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『彗星は止まらない』
詠代 静流la2992


 人類とナイトメアとの決戦は、人類の勝利で幕が下りた。
 しかしその瞬間に全ての悪夢が地球上から消滅するわけではなく――詠代 静流(la2992)はXN-01『星竜』を駆り、斬艦刀「天翼」を手にナイトメアと交戦していた。
 そこは何十年も昔にナイトメアに滅ぼされた廃墟の町だった。連中の数は多い、だが雑兵ばかりだ、司令官クラスによる指揮もなく、ここで戦っているライセンサーは静流だけではない。苦労はするが苦戦することはないだろう。

「おらッ!」

 また一閃、巨大な剣が振り抜かれる。マンティス種のナイトメアはそれで容易く両断され、動かなくなった。ふう、と静流はコックピット内で一息を吐く。ひとまず周辺に見えるナイトメアはこれで全滅させた。他のエリアに加勢に行くべく通信機を介して仲間に呼びかける。

「こちらDエリアの星竜、ひとまず見つけた範囲のナイトメアは殲滅した。そっちは?」

 だが――返事は砂嵐ばかりで。
 怪訝な事態に静流は眉根を寄せた。

「もしもし? どうし――」

 その瞬間だった。
 星竜が『落下』したのだ。視界はたちまち真っ暗に。

「なッ――」

 罠か? 地盤沈下に巻き込まれた? しまった、地上戦を想定していたので飛行パーツを着けてきていない――目まぐるしい思考の直後、星竜の落下は止まる。だがそれは地面への激突ではなく、奇妙な浮遊感に包まれていた。
 見渡せど見渡せど、何も見えない無間の闇だ。レーダーも通信機も全てエラーを吐いている。だが静流は不思議と直感する。この空間は、さっきまでいた世界ではない『どこか』……たとえるならば世界と世界の狭間だろうか。

(似ている……あの時に見た、空間の歪みに……)

 放浪者たる静流がこの世界に放り込まれるきっかけとなった、故郷で見た不思議な歪み。自分はまた、その歪みに落ちてしまったのだろうか?
 辺りから何の音もせず、何の気配もなく、何も見えず……静流は緊張感を尖らせる。冷や汗が伝い、自分の心臓の音がやけに大きく聞こえた。

 ――その直後。

 星竜の機体がいきなり大きく揺れた。イマジナリーシールドに衝撃がぶつかったのだ。先程のナイトメアのようなやわっこい攻撃などではない、エルゴマンサー級の危険な攻撃だった。

「く、ッ!」

 衝撃の正体は分からない。だが遮二無二、静流は攻撃が飛んできた方へ刃を振るった。手応えはない。更なる衝撃が別方向からぶつかり、曇白の機体が吹っ飛ばされる。そこへ追撃が。砕けるシールドの残滓が、虚無の闇へと消えていく。

(まずい――!)

 敵の正体も見えず分からず、こちらからの攻撃も届いていない。
 一方的に嬲られているような状況だった。シールドは瞬く間に削れていき、ダメージが装甲に直接届くようになる。そうなれば機体の揺れは更に大きくなった。コックピット内でアラートが鳴り響く。

 どうにもならなかった。

 ぐしゃり、と音が聞こえた。装甲がひしゃげて砕け散る。
 ついにシステムもダウンし、コックピット内は真っ暗闇に包まれた。
 そして静流の意識もまた、遠のいていく……。

 死ぬ――こんなところで?
 折角ナイトメアに勝利できたというのに?
 元の世界にも帰れないまま?
 たった独りで――……?

 ――朧な意識の中、巡るのはこれまでの戦いだった。
 様々なナイトメアと戦った。
 いろいろな国で。いろいろな場所で。いろいろな武器で。

 ロシア、【堕天】事件。
 エルゴマンサー・エヌイー(lz0088)――正式名称、エンピレオ。

「君は進化しましたか?」

 暗闇にいたはずだった、しかし静流はいつの間にか蒼穹の中に居て、目の前には光り輝く巨体エンピレオが在り、その上にはエヌイーが立っていた。

「エヌイー……エンピレオ、どうしてここに、ここは一体」
「それは野暮ですよ。それで――あの時よりも、君は前に進みましたか?」
「俺は……」

 静流は自分の掌を見つめる。
 ぐっ、と握り込んだ。

「当たり前だろ。俺はあの時より強くなった。俺も、星竜も……大切な人だってできた、やりたいことだってまだまだ追っかけてる最中だ。ちったぁ成長したつもりだよ。ゴールはまだ遠いけど、それでも……」

 それでも。
 そうだ。『それでも』、と進み続けたのだ。

「その先が果てしなくて果てしなくて、傷ついて苦しくて、罵られて報われなくて、『それでも』?」

 低い声が響いた。振り返ればそこは黄金の霧に包まれた地で、静流が乗っているのはMS-02S『魔竜』になっていて、目の前にいるのは真体をさらしたバルペオル(lz0128)だった。

「そうだ。『それでも』俺は、歩き続ける。先に進み続ける! だって立ち止まっちまったら……それまで俺がやってきた全てのことへの裏切りになる。俺の助けたいというエゴで助けて、生きろと言った全ての人への裏切りになる。俺の日常を護る為に殺し尽くした『お前達(ナイトメア)』への裏切りになる。だから俺は立ち止まる訳にはいかないんだ!」

 それが静流の、『生を懸けるべき尊厳』。
 数多の命に託された勇気。命。願い。希望。

「じゃーお前の進む前に、お前よりも強いヤツが立ちはだかったらどーするんだ?」

 目の前が紅蓮の炎に包まれる――再び静流が乗る機体は星竜となり、そして目の前には七冠十角の終末竜、燃え上がる炎の怪物ゴグマ(lz0136)がいた。

「決まってる」

 静流は眼前の終末を睨みつけた。

「何度でも何度でも挑むまでだ。俺より強い奴を倒すまで、どれだけ傷つこうが、俺の命ある限り何度だって――お前達に挑み続けたように」

 宇宙という無間の闇を駆け続ける彗星のように、静流は立ち止まることはしない。
 それは、「それでも」と前に進み続ける決意と覚悟。

「だから――どこまでも行こう、『星竜』!」

 叫んだ願いは、止まったはずの鉄人形に再びの火を灯す。
 緋色の単眼が星のように煌めいた。
 瞬間、世界を裂いて現れるのは『終末の竜<ラグナロク>』。それは星竜と一つとなり、咆哮はこの無間の世界を震撼させる。
 今のは走馬灯なのか。彼らとの激戦の中で命の欠片とも呼べるモノを星竜が取り込んでいたのか。ダンテの解明できていない機能によるものなのか。IMDによる産物か。はたまた、ただの幻覚か妄想か。
 分からない。ただひとつ確かなことは――今ここに戦える力がある、ということだ。

「いくぜ――『竜王の星火<バハムートノヴァ>』!」

 それは全てを込めた一撃。
 放つ想いは召喚魔法陣となり、巨大な竜が現れた。
 咆哮する竜が咢より放つのは、燦然と輝く光の焔――それは真っ黒の世界を真っ白に、塗り潰していく……。

 ●

 は、と目が覚めると静流はベッドの上にいた。
 飛び起きた彼は、そこがグロリアスベースの医務室であることを知った。
 なんでもあの依頼にて、いきなり静流が音信不通状態になり……その後、現場で倒れている静流と、機能停止した星竜とが見つかったそうだ。ちなみに友軍に損傷はなく、星竜の装甲や静流の体にも傷はなかった。
 あれはなんだったのだろう。分からないが、静流の人生はこれからも続いていくのは真実だ。
 そしてこれからの人生で、静流はまた戦場に身を投じていくことになるのだろう。
 次の戦いの為に……立ち止まらない為に、負けないように。静流は顔を上げるのだ。

「これからも、がんばらないとな」



『了』

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました!
いやはや……静流くんにはメインストーリーで本当にお世話になりました。
かっこよくて素敵なキャラです。
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グロリアスドライヴ
2021年03月11日

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