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『バレンタインの夕暮れに』
cloverla0874


 バレンタインデー。それは……。
「命日ですよね」
「そう言うこと言うの止めてください」
 首を傾げるクラーティオ(lz0140)に、グスターヴァス(lz0124)が即座に突っ込む。確かに、元になった聖人の命日ではあるし、彼が亡くなった理由が愛と繋がっているので恋愛絡みの記念日になっているという説が有力だが……。
「好きな人にプレゼントあげる日ですよ」
「その好きって、恋愛じゃなくても良いんですよね?」
「義理チョコってのもありますから、別に恋愛の本命じゃなくてもあげて良いです。友チョコってものもありますから」
「それを先に言ってくださいよ。気の利かない人だなぁ」
「うるせーんですよ」

 clover(la0874)の熱い説得を受けてSALFに投降したクラーティオ、持ち前の順応性を発揮して、すっかりSALFの生活に馴染んでいた。国連軍が嫌いなことには変わりないが、顔見知りには徐々に心を開くようになっている。グスターヴァスも、段々絆されたと言うのか……生意気な子供の面倒を見る保護者の気分になりつつある。
 その理由の一つには、やはりcloverの存在があるだろう。めげずにクラーティオがSALFに馴染めるように努力しているその姿を見ると、クラーティオはともかく、cloverには報いないといけない気がしてしまう。
「じゃあ、ぼくはクローバーくんにもチョコを用意しないと。クローバーくんってチョコ食べられるんですか?」
「物は食べられる筈」
 確かゲーム大会の時にプリン買ってきた気がする。クラーティオは満足そうに頷くと、
「あと、コートジボワールの皆にも用意したいです。受け取ってもらえるかは別ですけど」
「上に話しときます」
 クラーティオに敵対したSALFを敵視している村の人間もいる。そう言う意味では、クラーティオの自由が見えるバレンタインの贈り物は、ガス抜きとして最適だとグスターヴァスは思った。クラーティオの方も、その意図を察しているのか、
「お仕事お疲れ様です!」
 にっこり笑って言い放った。事情を知っている者が見れば、その笑顔は「ふてぶてしい」の一言に尽きるだろう。
「こんにゃろ……」


 さて、そんな二人の嫌味の応酬など知る由もないcloverは、二月十四日の夕刻にSALFの廊下をぱたぱたと走っていた。目当ての二人組を見つける。
「お世話になってまーっす! 純情可憐なびしょーじょからの贈り物でっす♪」
 ぐれんのわんこを抱きかかえて、グスターヴァスとクラーティオが紙袋を開けているところに飛び込んだ。
「可憐で不屈の美少女クローバーくんだ! こんにちは」
「こんにちはーっ! はい、クラーティオとおじさんにこれっ! 友チョコでーすっ!」
 クローバーは持っていた紙袋から可愛らしいラッピングを取り出した。
「やったぁ!」
 クラーティオは両手を挙げて喜んだ。最近、段々感情が豊かになりつつある。最初は死んだ魚の目をしていて、グスターヴァスの隠し子疑惑があったのに。つや消し絵の具で塗りつぶしたみたいな色の目だった、クラーティオ。
 それが今はどうでしょう、朝露に濡れる若葉のように輝いているではありませんか。
「クラーティオが喜んでくれて嬉しいなっ」
「私も喜んでます」
「おじさんも喜んでくれて嬉しいっ」
「開けても良いですか?」
「開けて開けてーっ!」
 二人はラッピングを開けると、中から出てきた市販品の可愛いチョコを見て更に歓声を上げた。
「食べるのがもったいないじゃないですか……」
 グスターヴァスは穴が空きそうになるほどチョコレートを凝視している。
「それで駄目にしちゃったら本末転倒ですよ」
 クラーティオが彼を睨み、一粒摘まんで口に放り込んだ。もぐもぐ……にっこり。
「おいしい!」
「良かったーっ! おじさんも駄目にしちゃう前に食べてねっ!」
「今食べちゃお」
 グスターヴァスも一粒取った。
「それはそうと……」
 cloverはきょろきょろしながら
「……どれくらい貰ったの? 本命とかあった?!」
「残念ながら本命は頂けず、全部義理と友です」
「ぼくは何か、施しって感じでもらいました」
 いくらエルゴマンサーでも、見た目少年で、なおかつ負けてSALFに来た、となると、バレンタインにチョコをもらっても良いのではないかとお節介を焼く人類はいるらしい。あんまり知らない人からもいくつか貰った様だった。オペレーターの彼女からとか、セーラー弓道着の彼からとか。気を遣われている分、それなりのお値段がするチョコも混ざっているようだ。数はそこまで多くない。比較的新参で、しばらく心を開いていなかったので致し方ないとも言える。

 一方のグスターヴァスは、ライセンサー歴が長いことと、方々に顔を出していることで知り合いが多く、量だけならそこそこもらっている様だった。ただし、イロモノチョコも結構多い。
「グスターヴァスさんなら食べられるでしょって言われました」
「内臓型のチョコだ……」
「ぼく、調べたんですけど、結構お値段するんです。この人をいじるためにお金出す人がいるんだなぁ、と言うのが新たな気づきでした。もっと別のことにお金使ったら良いのに」
 辛辣なクラーティオである。それについてはグスターヴァスも同意しているらしく、
「私は粒チョコでも充分だと言いますのに」
 変わり種はお腹いっぱいらしく、cloverの飾らない市販チョコが逆に新鮮だったようだ。また一粒つまんでいる。
(でも、おじさんが胃袋型チョコにかぶりついているところはちょっと見てみたいかもしれない……っ)
 ゾンビに囲まれて乱心した人みたいじゃん。
「折角だからcloverさんもいかがですか? あなたの好きそうなチョコレートもあります」
 半球型のチョコのてっぺんに、ワンポイントが乗っている。お察しください。
「これは……っ!」
「いっぱいありますよ」
 cloverは真顔になり、
「これをもらったってことはさ、おじさんもやっぱりこう言うのが好きって思われてるんじゃないの?」
「思われているのと実際にどうかは別ですし、私は特に何もコメントしておりませんので……」
「なんだかずるい大人の言い回しだーっ!」
「あ、そうだ、これぼくからcloverくんに友チョコですっ」
「えっ、良いのーっ!?」
 和気藹々としながらチョコレートを広げていく。

 今年のバレンタインはいつもとは別の賑やかさで、違った温度がそこにあった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
クラーティオは慣れてきたら案外ふてぶてしくなりそうだな……と思うなどしました。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年02月25日

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