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『砂漠に秘めた想い』
都築 聖史la2730


 カイロへの護衛任務の帰り道、キャリアーの中で都築 聖史(la2730)とアイザック・ケイン(lz0007)は向かい合って座っていた。
 空には星が見え始める時間帯、この部屋にいるのは二人きり。アイザックの淹れた紅茶を口にして、静かに淡々と語り合う。

「……澪河に、言えなかったんです」

 今日、聖史は澪河 葵(lz0067)と二人でツーリングに行った。その時、秘めた思いを告げたかったのに、告げられなかったことを悔いていた。
 葵の事情をアイザックに説明する。この世界には彼女と同じ世界から来たライセンサーが何人もいて、葵は彼らを連れて帰ることを使命としていること。
 だから葵は『帰らなければ』ならない。使命を捨てられない。
 一方、聖史は祖父や親から引き継いだ仕事に誇りを持っていて、店を継ぐつもりでいる。
 だから聖史は『残らなければ』ならない。世界を捨てられない。

「互いに目標が違うから、揺れてるんです」
「それは……確かに難しいね」
「告白した先を思うと踏み出せなくて」
 そこで聖史はアイザックの顔を真っ直ぐに見た。
「別に澪河に好きな人がいようが、他に澪河の事が好きな人がいようが、澪河の横とか前に誰が立とうが構わないんです」
「他に好きな人がいていいの?」
「はい。でも澪河に何かあったときに一番に駆けつける。その一番は譲りたくありません」
 きっぱりと言い切った聖史の姿に、清々しい物を感じてアイザックは感心する。
「……与える愛なんだね。好きになって欲しいと願う恋じゃなくて」
「そうですか? 澪河が帰りたいのに引き留めたいって、ずいぶん勝手だと想いますが」
「相手の立場を考え抜いたから『勝手』だと言えるんだよ」
 聖史は迷うように目を伏せて、悲しげに呟く。
「ただ、「好き」って言えたら楽なのに……」
「好きな人の幸せを考えると言えない?」
「はい。ずっと笑っててほしいのに……」
 引き止めてしまったら、その笑顔を奪ってしまうかもしれない。それが怖い。
 この世界ではSALF以外頼れる場所のない葵を、最後まで支えられるか……理想と現実でも揺れている。
「引き止める以上苦労させたくないし……」
「男だし、責任感じちゃうよね」
「はい。もし、もしも異世界に帰って、戻って来る術があったとして、澪河が使命を果たしてこの世界に戻ってくるなら一番に迎えたいんです」
 
 聖史はポツポツと恋の悩みを打ち明ける。それはアイザックを信頼しているからできることで。
 それに、今日のアイザックはどこかおかしかった。いつも余裕の笑顔でいるのに、少し元気がない。
 見たことがない表情と日頃と違う態度に、今までよりずっと親近感を感じていた。その近さに歳が近い友達と同じ様な感覚を覚えたからこそ、こうして悩みを打ち明けられた。

「そういえば……ケインも話したいことがあると言ってましたね」
「うん……実はね」
 アイザックもまた恋の悩みを抱えていた。今日、女性に告白されて断ったと聖史に説明する。
「信頼できる仲間だと想っていたから、彼女を傷つけてしまったと考えると、気が重くてね。でも中途半端な優しさを見せる方が誠意がないし」
「付き合えないなら、きっぱり断るのは正しいと想います」
 聖史がフォローしてみても、アイザックは浮かない表情のままだ。
「うん。僕も悪いのかなって思うんだ。誰にでも優しく人当たりよく振る舞ってるでしょ。でも、僕はそこまで『良い人』ではないしね。それを期待されるのは、正直辛い」
 聖史はアイザックの表面的な優しさの奥に、優しいだけじゃない部分があるのは解っていた。しっかりとした目標と意志があり、その為なら手段を選ばない黒い所もあることを。
「解る気がします。私も似たところがあるので」
 表向き礼儀正しく真面目に振る舞う聖史だが、内心は苛立ちや皮肉めいた想いも抱えている。そこが似てる気がして、アイザックに共感できた。
「うん。僕もそんな気がしてた。だから聖史君にしか話せないなと思ってね」
 自分にしか話せない。そう言われて、聖史も思わず笑みが零れた。
「信頼して貰えたなら嬉しいです」
「好きになって欲しいと願う『貰う愛』じゃなくて、幸せになって欲しいと『与える愛』が僕もいいなと想う。だから聖史君の恋は凄く良いと思ったよ」
「そうですか?」

 聖史に話したことで、胸のつかえが下りたのだろう。アイザックはくすりと笑みを浮かべた。
「さっき苦労させたくないって、責任を感じてたけど、葵君って『責任を取れ』っていうタイプじゃないよね」
「もちろん。澪河は矜持も高いですしね」
「だからこの世界で生きると決めたなら、それは彼女の意志で覚悟だから、聖史君一人が抱える責任じゃないと想うんだ。責任も苦労も二人で背負って、分かち合って、生きるものなんじゃないかな」
「二人で、分かち合う……ですか?」
 意外なことを言われた気分で、聖史は思わず目を見開いた。
 けれど葵の性格を考えれば、確かに聖史に守られっぱなしでいるはずもないと、どこかしっくり来る。
「対等な関係で支え合っていく、人生のパートナーって、僕の理想だな」
「そうなれたら良いですが……」
 聖史は苦笑いを浮かべる。告白すらしていないのだから、葵の想いも解らない。
「聖史君の想いを伝えて、どうするかは葵君次第じゃないかな」
「……断られるかもしれませんしね」
「そうかな? 今日も帰ってきたとき、葵君も機嫌がよさそうだったよ。聖史君と過ごした時間が楽しかったんじゃない?」
「だったら良いのですが。思い出を作ろうって約束はしました」
「なら、悔いは残さないほうがいいよ」
 アイザックに背を押され、せめて、ほんの少しだけ、ワガママを言ってみようか。そう思えた。

「よかったらこの話の続きは、帰ってから酒を飲みながらってのはどうかな?」
「ケインは酒好きですからね」
「もちろん。それに愚痴って酒を飲みながらの方が言いやすくない?」
「それは確かに」
 言いたい事は言い合ったが、それでもまだ溢れるのが愚痴という物。
「よし! じゃあ、止まり木に行こう。あそこなら気兼ねなく思う存分飲める」
「店長だからって、店の酒を飲み尽くす気じゃないんですか」
「ふふふ、飲んだ分だけ買い足せば良いんだよ」
 ワーカーホリックなアイザックは仕事し続けてろくに休まない分、給料は増える一方で、金の使い道と言ったら、飲み代しかない男だった。
「僕も飲みたい気分になりましたから、付き合いますよ。でも、ケインの飲むペースについていくのは無理ですけどね」
「お酒は飲んでも飲まれるな。自分のペースで良いよ」
「飲み過ぎると、ケインを心配する人がいそうな気がします」
「そうだね。僕のダメな所を叱ってくれる人が良いな」
 それはアイザックの恋愛観の一部なのだろう。そういう話をもっと聞いてみたい気がした。

 キャリアーがエジプトを立ち、エオニア支部に着く頃にはすっかり夜になっていた。
 そのまま二人はエオニアの街に繰り出す。
 二人はにとって我が家のような温かな店で、男同士で恋の話と愚痴を肴に、酒を飲みつつ夜がふけていった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
●登場人物一覧
【都築 聖史(la2730)/ 男性 / 22歳 / 与える愛、迷う男】

●ライター通信
いつもお世話になっております。雪芽泉琉です。
この度はノベルをご発注いただき誠にありがとうございました。

男同士の恋バナというのも新鮮で、楽しく書かせていただきました。
カイロ任務の時間軸では、まだ葵さんが戻って来る術があることは知らないので、知らないていで話を書いています。
英国の任務に繋がるように、聖史さんのお心に沿う描写になっていれば幸いです。

何かありましたら、お気軽にリテイクをどうぞ。
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雪芽泉琉 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年02月16日

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