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『ぐろどらんど〜紅蓮の猟犬特別編』
cloverla0874


 ポップな音楽にパステル調のステージ。
 可愛らしいデフォルメのキャラクターが喋る! 動く!
 アニメーションのカットイン!!

『敵がナイトメアだけだったら、どんなに良かっただろうな』
『これが……敵? どう見ても』
『雪山を甘く見るな……! 奴らこそが最大の敵だ!!!』

「ウッ、頭が」
 実在するライセンサー・ナイトメアをモデルとした、ソーシャルゲーム『ぐろどらんど』。
 clover(la0874)にとって馴染み深い面々がストーリーに登場するのを楽しんでいたら、避けては通れない展開へ来た。
「冬……山……雪……」
 今回のミッションは、冬山のナイトメア討伐任務の裏で、雪崩が起きないよう警戒しつつ孤立した民家を救出していくもの。なにそれ渋い。
「雪崩はマズいよね。少なくとも衝撃はナシとして……炎で道筋だけ溶かすならいけるんじゃん?」
 幸い、頼れる仲間は既にいる。
 轟炎の使い手。紅蓮の猟犬、ライカ(lz0090)。
 ☆5のレアリティだが、課金という名の愛で乗り越えた。
「はー……。新規実装された衣装、ほんと似合う……。こないだの学ランも良かったけどー」
 推し活は生活必需品であるため光熱費計算。
 必要経費です。いくら掛けたかは気にしない。
 ベッドの上でゴロンゴロンしながらスマホを抱きしめる。
「……。それにしても」
 ストーリー進行を横に置き、cloverは深刻な悩みと改めて向き合った。

 ライカの好感度が、上がらない。




「どういうことっ!?」
「わしに聞くな……」
「だって、ライカじゃん!!」
「落ち着け、わしはおぬしの向かいにおるじゃろうが」

 翌日。
 ファミレスへ呼び出されたライカ(本人)は、これまでのあらすじを聞きながらも理解に苦しんでいた。
 如何せん『ソーシャルゲーム』未経験である。
「装備もスキルもカンストなんだけど、ライカが好きになってくれない……」
 本人を前にして言うとすごいセリフだが、対象は画面の中である。
「それにしても……すごい格好じゃな」
 画面を示され、cloverのスマホをライカはひょいと覗き込んだ。
「強そうでカッコいいでしょ!?」
「自分では選ばないだろうものを、こうして見るのも不思議じゃな……。ゲーム内の別人と思えば興味深くもあるか」
「え――。白ずくめも似合うよー。返り血を浴びる間合いには誰一人として入れないの!」
「そういう枷か。なるほど」
 ライカは、自身が現在羽織っている黒のハーフコートと見比べる。
 目立たない、人の記憶に残りにくい無難なものを普段から選んでいるので、ゲームならではの見映えというのは新鮮だ。
「今まで考えたことは無かったが。クロの髪も、返り血で赤くなることはあるのか」
 無垢という形容が似合う、その白い髪が。
「……え、なにそれ怖い。無いよっ、浴びそうな時は盾で防御だもんっ」
「たしかに」
 どちらかといえば仲間を守ることに主体を置いているので、cloverが返り血を浴びる状況自体が珍しいかもしれない。
 なんなら盾(鈍器)で殴るし。
「それでね。お店で買ったアイテムあげると好感度上がるんだよね。でも、本とかお菓子とかあげてもぜーんぜんあがんない」
「好感度が上がると、どうなるんじゃ? 聞く限り、戦闘に必要な要素は揃っておるのじゃろ?」
「ランダムで会話イベントが起きるの!! 表情やモーションのバリエーションが増えたりっ」
「楽しそうじゃのう……」
「そうだ、ライカもやらない? クロ君を召喚して一緒に闘ってよ!」
「クロが楽しそうじゃ、という意味じゃ。わし自身はこういう手合いは苦手だ」
「スマホの操作的な手合い?」
「…………」
 ライカが、スッと目をそらす。cloverはにっこり笑った。
「よっし、教えてあげるから。レッツ登録!」

 ここで、小一時間ほど脱線となる。




 初回登録プレゼントの10連ガチャでcloverを引き当てたライカは、低課金で好感度MAXまでぶち抜いた。
「……ちょろいね、俺」
 我ながら。
 cloverは乾いた声で笑う。
「とはいえ、装備やスキルはこれからじゃろう? ふむ……。なんとなくは理解した」
「ありがとー! それじゃあ、折り入って」
 画面の中で、ほわほわしたcloverが笑顔でゴツイ盾を振り回しながらライカを呼んでいる。
 このプログラムを組んだの、誰だろ……
「という訳で、参考までに何もらったら嬉しいのか教えてっ!」
 cloverの好感度上げは、特定ジャンルの本だったり甘いものだったり、花冠をあげたり。
「……犬は飼えないのか」
「好きだよね、ほんと」
 しょぼんとした声でショップのラインナップを眺めるものだから、cloverは手を伸ばして『よしよし』と頭を撫でまわしてしまう。
「犬かー。ぬいぐるみならあるんだけどなー。他には、何かある?」
「……山? トレッキングコースとかは好きじゃな」
「完全非売品」
 土地を制圧してプレゼントとか。重い。
「…………。ん。んんん? なんか、わかってきたかも」
 なにしろ☆5のキャラなので。イレギュラーがあってもおかしくはない。




 経験値稼ぎにもならない、簡単なサブクエストが幾つかある。
 アイテムもゲーム内通貨も最低限で、イベントも発生しない……はず、だった。

 【豪邸に現れたナイトメアを討伐せよ:難度1】

「来たぁ……!!」
 豪邸の庭には、真っ白でモフモフな犬が居る。
 ライカでクエストクリアすると好感度が上がった……!!
「え、そういうことなの……?」
「物より思い出、とは言ったものじゃなあ。わしでもそれは思いつかんかった」
「それじゃあ、ハイキングコースとかも良いのかな」
 金色の瞳をひときわ輝かせ、cloverはクエストを進めていく。
「なんか、うれしー。ライカと旅行してるみたいっ」
 お土産に変Tシャツを買ったのはご愛嬌として。
「裏技みたいだけど、こういう方法があるんだー」
 ドリンクバーで3杯目のコーラを注いできて、ライカはcloverの向かい側に座る。
「楽しそうじゃなぁ」
「たのしーよ?」
「こっちに、本物が居るのにか?」
「ふえ」

 がっしゃん。
 
 ついっと髪の一房をひっぱられ、動揺したcloverは傍らのミルクティーを床に落とした。
「えーとえーと」
 確かに、せっかく休日にこうして会えているのにゲームの攻略方法を聞くだけというのは。もったいない。かも。
 かといって、遊びに行くプランは全くなかったので、動物園も水族館もここからでは遠い。
「おしゃべり……しよっか。人類研究会の、これまでの歩みとか聞きたいかも」
「それは、聞いて楽しいか?」
「ぜったい楽しい! ……あれ。もしかして、3人揃えたら発生イベントとかある??」
「それは……嫌じゃな」
「凄く見たいけどね」
 ライカ最優先で進めてきたから、2人ともまだゲットしてないんだ。
 cloverの言葉を聞いて、ライカがあからさまに安堵する。
(家に帰ったら、さっそく狙おう)
 その一方で、ばっちり見逃さないcloverは決意を固めていた。
 ぐろどらんど、侮れない。


 さて、それではここからはスマホを伏せて。
 実物を相手に、どれくらい好感度をあげられるでしょーか。




【ぐろどらんど〜紅蓮の猟犬特別編 了】

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
お待たせいたしました……!!
ご依頼、ありがとうございました。
あったらいいなソーシャルゲーム『ぐろどらんど』ライカ編、お届けいたします。
好きなものって何だろうなって考えてみましたが、店で売っているものではないな……からの、イレギュラーかもしれない着地となりました。
好感度MAXまで、まだまだ道のりは遠そうです。
お楽しみいただけましたら幸いです!

ライカは、
・ナイトメアとしての力を一切失い、ひとでもナイトメアでもない生命体
・SALFはそのことを把握していない
・衣食住、収入や食生活などは一切不明
という設定でお送りしております。
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佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年02月25日

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