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『仇となり後は朽ちるだけ』
マリナla4331

 まるでマリナ(la4331)を歓迎するかのように、遺跡の扉はあっさりと開いた。
 噂では、とある条件に見合う者以外は決して入る事が出来ないという話であったが……。
「私が入れるのは、当然の事よね」
 黒いライダースーツに身を包んだ女は、自信に満ちた笑みを浮かべながら揚々と歩き始める。彼女の動きに合わせ、胴の半分以上を占めるほど巨大な胸が揺れた。
 この遺跡に入るための条件。それは――若く美しい女である事。
 マリナは、その噂を耳にしてから、自分ならきっと入れるに違いないと信じて疑わなかった。何せ、顔の造形が整っている事はもちろん、この恵まれたプロポーションに敵う者など世界には存在しないのだから。

 ◆

 静まり返った遺跡の中に、マリナの足音だけが響く。今のところ、罠のようなものは見当たらない。
 探索は順調だ。このまま何事もなく終わってしまうかもしれない、と思うほどに。
 少々肩透かしをくらったような気分になりながら、マリナは部屋のような場所へと足を踏み入れる。
 ――その時だ。轟音が響き、土埃が周囲を覆ったのは。
「……やられたわね」
 視界が開けた時、今しがた入ってきたばかりのはずの場所は扉によって固く閉ざされていた。
 罠が作動し、部屋に閉じ込められたのだとすぐにマリナは察する。
「ふふ、そんなに私が気に入ったの? 閉じ込めておきたいほどに?」
 けれど、マリナは焦らずに余裕の笑みを浮かべてみせた。もう少し調べてみて、何も見つからなかったら能力を使って扉を破壊し脱出すれば良いだけの話だ。
 それよりも、今のマリナを苛むのは蒸れだった。スーツのチャックを下げ、手で軽く仰ぐ。隙間から僅かに入り込んでくる風は生温いが、ないよりはずっとマシだ。
「……?」
 ふと、足元の方で何かが動いた気がした
 だが、周囲を見ても特に何も見当たらない。何らかの仕掛けが作動したが、豊満な胸の分仕掛けとの間に距離が出来たおかげで免れたのだろうか。
「不発に終わったなら、気にする必要ないわね。さて、調査に戻らないと……うん?」
 再び、マリナは違和感を感じ眉をしかめる。チャックをおろしたはずなのに、胸のあたりが窮屈に感じたのだ。
「私の身体が……成長している?」
 元が豊満すぎる故に一見分かりにくいが、確かに胸が大きくなっている。ただでさえ自慢だった体型が、より胸を張る事が出来るものへと成長していた。
「やっぱり、この遺跡はただの遺跡ではなさそうだわ」
 何せ、美女を好む遺跡だ。遺跡は、美しいマリナを更に美しくしようとしているのかもしれない。
 以前よりもますますスタイルの良くなった身体に、マリナは少し誇らしい気持ちになる。十分恵まれていた胸だが、まだ成長の余地を残しているようだ。
 この遺跡から帰ったら、胸や尻の辺りが窮屈に感じないサイズのライダースーツを新調しよう。新品のライダースーツに身を包んだ、より魅力的な体型になった自分を想像し、マリナは頬をゆるめた。
 けれど、次の瞬間その穏やかな笑みは、凍りつく。
「な、何っ!?」
 突然、何かがマリナへと這い寄ったのだ。青く輝く瞳が、不穏な影の姿を捉える。
(胸が邪魔でよく見えないけど、紐のようなものが身体に巻き付いている? これは……鎖!?)
 無遠慮に肌へと触れてくるものの正体に彼女が気付いた時には、すでに遅かった。マリナの身体へと巻き付いた「鎖」は、彼女の首へと狙いを定める。
 息苦しさの中、マリナは身体に再び変化が起きている事に気付いた。また、身体が成長している。やはりこれは、獲物をより上質な状態で味わうための仕込みなのだろうか。
 仕掛けと成長を数度繰り返した後、「鎖」はマリナの両腕へと巻き付いた。
 視界が揺れる。天井に吊るされた時に、ようやくマリナは気付いた。この部屋の天井には、幾つもの人のようなものがぶら下がっていた事に。
 否、あれは、人のようなものではなく――。
「ミイラ……!?」
 恐らく、この遺跡に足を踏み入れたまま、帰ってこなかった美しき女達の成れの果てだろう。
 このままでは、自分も彼女達と同じように、ここに吊るされ醜く朽ちる羽目になる。
 鎖から逃れようと、マリナは暴れ始める。しかし、その動きは、いつもよりもキレがなかった。
「へ、変ね。こんなに、すぐ、息があがるなんて……」
 唇から漏れる呼吸は荒い。身動きするたびに、身体に重りを付け足していっているかのようだった。
 胸が成長し、重さが増しているせいだろうか? だが、胸は何度目かの成長の時から急に大きくならなくなってしまっていた。突然疲労を感じるようになった原因は、別にあるはずだ。
 マリナは気付かなかった。否、気付けなかった。
 胸のおかげで不発に終わったと思っていた、あの最初の仕掛け。
 あの時、仕掛けは彼女のヘソから胎内へと入り込んでいたのだ。そして、宿主であるマリナの超常的な力を吸収し「鎖」を形成した。今彼女を捕らえている「鎖」は、マリナ自身が育てたものなのだ。
「鎖」を形成している最中の膨張した腹部を見ていれば、対処のしようがあったのかもしれない。けれど、彼女の自慢の胸がブラインドとなり視界を阻害していたせいで、マリナは異変に気付く事が出来なかった。
 皮肉な事に、彼女の自慢のその体型が、マリナを危険へと誘う仇となったのだ。
 追い打ちをかけるように、もう一度仕掛けが作動する。腹部に、何かをされた感覚。だがやはり、肝心のそれを見る事は巨大な胸が阻害しているせいで叶わなかった。
 ひとまず、自分の両腕に絡みついた「鎖」から逃れなくてはならない。そう思い、マリナは天井から吊り下げられている両腕を見上げ……言葉を失った。
 そこにあるのは当然、マリナ自身の美しい手のはずだ。
 けれど、おかしい。この手はいったい……誰の手なのだろう? 思わず、首を傾げそうになったマリナの動きを巻き付いた「鎖」が邪魔する。
 その冷たい温度に思わず身じろいだ彼女の動きに合わせ、頭上にある両腕も揺れた。辺りに響いた「鎖」の揺れる音が、呆けていたマリナを残酷な現実へと引き戻す。
(嘘? あれが、私の手……?)
 若く瑞々しかった美しい手が嘘のように、そこにあったのは細くてしわだらけの老女の手であった。
 手だけなら、まだ良い。何とか視線を下へと向けると、同じく老いている自身の身体が目に入る。
「う、嘘よね……? こ、これが……こんな醜い姿が……わ、私……?」
 息苦しさの中、何とか吐き出した声も、自分のものとは思えないほどしゃがれていた。
 マリナの身体は、成長していたのではない。仕掛けに若さを吸い取られ、老いていたのだ。
 かつての面影すら失った、醜い身体。その姿から、本来のマリナの美しさを伺い知る事は難しいだろう。
 青色の瞳が、絶望に染まる。信じられないとばかりに、首を横へと振ろうとしたマリナの眼前には、またあの「鎖」があった。
 物言わぬ「鎖」が、マリナへとトドメを刺す。
 ――遺跡はこうしてまた、一人の女をその人生ごと喰らった。美しき彼女の最期を、残酷なまでに醜く彩ったのでのあった

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
どこかの世界ではあったかもしれない、マリナさんの末路のお話。このような感じになりましたが、いかがでしたでしょうか?
お気に召すものになっていましたら、幸いです。何か不備等ありましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
それでは、この度はご依頼誠にありがとうございました。また機会がありましたら、いつでもお声がけくださいね。
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グロリアスドライヴ
2021年02月12日

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