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『Refrain』
赤羽 恭弥la0774)&飛鳥 玲治la0534

 二人にとって、別れは特に突然やってくるものではない。
 いつもそうだった。
 『次』の世界に転移する前にはある程度予兆があったし、身辺整理をして出立するだけの準備期間はある。
 こんなことが2、3年おきに起こってもう何度目だろう。
 いい加減、慣れている。

 ……それでも今回は、『弟』にとっては多少心持ちが違っていた。


 とある街の、人気のない路地裏。
 そこが二人の、『この世界』で最後に居ることを選んだ場所だった。
 もうじき転移して、二人の存在はこの世界から居なくなる。
 それまでの、最後の一時。

「いやぁ本当色々あってさ。戦いもしたけど公民館でイベント手伝ったり大事な出会いが……あぁいやそれはともかく、兄ちゃんは俺が花火打ち上げたの知らないだろ」
 それでも赤羽 恭弥(la0774)の様子はいつもと然程変わらない。
 『此処』で過ごす数年の間に起こった出来事を、楽しそうに兄へと話す。
 コミュニティでの研究や、ゲームのこと。
 飲み会をしたり、買い物をしたり。
 この世界で戦うべく作った小隊と、隊長である自分と一緒に戦ってくれた大事な隊員――仲間たち。
 勿論いいことばかりではなかった。大小さまざまなことがあったけれども、楽しい思い出だけは今でも色褪せない。
 だからこそ、楽しく語れるのだろうと恭弥は思う。

「短い間だったのにいろいろなことをしてきたんだねぇ。前の世界もそうだったね、キョウは」
 一方で、笑顔で恭弥の思い出話の聞き役に回っている兄――飛鳥 玲治(la0534)の心持ちは弟とは大きく異なる。
 玲治には恭弥と違い、世界への思い入れも何もない。
 そもそも、異分子である自分たちはその世界の住人から排斥されるものだと認識しているからだ。過去に巡ってきた世界で実際にそういうことがあったのだ。だから、恭弥とは真逆でむしろ『自分たち』を異分子として扱う世界を敵視している節すらある。
 ある意味では、『ヒトのかたちをしながらも人の心を失っているイキモノ』と言ってもいいかもしれない。

 ただそんな玲治でも、大事なもの……守り抜きたい目的がある。
 弟の幸せだ。
 だから、恭弥が楽しそうに思い出話を語ること自体は玲治も嬉しく思う。
 ただ内心、毎度転移した世界にのめり込み過ぎだとも感じている。
 玲治が願う恭弥の幸福とは、そんな『今』の恭弥の姿とは程遠い。むしろ自分と同様に、異世界やその住人に依存しない形でのものだ。
 異世界には、いつか裏切られると思っているから。


 恭弥が思い出話を続けていると、不意に二人の足元から淡い蒼色の光が生じ、それぞれの身体を包み込み始める。
 恭弥は機を感じて一度口を噤み、あっという間に頭の天辺までを覆った半透明の光の向こうに見える兄の顔を見た。
 いつものようにただ笑顔でいる玲治の様子に、ある種の安堵を感じていると、視界が眩い光に包まれ――。
 そうして、この世界は二人の存在を失った。追い出した。

 或いは、別の世界に異分子として迎えられた。
 次に二人が目にした光景は、建築物といい、闊歩する人々の服装といい、一見、元々彼等が生まれ育った『世界』の街に非常に似ていた。ただ一つ異なるのは、人々の活動の多さ的に今は昼にあたるのだろうけれども、空を覆うのは必要以上に大きな月の輝く夜だということだ。
 つい先程までいた世界にナイトメアという名の侵略者がいたように、この世界にも、やはり何かしら歪さがあるのだろう。
 自分たちを迎え入れてしまう程の隙間を生じさせてしまう、何かが。

 二人が転移した先が雑居ビルの屋上だったということは、幸運だったと言える。
 少しの間、金網フェンスの隙間から眼下の街の様子を見下ろしていた恭弥だったけれども……やがて、その場に膝をついて崩れ落ちた。
「う、ぅぅ……」
 嗚咽を漏らす。
 瞳から零れ落ちた雫が、冷たいコンクリートを濡らした。

 実際に、彼等は転移する度に世界から裏切られていると言えよう。
 それは玲治が世界を敵視する切っ掛けとなった意味でも言えるけれども、たとえそのような悪意がなくとも、世界は恭弥の心を傷つけている。
 世界への思い入れ。
 それが深ければ深いほど、別れが辛く悲しくなる。
 慣れているし今後も避けられないことなので気にしても仕方がない、と自分に言い聞かせているけれども……これまでの転移と今回とでは、ほんの少しだけ違うことがあった。
 恭弥は先程まで居た世界で、思ってしまったのだ。
 弟の幸福として玲治が願うこととは裏腹に、「昔のように、人との関わりを持ち続けたい、共に過ごしたい」と。
 そう思わなければ、或いはここまで感情を揺さぶられることはなかったのかもしれない。『慣れている』ことに、違いはないのだから。
 だけど、それでも。

 一方で玲治はといえば、特にこれまでの転移と何ら変わることはなく、ただ穏やかな笑顔を浮かべながらもその裏では淡々と、この世界の在り様を早速情報として収集し始めていた。
 弟を生かし、自分も生き延び、あわよくば弟がいずれ立ち去る世界に思いを募らせないようにする為に。
 その為には、まずはこの世界で前に進み出さねばならない。
 弟を、立ち直らせねばならない。

「キョウ、行こう。この旅を楽しんでいくんだろう? まずはこの世界を知ることから始めないと」
「……あぁ」
 もたげる頭を玲治に撫でられ、立ち上がれずにいた恭弥は服の袖で涙の端を拭い、ややあって立ち上がる。

 ――それでも、恭弥は新しい世界に出会うことを楽しみにしているのだ。
 転移することが自らに与えられた宿命のようなものだとして、短い人生を謳歌したい。
 人との関わりにしたって、物は考えようだ。
 共に過ごすことは難しいけれども、結ばれた縁は存在を忘れない限り切れることはない。
 そう考えると、転移すればするほど色々な世界の様々な人々と関わりが持てるこの身は、幸運とすら言えるのかもしれなかった。

 世界を生き抜く上で『情報収集』が非常に大事であるということは、二人の共通認識だ。
 兄と弟で、その根拠としている思いはまるで異なるけれど。

 一つの目的と異なる願いを胸に、兄弟は新たな世界を歩き出した――。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
津山佑弥です。
大変お待たせしましたが、お二人がグロリアスドライヴ世界の地球から旅立つノベルをお届けします。
転移の演出や転移先の世界は勝手に捏造しましたけれども、それぞれの思いを描き出せてはいましたでしょうか?

受注タイミング的に恐らく最後になったであろうノベルを書かせて頂き大変光栄でした。
願わくば、お二人の旅路に何らかの幸福が待っていることを。

この度はご発注頂きありがとうございました。
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津山佑弥 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年03月22日

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