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『サムライガールの凱旋』
日暮 さくらla2809)&不知火 仙火la2785


「本当に良いのですね?」
 日暮 さくら(la2809)は、不知火 仙火(la2785)の顔をじっと見つめた。炎に似た瞳の中に、黄金が映り込む。さくらを見つめてより一層燃え上がるような眼差しには、固い決意が見て取れた。
「ああ」
 仙火はさくらの手を取る。
「お前こそ、本当に良いのか?」
「はい」
 さくらは握り返してこっくりと頷いた。
 見送りに来た人々に手を振って、二人は旅立った。

 さくらは伝え聞き含めて三つの世界を知っている。一つは今まで過ごした、SALFの存在する世界。もう一つは、仙火の出身地である、別の久遠ヶ原学園がある世界。そして、自分の出身世界だ。
 彼女の出身世界では、異世界へのワープ装置が開発されていた。そうであるから、さくらは両親の宿縁である天使(仙火の父である)とその息子(仙火である)へのリベンジを果たすべく、その装置を使ってSALFの世界へと飛んだ。かなり希少な技術で、一般化はしていなかった。
 そのため、さくらは幼い頃からエージェント……こちらの世界で言うライセンサーに相当する資格を得て任務に明け暮れ、報酬を貯金していたのである。

 オリジナル・インソムニアを破壊し、その首魁も討伐した。インソムニアの破壊によって、地球に生じていた「場」も消失。こちらからの転移が可能になった。
 しかし、それにはペンギン型放浪者と一緒に彼らの世界に戻り、そこからまた別の世界に飛ぶか、座標を指定せずにランダムに飛び、元の世界に辿り付くまで転移を繰り返すか、の二択しかないとSALFから説明された。さくらはそれには異議を覚える。
(私は故郷の装置でこちらに転移しました)
 だとしたら、その記録は向こうに残っている筈だ。聡明なる向こうの技術者たちの顔を思い出す。恐らく、向こうもさくらを連れ戻す算段を立てようとしていた筈である。しかし、アプローチはなかった。何故か? それは、向こうの世界からこちらの世界への片道切符でしかなかったからだ。ミイラ取りがミイラになるわけにもいかず、実行できなかった、というのが一つの理由だろう。
 けれど、「場」が消失したのであれば……。
 さくらはそんな期待を胸に抱いていた。

 そして、その時は来た。SALFから呼び出され、向こうの世界からアプローチがあったことを伝えられる。ほっとした。信じて良かった、という考えはない。信じて良かったということは、疑う余地があるという事で、元よりそんな考えは頭にないのだ。
 彼女は自分が住まいとしている不知火邸に戻ると、ある人物の部屋を訪れた。


「──そうか」
 仙火はさくらの話を聞くと、深く頷いた。その表情には驚きも戸惑いもない。
「それで、いつ出立するんだ?」
「あなたの返答次第です」
「今のが返答だったんだけどな」
 彼は頭を掻いた。そう言う仕草をすると、父親の天使そっくりだ。さくらはじっと彼の目を見返す。
「きちんと言ってくれないと、わかりません」
 本当はわかっている。だって、私はあなたの相方。いえ、それ以上の……剣だけでなく、その先の物すら預け合った間柄。あなたの答えが何なのかはよくわかっている。
 でも、だからこそ、彼の言葉で伝えて欲しい。
「俺も一緒に行く」
「はい」
 さくらはこっくりと頷いた。純粋に嬉しい。胸の内に湧いた幸せを噛みしめる。万に一つ、当日仙火がドタキャンしたとしても、この時の喜びは消えないだろう。

「さくら」

 仙火の声に、意識が現実へと戻る。顔を上げて彼の顔を見ると、それは思ったよりも近くにあった。唇に柔らかいものが触れる。

「……出立は三日後です」
「わかった。支度する」
「はい」
 頬を花の色に染めながら、彼女はもう一度頷いた。


 そして、二人はつつがなくさくらの故郷に戻った。途中ではぐれることもなければ、身体に異常を来すこともなく、二人はいたって健康そのもので目的地に到着する。
 彼らを出迎えた、この世界の人間たちは、さくらの帰還に喜んだ。一緒に来た仙火について問われ、さくらが非常に迂遠な表現で「恋人である」と答えると、彼は熱烈な歓迎を受けた。
 帰って来たのだ。この世界の大地に、空気に、人々に、再び触れることができる。深呼吸を一つして、
「戻りました」
 おかえりなさい!
 世界を渡ってきた二人は簡単に健康チェックを受けた。異常なし。疲れは出るだろうから、しばらくはのんびりするように、と顔見知りの職員に言われてさくらたちは頷いた。

 研究所でしばらく休憩してから、二人はさくらの実家に向かうことにした。
「母上は仙火を気に入ると思います。父上は我が儘を言うかもしれませんが……あなたなら大丈夫でしょう」
 その「大丈夫」に含みを感じる仙火。それは、会って早々に父親の眼鏡に適う、と言うより、何らかの障害を用意されて、それを彼が乗り越える、そんな展開を予感させた。
 ぱっと頭に浮かんだのは、一対一の打ち合いである。
(並行世界の父さんだからな……)
 いくら仙火の父が三度勝ったとは言え、さくらの父だ。それに、仙火はまだ父には及ばない。楽に勝てるとは思わない方が良いだろう。二人は研究所の建物を出る。エントランスの向こうから届く人のざわめきを、彼は肌で感じた。
(すごく混雑してるな……?)

 先に、さくらは幼い頃からエージェントとして活動していたと述べた。仙火もその話は聞いていた。
 しかし、彼は知らなかった。

 エージェントの活躍は事件解決後に一般公開され人気を博している事。
 解決後どころか依頼状況がテレビで全世界同時生中継されるのもよくあるという事。
 両親が“王”との最終決戦に参加した能力者&英雄であり、自身も幼い頃から第一線で活躍していたさくらはタレント並みの知名度がある事。
 故にさくらも、そしてさくらの両親も、特定ジャンルでよく同人誌にも登場する程の人気者であったことを――!

 そのため、今も日暮さくら帰還の知らせを受けてカメラも聴衆もものすごい数入った事も!
 その様子が、テレビの生中継はもちろん、動画配信サイトでライブ配信され、ライブビューイング会場まで急ごしらえで用意された事も──!!

 仙火は知らないのである!!!!!


 なんと言うことでしょう! 日暮さくらが帰ってきたのです! 文字通り私たちのホープが! かつて愚神の王と渡り合った二人、その娘が!
 お帰りなさい、日暮さくら! ここがあなたのふるさとです!
 ……おや、一緒にいる男性は誰でしょうか?


「何でこんなに人だかりが……」
「いつものことです」
「いつも!?」
 随分と人口密度が高いんだな……と思う仙火である。見れば、カップルらしき二人組もちらほら見える。さくらの指に自分の手を絡めた。恋人と見える様に手を繋ぐ。さくらは少し驚いた様に自分を見上げた。
「あなたと言う人は……本当に大胆ですね」
「そうか?」
 二人の認識に少々ズレが生じている。

 少しの悪戯心を覗かせた仙火は、さくらの頬に口付けた。

 次の瞬間、ものすごい歓声と悲鳴と雄叫びが周囲から上がり、彼はようやく、自分たち……さくらと、その同行者としての自分が注目されていたことに気付いたのだった。


 その頃、ライブ配信されている動画のコメント欄では……。

『さくらたん! 俺たちのさくらたんが帰って来た!』
『さくらちゃん可愛くなった。元から可愛いけど』
『うおおおおおさくら俺だ結婚してくれ』
『隣の男の人誰?』
『SAKURA! SAKURA!』
『無事で良かった』
『はー……マジで可愛い同性でも惚れる』
『イケメンすぎる日暮さくら……』

 と、視聴者が行方不明になっていたエージェントの帰還を喜んでいると……「隣の男」が彼女の頬に接吻した。

『え』
『あ』
『ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』
『ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!』
『さ、さくら……』
『嘘だと言って』
『あ〜恋した顔してる。日暮さくら可愛いな〜』
『おめでとう! おめでとうさくらちゃん!!!』
『彼氏も刀持ってるから良いカップルじゃん』
『さくらああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!』


「これで私とあなたの薄い本が出ますよ。向こう一週間は、テレビの特集に今の私たちが映ります」
「薄い本!? テレビ!?」
「この世(界)には同人ジャンルとしてエージェントがあるのです」
 さくらの両親も一大カップリングとして山ほど本が出ている。公式が最大手みたいなところのある二人だが、それがまた創作意欲を掻き立てるらしい。
 恐らく、この中継を見たサークル主は、「異世界から来た男×日暮さくら」というカップリングで競作のように本を作るだろう。
「あなたはヤンデレにされたり、狼男として描かれたり、吸血鬼になったりします」
 今度はさくらが悪戯っぽい顔をする番だった。
「お前は囚われのお姫様だったり、赤頭巾だったりするのか?」
「そうかもしれません」
 そこに、マイクを持ったレポーターが飛んで来た。おかえりなさい、日暮さん。体調はどうですか?
「問題ありません。日暮さくら、ここに戻りました」
 大歓声。さくらは笑顔で聴衆を見回した。

 ところで、こちらの男性は? 先ほど、その、ちょっと距離が近かったように思いますが!

「彼は不知火仙火。私の剣の相方です。そして、剣以外の物も預ける男です」
 それを聞いて、仙火はさくらの肩を抱いた。さくらが自分の手を重ねる。

 仲睦まじい恋人同士として、二人はフレームに収まった。歓声に拍手が混ざる。


 その頃、法務部の一角では、法務部長を職員たちが遠巻きにしていた。

 彼の様子を一言で表すなら、「絶句」である。
 娘が帰ってきた。今すぐ妻と一緒に現場に駆けつけて抱きしめたい。おかえりなさいを伝えたい。そう思ってテレビを見つめていた。すっかり大人になって……異世界で研鑽を積んだのだろうか、纏う気配が更に頼もしく……成長を実感して涙ぐんでいると……。

 傍らにいた男が娘にキスしやがった。

 法務部の空気が凍り付いた。沈黙を破ったのは、部長の端末が鳴らす着信音である。彼はそれが妻からの電話であることに気付くと、ぎくしゃくとした動きで応答する。

 私たちの娘が帰ってきたね! なんだか立派になって! 嬉しいね! 彼氏まで連れて帰って来てくれたんだから、今日はお赤飯だ! お酒もいっとう良いのを開けないと。あの子はまだ飲めないけど、彼氏の方はどうかな! 成人してるなら、今日は素面で帰さないんだけど……あれ? もしもし? 聞いてる?

 妻のウキウキした声に、部長はがっくりと肩を落とす。ネット配信のコメント欄が、ライブビューイングの会場が、祝福と悲鳴で阿鼻叫喚になっている、という話が聞こえた。右から左に流しながら、そうだろうな……と納得した法務部長であった。自分の味方は、悲鳴を上げている視聴者だけかもしれない。

 さくらの垂らした長い髪に、隣の男が指を通している。

 なんだか、在りし日の自分たちの様だな……と、法務部長は……日暮さくらの父親は溜息を吐いた。


 テレビの中では、リポーターが興奮冷めやらぬ様子で中継している。

 たった今、彼の名前を教えてもらいました! 彼の名前は不知火仙火……不知火? 奇妙な偶然もあったものです! 彼女にも縁のある……え? 異世界にもあの二人によく似た二人が? なんと言うことでしょうか! 二つの世界の日暮と不知火が、またこうして結ばれたのです! これを奇跡、いいえ希望と言わずしてなんというのでしょうか!

 おかえりなさい日暮さくら! そしてようこそ不知火仙火!

 明日を待つ暮れる日。明日となる明ける日。

 あなたたちの新しい日々はここに!

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
合言葉は「ノベルならいける!」です!
さくらさんの出身地について、齟齬がございましたらご容赦ください(リテイクを拒否するものではありません)。
それにしても、このルートだと不知火さんは異世界から来る者の姓として認識されそうな感じですね。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年02月05日

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