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『ドラマ「四葉の謎日記」 第1話「吠えなくなった犬」』
cloverla0874


 二年生の日向四葉は、高校の校門前で友人たちと別れて帰路に就いた。彼女を追い越してクラスメイトが走って行く。後ろからは、犬の散歩する前にコケるなよ! と、別の同級生の大声が聞こえた。
 日が長くなり始めた夕暮れの道を歩いて帰ると、弟の蓬が神妙な顔で出迎えた。小学六年生の男の子で、まだ反抗期は来ていない。小さい頃からよく四葉に懐いていた。
「お帰りなさい、おねーちゃん」
「蓬くんただいまーっ。どうしたの?」
「ちょっと、友達が気にしていることがあって……おねーちゃんにも聞いて欲しいんですけど」
「良いよーっ。じゃあちょっと手を洗ってくるから待ってて」

 四葉が居間に戻ると、蓬はお茶を準備して待っていた。四葉はお礼を言いながらその正面に座り、
「それじゃあ、お話聞かせてくれる?」
「はい」
 蓬は頷いて、話し始めた。


 蓬の同級生……仮にAくんとしよう……が言うにはこうだ。彼の帰り道には、犬を飼っている家がある。これも仮にB家としよう。彼はたまに、帰り道にその犬が窓辺にいるのを見掛けるそうだ。
「それが、毎週水曜日なんですって」
「水曜日だけいるのかな?」
「それ以外の日も、見掛けることはあるみたいです」
 ただ、Aくんの帰る時間に犬が窓辺で寝そべっているのは水曜日だけらしい。
「でも、そのわんちゃん、ちょっと気味悪いことがあって……」
「気味悪いこと?」
「車が来るのを予知して吠えるんですって」
「車?」
「はい」
 蓬は少し縮こまったように頷いた。

 Aくんは窓辺で伏せている犬がいるのを見ると、そのまま通学路になっている住宅街を歩いた。両側に家が並んでいる公道を歩いたその先に十字路がある。毎週水曜日、そこからぬっと白い大型の車が現れるのだ。決まって、その車が姿を見せる前に犬が吠える。
「たまたまとかじゃなくて?」
「毎回必ず、じゃないんです。Aくんが十字路に到着したときに、車が見えない時は吠えないんですって。だから、予知能力があるんじゃないかって」
「予知能力のわんちゃん」
 そして、最近は全く吠えなくなった。おまけに、その白い車とやらも、ここ数週間まったく見ないそうである。もしかして……何かあったのだろうか。些細なことではあるが、Aくんは気にしているらしい。
「白い車って、救急車とか?」
「うーん、わかりません。救急車ならそう言うと思いますけど……聞いてきましょうか?」
「えっ」
「だって、おねーちゃん、いつもこういう話を聞くと『こうじゃない?』って、ぼくたちが思いつかないようなことを教えてくれるじゃないですか」
 四葉にはたまにそう言うことがある。蓬が頭を抱えるような、日常の小さな謎。話を聞いて引っかかったことを確認して貰うと、四葉はまるで安楽椅子探偵の様に謎を解いてしまうのだ。蓬は、そんな姉の推理を聞きたくて謎を持ち込んできている節すらある。
「ちょっと私が気になってるだけだから……でも、蓬くんが聞いてくれるんだったらお願いしようかなっ」
「はーいっ! わかりました!」
「よろしくねっ」


 翌日、四葉が帰宅すると、先に帰ってきていた蓬が待ち構えていたように出迎えた。
「お帰りなさいっ」
「ただいまーっ」
 蓬も心得たもので、四葉が鞄を置いて手を洗うまで大人しく待っている。彼女が戻ってくると、蓬は聞いてきた事を教えてくれた。車は、どうやら老人施設のものらしい。ケアサービス、と言う文字が書いてあったそうだ。
 四葉には、B家という名前に覚えがある。

 昨日、四葉が帰るとき、校門から走って行ったあの子。友達らしい生徒から、「犬の散歩する前にコケるなよ!」と言われていた彼女の姓だ。同一人物かはわからないが……。

「聞いてみようかな」
 四葉は呟いた。


 また更に翌日。四葉は登校すると、件のクラスメイトの席に近寄った。
「おはよう」
 彼女も愛想良く挨拶を返してくれる。
「ちょっと聞いても良い?」
 快諾してくれたので、四葉は尋ねた。
「犬飼ってる?」
 飼ってる! なんでわかったの?
「あのね……」
 かくかくしかじか、と四葉は説明した。
「私は、そのデイサービスの車がそこを通るのが、わんちゃんが吠える理由なのかなって思ってるんだけど、何でかわかる?」
 わかるよ。えっとねー……。
 彼女は説明してくれた。


 日向さんの弟だっけ、うちの前通るの。違う? そっか。日向さんの弟見たかったな。まあいいや。今度会わせてよ。
 うちのわんこでしょ? あいつねー、おばあちゃんのこと大好きなんだよね。うち、今おばあちゃんと一緒に住んでて。おばあちゃんも散歩してたんだけど、最近やっぱり転んだりすること多くなったから、あたしがその分散歩行ってんの。
 おばあちゃん? 最近デイサービス通ってる。まだ週一で良いらしくって。そうそう、それが水曜日。
 うん。うちの両親のどっちかが出迎えることもあるよ。言ってたよ、あの子、おばあちゃんがデイサービス行くと窓辺でずっと待ってるし、車が近づくと吠えるんだって。エンジンの音が聞こえるみたい。道路混んでると遅かったりするけど。

 で、その子最近わんこが吠えないから気にしてたんだ? んとねー、ばあちゃん転ぶようになったって言ったじゃん? 転んで骨折しちゃって、入院してたんだよね。今はリハビリ中。ここからがくっと悪くなる人もいるらしいから油断できないけど、今のところ順調だって。もうすぐ退院。だから、デイサービスもおやすみしてて、車も来なくなったしわんこも吠えないんだよね。

「そっか」
 四葉は頷いた。
「教えてくれてありがとう。弟の友達が、わんちゃんが車を予知してるんじゃないかって気にしてたから。すっきりすると思うな。おばあちゃんはお大事に」


「……と、言うことで、わんちゃんの耳が良いだけでしたっ!」
 帰宅してから弟に事情を説明すると、彼は目を丸くした。
「わんちゃんの耳ってそんなに良いんですか!? 鼻は利くって言いますけど」
「結構良いみたい。そのお宅がもっと十字路から遠かったらわかんないけど、聞こえる範囲だったんじゃないかなぁ」
「へぇーっ」
 蓬はふんふんと頷いた。
「じゃあ、人間ほど耳の良くない動物がいたら、なんで人間はわかったんだろうって思われてるのかも知れないんですね……」
「そうかもしれない。あ、でね、私のクラスメイトが、『日向さんの弟に会いたいから犬にも会いに来て』って言ってたよ。今度一緒に行こうね」
「わかりましたーっ!」
 何のお土産を持っていこうかな。わんちゃんにもお土産いるんでしょうか? うーん。
 今度の予定の為に、姉弟は額を付き合わせて悩み始めた。

 楽しい悩みごと。窓の外では、微笑むように夕陽が沈んだ。

●キャスト
日向 四葉……clover(la0874)
日向 蓬………クラーティオ(lz0140)

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
割とタネが見えていたような謎でしたが、平和でほっこりを目指しました。犬が吠える理由にも色々あるとは思いますが、今回はこれが真相という事で。
余談ですが、なんで弟の名前が「蓬」だったのかと言うと、「お姉ちゃんに合わせて植物の名前」「お姉ちゃんに合わせて『よ』で始まる三文字の名前」「なおかつ薬草」の縛りだった、という裏話があります。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年02月12日

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