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『蹂躙者、廃墟に舞う』
水島琴乃la4339

 敵の攻撃とは基本的に、防御ではなく回避するものである。
 したがって防具は不要。水島琴乃(la4339)は、そう思っていた。
 とは言え、さすがに水着やランジェリーで戦うわけにはいかない。
 だから琴乃は、新しく支給されたものを試着していた。
 活力を漲らせて膨らみ締まった尻と太股を、スパッツに閉じ込める。特殊繊維のスパッツが、はち切れてしまいそうではある。
 上半身でも、黒色のインナーが身体に密着し、瑞々しい胸の膨らみと力強い胴のくびれを引き立てている。戦闘服である。着ているだけで身体が引き締まる効果など無い。このボディラインは、日頃の鍛錬の賜物だ。
 美しく鍛え上げた尻にプリーツスカートを巻き付け、すらりと伸びた美脚に編上げのロングブーツを穿く。
 丈の短い着物を思わせる上着を羽織り、帯で締める。
 最強の防刃・防弾効果を備えた戦闘服、という触れ込みではある。それが本当で、刃物や銃弾を防ぐ事が出来たとしても、ナイトメアの攻撃を防いでくれるかどうかはわからない。
「開発部の方々には申し訳ありませんが……過度な期待を、してはいけませんよね」
 琴乃は呟いた。装着したグローブから、美しく鋭利な五指が伸び現れた。
 その五指で、斬撃用の大型クナイをくるりと弄ぶ。
「敵の攻撃は、かわすもの……否。敵は、攻撃される前に殲滅するもの」


 アサルトコアは、性に合わない。
「操縦、出来ないわけではありませんよ? もちろん」
 語りかけながら琴乃は駆けた。艶やかな黒髪がなびいて泳ぎ、冷たい美貌に笑みが浮かぶ。
「けれど、やはり……ね。手応えは、直に感じないと」
 廃墟であった。大型ナイトメアに破壊され、復興もままならぬ区域。
 そのあちこちで、小さなものたちが跳躍している。
 蜘蛛のような形状の、超小型ナイトメア。超小型と言っても、人間の子供くらいの大きさはある。人間の子供を、容易く捕食してしまうだろう。
 それらが、琴乃に向かって剽悍に跳ねて来る。鋭利な節足で、琴乃を切り刻もうとする。あらゆる方向からだ。
 左右2本、両手にそれぞれ握り込んだ斬撃用クナイを、琴乃は一閃させた。
 一閃で、いくつもの斬撃の弧が生じた。
 超小型ナイトメアの群れが、それら弧に触れただけで縦横斜めに両断され、滑らかな断面を晒した。
 彼らの屍を蹴散らすように、何かが超高速で宙を泳ぐ。無数の、蛇のような何かが。
 琴乃は、跳んだ。軽やかな、回避の跳躍。
 琴乃を捕捉し損ねたものたちが、凶暴に蠢きうねる。
 恐らくは猛毒であろう液体を滴らせた、無数の触手。毒虫の群れ、にも見える。
 そんなものを両手、と言うか左右の前肢から生やし伸ばした、巨大な甲虫であった。後肢で直立するその体型は、人型にも見えない事はない。
 体長は、3メートルに達するであろうか。超小型ナイトメア、の範疇に辛うじて収まるのか。
 この区域のナイトメアを殲滅する。それが、今回の任務であった。
 毒触手を生やした直立甲虫。この個体が、殲滅対象の中核であるのは間違いない。
 会話など、出来るはずはない。それでも琴乃は、問いかけていた。
「貴方……人を、殺しましたか? どれほど?」
 返答、なのであろうか。
 猛毒の触手たちが、無数の鞭の如く襲いかかって来る。
「貴方たちナイトメアが、人間の世界を脅かす……人を殺し、捕食する。貴方たちなりの、何か切羽詰まった理由や事情があるのかも知れませんね」
 襲撃の真っただ中で、琴乃は身を翻した。
「けれど、それは……私たち人間の、知った事ではないのです」
 和風戦闘服を瑞々しく膨らませた胸が、横殴りに揺れる。艶やかな黒髪が、フワリと舞う。
 そして、斬撃の閃光が弧を描く。
「貴方たちは、人を殺します。それは私たち人間にとって……いかなる理由があろうと、非道の行いでしかないのです。外道の所業にしかなりません」
 格好良く引き締まった胴が捻転し、短めのプリーツスカートが舞い上がった。実りに実った白桃を思わせる尻の周囲でも、斬撃が光る。
「だからね、わたくしが罰を与えます。今ここに存在する事、それが貴方の罪です」
 閃光の弧が無数、描き出されていた。
 毒触手の群れが、ことごとく切断され、うねりながら落下してビチビチと地面を叩く。
 毒液の飛沫をかわしながら、琴乃は軽やかにステップを踏んだ。そして語りかける。
「かわいそう……貴方たちナイトメアも一生懸命、生きているのに……それが、万死に値する罪になってしまうなんて」
 切断されたのは、触手だけではない。
 それらの発生源……直立する甲虫の巨体が、幾重にも食い違ってゆく。
 半ば、輪切りとなっていた。装甲そのものの外骨格が裂け、臓物が大量に溢れ出す。
 それら臓物類が、牙を剥き、琴乃を襲う。
「本当に、かわいそう……貴方の、その一生懸命に生きようとする姿」
 右足を、琴乃は軽やかに離陸させた。鋭利な美脚が、あられもなく跳ね上がって一閃する。
「……無様にしか、見えません」
 斬撃そのものの蹴りが、蠢き牙をく臓物類を薙ぎ払い粉砕した。汚らしい、肉質の飛沫が散った。
 蹴り終えた美脚に、なおも大量の、臓物か寄生虫か判然としないものたちが絡み付こうとする。すらりとした足首、形良いふくらはぎから、むっちりと魅惑的な太股へと。
「あらあら……こういう事を、お望み? うふふ、いけない子」
 絡み付いて来るものたちを、琴乃はひとまとめに踏み潰した。
 綺麗な爪先で、いくらか高めの踵で、踏みにじった。蹂躙した。蠢くものたちを、グッチャグッチャと。
「ああ、わたくし……一生懸命、健気に生きる、かわいそうな生き物を……こんなふうに、まるで汚物のように扱うなんて」
 踏みにじりながら、琴乃は天を仰いだ。
「……いつしか、天罰が下るかも知れませんね……」
 自分に天罰を下すような強大な敵が、果たして現れるのか。
 もはや超小型ナイトメアでは相手にならない。小型、中型、大型のナイトメアに生身で挑むような、そんな領域に踏み込むしかないのであろうか。
 巨大な直立甲虫であったものは、もはや原形を失っている。輪切り状に切り刻まれた上、散々に踏みつけられ、もはや死体とも呼べぬ有り様と成り果てている。
 未来の自分かも知れない、と琴乃は思った。
 敵を惨殺し、蹂躙する。
 それは、いずれ自分が蹂躙されるかも知れないという事でもある。
 1年後、数ヶ月後、あるいは明日。
 廃墟の路上で、この有り様を晒しているのは、水島琴乃かも知れないのだ。


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小湊拓也 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年02月24日

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