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『scoop,scream,to soul!』
桃簾la0911


 2月。
 バレンタイン。街も人の心も浮足立つシーズンである。
 グロリアスベースを訪れた桃簾(la0911)は、そこで奇遇な再会を果たした。
「桃簾さん! お久しぶりですー!!」
 飛騨に拠点を置いている、三木 ミコト(lz0056)だ。
「グロリアスベースは久しぶりなんですが、都会感すごいですね。観光していこうかな……」
「ええ、アイスを楽しむのは夏と限りません」
 少女は一言もアイスと発していないが、桃簾は彼の地でもアイス教は着実に広がっていると手応えを感じ取り、頷きを返した。
 寒い地域ほど冬もアイスを嗜むと聞くから、今回を機に知見と愛情を深め飛騨での更なるアイス教発展へ繋いでほしい。
「アイスは地方発送も可能ですが、暖かな店内でのイートインは現地ならではの醍醐味であり最高の状態で食べられる機会です」
「最高の状態……たしかにそうかも」
 桃簾の語りを聞き、ミコトはハッとなる。
「教えていただけますか!」
 迷える子羊へ、アイスの女神は悠然と頷いた。




 卒業・進学に関わる試験を終えたムーン・フィッシャー(lz0066)は、プレッシャーから解放された反動で完全なるぽんこつ状態にあった。
 普段はグロリアスベースのショップで、さも店員が如く振る舞いをしているが『今日は帰って休みなさい』とつまみ出される始末である。
「ショップでのバイトは上がりですか?」
「その声は! ……その声は?」
 ハッと振り返るムーン。
 その方向には、鴇色の髪の麗人がしもべらしき少女を従えていた。どちらも見覚えのあるような……
「おひめさま?」
「合っています」
「たぶん、噛み合ってないですよね!?」
 私、お付きの人だと思われてますよね!? 察したミコトだけが表情を変える。
「夢で会った気もする……しませんか?」
 薔薇のような香り。優しくも凛とした声はアイスクリームのような輪郭をしていて……アイス……
「W.A.T.E.R.……」
「……奇跡の人?」
 桃簾とムーンが見た『夢』を知らないミコトは、素のツッコミを入れざるを得ない。
「薔薇のアイスの方か!」
「合っています」
「どういう生き方をしてるんですか、桃簾さん!?」
 ミコトとムーンは、冬の飛騨で野球試合が開催された折に面識はある。
 フリ・ボケ・ツッコミが揃ったところで、グロリアスベース・アイスクリームツアーは幕を開けた。




「有名店ですが、だからこそ最初に押さえておきたいところです」
 1軒目は、イタリア風のカフェ。
「たしかに有名だが……お安くはないぞ」
 ムーンの声が微かに震える。少なくとも中学生が放課後にブラリ立ち寄る系ではない。
「わたくしが引き留めたのだから、お財布の心配は無用です。新メニューの出る頃ですから、可能な限りのアイスを味わいたいのです」
「新メニュー!」
 桃簾の発言へ、ミコトの瞳がキラリとした。
「この時期はやはりチョコレート系の新メニューが多いですが、柑橘も旬ですのでそのアイスも多くあります」
「入ってみたいです。お会計は自分でするので! こんなお店、初めて……」

 ポッド型冷却ケースに納められたアイスクリームたち。
 カップ・コーンという定番の他に、クッキーサンドも楽しめる。
 桃簾は新作『特濃ミルク』『アールグレイ』のダブルをコーンで、『日本レモン』『レアチーズ』『バレンタインショコラ』のトリプルをカップで、マグカップに入った『キャラメル』にはエスプレッソを掛けて。
「素晴らしい。最高に冷やされ、かつ口に入るとほどけるように溶けていきます」
「焼き立てワッフルにオレンジのアイスって、すごく え、もう3つ目を満喫してるんですか?」
 ムーンが『ナッツ』のクッキーサンドと格闘し、ミコトが『オレンジピール』&ベルギーワッフルを堪能している間に桃簾は先の2つを完食、デザート感覚で3品目を口へ運んでいた。
「こちらは気にせず、2人は2人がアイスを楽しめるペースで食べてくださいね」
 3つ目も完食し、いつオーダーしたのか『リンゴ』『柚子』のシャーベット、『ホワイトチョコミント』、『冬かぼちゃ』が運ばれてくる。
「眼福……」
 ほう、とミコトは思わずため息をもらす。
 いずれも、グラスやカップなど器も凝っていて見ているだけで心が華やぐ。
 加えて、桃簾の食事の所作も見惚れるほど美しい。
 ミコトたちが1品食べ終えるタイミングで、桃簾も追加分を食べ終えた。




 次は、先月オープンした新店舗。
 男性客も入りやすそうな、シックな雰囲気だ。
 メニューも、アイスクリームそのものも去ることながらフレンチトーストやデニッシュサンドといった温かいアレンジが豊富。
「厚切りフレンチトーストにバニラアイス、はちみつ掛け……至福である……」
「熱い飲み物とも合うんですねぇ。アイスが進んじゃいます」
「ええ、本当に」
 ミコトがダージリンティーとシューアイスを堪能している間に、桃簾は『メロンパンサンド』『アイス&フルーツサンド』『ラムレーズンのクレープシュゼット』を食べ終えている。
「それにしても、アイスとは多彩な種類があるものだな」
「アイスの世界は奥深いものです。うなぎアイスや肉アイスもあるそうです……いつか挑戦してみたい」
「うなぎ」
「肉」
 夢を語る桃簾の瞳には、一点の曇りもない。
「今もこうしている間に、伝統は受け継がれ新たなるアイスが生まれているかと思うと胸が高鳴ります」
「そして、それを持ち帰る技術も……で、あるな」
 道すがら、放浪者である桃簾の故郷にはアイスクリームは存在しないとムーンも聞いていた。
「全てはアイスのために」
 アイス教の女神は、神々しく微笑んだ。




 最後はレトロな喫茶店だった。
「意外です……今まで華やかなお店だったので」
「路地裏に、こんな店があったとは我も知らなかった」
「地方発送はしていませんが、ここのアイスはグロリアスベースへ来たなら必ず食してほしいものです」
 オーソドックスな、喫茶店メニュー。
 ミコトとムーンは、バニラアイス。
 桃簾はコーラフロートをオーダーした。
「なんだか……すごく、懐かしい感じがします」
「過剰に飾らぬのが良いし、どこかほっとする……」
「オーナーの手づくりなんです。30年ほど続いているそうですよ」
「ええ!!!」
 アイスクリームを作るにあたり便利な機械は様々あるが、冷凍の合間の攪拌を含め全て手作業なのだそうだ。
 家庭でだって、そんなアイスを食べることは少ないだろう。
「飛騨でも作れるかな」
「是非、伝え広めなさい。彼の地の豊かな資源があれば、幾らでも生みだせると信じています」
 鮎アイスとか。




 楽しい時間は、あっという間に過ぎてしまう。
 ミコトが乗る予定のキャリアー出発時刻が迫っていた。
「わたくしが故郷へ帰るまで、まだ少し時間があります。また、一緒にカフェ巡りしましょう」
「はい! 飛騨にも来てくださいね。フィッシャーさんも!」
「鮎アイスが完成した暁には連絡をくれ」
「それはたぶん無理」
「アイスに無理の二文字はありませんよ、ミコト」
 二の句を継がせず、桃簾は友を見送った。


(そう。『無理』は、ありません)
 春が来れば、桃簾は故郷へ戻る。故郷でアイスという文化を根付かせると決めている。
 そのために自分は地球へ転移したのだとさえ思う。

「ありがとう、アイス」

 アイスを通じた、全ての出会いに感謝を。




【scoop,scream,my soul! 了】

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
お待たせいたしました……!!
ご依頼、ありがとうございました。
アイスカフェ巡り女子会をお届けいたします。
アイスの楽しみ方バリエーションの豊富さときたら!!
寒い冬こそアイス。アイスに不可能はない。
お楽しみいただけましたら幸いです……!!
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佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年02月24日

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