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『ピースサイン』
小宮 弦方la4299


 小宮 弦方(la4299)は放浪者である。
 好奇心は旺盛で狼の耳をピンと立て、尻尾をブンブンと振りながら興味のあることにはとことんまで首を突っ込み、突っ込みすぎて周りが見えなくなることも多い。
 人当たりは丁寧で穏やかである為、初見で(狼などの犬系が苦手な人以外)悪印象を抱く人は少ない。
 友人が多いわけでは無いが、少なすぎると言う事も無い。
 ただ、基本的には一匹狼だった。特別な誰かを作る事も無かった。
 SALFに所属した後は人助けに奔走し、同郷と思われる人とは交友を結んだが、それだけだ。
 切欠が無かったと言えばそう。
 ただ、弦方にはほんの少し、ほんの少しの予感があった。
 本能と言うには弱い、その程度の予感。

 『転移はまた起こる』

 ――そしてその予感は現実のものとなった。


「ここは……?」
 マチュピチュを目指していたものの、車が事故を起こしてしまい、弦方他ツアー参加者はぼけっと救援を待っていた。
 美しい囀りと羽ばたき、自分の顔目がけて飛んできた極彩色の鳥に気付いて思わず弦方は頭を押さえつつ膝を付いた。
 次いで、顔を上げた時には高所というよりジャングルのような熱帯雨林の中におり、カカオを取りに来ていた開拓団に保護された。
「へぇ? 違う世界から? 面白いな」
 客人、というよりは異形のモノとして牢に捕らわれた弦方を視察に来た少年はそう言ってカラリと笑った。
 小さな黒龍を肩に載せた少年は「紹介状を書いてやるから、そこ行ってこい」と、弦方を牢から開放した。
 それから船に乗せられ、懐かしい東洋風の街並みから中世ヨーロッパのような街へ移動させられた。
 船の旅は案外安定したモノだった。船は木造のガレー船といった古びたモノだったにもかかわらず。
 監視として付けられた綺麗な顔をした少年とは比較的仲良くなれた。
 商船の長でもある少年はこの世界の仕組み等を教えてくれた。
 ……自分を視察に来たのがエトファリカ連邦国の帝だと知った時には驚いた。
 龍が守る世界。赤い星。クリムゾンウェスト。
 船を降り、嵐が来るという予報のため3日間の休息期間が与えられた。
 その間、少年と共にフードつきコートを纏って港町をぶらぶらした。
 他に監視役がいなくて良いのかと不信に思ったのは最初だけ。
 少年は姿が見えなくなったと思っても必ず自分を探し出すし、わざと弦方からはぐれようとすると必ず付いてきていた。
 天然と言われる弦方だが、ごろつき風の男に絡まれた時に、綺麗な顔に凄みのあるドスを効かせてあっと言う間に場を収めたのを見て、流石にただ者では無い事に気付いた。
「覚醒者っていうんだ」
 少年はそう言って笑ったが、どうやらこの世界にもライセンサーであったり、開拓者のような特殊能力持ちがいるらしいとこの時初めて分かった。
 この町で修羅の様な鬼という種族がいることも知った。
 少年曰く、エトファリカでは鬼への偏見がまだ強く、それを最初に庇護したのがこのグラズヘイム王国であるらしい。
 そして次に向かうのが自由都市同盟、リゼリオだと少年は笑った。

 冒険者の都市というだけあって、リゼリオでは様々な人を見た。
 天儀にもいたエルフという耳の長い種族とからくりに似た機械の身体に命を吹き込まれたオートマタという種族、ドワーフというやや背の低い種族、そして龍の鱗を身体に持つドラグーン。
 南方にはコボルドという獣人というより二足歩行で(まれに)人語を話せる種族がいるらしいという話しも聞いた。
 それでも、弦方のように獣人のような見かけをした人は終ぞ逢う事がなかった。
 そして、ハンターズソサエティ本部という場に連れて行かれ、弦方は既に精霊と契約を済ませた覚醒者であると告げられた。
 リアルブルーと呼ばれるこの世界の地球でも弦方の様な人が現れていないか調べが終わるまで、弦方はこのクリムゾンウェストを見て回る旅に出た。
 運良くエトファリカの帝のお墨付きを頂けたことから、各国の要人達と会うことも可能となった。
 5年かけてクリムゾンウェストの世界を回った。
 北方と呼ばれるドラグーンの園、リグ・サンガマ。短命である彼らは、ずっと鎖国をしていたらしい。それが近年、急速に進む近代化に戸惑いを覚えつつも、外へ出るのでは無くそれを抱えつつもこの地を守りながらの変革を選んだ人々はたくましくも美しかった。
 沢山の部族が生活した辺境と呼ばれる部族連合地域。族長問題を抱える中、それでもそこで生活を営む人々は穏やかに四季の移ろいを愛し、生きていた。
 帝国制からの脱却の渦中にあったゾンネンシュトラール帝国。貴族からの支配脱却を試みた彼らは民主主義制への第一歩を踏み出した所だった。新しい制度に戸惑う人々がいるかと思いきや、支配されている事になれている町の人々は「次の皇帝は良い人だと良いねぇ」なんて話していた。
 千年王国、グラズヘイム王国。若く美しい王女が即位したという国は活気に溢れていた。色々苦しい事があった後だから、きっと今度はいい時代になると信じて疑っていない人々の笑顔が眩しかった。
 砂漠の荒野が続く南方大陸。コボルド達はいつか赤の龍と呼ばれる王龍が生まれると信じ、その山を守り生きていくことに誇りを抱いているようだった。
 そして結局自分のような転移者――放浪者は現れていないという報告を受け、ついにリアルブルーへの転移が認められた。
 今まで、転移門を使わず、自分の足でクリムゾンウェストを回っていたが、今回ばかりはそういう訳にも行かないと言うことで、弦方は恐る恐る……だが、地球へ向かうのだという意思を持って一歩を踏み出した。

 ――そして、再び違う世界に降り立ってしまった。

 その世界の神様は弦方の“転移体質”とも言える経歴を訊いて面白いと笑った。
「帰りたいとは思わないのかい?」
 そう問われて、少し考える。
「行く世界行く世界が面白かったので、あまり帰ることにこだわっていませんでした」
 正直にそう答えると「それだろうな」と神様は言った。
「世界とのしがらみ……お前にわかりやすく言えば“縁”になるか。その力が弱いんだろう。普通は人は生まれた世界と強靱な縁に捕らわれている。だが、お前は最初の世界で縁が切れて以来、赴く先でも再び縁を繋ぐ事が無かったため、こうやって世界を渡る者……漂流者になってしまったのだろうねぇ」
「糸の切れたタコみたいなモノですか……」
「そうだね。どこかの世界に引っかかっても、その引っかかりが取れてしまった途端にまた漂流してしまうんだ。これは切れた糸の先をその世界の何かに括り付ける事が出来るか……それともタコそのものが壊れて風に舞う事が出来なくなって初めて定住を得るんじゃないか?」
「その世界の何かに……? 括り付けると言ってもどうすれば……」
「それこそ、人ならば人との縁なんじゃないか? 知らんけど」
「えー」
「まぁ、この世界がお前にとって終着の世界となるかどうかも知らんし、漂流者で無くなることが幸福とも限らないだろう。まぁ、精々後悔無いように生きろ」
 そう言って神は弦方の前から消えた。
 新たに降り立った世界は弦方と同じような獣人や亜人が住む世界のようだ。
 弦方は考えるより先に好奇心が向かうままに走り出した。

 ――新たな出逢いと冒険を想像して胸をときめかせながら。


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【la4299/小宮 弦方/おぼろげな街の向こうへ】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度はご依頼いただき、ありがとうございます。葉槻です。

 弦方さんは元の世界に戻りたいのだろうか、それともこの世界に留まりたいのだろうかと考え、このような内容になりました。
 久しぶりにFNBの世界をちょいちょいと書かせて頂きましたが、単に私得な内容となっていないことを祈ります。

 口調、内容等気になる点がございましたら遠慮無くリテイクをお申し付け下さい。

 またどこかでお逢いできる日を楽しみにしております。
 この度は素敵なご縁を有り難うございました。
おまかせノベル -
葉槻 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年02月05日

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