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『灼熱の輝き、月下の導き』
ソレイユ・フラムla0139


 2061年、春。
 世界は大きな変化の流れにある。
 戦いとは違う形の、進化に向かって。

「……はぁー、良かった……」
「すごく……良かったであるな……」
 とある休日、映画館のロビーで。
 ソフトドリンクを片手に、椅子に座りこんで言葉の出ない少女が2人。
 パンフレットを何度も読み返しているソレイユ・フラム(la0139)。
 物販で、原画ポストカードセットを保存用と観賞用とに揃えて悦に入っているのはムーン・フィッシャー(lz0066)。
「音響だけで表現しきる技術の高さは、体感型に慣れた現代には喪われたものかもしれないわね」
「科学技術は様々なことを可能とするが、職人の御業は決して輝きが褪せることはない……」
 風が吹き、椅子が動く。VRによる立体映像。
 映画は『観る』のではなく『体感する』ものとなって久しいが、古い古いアニメーション映画のリバイバル上映があると聞いて、予定を合わせて鑑賞に来た本日だ。
「何度もリメイクされているけど、私は第一作が最高だと思う」
「同じく。粗削りながら情熱の塊は、唯一無二であった」
「考えてみると、凄い事よね。ナイトメアの侵略が始まっても、この作品ってリメイクやスピンオフ、実写化でずっと続いてきたのだもの」
 ソレイユが作品を知ったのも、リメイクから。
 興味をそそるテーマだったので、調べていくうちに入手困難な最初期原作コミックを読むに至った。
 あの時の衝撃と言ったら。
「想像力が、力になる……。作者さんが存命だったら、きっと凄いライセンサーになっていたわね」
「たしかに。クリエイティブな仕事に就いている方々は、案外と適性を持っている上で、今の道に居るのやも」
「私は両親がライセンサーだったし、尊敬して憧れてた。戦う力があるなら、誰かを守れるように強くなりたいって、ライセンサーの道を選んだのよね」
 適性があると知っていて、ライセンサーにはならない。なんて考えは思いもよらなかった。
「我は、ソレイユに比べるとずっと消極的だが、同じくだった。活かせる能力があるなら」
 ムーンの父は、メガコーポの社長だ。
 敏腕で名を馳せ、落ちこぼれのムーンは気後れしてしまうこともある。
 父と違う点は、適合者であること。
 自らがアサルトコアを駆りEXISを扱えることは、何かプラスになるのではないか……幼心に、そう考えた。
「この先、どうなるのだろうな。地球はナイトメアの侵攻を退け、反抗する残党を狩れば真の平穏を取り戻せる。しかし」
「放浪者の帰還や、その世界でのことは……まだまだ未知数よね」
 パンフレットを閉じ、ソレイユは小さく息を吐き出す。

「ねえ。僕、そろそろ喋っても良い?」

 不意に、どこからとなく声が飛び出した。
 ムーンの鞄からだ。
「ミナト! ごめんなさい、映画の間、ずっと我慢させてたわよね」
 ソレイユが笑って、手を差し伸べる。
 マスコットとして着けられていた金具を外し、小型ヴァルキュリアのミナトは彼女の掌へ飛び乗った。
 つやつやフカフカの毛並は、毎日のお手入れの賜物。
「そろそろ、映画館も出ましょうか。いいお天気だし、オープンテラスのカフェなんてどう?」




 ミナトはエネルギーとして飲食を必要としないタイプだが、飲食が出来ないわけではない。
 自分の身体の半分くらいはあるチョコチップマフィンへ、果敢に喰らいついている。
 ソレイユは季節のフルーツパフェ、ムーンはクリームたっぷりのパンケーキをオーダー中。
「そうだ。見て見て。ネージュ、大きくなったのよ」
「おおっ、あの時の仔猫か!!」
 お台場での戦いに巻き込まれた、罪なき自由猫たち。
 ソレイユは白い仔猫を引き取り、ネージュと名付けて愛情を注いでいた。
 雪を意味する名の通り、純白でフワフワしている。澄んだ青い瞳が上目遣いでこちらを見ている悩殺ショットだ。
「好奇心も運動量も、凄いの。とっても賢くてね、引出しやドアなんか簡単に開けちゃうんだから」
 ソレイユが留守の間に、しまってあったお気に入りのおもちゃを引っ張り出して部屋が大惨事になっていたり。
 買い置きのペットフードの、袋が引きちぎられていたり。
 キュートなものから大胆なものまで、写真フォルダはぎっしりだ。
「……豪快であるな」
「見かけによらないわよね」
 どうしたら、ネージュが快適に過ごせるだろう? ソレイユは知恵比べをしているようだと言って幸せそうに笑う。
「ミナトは、留守を預かる時は……部屋の整理整頓をしてくれるから……」
「……ムーン…………」
 ウッ、と目をそらすムーン。返す言葉に詰まり、同じく目をそらすソレイユ。
「ミナト、ミルクティーのお代わりを注ぐぞ!」
 小型ヴァルキュリア用の小さなカップへ、ムーンは自身のティーポットを傾けた。




 映画談義と猫談義の後は、2人だから行ける場所でショッピング。
 アニメ関連のグッズが充実していたり。
 幻のコミックスが入手可能な穴場のブックショップだったり。
「あっ、新刊出てたのね。ねえ、ムーンは読んでる? 最近、気に入ってるんだけど」
「む。チェックから漏れていた。アクション系か」
 新人作家の初連載だそうだ。絵柄は決してきれいではないが、目を引く構図だ。
「メディア展開はまだだけど、絶対『来る』と思うのよね。まだ3巻までしか出ていないし。どう?」
「乗った。もしもアニメ化するなら、絵柄の味は活かしたままにしてほしいなあ」
「わかる!? 綺麗な画だけが魅力とは限らないのよね。絶対、後悔させないから!」
 『アニメ化するなら、声優は』『制作会社は』もしもトークに花を咲かせながら、買い物は続く。

 最後に、お揃いで形違いの黄色の鞄を購入した。
 こうして羽を伸ばすのも、なんだか久しぶりな気がする。
 ムーンは久遠ヶ原での学園生活が忙しそうだったし。
「……あっという間ね」
 ソレイユとムーン。
 2人が出会ったのは、ムーンが桜の木を薙ぎ倒した春のこと。
 あれから幾度、太陽は昇り月が沈んだことだろう。
 『私たちならできる』
 それを合言葉に、幾多の難関(※ムーンの課題)を乗り越えてきた。
「今日はありがとう。とても楽しかった」
「あら、まだ終わりじゃないわ?」
 日が暮れる。留守番をしているネージュも、寂しがっているだろう。
 けれどあと一つ、やり残しがあるのだとソレイユが言う。
「思い出は、何枚でも残しておきたいじゃない?」




「イマジナリー☆サン! 灼熱の仕置きと慈愛のまどろみ、輝きの星!」
「イマジナリー☆ムーン! 夜にして光り照らす、導きの星!」
 \ カシャッ /

 ポーズを決めたところでシャッター音。
 時代が進んでも、こういったモノは残り続ける。
 いわゆる写真プリント。
「一度、残しておきたかったのよねー。よく撮れてるっ」
「確実に黒歴史となるのでは」
「黒歴史が怖くて大人になんてなれないでしょ?」
「……そうだろうか……そうかも……?」
 ソレイユが言うなら?
「ムーンの黒歴史なら、僕が全て記録しているから安心してほしい」
「ミナトー!?」
 

 この世界から、いつか戦う力が必要とされなくなっても。
 強くなるために足掻いた時間は、決して無駄じゃない。
 大切な存在と出会えたことは、かけがえのない奇跡。
 太陽が沈み、月が昇る。
 暗い夜にも、照らす存在がある。
(私たちならできるわ)
 新しい世界へ、恐れることなく進んでいこう。




【灼熱の輝き、月下の導き 了】

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
お待たせいたしました……!!
ご依頼、ありがとうございました。
ショッピングピンナップをイメージの軸として、おまかせノベルの醍醐味・ネージュちゃんエピソードやミナトも交えました。
これからの世界も、私たちなら大丈夫!
お楽しみいただけましたら幸いです。
おまかせノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年02月09日

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