。ほんとLUCKさんが好きそうな感じですよね。依りし――じゃなくてミステリアスぅ〜! おまえもそう思うだろ、な、リンド!」
 アクイレギアはまくしたてた末、そっと気配を消していたリンド=M=ザクトシュヴァイン(la4247)へ振る。
「ヲ? そうなのか、ヲ? でも、イシュキミリさんってエ」
 普通に疑問を述べようとしたリンドへ猛ダッシュするアクイレギア。リンドの鬼面の口あたりをぱちっと掌で覆い、大げさに「しーっ!」。
「そういうのは黙っといてやんのが仲間だろ? 気にしないから気にならない!」
「あ。あー、そうだヲ。またガバったヲ」
 わざとらしく頭(といってもヘルメットの上だが)を掻くリンド。
「あるよねそういうことー」
 ソフィアがフォローに入り、
「わふふ。じつにありがちなあるあるですー」
 アルマが合いの手を入れて、4人そろってあっはっは。
「まったく、仕方のない奴らだな」
 苦笑して息をつくLUCKへ、イシュキミリはツッコむよりなかったのだ。
「ごまかしかた雑じゃないです!?」
 この場にいるのは、イシュキミリを除いて全員LUCK率いる小隊のメンバーだ。そこになぜ彼女がいるかといえば、油断したからというよりない。
 ……今日の昼、いつものごとくLUCKの待ち伏せにあった彼女は、「いつもの面子で年越ししようという話になっていてな。その、最終決戦を乗り越えた記念だ。おまえも招待したい」と手を取られたのだ。
 いつもの面子といえばあの似ていない双子だろうし、だとすれば細からぬ縁を結んでいる仲だ。目の前のLUCKとは、言わずもがな。実際はこの仕末なわけだが。
「うち的にはぜんぜんいつもの面子じゃないんですけど」
 恨みがましく言うイシュキミリに、LUCKはこともなげに応える。
「決戦が終わり、敵味方もなくなったんだ。そこでまであれこれ気を回し過ぎてもおもしろくないだろう。今日は集まれなかったメンバーもいるんだが、折を見て紹介したい。皆、過ぎるほど鈍感な奴らだからな」
 LUCKの表情がふわりと緩む。固さの消えた後に顕われた表情は、人の悪い――茶目っ気を含めた笑み。
「俺が追いかけている女だ。隠しておくよりも見せびらかしたくなったのさ」
 どこまで本気なのか。いや、大概本気なのだろう。そして本気以上に、覚悟を据えている。
 はいはい、ラクさんの意図は了解しましたよ。了解だけは、ですけど。
 イシュキミリは深いため息をつき、アルマがもちもち運んできたシャンパングラスをひとつ取った。そして全員にグラスが行き渡ったところで高く掲げ。
「映画大好き人間じゃない何者かな感じのイシュキミリです乾杯!」
「あらためましてアクイレギアですヨロシクっ!」
 ノリノリのアクイレギアに続き、リンドもおずおずとグラスを持ち上げて、
「……リンドですヲ。装備を解けない理由があるので、このままで失礼しますヲ」
 彼の体を視線で撫で斬ったイシュキミリはちらとLUCKを見る。これ、うちが関わっていいやつです?
 唇で答を紡ぎかけたLUCKは、返答待ちしているイシュキミリを追い越し、リンドへ絡み始めたソフィアを見る。そして思念という名の電気信号を込めた指先をイシュキミリの手へ乗せ。
 これについてはザクトシュヴァインとエインズワース次第だ。
「リーンド君っ! ちゃんと食べてる!?」
 テーブルに並んだ料理をほいほい小皿へ取り、リンドへ突き出すソフィア。その手が妙にぞんざいなのは、演技の裏に押し込みきれなかった恥じらいのせいだ。
 もっともリンドは、そうした非デジタルな心情の揺らぎに疎いので、気づいたりしないわけだが。
「あ、ありがとヲ。でも、まだ乾杯したばっかりだヲ」
「とっとかないと兄貴が食べ尽くしちゃうから! たいちょーのごはん、大好物だからね」
 ソフィアとリンドの視線が向いた先ではごきげんな顔のアルマがわふふんわふふん。テーブルに並んだ料理の中からLUCK製のものだけを選び出し、ぱくついていた。
「わふー。これはラクニィのおてづくりじゃないです。これはラクニィのおてづくりです。それもラクニィのおてづくりですね!?」
「魔王様って、なんかヘンなレーダーとか埋め込んでんの?」
 店の商品とまるで見分けのつかないLUCKの手料理を探知するレーダー。そうアクイレギアが疑わずにいられないほど、アルマのチョイスは正確なのだ。
「わふふ、ぼくのおからだはラクニィせーぶんでできてるですよ。ささ、レギアもたくさんたべるといーです。かのじょさんのためにもおっきくそだてですよ」
 こう見えて、としか言い様がないのだが、この世界へ流れ着いたアクイレギアを保護し、名を与えたのはアルマだ。だからこそアクイレギアがアルマに恩義を感じるのはわかるとして、なぜ「魔王様」と呼んで敬愛しているのかは不明である。
「ちょまっ!? なンデ魔王様知ってんのォオオオ!? いやマジでツガイになれたらなーってねーちゃんがいるんだーってのはオープン情報だけどっ! そんときの俺が最っ高にカッコ悪かったハナシとかアレとかコレとかは隠蔽情報だったでしょー!?」
 どっから漏れたんだよコレぇええええ!?
 漏れてないことまで喧伝するスタイルに、イシュキミリは眉を困らせてかぶりを振った。
「RPGとかの中ボス向きな人材ですねぇ」
「黙っていれば美少年というやつなんだが、そうなってしまえば奴は奴としての有り様を喪う。……難しい問題だ」
 こっそり言い合うイシュキミリとLUCKをよそに、アルマはいつにない父っぽさ全開、もちんと胸を張るのだ。
「わっふっふ。それはひみつなのです。でも、レギアのことならなんでもおみとーしなぼくですゆえ!」
 反っくり返りすぎてひっくり返りそうになったアルマをキャッチしたソフィア。そのままアルマを膝の上に乗せて言葉を投げる。
「レギア君、いつの間にかそんなコイバナ始めてたんだー?」
「うっす、お世話ンなんってます、魔王様の……妹サン!」
 アクイレギアが言い淀んだ理由は、彼にとってアルマは養父で、だからソフィアは叔母のポジションにあるからだ。しかしそれを言わないだけの慎みが彼にも備わっているので、きちんと踏みとどまってみせたという流れである。
「いや、ほんとマジで、まだ俺が思ってるってだけのハナシなんで。どうなんすかねェ」
 リンドはなにも言わないまま、はにかむアクイレギアの肩を伸ばした腕で抱え込み、反対側の腕をぽんぽん叩いた。
「情報で見たヲ。こういうとき、こうするヲ」
 情報というものを扱うに長けた彼は、逆にすべてを他者からの情報に倣う悪癖を持っている。が、今このときの腕には、友ならではの精いっぱいの気持ちが込められていた。
「うまくいくといい。願ってるヲ」
 幸せになってほしいのだ、アクイレギアには。過ぎた口数で大損しているこの少年は、リンドにとってかけがえない友だから。
 LUCKに命を救われ、アルマに体を救われ、アクイレギアに心を救われ、ここにいる。いや、それ以上に、リンドという存在そのものを救ってくれたのは――
 リンドの視線に、ソフィアが視線を合わせる。
「なになに?」
「なんでもないヲ。ありがとうって、言いたかったヲ、フィーさんに」
 ファーストコンタクトで「フィーって呼んで!」と言われてからそれなりの時間が経つが、まるで呼べずにきた。「エインズワースさん」から始めて慣らし、なんとか「ソフィアさん」へ行き着いたのがつい先日のこと。それが今日になって、これほどするりと「フィーさん」を口にできるとはどうしたことだろう?
 わからないままソフィアを見つめるリンド。
 そんな彼に猫のように目を細めた笑みを返し、ソフィアは「どういたしまして!」とサムズアップを決める。
 あー、これ以上、僕を救わないでくれヲ。惜しくなって、僕は、もう――
「俺もありがとうだぜリンドーっ!!」
 がっとアクイレギアが肩を組み直してきて、心のどん底へ沈み込んでいこうとしていたリンドをぞんざいに引っぱり上げた。
「にしても、お互い悪運強ェよなァ! 決戦終わって生きてンだぜ俺ら!」
 最終決戦で自分たちが生き延びられたのは、まさに運の作用も強かったと思う。だからリンドは「ヲ」とうなずいたのだが。
「祝おうぜ? みんないっしょに、生きてる自分のこと」
 ――撒き散らす言葉の中に、この少年は時折抜き身の真を忍ばせてくる。自分を死の呪いへ放り込むな。今このときの生を皆と分かち合い、祝え。
 こういうとこ、マネできないヲ。
 思いながら、リンドはアクイレギアを押し放した。
「了解ヲ。だったらレギアじゃなくてフィーさんと祝うヲ」
「水くせェなココロの友よォ〜っ!」
 じゃれあうふたりを肴に、双子はまったり料理を味わう。
「フィー。ひつよーになったらおもいだしてくださいです」
「なに、その顔でまじめなこと言っても決まんないよ?」
 と、ソフィアが返した次の瞬間。膝の上にいたはずの謎生物が彼女の傍らに座す長身の美青年へと姿を変えて、
「僕はいつだってここにいますよ。かつて魔王の卵と呼ばれ、今は半分の魔王と成り果てた僕が。ですので、“そのとき”が来たなら思い出して。僕ならフィーを……できる」
 アルマが音にしなかった言葉は今、ソフィアの頭の内で熾火のごとくに熱を発し、存在を主張していた。
 兄貴ありがと。そのときが来たら、どうするにしてもちゃんと話すから。兄貴にも、たいちょーにも。
 彼女の表情になにを見たものか。アルマは涼やかな視線を彼女から外してなにも気づかない振り。そして。
「わふーい。タイムリミットですー」
 しるしる縮んでぽてんと床に落ち、ソフィアの膝に這い上る。
「アルマ技師、フィーさんの独占はだめだヲ。次は僕の番だヲ」
 それを阻止してアルマを高い高いしたリンドへ、アクイレギアがすかさず食いついた。
「リンドおまっ! 赤ん坊みてェに扱ってるそのお方がなんなのかわかってねェだろ!?」
「フィーさんのお兄さん、だヲ?」
「本人曰く半分魔王らしいよ? 敬ったげて」
 ソフィアの言葉に、あらためてアルマを見るリンド。わきわき動くもちもち触感の謎生物は、確かに普通の人間ではありえないが。
「わふん。あたまにのせてくださいです。たかいとこはえらさのしょーちょーですよ」
 高いところは偉さの象徴? 猫かヲ。思いながらも頭の上へアルマを乗せれば、謎生物はもっちりとフィットした。
「アルマ技師、どうですかヲ?」
「よきにはからえですー」

「あんなふうに弁えた人たち見ちゃうと焼きたくなりますねぇ、おせっかい」
 どこからか抜き出したカルバドスを舐めながら、ぽつり。イシュキミリは4人を見やってうそぶいた。
「こんな寄る辺ない俺と確かな縁を結んでくれた、かけがえない連中だ。もし、おまえもそう思ってくれるなら……気にしてやってくれ」
 グラスに分けてもらったカルバドスを手に、LUCKがうなずく。
「あの人たち――特にあの鬼面の人がほんとにそれを必要とするなら、ですね」
 イシュキミリはいつにない憂いを含めた目をLUCKへ向け、言葉を継いだ。
「その後もみんななかよく楽しく暮らしました。それがハッピーエンドじゃないこともあるんだって、いやってほど思い知ってきましたんで」
 LUCKはイシュキミリの真意を噛み締める。
 同じ機械体であるリンドの状態はそれなり以上に計れているし、ソフィアがなにか、彼女の存在に関わる重要事項を隠していることにも気づいてはいる。
 それをなんとかしてやりたいと望むのは、自分の奇妙な保護欲のせいもあるだろうが、結局のところ自分に関わった者にはすべからく「ハッピーエンド」を迎えて欲しいという我儘による。
「……俺は確かに、ハッピーエンドの前提条件を“生きていればこそ”と決めつけている。しかし、その後も末永く幸いであり続けるためには、そればかりが正解とは限らないわけだな」
 わかっている。わかっているのだが、それでも。
 LUCKの肩にイシュキミリの指が触れた。砂とは思えぬやわらかな――この感触はどこかで――冬の――姦しいノイズが邪魔で見えない。
「ラクさんは我儘でいいんですよ。――其の我儘が、猫さながらの小娘を掬い、鬼面へ己を押し詰めし小僧を掬うこともあろう故」
 掬う? 救うではなく、か?
 ほんの一時、黄金の有り様を取り戻して語ったイシュキミリは、LUCKに問わせるより早く言葉を戻し、
「いつかの誰かじゃなくて、今このときのラクさんが結んだ縁の糸なんですから。どう手繰るかはラクさん次第ってことです」
 LUCKの背を、未だ騒ぎ続ける4人へと押し、イシュキミリは笑んだ。
「説明になっていないぞ。が、いずれわかるときが来るんだろうな。おまえが無意味な教えを語らないことは知っている」
 言い置いて4人の輪へ混ざれば、「やっぱりぼくはラクニィのおあたまがいーのです」と飛びついてきたアルマに頭の上を占領されたあげく、「魔王様にふさわしいデコレート、要るっしょ」とアクイレギアに紙吹雪をかけられ、「じゃ、膝の上はあたしがもらったー」とソフィアに乗られ、おろおろするリンドに「ラックニキ、こういうとき僕も乗っかったほうがいいヲ?」と訊かれることになる。本当にもう、やれやれと肩をすくめるよりない自分の有様へ、LUCKは苦笑するよりない。
 しかし、苦笑をそのままに誇らしく、彼は自分をここへ送り出した者を返り見るのだ。
 ――どうだ、イシュキミリ。LUCKという男と縁の糸を結んでくれた皆は、存外悪くないだろう? もちろん、こんな縁を得られたLUCKという男も、悪くないと思うんだがな。
 過去に拘り、それを思い出すことばかりに急いてきた自分へ、イシュキミリや双子は口を揃えて「今のままでいい」と言った。その意味が、今になって初めてわかった気がする。
 ああ、今このときの俺は、悪くないどころか上々だ。

 限りなく賑やかに、しかしどこまでも穏やかに、時間は過ぎてゆく。
 皆でアルマの腹をどれだけいい音で鳴らせるかを競った。
 ソフィアの演技からなにを物真似しているかを当てるゲームに興じた。
 アクイレギアのコイバナに皆で無責任なアドバイスを贈った。
 LUCKが淹れたベロニカを味わい、イシュキミリの添えた歌声に聞き入った。
 そして。
 体を繋ぐチューブの内に流れるネオングリーンの液をほのかに赤く色づけたリンドが、ほろりとうそぶいた。
「楽しいヲ、めちゃくちゃ。こんな楽しいの、久々だヲ」
 浸らせるかよとばかり、アクイレギアががっとリンドと肩を組む。
「バーカ! こっからだろ!? もうでっかい戦いもねェんだし? これから楽しいことばっかだぜ!」
 対してリンドはさらりと、
「これまでの戦いでアーマーの力使いすぎて、もうちょっとで動力止まるヲ。ほら、僕アーマーの動力で生きてるから、止まったら僕も――って、言ってなかったかヲ?」
 自分の命の話を他人事のテンションで語ったリンドは、周囲を見回して「ガバったヲ?」。
 彼にとっては当たり前過ぎる事実に、押し詰まる沈黙。
 しかしだ。そのただ中に、リンドは見つける。ソフィアの儚い、しかし強い微笑みを。
「リンド君」
 だいじょーぶ。あたしも全部終わったら、泡になって消えるんだ。
 彼にだけ見えるよう、唇の先で紡がれたソフィアの言葉に、リンドは動揺して膝を浮かせ、「フィーさん、それって」。
 割り込んだアクイレギアは、リンドにそれ以上言わせなかった。
「リンドが止まっちまいたいなら見とくけどよ。そうじゃねェなら止めさせねェぜ? なにしたらいいのかとか、ぜんッぜんわかんねェけどな」
「わふふ。レギアのゆーとーりなのです。はんぶんのまおうたるぼくがほんきだすですよ」
 リンドのために、ソフィアのために、アクイレギアとLUCKのためにも。アルマはLUCKの頭の上で器用に香箱座りを決めたまま宣言する。
「望まれた生は重いですけどね。ま、背負ってく覚悟ができるようなら、どん底から掬うくらいは手伝いますんで」
 イシュキミリも言葉を添え、LUCKへ視線を送った。そう、他の全員と同じように。
 注目を集めたLUCKは息をつき、リンドとソフィアを交互に見て告げるのだ。
「先にイシュキミリと話した。ハッピーエンドは、末永く幸せに暮らすことばかりじゃないとな。しかし、こうして生きてきた俺は思う。それでもやはり、幸いは生きていてこそ得られるものだと」
 ああ、そうだ。これは俺――空っぽだったLUCKにおまえたちが教え、注ぎ込んでくれた唯一無二の経験則だ。
 だから言い切ろう。受け取ったものをそのまま音に変えて。
「おまえたちが先の幸いを掴むために生きることを、俺は望む。そのために力を尽くそう。我儘に、身勝手にだ」
 きっとリンドは幸せを噛み締めたまま逝きたかったのだろうが、汲んでやるものか。掬い上げてやるさ。おまえと――おまえたちと結ばれた俺の縁の先にある幸いまで。
「わふ。ラクニィはやっぱりラクニィですね」
「ね。そう言うしかない感じ?」
 双子が肩をすくめ、左右からLUCKの手を引いた。
「たいちょー、もうすぐ新年だよ」
「カウントダウンにおねがいかけるです!」
「ん、ああ」
 双子が音頭を取り、一同はなしくずしにカウントダウンを開始した。
 5――もうすぐ死ぬ僕が、生き延びる? 僕は生きたいヲ?
 4――先があるなら先に行きてェ。俺だけじゃなくてみんなで! 決まってんだろ!
 3――あたしの願いが叶ったら、あたしは泡になる。でも、兄貴はあたしの運命、覆せるの? あたしは、どうしたらいい?
 2――きめるのはフィーとリンドさんです。ぼくはおりこうにおすわりしてまってるですよ。
 1――人は変わる、幸いの形もだ。求める幸いが結局どんな形へ収まるものかは知れんが、それでも俺たちは願わなければならない。今このときの最高を越える、最上の幸いを。

 イシュキミリは彼らの様を見届ける。
 わずか先を見通しながら、なにひとつ見えてはおらぬ振りをして――幸いの名を持つ男の背を静やかに、静やかに、静やかに。


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2021年02月02日

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