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『二人で歩む永遠の旅路』
吉良川 奏la0244)&吉良川 鳴la0075


「……奏。準備でき……」

 吉良川 鳴(la0075)が控え室の扉を開けた瞬間、思わず目を奪われて言葉を失った。
 純白のウェディングドレス姿の吉良川 奏(la0244)があまりに美しかったからだ。
 椅子にゆったり座って微笑む奏は、大人っぽく化粧が施され、結い上げられ黒髪が白いヴェールに映えた。
 白く細い首から肩にかけたラインは大胆に露わになり、プリンセスラインから広がるスカートから繋がる長いトーレーンにはたっぷりレースが施され、歩く姿はきっと神々しいまでに美しいに違いない。

「……鳴君。カッコいいね」
「……」

 黒のタキシードをびしっと着こなす鳴を見て、奏は頬を赤く染めた。いつもはラフな髪型も、今日はきっちりセットされていて、大人っぽい。
 鳴は無言でつかつかと歩み寄り、奏を抱きしめようとして止められた。

「待って、鳴君。タキシードにお化粧がついちゃうよ。セットした髪も崩れるし」
「むー……」

 椅子に座った奏を見下ろし、鳴は不満げに唇を尖らす。鳴の視線は顔から首や肩に。それだけで奏は鳴の意図がわかってしまい、上目遣いではにかみながら奏は小言を言う。

「跡がついたら目立つから、今はダメだよ」
「……」

 白磁のような白い肌に、ちょっと口づけを落としただけで目立ちそうだ。鳴はすとんと奏の前で膝をついた。

「じゃあ、見えない所なら、いいよ、ね」
「な、鳴君!」

 奏の手袋をするりと抜き取り、手の甲に、手のひらに、指先にキスを落としていく。
 鳴がキス魔なのはいつものことなのだが、ドレスとタキシード姿で、この姿勢というのは、まるで姫と騎士みたいなロマンティックさでドキドキが止まらない。
 それに、クリスマスのプロポーズの時も、こうして膝をついて指先に口づけてくれた。
 思い出しただけで、奏の顔はぷしゅーっと赤くなる。そんな奏の可愛らしさを鳴は愛でる。
 両手に雨のようなキスをいっぱい降らして、思う存分堪能してから顔を上げた。鳴と奏の目があう。

「ん。唇は、式まで、楽しみに、とっておく」
「……そうだね」

 漂う甘い空気を拭い去り、二人は窓の外を眺めた。
 窓の向こうの庭は美しき薔薇が咲き乱れ、六月の花嫁を祝福しているかのようだ。
 ここはエオニア王国のリゾート施設lanterna(ランテルナ)。二人にとって、様々な想い出の地だ。

「いつ来ても、ここは薔薇が綺麗だけど、やっぱり初夏が一番だね」
「暑すぎず、寒すぎず、心地よいねぇ」

 窓を開け放つと、風は穏やかで優しい。薔薇の甘い香りが漂い、小鳥のさえずりが聞こえる。
 昨年のクリスマス、ランテルナで二人でデートした時、ここで挙式をしたい。そう話していた。その願いは叶った。

「ここで結婚式ができてよかったね。色々あったけど」
「もう、結婚してるけど、ねぇ」

 二人は一月に入籍をすませていたが、挙式の準備に時間がかかって六月となった。
 奏はSALFでライセンサーとしてナイトメアの残党を倒したり、各地の復興を手伝ったり、復興地を慰問したりと、忙しく世界を飛び回っていた。
 一方、鳴はバッティングセンターの管理人をしつつ音響関係の仕事もこなし、その合間に必要があればライセンサーとしての活動もしていた。
 慌ただしい日々を過ごす二人は、待ち焦がれた晴れの日を前にして、自然と笑みが浮かべる。

「キャリアーでする「空の結婚式」っていうのも捨て難がったけれど、ね!」
「奏がやりたいなら、二度式をしても、良いけどな」
「ううん。やっぱりここがいいよ。エオニアには想い出も多いし、大切な人もいるし」

 この国の王女から「姉さま」と言われるほどに信頼されている奏だ。エオニアへ深い愛着がある。
 エオニアで過ごした時間を思い出しながら、二人はテーブルの上を見た。挙式を祝う祝電がたくさん届いている。
 多くの人に祝福されている喜びを噛みしめ、二人で手に取って、披露宴でどれを選ぶか迷いながらあれこれ選ぶ。

「……今まで色々あったよね、私達」
「近くにいたのに、遠回りして、やっと……かな」

 二人は、今まで、長い、長い旅路を歩いてきた。
 親のいない鳴が奏の家に引き取られ、兄妹のように一緒に親しく暮らしたのが始まりで。
 初めは仲の良い幼馴染み。そこから喧嘩別れしたまま、鳴が一人暮らしを始めて別れ。
 再会してもなかなか素直になれず。意地を張り続けた日々もあった。
 やっと互いに心を開いて、幼馴染みに戻れて。そこから恋人になるまで、紆余曲折があった。
 長い旅路の果てに二人は結ばれた。愛を育み、そこから結婚に至るまで、そう時間はかからなかった。二人で過去を振り返って、笑みを浮かべて語り合う。

「これから、どうしたい?」
「……んー? 早く子供が欲しい、かなぁ?」

 奏の問いかけに、鳴は笑いながら答える。奏はぱっと目を輝かせて頷いた。

「子どもは欲しいね!」
「奏に、似るといいよ、ねぇ」
「鳴君似も、きっと可愛いよ」
「そう、かねぇ?」

 くすくすと笑い合い、穏やかに話が弾む。意地悪も、意地っ張りも、今日は鳴りを潜めて。今日は人生最高の一日になるのだから。穏やかに過ごしたい。
 ふと奏は挙式の後を思い浮かべ、とびきりの笑顔を浮かべた。

「またあのスイートコテージに泊まれるんだね」
「クリスマスは無理だったけど、今回は、ね」
「あそこにも、二人の想い出があるもんね」

 まだ恋人になる前、バレンタインの時期に、二人でスイートコテージに泊まった。
 鳴は前衛的過ぎるチョコを思い出し、こっそり笑う。奏の料理の腕前が、これからどれだけ上がるのか。
 愚直なまでに諦めず、きっと努力を続けるのだろう。

「これからも、何度だって、ここで想い出を作ろうね」
「そうだねぇ。エオニアは良い所だし、たまには、ね」

 和やかに二人の時間を過ごす間に、次々と控え室に来客がやってくる。
 奏の両親や兄は、真っ先に駆けつけて二人に祝いの言葉を伝えた。昔から鳴は家族も同然であり、正式に家族の一員になれることを素直に喜んだ。
 その後、鳴の義妹や友人達がやってくる。奏とも共通の知人達で、二人の長い付き合いをよく知るからこそ、全力で祝福してくれた。
 入れ替わり、立ち替わり、人々が祝いの言葉をのべにやってくる中、九条雛姫(lz0047)、緒音 遥(lz0075)、アイザック・ケイン(lz0007)の三人もやってきた。
 雛姫ははにかむ笑顔を浮かべて、奏の手を取る。

「おめでとう。奏ちゃん。とっても綺麗です……だね」
「ありがとう。雛ちゃん」

 なかなか敬語が抜けなかった雛姫だが、最近は少しだけ砕けて話せるようになってきた。同じ年の女の子同士、ドレスの美しさにきゃっきゃと話が弾む。
 緒音は二人の姿を交互に見て、ウィンク付きの笑顔で笑いかける。

「奏さん、鳴君、結婚おめでとう」
「ありがとう、ございます」

 鳴は、ぺこりと頭を下げながら言葉を交わす。海でライブをしたとき、緒音と顔を合わせていた。
 そういえばあれもエオニアだったと、鳴は懐かしく振り返る。
 アイザックはカメラを片手に出して、二人に見せる。

「奏君、鳴君、結婚おめでとう。良かったら写真をとっても良いかな?」
「是非。雛ちゃん、一緒に映ろう」
「は、はい」

 アイザックがカメラを撮る間、奏と雛姫はくっついて笑顔を浮かべる。
 その次は新郎新婦で写真も一枚。
 プロが撮ってくれる写真もあるけれど、今、この時を切り取ったアイザックの写真も、二人のアルバムに残る大切な想い出になるだろう。

 鳴が緒音やアイザックと話す間、奏と雛姫・二人の乙女は語り合う。今まで一緒に過ごした時間をしみじみ振り返り、これから未来を夢見て、色々話しながら問いかける。

「大学に入ったばかりだから決めてないかもだけれど、雛ちゃんは大学出たら、どうする予定?」
「……まだ考え中で。でも奏ちゃんみたいに、きらきら輝く正義の味方でいたいな」

 かつての雛姫は正義の味方に憧れていた。けれど憧れの人は幻と消え、一度は目標を見失った。
 そんな時ライセンサーの先輩として、その行動でもって正義を示しつづけた奏は、雛姫にとって憧れだ。

「じゃあ、しばらく、一緒に頑張ろう」
「うん」

 ライセンサーとして、また任務を共にすることもあるかもしれない。その時はまた一緒にと約束し合った。

「また披露宴で会おうね」
「挙式も楽しみにしてるわ」
「……奏ちゃん。お幸せに」

 アイザック、緒音、雛姫はそれぞれ笑顔を浮かべて、控え室を去った。



 賑やかだった控え室に、奏と鳴が二人で残る。急に静かになって、もうじき挙式が始まると思うと、緊張が高まる。

「奏、そろそろ時間だ」
「そうだね。鳴君。お願い」

 鳴がさっと腕を差し出すと、その腕を掴んで奏は立ち上がる。
 式場の職員達が二人を向かえにきた。花冠を被ったベールガールが奏の長いトーレーンを持って、二人の後に続いて歩く。
 二人の門出を祝福するように、チャペルの鐘が鳴る。薔薇の匂いを含んだ爽やかな風が吹き抜ける。
 チャペルの前まできて、二人は一度別れた。鳴が先に入り、ヴァージンロードの向こうで待たなければいけないから。
 その僅かの合間が寂しい気分になりながら、奏は父の腕をとって、歩き出す。
 一歩、一歩、歩む度に、奏の頭の中で、歌が零れだす。

 ──ここに至る、二人の旅路。これから先は、二人で歩む旅路。
 ──積み重ねた想い出、繰り返した時の中で、紡いだ二人の絆。
 ──困難もあるだろう。けれど二人一緒なら、笑顔に変えるよ。
 ──共に奏でるmelody。紡ぐmemory。それが幸せのtheory。
 ──未知の未来へ、永遠の縁へ、旅立とう。先へ、先へ、先へ。

(未来への希望をこめた新曲を、挙式が終わったら二人で作っても良いかな)

 二人で音楽の相談をし、作り上げる曲もまた楽しみだ。
 ヴァージンロードを歩む間、家族や友人、参列者から祝いの拍手が鳴り響く。
 多くの人の祝福を耳で聞き、空気を感じ、鳴も、奏も静かに喜びを噛みしめた。
 父から花婿へ。花嫁はこれからの未来を共に歩む人の隣へ、並んで立つ。
 ヴェールで隠れて見えないけれど、奏の手が少しだけ震えていて。それだけで鳴には奏の緊張が解ってしまった。
 だから一言。

「奏」

 名を呼ばれただけで、奏の緊張はほどけていく。
 ブーケを持っていない方の手に、鳴はそっと触れた。
 奏を励ますような優しさに、やっぱり叶わないなと思いながら、誓いの言葉を口にする。

「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも」
「敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓います」

 二人が並んで誓いの儀式を行い、やっと向かい合う。奏が小さく屈むと、鳴はそっとヴェールを上げた。
 ステンドグラス越しの光が、奏の白い肌に降り注ぎ、目を奪われるほどに美しい。
 じっと見つめる鳴の真剣な表情に、奏の胸もときめく。
 しばし無言で、鳴と奏は見つめ合う。

「奏。綺麗だ」
「鳴君も、カッコいいよ」

 最高の幸せに包まれて、二人は微笑み目を瞑った。
 もう遠慮も何もいらない。奏をぎゅっと抱きしめて、鳴は奏の唇にキスを落とす。

 人生という長い旅路、共に歩む二人に幸あれ。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
●登場人物一覧
【吉良川 奏(la0244)/ 女性 / 17歳 / 共に歩む旅路】
【吉良川 鳴(la0075)/ 男性 / 24歳 / 共に歩む旅路】

●ライター通信
いつもお世話になっております。雪芽泉琉です。
ノベルをご発注いただき誠にありがとうございました。

お二人の祝いの席を描かせていただけて光栄です。どうぞ末永くお幸せに。
いつもはツンデレな感じだと思いますが、祝いの席なので今回はお二人とも素直に甘々な感じにしてみました。
お二人なら挙式中にオリジナル音楽が流れても良さそうだなと、オリジナル歌詞も書いてみました。
楽しんでいただけたら幸いです。

何かありましたら、お気軽にリテイクをどうぞ。
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2021年03月01日

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