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『ドラマ「怪談蒐集家・桃李 〜百鬼夜行〜」』
桃李la3954


 これが「さいご」の蒐集の旅になる。
 そんな予感がしてたんだ。


 怪談蒐集家の桃李(la3954)と助手のグスターヴァス(lz0124)は、年に一度「百鬼夜行」が起こると言われている村に調査へ向かった。この日は、日没から、日が完全に上がるまでは外に出てはいけないと言うお達しが出ている。
「出るとどうなるのかな?」
 化け物に殺されると言う。だから、あなたたちも今夜はうちにお泊まりになって外に出てはいけません。彼らの滞在を受け入れてくれた家の主は厳かに告げた。
「じゃあ、今日は大人しく言うことを聞いておこうか」
 と、二人は客用寝室で並んで床に入った。窓も開けてはいけない、と言うことで、外を見るわけにもいかず、聞き耳だけ立てていた……が、グスターヴァスはいつしか寝入っていた。


 夢を見た。自分はいつの間にか表にいる。どうしよう。出るなと言われているのに。桃李さん、どこですか? 月が隠れて真っ暗です。
 その時、向こうから気配がした。物陰に隠れて見ていると……ありとあらゆる異形の物がぞろぞろと列を成している。これが……百鬼夜行。
 その最後尾を、見覚えのある姿が歩いている。
(桃李さん!)
 桃李さん、どこに行くんですか。そんなのについてっちゃいけません。
 追い掛けたくても、まるで足から根が生えたかのようにそこから動けない。恐怖と焦燥で泣きそうになっていると……。
 
 誰かの悲鳴が上がった。

 グスターヴァスが跳ね起きると、桃李も起き上がっていた。
「表だ」


 日が昇っていたので、二人は家を飛び出した。後から家主も出てきたので、問題なかったらしい。
 悲鳴の主は若い男性だった。腰を抜かしている。どうしたのかと問えば、全身真っ黒の影が歩いていたと言うのだ。
 集まった人々も、口々に怪奇現象を訴えた。うちの薪がなくなっている。鶏がいなくなった……などなど。
 やはり、百鬼夜行。ありとあらゆる悪さをしていったのだろう、とおののいているその時だった。
 お母さんが会いに来てくれた、と子供の声が無邪気に報告した。幼い姉弟で、聞けば数ヶ月前に母親を病気で亡くしたのだという。父親が、そんな滅多なことを言うな、と叱っていた。
(何か、この子たちの話だけ毛色が違うな……?)
 桃李は父親に尋ねた。
「家から盗まれたものはなかったのかな?」
 父親も、その話を聞いて泥棒を疑い、値打ちのあるものを調べたそうだが、特に盗まれていなかったそうだ。
「……泥棒を疑う、ねぇ……」
 桃李は村人を見回した。
「もしかして、毎年百鬼夜行に乗じた盗難が起こってたんじゃないのかい?」
 腰を抜かしていた男はぽかんとしていた。桃李は彼を見て、
「ところで君、何であんな早くに外にいたんだい? 日が完全に上がるまで外に出ない方が良いって聞いたよ。君が泥棒なのかな?」
 彼はとんでもない、と否定した。桃李の無言の圧に負け、白状する。
 彼には、村の中で密かに付き合っている女性がいたらしい。百鬼夜行の夜であるのを良いことに密会していたそうである。二人とも、あまり迷信などは信じておらず、本来御法度とされている夜間の外出は躊躇わなかったそうだ。

「じゃあ、もうこの際不問にするとして、全員正直に名乗り出てくれないかな? こっちは人間の仕業なのか怪異なのかはっきりさせたいんだよね。『百鬼夜行』という『怪談』を集めに来ているんだから」
 桃李がにこにこしたまま言った。笑顔で圧を放つ。それに負けて、村の人間たちは口々に白状した。薪を盗んだのは自分。鶏は私──そして逃げられたのでその辺をうろついているだろう。そう言っている間に、その場を鶏が通り過ぎた。持ち主が光の速さで捕獲する。
「うーん、こういうことってあるんですねぇ。じゃあ、そこのお子さんたちのお宅に忍び込んだのは?」
 それについては、皆戸惑った様に目を見交わしただけで誰も名乗り出ない。
「あの、お子さんの部屋に忍び込んだから言いづらいのはわかるんですが、正直に名乗り出て頂いた方が良いと思いますよ……」
 グスターヴァスが更に促すが、結果は同じだった。
 やっぱりお母さんだったんだ。少女が言った。
 だって、手首にほくろがあったんだもの。
 桃李は全員の手を検めた。手首にほくろのある者は一人もいない。
「そうかぁ……百鬼夜行の夜に、君たちが気になって帰ってきたのかもしれないねぇ」
 桃李はくすりと笑うと、どこか慈しむ様な目で少女の頭を撫でた。
 どこか懐かしさを感じさせる目だったと、グスターヴァスは思ったのだった。


「今回も一件落着、ですね」
 帰りの列車を待ちながら、グスターヴァスは落ち着きがなく辺りを見回していた。
「グスターヴァスくん」
 そんな彼へ、桃李はちらりと流し目を送る。
「俺に何か隠してない?」
「え? ななななな何をですか?」
「そうだな……例えば、しばらく俺と怪談蒐集に行けなくなるとか……」
「何でわかったんです」
 グスターヴァスは観念したように肩を落とした。
「私、国に帰らないといけないんです」
 海の向こうから手紙が届いたのだそうだ。早急に帰国せよ、と。
「そっか」
「今までありがとうございました」
「ううん。こちらこそ」
「楽しかったですよ」
「俺もさ」
 桃李は微笑む。そこに列車が到着した。乗り込んで、東京まで他愛のない話をする。これが最後になるのだ。グスターヴァスはどんどん寂しそうな顔になった。
「お手紙しますね」
「俺も書くよ」
 桃李は頷いた。グスターヴァスは泣きそうな顔になっている。そんな彼を励ますようにその肩を叩き、
「じゃあね、グスターヴァスくん───……ずっと遠くの未来でまた」
 その言葉に含みを感じた。ずっと遠くの未来。確かに、今の技術ではアメリカと日本を行き来するのには時間がかかる。再会は簡単にはいかず、それなりに先にはなるだろうが……。

 それを問い質さぬまま、グスターヴァスは後日、朝早くの船で出国した。夜明け前、ガス灯を映した海面は、つかみ所がないあの青年の瞳に少しだけ似ていた。


 そして、長い長い時間が経った、ある日のこと。
 アメリカの空港に、一人の日本人が降り立った。長い黒髪に、瑠璃色の瞳。洋装の上から着物を羽織るという奇妙な出で立ち。
「随分と早く到着するようになったなぁ」
 彼はそんなことを呟きながら、宿にチェックインし、周辺で資料館のようなところはないかと尋ねた。だったら、近くに図書館がある。大学生も来るから資料になる本も多いだろう、と言うことだった。礼を言って、彼は図書館に入る。伝承、言い伝えの棚を見つけて、ひょいと覗き込むと、そこには先客がいた。
「やあ、こんにちは。君は伝承に興味があるのかい?」
 彼は学生に微笑み掛けた。背が高くて、しっかりとした体格をした青年だった。目に光がない。
「ええ。専攻してて、レポート提出のために参考文献を。観光ですか?」
「調査でね。伝承とか集めてるんだけど……君は詳しいかい。ああ、俺は桃李って言うんだけどね」
 男は……桃李はそう言って微笑み掛ける。

 新しい旅が始まろうとしていた。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
設定を拝見するに、桃李さんはもしかしたら本当に百鬼夜行の最後尾を歩いていたのかもしれない……ということをしみじみと感じました。
そう言う人が隣にいる……ということが、この世の不思議かもしれません。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年02月05日

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