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『発掘! 神々の休み処』
cloverla0874


 とある山の深く深くに、その店はある。
 山の神の加護を受けた『小料理屋みき』。四季折々の山の幸に恵まれ、今日も常連初見問わず客人を温かくもてなしている。


「ライカいるー!? 見てよこれーっ!!」
 スパァンッと引き戸を開け放ち、真白の髪の美少女・clover(la0874)が姿を見せた。
 丸襟ふんわり長袖の白ブラウスに、エンジのスカートを合わせたロリータファッション。
「新しい服か? 似合ってると思うぞ」
「ありがとー! ……じゃなくてっ。累積ダメージが暴発して元の姿になっちゃったの!」
 青髪美少年は仮の姿。cloverは、実は女の子だったのです……!
「ライカに女の子にされちゃった……責任とってっ!」

「すんごい言葉が聞こえてきたんだが……何かもめごとか?」

 店の奥から、ずぶ濡れの青年が現れる。
 数か月前から働き始めた、クロト(lz0143)だ。
 流行り病で家族を亡くし、自身も蝕まれた半身を仮面のような鉄を打つことで隠している。
 口が悪く接客にはまるきり向いていないため、普段は雑用を主とした裏方に徹していた。
「あっ、クロトおにーさん! おにーさんこそ、どうしたの……」
「ちょっと温泉掘ってきた」
 ちょっとで掘れるものですか。
「クロトさん、タオルと着替え持ってくるまで入っちゃダメって言ったでしょ!! あっ。cloverさん、いらっしゃいませ。可愛いワンピースですねっ」
 薄紅色の着物姿がトレードマークの若女将・三木 ミコト(lz0056)がプンスカしながら追ってくる。
「こんなの、適当に脱いで絞って乾しとけばいいだろ」
「店内が水浸しになるでしょー! 春になったと言ったって、まだまだ寒いんだし風邪引いたら大変なんだから」
「着替えだって、あいつのだろ。いらねーよ」
「クロトさんじゃ、兄貴のサイズじゃ彼シャツだもんねー。私のと両方持って来ましたから好きなほうをどうぞ」
「ケンカ売ってんのか」
「やーさーしーさーでーすぅー」
 中学生レベルの応酬を肴に、ライカは手酌で昼酒をキメている。
「仲良しだね、あの2人」
「喧嘩するほどというやつじゃな」
 いつもの流れでライカの隣に座り、cloverはサイダーを注文する。
(ああいうミコトおねーさんって新鮮な気がする……。はっ、もしかして恋の香り!?)
 クロトは、ミコトの兄と古なじみだというし。
 『お兄ちゃんの親友』『親友の妹』は、非常に美味しい設定だと思う。
(すごいっ! 本物の少女漫画みたいだっ!)
「クロ。おぬしの考えていることを当てようか」
 乾いた笑いでライカはグラスを傾けた。

「決めたっ。明日、みんなで温泉に行こう!」

 うっきうきでcloverが提案。
「クロトおにーさんが、掘り当ててくれたんでしょ? お疲れさまっ。疲れをとるなら温泉だよねっ♪」
 毎日のように喧嘩している2人も、一緒の湯に浸かれば何かが変わるかもしれない。




 というわけで混浴です。
 女子2人に男子1人は可哀想なのでライカも連れ込みました。
 水着着用だから、恥ずかしくないし倫理違反もないよ!
 湯上り後の着替え用に、簡単な掘っ立て小屋をクロトが半日で用意しておいてくれました。




 周囲と底を岩で組み、思っていた以上に温泉らしい温泉が待っていた。
「すごーい、本当に露天風呂だ! クロトおにーさん、えらいっ」
「おー。店じゃ、あんまり力仕事もないしな。ちょうどいい運動になった」
「頭脳労働はからっきしですもんねー」
「たまには素直に労うとか感謝とかできねぇのかよ、お前は」
「まぁまぁまぁまぁ! 入ろ入ろ!!」
 到着するなり喧嘩モードのクロトとミコトを宥めて、cloverは手を湯に浸した。
 じんわりと温かい。
 体に湯をかけて清めてから、いざ。


 混浴でも全く問題ない、接客中だとゆっくり話すこともできないから、今日は裸の付き合いでー
 なんて、考えていたcloverだけれど。
(……あれ? 意外とこれ、恥ずかしいぞ)
 水着だから恥ずかしくない、はずだったのに。湯の透明度が高いので、逃げも隠れもできない感じ。
 cloverが選んだのは、シンプルなタンキニ。
 白地に小花柄のタンクトップに、パステルグリーンのフレアタイプのショートパンツを合わせたもので、夏なら普段着でも通りそう。
 とはいっても、本来の姿とはいえ女子モードは久しぶりで。
 水着となると露出度も普段より高い。
 白い肩や胸元が気になるのは自意識過剰だろうか?
(ミコトおねーさんはどんな水着……)
 鼻先まで湯に浸かりながら、ちらりと視線を隣へ移動。
 胸元がフリル仕様のワンピースタイプ、細見えの濃紺。
(えーと)
 そっと視線を戻す。
「……俺、最近思うようになったんだけど……大きい事も素敵だけど。形も大切な気がする、だから大丈夫だよっ!」
「えっ? う、うん……ありがと……?」
 大きさも形もカバーするタイプのフリルで色々と察したけれど、悲観することはなにもないと思うっ。
「おっぱいかー」
 フォローした次の言葉で、ポロリしてしまうclover。
「結局、重要なのって『見せたい相手』がどこが好きかって事じゃない?」
「cloverさんは、そっか。そうだよね」
「他人事みたいに言わないのーっ。知ってるよ、ミコトおねーさんだって、クロtむぐぐ」
「ない! ないから!!」
「えー。あるよぉ」
 のぼせるにはまだ早いだろうに、ミコトは耳まで真っ赤にしている。
「ねえねえ、ミコトおねーさんはクロトおにーさんとどこまでいったの?」
「行くも行かないもないよぉ」
「あれ? これから告白な感じ?」
「しませんっ。ただの兄貴の友達だし、向こうだってそういう認識だよう」
 普段のミコトは小料理屋の若女将としてスマイルを崩さないから、こうした素顔はcloverにとっても新鮮。
 恋バナできる女子は、貴重な存在。
「クロトおにーさんは、どうだろ。何だかんだ言いつつミコトおねーさんの事気にかけてるから、怒ったりしてるんじゃないかなーって、俺は思うけど」
「気に……?」
 そうかな……?
「ミコトおねーさんに知らない男の人とかが近づいてきたら、きっとすっごく不機嫌になりそう」
「それは、cloverさんとライカじゃん! cloverさん気づいてないと思うけど、cloverさんが来たときはどんなに混雑しても隣に誰も座らせないんだよ」
 不可視の狼を座席に置いて、無理やり場所を開けていることを若女将は見て見ぬふりをしている。何せ、相手は山の神なので。自然の恵みをもたらしてくれる存在なので。
「え……ほんと……? ライカしか見てないから気づかなかったし、ライカしか見てないから気にしなくていいのに……」
 顔が熱いのは、温泉のせいじゃない。
「cloverさんは、ライカのどんなところを好きになったの? 神様同士でも、そういうのってあるんだね」
「うーん、とね」
 cloverとライカの付き合いは、ミコトたちがこの山へ来るずっと前からだ。
 記憶を、ずいぶんと辿ることになる。
「男の姿の時は『いつか倒す、ライバルだーっ』って思ってたけど、今の姿に戻ってからはなんかこう……違うんだよね」
「その姿になったのって、最近だよね!?」
「あっ、たまに負け続けた時に戻ることはあったっ。今みたいに完全に戻らないのは初めて」
 色々と制約があって、山の神としては男性の姿でしか表に出ることは無くて。
 本来の姿に戻った時は、社にひとりで過ごしてた。
 あれこれ考える時間は長くて。
「ふわふわした紅蓮の髪とか、あの他人をゴミみたいに見る目……じゃなくて、凄く惹きつけられる紫の瞳とか」
 姿かたちは変わらないのに、心の中での印象が変化してゆく。
「外見とのギャップがある喋り方とか、俺の言葉にもしっかりと返してくれるとことか。真面目過ぎて、たまに一周回ってボケになっちゃう時とかは何かかわいーって思うっ!」
 こんな感じだったっけ……?
 と、再確認しようと注意深く接していくうちに、どんどん知らない姿を発見していって。
 それまで気づかなかったことに、気づくようになって。
「うん、可愛い。イケメンだけど可愛い♪」
「はー……熱烈だぁ」
「告白とかはまだだしー!!」
(するまでもなく伝わっているとは思う)
 ミコトはそれは口にせず、気に懸かっていたことをもう一つ。
「前の、男の子の姿には、もう戻れないの……?」
「そうみたい。でも、本来の姿で役目を果たせるなら神としては問題ないよ」
 制約をクリアした上で『こう』なったのだと結論付けて、社を出たのだ。
「へへ。女の子にされちゃったんだから、ちゃーんと最後まで責任とってもらうって決めたんだ♪」
「責任」
「お嫁さんにしてもらうっ! ライカって子供何人くらい欲しいかなー?」
「具体的な発展だね!? それじゃあ、cloverさんは告白まで秒読みなんだ……」
「えっ、あう……それは」
 恥ずかしい!!!
 勢いあまって、cloverはミコトへ湯を掛けた。
「やったなぁ!」
 テンションの上がってきたミコトも応酬。
 きゃっきゃきゃっきゃと、女子の微笑ましい光景が繰り広げられた。




「いや、のぼせるだろ。頭冷やせよ」
 ざばーー

 どこから汲んできたのか、湧水を湯に混ぜて少しだけ温度をやわらげた水を、文字通り頭からクロトがぶっ掛けてきた。
「ちょっ!? なにそれ最低なんですけど!?」
「気づかいだろーが」
「きゃー、クロトおにーさん、優しい〜☆ ねぇねぇ、おにーさんはおっぱいとお尻と足だったらどれが一番好きですか!」
「酔ってんのか、この神様は。胸一択。でかいの」
「ミコトおねーさん、がんば」
 cloverもスッと何かの熱が引いてゆき、ミコトの背を優しく叩いた。
(クロトおにーさん、ツンデレっぽいんだけどなー。直球なとこあるよねー)
 良くも悪くも裏表がなく、感性が小学5年生くらいで止まってるイメージ。
 嘘はつかないけど配慮が足りない。
「ライカもこっちおいでよー、みんなでおしゃべりしようよー」
 我関せずと遠巻きにしているライカへ、cloverが立ち上がって手を振る。
「ひとりでのんびりするのが良いんじゃろ、こういう場所は」
 見なれた、呆れた表情。
 いつもと違うのは――
(……はっ! ライカが脱いでるっ?!)
 日に焼けにくい白い肌が、陽光の下にさらされている。素肌を見るのはcloverも初めて。
(……あっ、違っ……水着だ……何か新鮮……?)
 黒い膝丈のサーフパンツなので露出は少ない。
 ちなみにクロトは伸縮性のあるショートパンツで、本気出して泳いでくるつもりなのか少し心配になった。
「来ないなら、こっちから行きますしー」
 泳ぐように湯の中を移動して、ライカの傍へ。


「来ましたっ」
「やれやれ……」 
 初めは気恥ずかしかった水着も、頭から水をかぶった勢いで気にならなくなってきた。
(ライカはどうかな? 気にしてくれてるかな?)
 表情を伺いたいけれど、なかなか相手の顔を直視できない。
(何となくだけど、独占欲は強そうなイメージ……は、あったけど)
 自分対象に発動してた? ほんとに??
「あー、えっと。背中流そっか? 髪洗ってあげようか? それともわ・た・し……」
「もう一度、水をかぶるか?」
「だいじょうぶですっ。あはは、なんだろうね、変だね……なんか……照れるね」
 温泉、自分から誘ったのに。
「湯加減はどう? 俺的には、ほどよくぬるくて長湯さいこー! なんだけど」
「うむ。悪くない。仮に温度を高くしたければ岩に熱を走らせればいいし」
「炎の正しい使い方……?」
 指を鳴らす仕草をする山の神へ、cloverは納得。
「いいなー、マイ温泉。俺の山も何かできないかな。温泉は、ここに来ればいいとしてー」
「おぬしのところは、あれだけの花畑を維持しているだけで大したものじゃと思うが」
「あっ、わかる!? 結構ね、気を遣うんだよ。花たちが気持ちよーく咲けるように場所を考えたり。野鳥や虫たちが遊びに来やすいように工夫したり」
 山野草の豊かなcloverの山は、動植物たちが誰に命を脅かされることなく伸び伸びと過ごしている。
 ライカともう一人の神の管轄であるこちらといえば、狩猟OK弱肉強食上等のサバイバルゾーンだ。
「たまにはライカも遊びにおいでよ。癒しの空間だよ〜」
「そうさな、考えておこう」
「ほんと!? 約束だからね!」
 温泉は、心を穏やかにする効果があるのかも。
 こんな柔らかい表情のライカは滅多に見ない。
 cloverがホワホワしていると、ミコトたちの方向から小さな悲鳴が上がった。




 どこから温泉の情報をかぎつけたのか。
 鹿や猪といった、野生動物たちまで入りに来ている。
「わぁ、なごむぅ」
 神々はホンワカしているが、人の子たちは――……


「危ねぇっ、お前は離れてろ。店の食材増やしてくる」
「ダメだよクロトさんっ。素手じゃ危ないし、あの子たちは休みに来てるだけだってっ」
 食材も足りてますっ。
「うるせぇ。変な病気が伝染ったらどうする? 野生の奴らは、何を持ってるかわかんねぇんだ」
「それでもっ。温泉は、山の恵みだよ。恵みを分かち合うことが山に生きるもの同士の約束だよっ」
 神様がもたらしてくれたんだから。
 その恩恵で、店をやっているのだから。
 小料理屋を営んで長いミコトは知っている。
 ここへ来たばかりのクロトにはわからない。
「殺意には、殺意しか返ってこないの!」
「それじゃあ、俺の家族は誰の殺意で死んだんだよ!!」

「そこまでにしておけ」
 ざばーー

 火傷しないギリギリの熱さに調整した湯が、クロトの頭に降りそそいだ。ライカの仕業だ。
「ここはわしの領域。わしの民に悪いようにはせん。こやつらにも、おぬしにもな。……少し来い」
 ざばざばと湯を掻いて、ライカの細い腕がクロトの腕を絡めとる。
 そのまま、温泉の端まで連行していった。
 男同士の話というやつか。




 キュンとした……すごく、キュンとした……
「ライカ、かっこいー……」
「あんまり神様だと思ってなかったけど、神様だねー」
 惚れ直しながら、cloverはミコトのフォローをすべく戻ってきた。
 動物たちは、逆方向の片隅で和気あいあいと湯あみをしている。
「あっ。言ったとおりだったでしょ。クロトおにーさん、助けようとしてくれたよね」
「あれは、そうなの……?」
「ご家族を引き合いにするくらい、ミコトおねーさんが心配だったんだよ」
「……そう、なのかな」
 変な病気。
 こればかりは、なんとも言えない。
 野生動物が人間の体を害するものを持っている可能性は否定できないから。
「お付き合いしたらめちゃくちゃ過保護になりそうっ! ぶっきらぼうなんだけど、甘々?」
 動揺の残るミコトを少しでも浮上させようと、cloverは明るい方向へイマジナリーワールドを展開。
「あっ、クロトおにーさんて壁ドンとか似合いそう。しそうっ!」
「あー……それは。うん。誰が相手かはともかく、しそう」
「そこはミコトおねーさんで想像しなくちゃ! あ、でもクロトおにーさんの身長……」
 お世辞にも高いとはいいがたい。壁ドンするからには、見下ろしてほしい乙女心。
「そういえば聞いた話なんだけど、キスしやすい身長差って12cmくらいらしいよ。2人の身長差ってどれくらい?」
「飛ぶね!?」
 突拍子のない連想に、ミコトの声が裏返る。
「私が、んーと……150くらい。クロトさんは170ないって、兄貴が言ってたなぁ」
「だいたい許容範囲!」
「cloverさんとライカは、近いよね?」
「2cmほど、俺が高いヨ……」
 女の子の姿になったけれど。それでも高い。
「同じ目線で、同じ風景を見られるって素敵だと思うよ」
「そ、そうかな!? そういうのもアリかなっ。俺から壁ドンも良い?」
「それならいっそ、ハプニングを利用した床ドン……?」
「ミコトおねーさんも、発想とぶよね」
 
 夏の始まりの、花畑。
 咲き始めた花々の甘い香りが漂う中で。
 柔らかな緑に、紅蓮の髪が広がって沈む。
 宝石みたいな紫の瞳が、驚いたようにこっちを見上げて――

「きゃー!!!」
「今度はなんだよ!?」
「あっ、大丈夫です。妄想が爆発しました」
「平常運転じゃの」


 花畑ドン、良いと思います。




 湯上り後は、川で冷やした瓶入り天然水サイダー。
 上着を羽織り、店へと向かう。
「気持ちよかったぁ。また、みんなで入ろうねぇ」
 こういう時にしか話せないこともあるしっ。
 星空を見ながらも良いだろうしっ。
「そうさな。動物たちとは時間をずらすよう調整しておく」
「冬でも平気なように、脱衣所の小屋も丈夫にしておくか」
 男性陣も、何を話していたのか丸くなった様子。
「ふふふふ。ミコトおねーさんもっ。今度、進捗きかせてね? 約束っ」
「だから、私は……でも、うーん……考えておく……」
 夕焼けに染まるように、ミコトの顔は赤くなっている。
「わしは、子なら一度に5、6かのう」
「ふぁ!? ……。それは、犬の話だね? 引っかからないし! ていうか、どこから聞いてたの!?」
「さぁて」

 ここは、ライカが加護する山。
 山の神様に隠し事はできないのです。
(と、私は知ってるけど……cloverさんも別の山の神様だし、神様同士はどうなのかな?)
 サイダーを飲みながら、ミコトは言葉も一つ、飲み込んだ。




【発掘! 神々の休み処 了】

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼、ありがとうございました。
『【AP】新装開店! 小料理屋みき』から発展した温泉回をお届けいたします。
恋バナ! 女子トーク! しあわせなせかい。
お楽しみいただけましたら幸いです。
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2021年03月08日

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