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『春の小ネタ全部盛りまつり!』
朝日薙 春都la3079)&レーヴェン メディルファムla3495

「師匠、ほら見て?」
 朝日薙 春都(la3079)はレーヴェン メディルファム(la3495)の写真に向けて、交付されたばかりの医師免許を掲げて見せる。
「私、ここまで来たよ」
 救命医になると心に決めてから、ひたすらそこだけを目指して頑張ってきた。
 その途中で遭遇した様々な出来事が、春都の脳裏に走馬灯のように蘇る――


●ナイトメアパニック

「朝日薙さん、医者は神ではないのです」
 診療所に続々と運び込まれる急患を前に、レーヴェンは静かに首を振った。
「この人達を助ける事は出来ません」
「そんな! 師匠いつも言ってるじゃないですか、殺してでも助けるって!」
「……そんな事、言いましたか」
「言いました、私この耳でちゃんと聞いたもん!」
 まあ緊急時には勢い余ってそれくらい口走る事もある、かもしれないが。
 なおその時の患者は無事に生きて帰る事が出来たので結果オーライだ。
「だから今度だって、それくらいの気合で臨めばきっと治せる筈です! だって師匠すごいお医者さんだもん! 現代の○ラック○ャックだもん!」
「私はちゃんと医師免許を持っていますがね」
 そうツッコミを入れた後、レーヴェンは真顔で春都に向き直る。
「かの無免許医にもこれは治せないでしょう。何故って、これは病気でも怪我でもないのですから」
 そう、これは言わば自然現象。
 通常は経年劣化(老化現象)として現れるものが一気に表出したという点が些か不自然ではあるが。
「そして朝日薙さん、これが最も重要な点ですが……人は死んだら生き返りません」
「知ってます。だから私、救急救命医になるために頑張ってるんです」
 こくりと頷いて、レーヴェンは待合室に詰めかけた患者達を見る。
 眩しい。
「……死んだ毛根も、生き返る事はないのです」
 彼等の頭部に、毛髪は一本もなかった。
 重たい沈黙が降りる。二人の間にも、待合室にも。
「でも!」
 沈黙を破り、春都は言った。
「新種の病気かもしれないじゃないですか! 昔は病気じゃないって言われてたものだって、今はちゃんと認められてて治せるものだってあるでしょ!? それに毛根が死んじゃってるって、ちゃんと確認したんですか!? 見た目だけで決めつけてないですか!?」
 怒涛の如く迸る言葉に、レーヴェンは思わず息を呑んだ。
(そうだ、俺はただのハゲだと判断してそれ以上の追求を怠っていた……)
 医師として、あるまじき怠慢!
「負うたつもりもない子に教えられてしまいましたね」
「負われてますよ、私師匠の弟子ですもん!」
「いえ、そこは否定させて頂きますが……」

 そして判明した衝撃の事実。
「これは……!」
 患者の頭皮から極小のナイトメア(顕微鏡サイズ)が発見された!
「ナイトメアが原因なら、そいつ倒せば治りますよね!」
 春都がEXISを手に立ち上がる。
「だったら私の出番です!」
 その瞬間、はらはらと抜け落ちる春都の髪!
 そして見えない敵はレーヴェンをもその射程に捉え――

 そしてみんな、つるんつるんになった。

「これどうやって倒せば良いのーーーっ!?」
 神ならぬ身には如何ともし難く……髪だけに。


●手が離れない、だと

 それは日曜朝の特撮でよく見る光景だった。
 青と黄色の組み合わせが多い気がする。
「じゃあ私が青で、レーヴェンさんが黄色ですね!」
「どう考えても逆でしょう、それは」
 二人の手はナイトメアが吐き出した超強力な接着剤でくっついていた。
 無理に剥がそうとすれば、皮どころか肉まで持っていかれること必至のレベルだ。
「困りましたね、これから急患の処置に向かわなければならないというのに」
 しかもレーヴェンは利き手を封じられている。
 これでは満足な処置も――
「大丈夫です! 私の利き手はこの通りフリーですから! レーヴェンさんは、この手を自分の手だと思って使ってくれれば良いんです!」
「無茶を言わないで下さい」
 溜息を吐きつつ、それでもレーヴェンは走り出す。
 ナイトメアの攻撃によって道路は寸断され、あちこちに瓦礫が散乱している。
 徒歩で移動するより他に手はなかった。

 それはまるで、手錠で繋がれた障害物競走。
 繋がったまま瓦礫を乗り越え細い隙間をくぐり抜け、そこのけそこのけ医者と医者見習いが通る!
「しまった、診療カバンが……」
 引っかかって通れない! 縦にしても横にしても、どうにもこうにも動かない。
 人が通れる場所を通れないカバン、それは明らかに詰め込みすぎだ。
「仕方ないですね、何か必要ないもの置いて――」
「それは出来ません。状況を鑑み全て必要と判断したからこそ持ち歩いているのですから」
「でもドラマとかだと主人公が有り合わせのもので工作して、パパっと解決しちゃいますよね? 大丈夫です、師匠ならきっと出来る!」
「私はドラマの主人公ではありませんし、現実はそう甘くありませんよ」
「だったら……こんな事もあろうかと装備していたこのゴーグルで!」
 春都は頭の上に上げていた異聞「オーパーツ・レンズ」を引き下ろした。
「行きます! 目からビーーーム!!」
 狭い隙間はこじ開けるもの、ですよね!

 斯くして――医者が来たぞ、患者はどこだ!
 ここです、と周囲の野次馬が指さした瓦礫の下に、人の手が!
 下敷きになってから、まだそう時間は経っていないが――
「師匠、脈がありません!」
 瓦礫の隙間から手を伸ばし、患者の腕に触れた春都が叫ぶ。
「落ち着いて下さい、脈が触れないほど微弱なだけかもしれません」
 仮に心停止でも素早く処置をすれば助かる可能性はある。
「まずはこの瓦礫を取り払いましょう。朝日薙さん、先程のビームを」
「良いんですか!? 患者さんも巻き込んでしまうかも……」
「手足の一本や二本、命を失う事に比べれば物の数ではないでしょう」
「わかりました……っ」
 なるべくダメージを与えないように、目からビーーーム!!
 これで漸く処置が出来ると駆け寄ったレーヴェンはカバンからAEDを引っ張り出し――
「……ん?」
「どうしたんです師匠、一刻も早く……え?」
 二人は見た。
 そこに倒れている患者、それは……

「マネキンじゃないですかーーー!!」
 ベタすぎるオチでした。


●白衣だって飛んでみたい

 それは春一番が元気いっぱいに吹きまくった日の事。
 南風と降り注ぐ陽光のおかげで気温は急上昇、休憩しようと外に出たレーヴェンが思わず白衣を脱いだ時だった。
 一陣の突風が彼の手からそれを奪い去った!
「あっ」
 叫んだのは本人ではなく、今日も今日とて頼まれもしないのに手伝いに来ていた春都だ。
「待ちなさいそこの白衣! 待遇に不満があるなら改善するように、師匠に言ってあげますからー!」
「白衣相手に待遇も何もないでしょう」
 レーヴェンはのんびりと、白衣の行方を目で追っている。
「もうかなりくたびれていましたし、丁度良い買い替え時だと……」
「でも師匠、さっきポケットに何か入れてましたよね?」
 その一言に、レーヴェンの顔からさぁーっと音がする勢いで血の気が引いた。
「追いかけましょう朝日薙さん」
「よしきた!」
 謎のノリで答えた春都は、足にブーストをかけて全速力。
「白衣さん待ってー!」
 勿論そんな声が届く筈もなく、白衣はひらひらふわふわと風に舞いながら遠ざかって行く。
「朝日薙さん、上ばかり見ていると転びま――」
 ずでーん!
 転んだのはレーヴェンでした。
 運動不足は足に来る、それはライセンサーと言えども変わらぬ真理。
 だがここでただ待つわけにもいかなかった。
 急げ、ポケットの中身を知られる前に!
 春都は無断で見たりしない子だと、わかってはいるが焦りは募る。
 明日から往診は徒歩で行こうと考えながらひた走り、自らドクターストップをかける寸前――
「確保ぉ!」
 春都の声が聞こえた。
「捕まえたよ師匠!」
「あり、が、とう、ござ、い、ま、ぜはーっ」
「ポケットの中、ちゃんと入ってる? 飛んじゃってない?」
 レーヴェンは差し出された白衣を受け取り、確かめる。
 無事だ。
「よかったー。で、何それ?」
「別に……大したものでは、ありません」
「大した事ないなら見せてくれたって良いじゃない! 私が捕まえたんだし!」
「それには感謝しますが……」
 結局それが何だったのか、今もって謎のままである。


●レーヴェンさんの隈が酷い 〜休め師匠! 働く弟子(仮) そして誤診へ〜

「寝て下さい」
 押しかけ弟子は開口一番そう言い放った。
 今のレーヴェンを見れば、彼女ならずともそう言うに違いない。
 目は血走り落ち窪み、肌はガサガサで青白く、一言で言うなら――
「死相が出てます」
 医者の不養生にも程がある。
 どうせ新しい論文でも読み耽っていたのだろう。
「しかし今から往診が……」
 そう答えた声も微妙に呂律が回っていない。
「今日はお薬届けるだけですよね? だったら私が代わります」
「その際に患者の顔を見ておくのも大事な診療行為で……」
「そう言うだろうと思って用意しておきました」
 オンライン診療セットー!(じゃーん!
「いや、カメラ越しでは正確な診断が……」
「じゃあこの人は? どう診断しますか?」
 見せられたのは今の自分の顔。
「迅速な栄養補給と充分な睡眠、及び休息が必要ですね」
「出来るじゃないですか」
 エナジーバー的な携帯食とスポーツドリンクを置いて、春都は颯爽と飛び出して行った。

 今日は先生と一緒じゃないのかと訊かれ、春都は「はい、先生はここにいます!」とスマホを見せる。
 そのやつれきった顔に、ちゃんとごはんを食べているのかと心配した往診先の患者その一、角のおばあちゃんは作りおきのおかずが入ったタッパーをくれました。

「いえ、独立はまだまだ……今日は代理でお薬をお届けに」
 その二、魚屋のおいちゃんは尾頭付きの鯛を奮発してくれました。
 なお患者さんはこのおいちゃんではなく、ご隠居さんです。

 その他にも高級和菓子や快眠グッズ、お高い牛肉に鰻の蒲焼き、癒やし感たっぷりのもちふわぬいぐるみなどなど、薬と引き換えに山盛りのお土産を貰って、春都は帰途につく。
「師匠すっごい人気者じゃない! やっぱり私が見込んだ師匠だけはあるね!」
 意気揚々とドアを開け――
(あれ、患者さんかな?)
 そーっと診察室に顔を出してみる。
 患者は母親に付き添われた若いお嬢さんだった。
「なるほど、胸が苦しい……それに食欲不振、頭痛に吐き気、睡眠障害、注意散漫、成績低下……しかし精密検査でも何の異常も見られず、原因不明と言われたのですね?」
 頷いた母親は大きな封筒をレーヴェンに手渡した。
 セカンドオピニオンが欲しい願い出た際に用意されたものだ。
「なるほど」
 レーヴェンはそこに入っていた画像診断のフィルムや電子カルテのデータなどを暫く睨んでいた。
 母親の話では、担当の医師は暫く様子を見ようと言うばかりで、治療らしい治療をしなかったらしい。
 娘の様子を観ると、不安げな母親とは対象的にずっとスマホを弄っている。
 ちらりと見えた画面はSNSの様だが、何かを確認しては肩を落として溜息を吐いていた。
「一般に言う不定愁訴とも少し違う様ですね」
 頭痛に吐き気で原因不明と来れば、アセトン血性嘔吐症など疑わしい病気は幾つかある。だが血液検査の数値は正常の範囲だ。
(これは、未だ治療法のない難病のひとつかも……)
 この師弟に僅かでも恋愛力があったなら、患者の症状に思い当たるフシのひとつやふたつはあったかもしれない――


 そして今。
 春都はレーヴェンの写真に笑いかける。
「結局ただの恋煩いだったんだよね」
「そうですね」
 写真が答えた――いや、写真の背後から声がした。
「朝日薙さん、あなたは何故わざわざ写真に向かって語りかけているのでしょうか」
「いや、なんかその方が雰囲気出るかなって」
 本物が相変わらず喜怒哀楽の乏しい表情で春都を見返している。
「そもそも撮影を許可した覚えはありませんが」
 いや、それよりも何故――
「では改めまして。本日より先生の元で研修医として働かせて頂く事になりました、朝日薙春都です。よろしくお願いします!」
「それも受諾した覚えはないのですが」
 まあ、いつもの事か。
「助手として少しは使えるようになったのでしょうね?」
「勿論です、お任せ下さい師匠!」

 そして物語は続く。
 未来の戦場で、また会おう――医師と救命医として。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
お世話になっております、STANZAです。
この度はご依頼ありがとうございました。
ほぼお任せということでしたが、頂いたキーワードがどれも楽しそうでしたので、ほぼ全部詰め込んだオムニバス形式にしてみました。
お楽しみ頂ければ幸いです。
リテイクなどございましたら、ご遠慮無くお申し付け下さい。
(患者さん等の登場パートで表現が少し不自然になっているかもしれませんが、モブは発言NGという事でこうなりました。その点はご了承下さい)
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2021年03月08日

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