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『分かれ道が並ぶとき』
cloverla0874


 日向蓬には5歳上のお姉ちゃんがいる。四葉と言って、白い髪が白詰草の花みたいな可愛いお姉ちゃんだ。蓬は「●●が可愛い」と言われると、「おねーちゃんもかわいい」とついつい言ってしまう。蓬くんはお姉ちゃんが好きなの? と聞かれ、にっこり笑って頷いてから恥ずかしくなってお母さんの足にしがみつくまでがセットだ。

 お姉ちゃんは蓬のことをとても可愛がってくれている。あんまり覚えていないけど、蓬が1歳の時に、お誕生日にヘビのぬいぐるみを買ってくれたらしい。流石に、その頃のことは覚えていない。気が付いたら傍にあったぬいぐるみは蓬のお気に入りであった。彼女によると、「蓬くんはヘビさんが好きだもんねー」と言うことであったが、ヘビ好きが先なのか、お姉ちゃんのくれたぬいぐるみを気に入ったのが先なのか、蓬にはイマイチはっきりしない。ただひとつ確かなのは、テレビにヘビが映っていたらついつい見てしまうこと、お姉ちゃんのくれたぬいぐるみをまだ気に入っていること、彼女のことを信じて頼りにしていること。

 四葉は小学4年生になっても、5歳の弟をよく構った。蓬は保育園のお友達と遊ぶのと同じくらい、お姉ちゃんと遊ぶのも好きだったので、彼女が満面の笑みで近寄ってくると、期待に目を輝かせるのだった。
「蓬くん、お散歩行こーっ!」
「おさんぽ! いきますっ!」
 蓬はお姉ちゃんとお散歩するのが好きだった。小さな花や、虫、鳥の声を一緒に楽しんでくれる。面白いものを見つけて蓬に教えてくれる。実際に見聞きした自然の多くは彼女といるときに出会ったものばかりだ。
 だから、この日も蓬は喜んでお姉ちゃんに付いて行った。お母さんに行って来ますを告げて、春のぽかぽか陽気のお外に繰り出す。
「いいお天気ですね」
 蓬は目を細めてお空を見た。真夏の様にぱっきりとした青さではなく、けれど鮮やかな。木々のあちこちには萌芽の気配が見える。気付いた時には、枝いっぱいに青々とした葉を見るのだろう。
「きょうはどこへ行くんですか?」
 手を繋いで、自分の歩調に合わせてくれるお姉ちゃんに尋ねる。お姉ちゃんはワクワクした様子で、
「あのね、あっちに綺麗なお花畑見つけたんだよ。ヘビさんもいるかもしれないねっ」
「ヘビさんっ!」
 お花畑もヘビさんも好きだ。ヘビさんはあんまり構うと噛んでくるから、遠くからそっと眺めるだけにしないといけないのがちょっと残念。お母さんに、ヘビを首に巻ける動物園に行きたいとおねだりしているけど、お母さんはヘビさんが苦手なのか、その話をする度に「うーん」と難色を示している。そう言うときにも、お姉ちゃんは蓬の味方をしてくれていて、行こうよ、と一緒になってお母さんに言ってくれた。考えておく、と言ってくれたので、蓬は良い返事を待っている。
「花束作っておかーさんにプレゼントしよ? きっとおやついっぱいもらえるはずっ♪ 動物園にも連れて行ってもらえるかもっ」
 お姉ちゃんはウキウキしながら住宅街の角を曲がっていく。横断歩道では、ちゃんと右を見て左を見て、2人で空いた方の手を上げて渡った。
 いつものお散歩とは知らない方向へずんずん歩いて行く。お姉ちゃんは早く蓬に見せたくて仕方ない様だった。けれど……段々その足取りが重くなる。どうしたんだろう、と首を傾げていると、
「んー、と。あれ?」
 お姉ちゃんはきょろきょろと辺りを見回した。完全に足が止まっている。
「おねーちゃん、どうしたんですか?」
 蓬が首を傾げると、お姉ちゃんは何だか慌てているようだった。
「えっと、次どの道だっけ……大丈夫っ、おねーちゃんがついてるからねっ! おねーちゃん、47都道府県全部言えるしっ!」
 すごい。さすがお姉ちゃんだ。お姉ちゃんは色んなことを知っていると思っていたけど、47個もあるものを全部言えるなんて。蓬は尊敬の眼差しで四葉を見上げた。
「おねーちゃん、すごいですっ」
「う、うん! お花畑まではもうちょっとだからねっ!」
 その声が少し震えていることに、蓬は気付いていたけれど、その理由まではわからなかった。ただ、お姉ちゃんと一緒に歩くのを楽しんでいる。


 日向四葉は困り果てていた。弟を連れてお花畑に行こうとしたのは良いけれど、どこかで道を間違えてしまったようだ。現在地もよくわからない。確か、この角を曲がったら文房具屋さんがあったはず。それなのに、そこはパン屋さんだった。電柱の場所もなんとなく違う気がする。
 どうしよう。このままじゃ、自分も弟も、お花畑どころじゃない。お家に帰れなくなってしまう。蓬にはつとめて明るく振る舞っていたが、内心はハラハラどきどき。

 その時、背中に小刻みな振動を感じた。四葉がリュックの底に押し込めていた子供用端末が鳴っていた。慌てて引っ張り出すと、着信は「お母さん」。安心して泣きそうになった。応答ボタンをタップして、
「も、もしもしっ? 今? まだ帰りじゃないよっ。え? 場所? えっとねー……」
 四葉はきょろきょろしながら辺りを見た。信号機の隣にくっついていた地名の書いてある看板を見る。
「──って書いてある!」
 随分遠くまで行った、とお母さんは驚いた。パン屋さんからスーパーの看板が見えるのよね、とも。それを聞いて四葉は振り返った。本当だ! いつも行っている、スーパーマーケットの看板が見える。あれを目指して帰れば良いんだ。
 困ったら迎えに行ってあげる、と言われて、四葉は安心もした。ひとまず大丈夫、と答えて通話を終える。電話が終わるのを待っていた蓬を見下ろすと、
「ちょっと道間違えちゃったみたいっ! 一旦戻ろーっ」
「はーい」
 蓬はお花畑にまだ着かないことなんて全然気にしてないみたいだった。四葉も段々気にならなくなってきて、その顔には笑顔が戻って来る。
 姉弟は仲良く手を繋いで、スーパーの看板を目指した。

 ヴァルキュリアのclover(la0874)と、ナイトメアのクラーティオ(lz0140)のことも、この2人は知らない。遠い昔にあった戦いの記憶。その断片を僅かに胸に宿しながらも、それは今の2人の道を妨げない。

 手を繋いで、歩けるところまで歩いて行こう。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
蓬くんの反抗期は、お姉ちゃんの言うことだけは聞いてそうな感じがします。
お花畑に到着したら、一緒に花冠作ってお互いに乗っけてあげるのかなって思いました。
たくさんありがとうございました! どうぞお元気で。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年03月05日

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