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『幸せ。』
神取 アウィンla3388


「……あ、ありが、とぅ……ひっく、ありが……」
 神取 アウィン(la3388)は号泣しながら愛する人の手を握り締め、今産声を上げた我が子が付着した血液などを拭われただけの正しく“産まれたままの姿”で母親の胸の上に置かれるのを見守る。
 生々しい羊水の匂いと体中に胎脂がついたまま、顔を真っ赤にして泣く我が子が母親の心音を感じた途端泣き止み静かになったのを目の当たりにして、アウィンは再び涙に濡れた。
 汗だくになりながら、三年ぶりの激痛に耐えて我が子を産んでくれた妻に心からの感謝を何度も告げる。
 出産の現場に立つのは臨床実習の時にもあった。
 あの時も、双子が誕生したときのことを思い出して号泣しそうになったのだが、『医者が泣いてどうするの!』という指導医のカツのお陰で、自分がここにいる理由を思い出して医師の手技や観察項目に集中することが出来たのだった。
 あれから無事総合病院のいち内科医として働くようになり、激務のため絶望的だと思っていた立ち会い分娩。
 まさかの公休日に産まれてきてくれる何て、なんて孝行息子だ……! と涙で顔中をぐしゃぐしゃにしてアウィンはその誕生を喜んだ。
 とはいえ、外見年齢の若い妻ではあるが実際には超高齢出産になる。
 今回も帝王切開を勧められた中の自然分娩で、万が一の時の為に手術室と連携を取ってのダブルセットアップで挑んだ出産だった。
 『神取、邪魔』 ついには取り上げてくれた馴染みの産科医に分娩室を追い出されたアウィンは、涙を拭うと手術室へ向かい、待機してくれていたスタッフ達にお礼を告げ、再び陣痛室へ戻ると荷物をまとめながら、友人達へ無事産まれたことを写真付きで報告していった。
 お姉さんとお兄さんになった子ども達が早く会いたいと騒ぐ電話口にアウィンは笑いながら頷く。
「明日、おばあちゃんと一緒に会いにおいで」
 残念ながら明日は勤務なのでアウィンは一緒にその場にいられないが。


 かつてのアウィンは自分の弱さを認めることは許されなかった、誰より自分自身が許さなかった。
 領主という家に生まれたアウィンは、小さい頃から母親が庶民の出自であった事もあり、母の為に強くなければならなかった、なりたかった。
 兄の婚儀直前、何の前触れもなく地球へ転移し、全てを失った様で途方に暮れた。
 何も判らない中、『働かなければ食えない』という当然の事実の前にひたすらにバイトに明け暮れたりもしたが、アウィンが愛し、アウィンを愛してくれた家族と離れた孤独はどれほどバイトを詰め込んでも埋まることは無かった。
 そんな日々に出逢ったのが現在の妻だった。
 彼女と共に過ごす中で自分の孤独感は薄まり、愛されることで自己肯定感は満たされ、愛することで強くなれた。
 『パパ!』 とアウィンに抱き付いてくる双子を抱き返しながら、今なら両親に「私もあなたが親で幸せでした」と言えると思う。
 ……結婚式にも(別世界だから)呼べなかったし、いざ逢えた時には恥ずかしさが勝って面と向かって伝えられるかは神のみぞ知る、だが。
 愛し愛される日々でアウィンは本当の意味で優しくなれたのだと思う。
 医者として多忙な日々を送りながら、専門医としての勉強も平行して行っているが、辛いと思った事は無い。
 守るものが増えて、幸せと感じられる日々はアウィンを強くもした。

「……は?」
 ある日、アウィンは目を瞬かせた。今、息子は何と言っただろうか? ――ミー君とマーちゃんがお付き合いを始めた?
「早くないか??? まだ3歳、4歳だよな……?」
 双子と同じクラスという事は同じ年だ。
 いや、大好きな人が出来るというのは良いことだ。
 だが……いや、まて。地球の子どもというのは自分が知らなかっただけで“進んで”いるのだろうか?
 子供達にも、誰かを想い幸せであれと願う、その気持ちに嘘は無い。
 自分が妻を、子供達を想い幸せに生きているから。
 いつか息子が恋人を連れて来たなら、それを祝福しようとは思っていた。
 娘が恋人を連れて来た時も(……まぁ、相応しい人物かよく見極めてから)祝福しようと思っていた。
 ……だがしかし、その未来はアウィンが思っているより早く来るのかも知れない。
「お前達も……パパやママより好きな人が出来てしまうんだろうな……」
 思ったよりショックを受け、マジへこみしているアウィンを見た双子が困ったようにアウィンの頭を撫でたり、ほっぺたをぎゅーっとアウィンの頬に押し付けてきたりする。
 『だいじょうぶだよ、ママとパパがいちばんだいしゅきだよ』『だいしゅき!』
「……うん、ありがとう。パパもお前達が大好きだよ」
 仕事で中々一緒にいる時間を作って上げられないが、それでも家に帰れば子煩悩な父親として愛を持って接してきたつもりだ。
 そんなアウィンを見て妻は呆れたように笑いながら『将来が楽しみだね』と抱っこしている次男の頬をつついていた。
 結婚したときも、双子が産まれたときも、次男が産まれたときも。
 家族が増えて、世界を楽しみ生きていく。
「ありがとう。ありがとう。これからも、よろしくね」
 無償の愛を注ぐ。
 『私は?』 とねだる妻にアウィンは破顔してその手を取る。
「いつも有り難う。愛しているよ」
 真顔で告げ、顔を真っ赤にした妻を見て、アウィンもまた幸せに胸をいっぱいにして笑う。

 病めるときも、健やかなるときも。
 晴れの日も、雨の日も。
 悲しいことは分かち合って半分に。
 嬉しいことは分かち合って二倍に。
 彼女とならそれが叶うと思って夫婦になって、それが実現出来ると思っていた。
 だが、家族が増えて、悲しいことは分かち合って小さな事に。嬉しいことは分かち合って何倍にも膨らませることが出来るというのは予想以上に幸せなことだった。
 3人の子ども達は間違いなく妻との愛の宝物で、5人で過ごす日々は毎日が記念日だ。


 『神取先生!』 緊急コールにアウィンは白衣を翻す。
 個人デバイスのトップ画面は当然愛する家族。
 うっかり家族の話を振ると、惚気話と親馬鹿ぶりが披露されると病院中にバレているなど露知らず。
 アウィンは今日も定時退勤を目標に掲げながら、患者のために奔走する。






━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【la3388/アウィン・ノルデン/無償の想いを注ぐ】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度はご依頼いただき、ありがとうございます。葉槻です。

 葉槻にとって、アウィンさんが最後のOMCノベルとなりました。
 最後のノベルが幸せに溢れた物となって葉槻も幸せでした。
 いやほんと、うっかり奥様のお名前とか台詞とか普通に書きそうになって何度修正したか!

 口調、内容等気になる点がございましたら遠慮無くリテイクをお申し付け下さい。
 またどこかでお逢いできた時には宜しくお願いいたします。
 この度は素敵なご縁を有り難うございました。


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葉槻 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年03月23日

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