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『輝きを増すアウイナイト』
神取 アウィンla3388

 今まで何度口にしたか分からないバイト先のメニューを、神取 アウィン(la3388)の声がなぞる。
 客の注文を凛とした声で厨房へ伝えるアウィンの姿は、この店の常連客ならば見慣れた光景であった。
 しかし、彼が店に顔を出す回数は、かつてと比べるとだいぶ減っていた。
 昔のアウィンなら、スケジュールに隙間がある事は許さないとばかりにバイトの予定を詰め込んでいたので、ほぼ毎日のように居酒屋に顔を出していたのだが……今のアウィンは、どのバイトも週二日程度におさえている。
 ライセンサー登録の方も、一応残してはあるが、よほど戦力が必要な案件以外はほぼ引退状態だ。
 その事を常連客や仲間が寂しく思ってくれている事は嬉しくも申し訳ない事だとアウィンは思うが、今はそれよりも優先して取り組みたい事が彼にはあった。

 三月に、アウィンの努力が実を結び念願の花が咲いた。希望していた大学医学部に、合格したのだ。
 医師になるという目標に向かって、アウィンはますます勉学に励んている。
 同じ頃に、もう一つ、彼は人生における大きな転機を迎えた。
 無駄のない動きで優雅に酒を運ぶアウィンが、常に身につけているプレートペンダント。グリーントパーズが嵌め込まれ、デルフィニウムの描かれたこのペンダントは、最愛の人からの贈り物だ。
 その人と、アウィンは四月末に挙式をあげた。美しい薔薇と友人達に囲まれながら行われた式と、ウェディングドレス姿の愛らしい妻の笑顔を、アウィンは生涯決して忘れる事はないだろう。
 愛しい人の存在に日々励まされながら、アウィンは本格的に大学生活を送っている。
 妻からは、バイトをせずとも良いとは言われているが、アウィンの夫としてのプライドが、彼女に完全に養ってもらう事を良しとはしなかった。
 だから、この居酒屋のバイトと、もう一つのバイトだけはもうしばらく続けていく予定だ。
 それに――。
「おや、来てくれたんだな。ありがとう。歓迎しよう」
 店内に入ってきた客に挨拶をしたアウィンは、そこに居たのが見知った者達だという事に気付き、僅かに表情を和らげた。
 アウィンがバイトしている事を聞いて、大学仲間が客として来てくれたのだ。
(それに、やはり私は、働く事が好きだ)
 忙しなく店内を行き来しながら、アウィンは改めてそう思う。
 こうやって友人が来てくれる事も嬉しいし、常連客との会話も楽しい。
 あちこちで広がった人との繋がりは、これからもずっと、大事にしていきたかった。

 この時間帯は、最も客が増える時間だ。これからますます、忙しくなるであろう。
 だが、彼の藍宝石の瞳は「望むところだ」とばかりに楽しげに輝いていた。

 ◆

 大学に入ってから始めた、家庭教師のバイトの方も順調であった。
 丁寧な指導とアウィンの礼儀正しい態度は、評判が良い。何より妻を溺愛している事が明らかなので、女子生徒の保護者達も安心出来るらしかった。
 初恋泥棒になってなければ良い。という、妻の心配は杞憂に……終わるわけがなく、その整った容姿と優雅な仕草でアウィンは少女達のハートをスナイパーの如く次々と華麗に射止めていた。
 もっとも、休憩時間の世間話等でアウィンが『超』を複数個並べても足りない程の愛妻家であるという事は生徒達もすぐに察してしまうため、恋心は大きなものにもなりにくいのだが。
 ……アウィンのそういった妻思いで一途な一面が、ますます彼を魅力的に見せるのだから、全く罪な事である。

 男子生徒達からの印象も、悪くなかった。自分も先生みたいになって、アウィンの妻のような可愛い彼女が欲しい、なんて羨ましがられたりする事もある。
「たしかに。私の妻は可愛らしくて素敵な人だ」
 そしてアウィンは、大真面目な顔で『自分の妻が可愛い』という事実を肯定し、これまた大真面目に生徒達へのアドバイスを考えてくれるのだ。
「何はなくとも、まずは筋トレだ。体を鍛えておいて損をする事はない」
 と言っても、アウィンがこういう時に口にする言葉は決まっていた。
 筋トレ。体力作り。ランニング。
 真面目で存外脳筋な男は、その生徒一人一人に合ったトレーニングメニューまでしっかりと考えてくれる。ご希望とあれば、時間が出来た時にランニングのコースを案内がてら一緒に走ってくれるかもしれない。
 この生徒くらいの年齢ならば……と、トレーニングメニューを書き記していくアウィンの勢いに押され、今日もまた一人の生徒が筋トレの世界に目覚める事となる。
 アウィン先生はインストラクターにも向いていそう、ととある生徒に言われ、「ふむ、そういった分野のバイトに挑戦するのも良いかもしれないな」なんて興味を抱きかけたものの、「いや、今は勉学に集中しなくては……」と我に返ったりするくらいには、筋トレについて指導する事もアウィンにとっては楽しい事だった。

 知識は身を助ける。アウィンは、その事を身をもって知っていた。
 アウィンが教えた事が、いつか何かの役に立つかもしれない。この世界に来て様々な事を人から教わり、その知識に助けられてきた、今のアウィンのように。
(生徒達の未来も、手助けする事が出来れば良い)
 そう思い、アウィンは眼鏡の奥の瞳を優しげに細めるのであった。

 ◆

 アウィン自身も、まだまだ知識を深めていくつもりだ。何せ、大学生活はまだ始まったばかり。大学以外でも、学べる事は世界に溢れている。
 やってみたい事、やるべきだと思った事、やってあげたい事……挙げ始めればきりがない。それでも、アウィンは何に対しても全力で取り組むつもりだ。
 勉強に励み、バイトに精を出し、友人達と交流を深め、愛しい人と生活していく。
 そんな充実した日々を、これからも彼は生きる。生きていく。
 アウィンにとって、そのどれもが、掛け替えのないものなのだから。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
大学生になったアウィンさんの日常……このようなお話になりましたが、いかがでしたでしょうか?
お楽しみいただけましたら、幸いです。何か不備等ありましたらお手数ですがご連絡くださいませ。
それでは、今まで、ご依頼誠にありがとうございました。アウィンさんの物語を彩るお手伝いが出来て光栄でした。
またいつかどこかでご縁がありましたら、何卒よろしくお願いいたします!
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しまだ クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年03月10日

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