『明るく楽しくとびっきりの休日を！』

日暮　さくら（la2809）＆ルシエラ・ル・アヴィシニア（la3427）

　日暮　さくら（la2809）とルシエラ・ル・アヴィシニア（la3427）は志を同じくする仲間たちと世界を救う大役を担った、英雄的存在を親に持っている。更にいえばその情勢が落ち着いた頃の関係もあるらしく歳も一緒で女同士とくれば仲良くならない筈なく、幼馴染としての関係は長く続いた。また一体何の因果か片や、さくらは誰かの心と共鳴し導かれた末にワープ装置を使用し転移。片やルシエラは異世界調査任務で兄と世界を渡ってきた為に二人は同じ異世界に到着し、別のタイミング、全く別の場所に転移しながらも無事に再会を果たし、侵略生命体のナイトメアの打倒を掲げる組織に属し、ときには背中を預け戦うなど、戦友としても良好な関係を築き続けている。とはいえど、さくらもルシエラも成人を控えた一人の少女だ。四六時中戦いに明け暮れているわけもなく、勉学に励んだり友人と出歩く日もある。今回誘ったのはルシエラのほうだった。
「さくらちゃん。次のお休みの日私と女子会をしないかの？」
「……女子、会ですか？」
　少し戸惑ったふうに言葉を切る彼女にルシエラはうんうんと頷いた。鼻息荒く前のめりに――とまではいかないが自らの名案に自信満々、兄と二人暮らしをしてはいるが今は何か小隊仲間の自宅で手伝いをしているらしく外出中なのでさくらと二人、自室でのんびりしている最中だ。
「女子会と言えば！　ウィンドウショッピングにカフェでおしゃべり♪　たまにはそういう遊びをするのもきっと楽しいと思うの！」
「お洒落して出掛けるわけですね。では美味しいお菓子が楽しめるカフェに行ってみるのはどうですか？」
　長時間外に出掛けるなら確かに食事も必要である。いや別に午後からでも構わないが衣服だけではなく、小物だったり雑貨だったりももし見るのならばそれこそ時間が山程あっても足りないくらいだろうと思う。何よりもスイーツを二人で一緒に食べつつ話に花を咲かせるなどまさに女子会らしいと心底ワクワクした。
「それもいいの！　さくらちゃん、何かお勧めのお店とかあるのかの？」
「それなら――」
　前々から気になっていたお店があるんですと、弾んだ声をして彼女が言う。その言葉にふんふんと耳を傾けるルシエラはその日が来るのを楽しみにした。

「さくらちゃん、さくらちゃん！　このお店はどうかの？」
　きょろきょろ見回した先に気になるある店を見つけて、ルシエラはぱっと顔を明るくした後に真横を歩くさくらの顔を覗き込むようにして、服の袖先を控えめながらも引っ張る。それを受けたさくらは一瞬だけルシエラの顔を見返し、それからふふっと目元を和らげた。
「では、行ってみましょうか」
「本当に？」
「勿論です」
　言った後からさくらはさくらで、何か見たいものがあるのではと思い、少し不安になってしまったのだが躊躇いのないその返事の早さと任務中は身が引き締まる凛とした声音に、兄のものと似た仄かな甘やかさを感じ取って、少し下がったテンションは逆に思い切り急上昇した。嬉しくなって駆け出せばすぐ後ろから名前を呼ぶ声が聞こえ、振り返って、そのまま立ち止まる。人混みの中その隙間を縫うようにしてさくらが追ってくるのが見えて、己がついはしゃぎ過ぎていることを自覚し、はにかむ。さくらもまたしょうがない、とでも言うかのように弟や妹、下の幼馴染に見せるような微笑みを浮かべていて、はにかむのを通り越して両頬が赤らむのを少し感じた。次は足並みを揃えて通りの奥にある店へと向かう。そこは以前から興味があったが何となく行きそびれていた、とあるファッションブランドの店でどちらかといえば自分よりさくらのほうが似合いそうな雰囲気だった。
　肩を寄せ合いくっついていても、さくらは嫌がる素振り一つ見せずむしろ瞳を輝かせていて、楽しんでいるのが伝わってくる。それがまた嬉しくてルシエラも心からの笑みが浮かぶ。意外と積極的にさくらがこれはどうでしょうあれはどうでしょうと似合うかどうか訊いてくるので真剣に考えてみるものの、髪も瞳も色合いが薄く黒より白が似合うだろうとは思うが基本どういう色も服も何でも合うだろうという結論に至るので決まって返す言葉は似合うの一言だ。しかし何故か購入に踏み切れないらしく、すぐに元に戻してしまう。とそのやり取りを繰り返し何度か経った頃、ルシエラは閃くものがあり、動きを止め服が掛けられたハンガーラックの前で、足を止めた。流石に邪魔だろうということでくっつくのはもうやめている為、両手でその一着を手に取り、さくらのほうに少し小走りに近寄っていった。すると、さくらもすぐこちらに気付き、振り返ってくる。
「さくらちゃんは何でも似合うけれど、たまには普段と違う印象の服とかどうかの？」
　と言って彼女の前に差し出したのは、ゆるふわ系のワンピースである。下はスカートになっているとはいえ、任務のときに身に纏っている軍服など、どちらかといえばきっちりとしたイメージが強いがその芯の強い、ともすれば若干だがきつめの印象を与えてしまいかねない瞳や表情を和らげてくれるように思う。ゆったりとしていて身体の線が見えないのが惜しいといえば惜しいのかもしれないが。色は敢えての黒で、しかしその代わりレースのあしらわれた裾と袖、腰に巻きついたリボンがアクセントになりつつガーリーさも確保している。さくらはそのワンピースを手に取って、しげしげと眺めた。果たしてどんな反応が返ってくるのかドキドキしながら待つ時間は実際よりも長く感じて。それが過ぎて、見返せば本当の本当に嬉しそうに淡く微笑むものだから胸が暖かくなる。さくらは愛おしげに服を抱えた。
「ありがとうございます。まさかルシエラも同じことを考えているとは思いませんでした」
「同じこと？」
「はい。私も、先程からルシエラに似合うものが何かないか探していたので」
　まさか全く同じように相手の為に似合う服装を探していたとは予想だにしなかった。そうだ、今自分がしたのと一緒でイメージにぴったりと一致するだけでなく、違った印象を与える服を買うだなんて冒険を試みるのも一緒にいる相手に選んでもらう際の醍醐味ではないか。
「私もルシエラに勧めたいものが一つあったんです。すぐ取ってきますから、是非試着してみてください」
「うむ。楽しみにしてるの！」
　そうと返せばさくらはその服が置いてある場所を憶えていたらしく、ワンピースを抱えたまま迷わず今まで眺めていたほうに引き返していった。ルシエラも振り向いてそれを見送るも、未だ心臓はドキドキ高鳴っている。ルシエラにとってのさくらは、真っ直ぐで芯が熱くてそれでいてまたとても可愛らしい、大切な幼馴染だ。家族の次に心を許している存在でもあって兄と一緒にいるときと同じように自分でも少し子供っぽいと思うのだが、ついはしゃぎすぎてしまう部分がある。しかし今日このときだけは目一杯、楽しんでもいいのではないか。そう思いながらにまにまする唇を手で隠したルシエラの元に彼女は彼女ではしゃいでいるように見えるさくらが何か持ってきた。

　◆◇◆

「ルシエラは可愛らしいです。ですが大人っぽい服装も似合うと思います」
　そんな熱い力説と共にルシエラへと手渡したのはフレアスカートだった。少し丈が長めでオレンジや緑、赤といった活動的な色のイメージがあるのに対してさくらが選択したのはブラウンかつ柄をプリントしてしないようなシックな装いになっている。気に入ってくれるか不安に思いつつ顔を見れば、先程の自分はどうだったかと比較したくなるくらい目を輝かせていて、どうにも落ち着かず試着をする前に即決する勢いの、ルシエラに万が一合わなかったら困るでしょう、と言いくるめ試着室に入って殆ど同時に出てきたときも、眩しい笑顔は健在だった。
「やはり私の見立て通りでしたね」
「ふふ。もし自分で選ぶとしたら、似合わないと思って絶対に諦めてたの。さくらちゃん、ありがとう！」
「私も、同じような気持ちですよ。何だか普段と違った自分の一面を発見出来たみたいで嬉しいです。ありがとうございます、ルシエラ」
　そう返せば彼女はふふともえへへともつかない笑い声を零す。タートルネックとフレアスカートの組み合わせは幼げな容姿ながらルシエラが持つ淑女としての面を引き立てていた。さくら自身もまた己には可愛過ぎるだろうと感じていたゆるふわワンピースも色味が黒ということも手伝って甘過ぎず、ルシエラから受け取ったときも合いそうだと思えたがいざ実際に着てみると想像以上にしっくりときて驚いた。それぞれ服を購入し、そしてそのまま着替えて、次は雑貨を見てみることにした。何かルシエラが気に入るものがあったらと彼女の目の向く先を追っているつもりが、気付けばさくら自身がつい足を止めて隣のルシエラが興味深げに品物を覗き込む。
「さくらちゃんが楽しんでくれてるところを見ると私も楽しいの！　さくらちゃんが好きなもの、気になるものをもっと沢山見てみたいかの」
「それなら、遠慮はしませんよ？」
「何時間だって私も付き合うの♪」
「何か欲しいものがあったらルシエラも遠慮はしないでくださいね」
「勿論だの」
　ふふんと胸を張っての言葉にさくらも安心する。折角の女子会だ、ルシエラが嬉しい言葉を掛けてくれたのと同じく、自分もまた彼女に楽しんでもらいたい思いは強かった。ただの幼馴染というだけではなく数少ない己が心を許している大切な存在なのだ。素直に感情を伝えるところも天真爛漫さの中にも凛とした心を持っているところも、好ましく思っている。先程勧めてもらったワンピースの柔らかな感触と肌に触れる面積の少なさが歩く度にふわふわ落ち着かない気分にさせる。しかし何より落ち着かなくさせるのはさっき彼女が似合うと言ってくれた服を今、着ていることに対する、少しの照れがあるからだ。その動揺が足捌きに出ていたのだろうか、隣を歩くルシエラがくすりと笑った気がして顔に若干の熱が集まるのが分かる。そうして一通り品物を見てそろそろ一息つこうと二人は前にも話をした例のカフェへと向かい、カウンター席に隣同士腰を下ろした。ちょうど混雑し易い時間帯の為、荷物は膝の上と足元に置いてある。ルシエラが何にするか目移りする中、さくらは迷わず苺のスイーツを選択する――かと思えばマフィンやパンケーキ、パフェなど定番の味なだけに種類も豊富で頭を悩ませ、ルシエラのほうがいち早く注文を決めたくらいだった。届いた紅茶を飲みながら会話へと興じれば自らの未熟さを受け入れてからは精神的に落ち着いたといえども、任務なり鍛錬なりに身を置いていれば多少は肩肘にも力が入ってしまうものだと気が付いた。ルシエラは兄やさくらとしても面影を感じる二人の小隊の仲間、さくらは世話になっている屋敷の住人と、共通の知り合いだけでなくて、面識が全くない人のことや任務に日常的な雑談などこちらの世界に来てから意外にも、会う機会が増えたのにも拘わらず話す内容は枚挙にいとまがない。
「さくらちゃん」
　と話に一区切りついて、喋って乾いた喉を潤していたら不意に名前を呼ばれてさくらは振り向いた。その頬に柔らかな感触が一つ。きょとんとしつつ見れば、つい先程買ったお揃いのふわふわもこもこした薄紫のぬいぐるみの片手を摘んだルシエラが、その手を借りて、頬を押していたことが分かる。その行動に思わず微笑みが零れた。ぬいぐるみ猫のふわもこ具合に和んだのもそうだが、
「ふふ。さくらちゃんのほっぺはぷにぷにだの」
　そんなことを言いつつ無邪気に笑うのも含め、ルシエラの行動の可愛らしさもまた微笑ましかった。
「悪戯っ子にお返しです」
　勿論実際は仕返しをするというより、自分も同じことをしてみたかっただけだが、さくらも自分の膝の上に乗せていた瞳が赤い黒猫のぬいぐるみの手でルシエラの頬を押して、ふわもこ返しをする。すると、ルシエラも嬉しそうにまたするので二人で暫しじゃれ合った。雑貨店にいた際のルシエラも言っていたが、相手が楽しんでくれていたら、それだけで嬉しいのはさくらも同じである。己と一緒にいて喜ぶ姿を見る度にいつも元気を貰っているくらい。任務やイベントを除けば、久し振りになる幼馴染との一時だ。目一杯楽しもうとさくらとルシエラは再び口を開くのだった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ここまで目を通して下さり、ありがとうございます。
雑貨店やカフェのシーンももっと書きたいなという
気持ちはありますが尺的に色々と足りなかったので
駆け足気味になってしまい、申し訳がなかったです。
ですが女子同士の距離感とかニコニコと微笑ましい
空気とか私自身も書いていてとても楽しんでました！
ファッションセンスには全く以って自信がないので
ひどいことになっているかもしれませんがその辺は
ふんわりと脳内補完をしていただけると助かります。
可愛さの中にある格好よさと格好よさの中の可愛さ、
両方ともまた凄く素敵なので上手く表現出来ればと
思いつつ書きました。末長く仲良い姿が浮かびます。
今回も本当にありがとうございました！

パーティノベル

りや

グロリアスドライヴ

2021年02月12日