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『KAYOWAI.』
クララ・グラディスla0188)&cloverla0874)&雨崎 千羽矢la1885)&常陸 祭莉la0023

 ある時、世界のか弱いは一段下がった……雨崎 千羽矢(la1885)がこの世にか弱くあった時から……。
 しかし、常に人は一番を目指すもの……真のか弱いとは何か!
 人間は争わなければ勝敗を付けられない……そこで『第一回か弱い王決定戦』が開かれたのだ!

「――企画・実況・解説はすべて私、クララ・グラディス(la0188)が担当します」

 グロリアスベース某所、ナイトメアとの決戦も終わり戦後のゴタゴタやらも一先ずは一段落ついた頃合い。季節は桜もちらほら春めいて、マイクを手にしたクララの言葉に集まった者達は「クララの頭も春めいたのか」と思ったが、負けられない戦いがそこに在るので辞退するような『強い』行動を取る者はいなかった。

 そういうわけで選手紹介。

 エントリーNo1、clover(la0874)!
 身長156cm、体重40kgッ!
 SALFが誇る(?)美少女メカ、またの名を四葉ッ!
 波乱万丈の己の宿命を乗り越えたその様はまさにか弱きヒロインかッ!
「俺、防御特化だからか弱いと思うんだよね」

 エントリーNo2、常陸 祭莉(la0023)!
 身長180cm、体重71kgッ!
 何度も闇落ちしたけたところを愛に救われたのは正真正銘ヒロインッ!
 デカい男だけどそれはハンデには決してならないッ! むしろギャップで殺していくかッ!
「何が起きてるのかわからない……でも、女子に力で負けることなら誰にも負けない」

 エントリーNo3、雨崎 千羽矢(la1885)!
 身長164cm、体重41kgッ!
 王者入場ッ! 『口癖(キャッチコピー)』は「か弱い千羽矢ちゃん」ッ!
 宿命付けられしか弱さッ! か弱くあらねばならぬ絶対的オーダーッ!
 挑戦者にいかほどの格を魅せつけるのかッ!
「か弱いを決める戦い……! これは是が非でも優勝しなくては……!」

 なお現場はグロリアスベースのその辺の空き地である。SALFの会議室を借りようとしたら使用用途を聞かれ、「第一回か弱い王決定戦です」て言ったら、ハ?って顔をされたから……。
 気を取り直してクララによるルール説明。

「か弱い皆様には三回戦っていただき、それぞれの戦いで獲得したKP(か弱い・ポイント)の総合点で全て決めます。それでは第一回戦、『か弱いコーデ戦』!」

 か弱そうなコーディネートを決めるぞッ!
 各人が思う、「ぼくのわたしのかんがえたさいきょうにかよわいコーデ」をしてきたら優勝ッ!
 とにかくコーデからか弱さを感じられればヨシッ!

「ルールは既に参加者達へ伝達済みです。各人、それぞれ持参した『最強のか弱いコーデ』が用意された着替え室へと入っていったッ……どのようなか弱さを魅せてくれるのかッ!」

 空き地にぽつんと三つ並んでいるのは、着替え室という名のパーテーションで区切られた簡易なエリアである。
 と、ここで!

「千羽矢ちゃん準備OKだよ!」
「おおーーッと! 着替え室に入って五秒と経たずッ! 一番乗りはエントリーNo3、王者千羽矢選手ゥウーーーッ!!」

 それではどうぞとクララの声と共に、現れる千羽矢は――先程と何ら変わっていない。さっきと全く同じ服装ではないか。それもそのはず、千羽矢は着替えなんてしていないのである。
 まさかのコーデに司会クララも困惑する。

「千羽矢選手、これは一体……?」
「女の子は女の子って存在自体がか弱いから、着飾る必要なんてないんだよ! いつも通りの服装、いつも通りの仕草で! それが真にか弱い女の子だよ!」

 くるりと快活にターンする千羽矢。ふんわり揺れる、いつものハーフツインテールに、いつものスカート。いつも通りの千羽矢。

「――つ、『強い(か弱い)』ッ!!!」

 謎衝撃波(?)にクララは両手を防御するように前へ、長い髪もブワッと舞い上がる。

「まさかまさかの展開です! 初手からこのような展開が許されるのでしょうか!? 否、許されるッ! 『千羽矢選手(王者)』だからこそ赦されるッ! 圧倒的ッ! 圧倒的か弱さッ!! これは続く二人にはなかなかの逆境だーッ!! さあ誰が続くッ!? クローバー選手か、祭莉選手かッ!」
「じゃあ……」
「打って出るのは祭莉選手だーッ!」

 か弱い王決定戦が未だになんなのか祭莉には分からないし、多分この先も分かることはないのだろう。
 それでも祭莉は戦場に立った、立ってしまった、立ってしまったのならばあとは突っ走るしかないのである! それが……か弱さだから……!(????)

「こ……これはッ……!」

 クララは瞠目した。現れた祭莉は、下は適当なジーパンにつっかけで、上は白いTシャツなのだが……Tシャツには金のフィッシャー像がドデカくプリントされていた。そして虹色に波打つ丸っこいフォントで『EXACTLY!』と書かれていた。何が「イグザクトリー(その通り!)」なのか全く分からない。

「ダサT……ダサTだーーーーッッッ!!」
「うん、か弱いってなんだっけ、って思って……とりあえず弱そうならいいのか、と……ほら、あんまり強そうには見えない……よね?」
「確かにエルゴマンサーがこのTシャツを着ていても全く脅威を感じない……ッ!」
「EXACTLY……」
「伏線回収ーーーッ!!!」
「か弱いってこんなんでいいんだっけ……? いいのかな……いいか……」

 イグザクトリー、その通りよ。
 さて最後に残るはクローバーである。だが彼女はまだ準備中のようだ。「もうちょっと待ってー」となにやらゴソゴソやっているようである。
 だがその時!
 ダンッ! とパーテーションの内側から何かが突き立てられた……包丁だ! 包丁がパーテーションをバキバキバキっと割ってしまう! そして隙間から覗くクローバー! おコンバンハ!

「あなたを殺して私も死ぬ!」
「それはか弱いというよりヤンデレでは――ッ!?」
「死ィーーーッ!!!」

 パーテーションから現れるクローバー。その顔は、下目蓋にナメクジ飼ってんのかいってぐらい涙袋に気合を入れた地雷メイクだ。唇は真ッッッッ赤なグロスで、髪はぱっつん姫カットの黒髪カツラ。前髪から覗く目(宇宙人めいたクソデカカラコン入り)には光がない。体は包帯だらけで、片手には包丁。

「これ完璧じゃね? か弱くね?」
「……凶器持ってるのはか弱い……?」

 千羽矢の冷静なツッコミ。クローバーはハッと包丁を見る。

「ご……護身用的な? ホラ弱いから襲われるし……いやでも待てよ? か弱いなら立ち向かうのは減点対象では……!? あっじゃあこの包丁は料理用です!!!」
「掌クルクルすぎて心力突出杭『月読命』だよ……!?」

※心力突出杭『月読命』
 FS-X用に開発された盾と槍を一体化させたような特殊な兵装。竜巻を起こすほどのエネルギーをすべて武装に収束させ、高速回転するエネルギーのドリルを生み出す。

「クローバー選手、か弱さのつもりがヤンデレってしまったーー! ヤンデレはある種パワフルなアグレッシブさを持つのでこれは難しい事態だ〜〜〜ッ!」
「馬鹿な……俺の完璧な計算が……!」

 ないメガネをくいくいするクローバー。追い込まれた悪の科学者が言うセリフである。祭莉のクソTもそうだそうだと言っています。
 混沌とした状況。クララはマイクを握り直す。

「波乱の幕開け! 先が見えない事態になってまいりました! それではこのまま第二回戦に参りましょう。『私、はしより重たいものもったことございませんの戦』!」

 か弱いとは――お嬢様のように嫋やかなこと。
 しかしライセンサーは箸より重たいものを持たねば戦えない。つまりEXISは箸より軽いので、箸がどれくらい重たいのかアピールせねばならない。ちょっと何を言ってるか分からないかもしれないが、考えるな感じろ。

「――なるほど!」
「祭莉選手さっそく閃いた! では早速答えて頂きましょう!」
「箸を重いものとして説明する……これは一見、どうしようもない無茶ぶりだけど……表題の時点で既に答えは出ていたんだ……これは言葉ゆえの高度な叙述トリックだったんだよ……!」
「な、なんだってー! つまり!」
「箸……ハシ……橋! 重そう! ごめん自分でも何言ってるのかよく分からなくなってきた本当にごめんなさい冷静になっちゃった」
「祭莉選手、冷静になってしまった〜〜〜ッ! ああーっ駄目だ『なんで人前でこんなTシャツ着てるんだろイグザクトリーってほんと何ていうかか弱さ選手権なのに一人だけ男が出てるって』と自己分析し始めている〜〜〜! これは痛恨のリタイヤかーーッ!」
「とてもつらい」
「帰って来い祭莉選手〜〜〜〜〜ッッッ!!!」

 ちょっと男子〜! 男子がすみっこで体育座りしちゃったじゃ〜ん!

「これは第一回戦の挽回のチャンス……!」
「おーっとここで躍り出たのはクローバー選手!」
「ちょっといい?」

 クローバーは空き地に適当な枝でゴリゴリと線を引き始めた。平行の二本線は、シマシマのない横断歩道っぽい。

「これを吊り橋とします」
「ふむふむ?」
「ちょっとクララっち、カレピッピ役して」
「クラピッピってこと? 受けて立つわ」
「じゃあ俺は今から彼女、つまりジョジョピッピってワケ」
「『つまり』の後が意味不明だけど、それから?」
「こうやって二人で歩くっしょ? それで――きゃあっ! 俺がちょっと転びかけたりしてさ、そしたらカレピッピが『大丈夫?』なんて手を引いてくれる……ドキドキしちゃって二人の仲も急接近だよね」
「なるほど吊り橋効果を狙っていく! 吊り橋効果を知っているとは策士だーーッ!」
「あっ、えっと、ちなみに俺は別にそんな相手いないよ? た、たとえ話だってっ!」

 照れ隠しにクララを肘でドンするクローバー。司会者、今吊り橋から落ちましたよ!? ここがワニとピラニアのいるジャングルの川だったら死んでいた。さて気を取り直して、クローバーはマトメに入る。

「つまりこれは箸……ハシ……橋! 重そう! アレこれまつりんさっき言ってたな……」
「おおーっと橋が天丼になってしまったーーーッ!」
「しまったぁああああ」

 同じネタをほじくられた祭莉のライフポイントに無限大のダメージ!

「ふっ……この戦い、もらったよ!」

 ここで真打登場。千羽矢が髪をファサッとかき上げ、仮想ワニとピラニアのいるジャングルの川の司会に対し得意気に挙手をする。

「いい? か弱い女の子は背中に色々なものを背負っているんだよ。それは周囲の期待はもちろん、羨望や嫉妬なんてものまで色々あるんだよ! だからあとはもう箸を持つくらいしか余裕ないんだよ! それより重いとぺちゃんこになっちゃうからね! そういうわけでEXISは箸より軽いしお箸は持つのが大変なのでした。QED(証明完了) !!!」

 理論の圧が強い。強い(か弱いけど)。
 なるほど……とクララが納得していたところで、クローバーが片手を上げた。

「ねえねえふと思ったんだけど……お箸より重たいものを持てないって話なんだけどさ、じゃあお箸が食べ物を持ったらどうなるの? 食べ物ぶんの重さが加わるよね……その時点でお箸より重たくなるわけで……ごはん、食べられなくない?」
「……」
「……」
「……」
「……」

 沈黙の後、祭莉がポツッと呟いた。

「……フォークで食べればいいんじゃ……?」

 天才〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!

「えー、参加者全員の叡智を集め、箸より重たいものが持てないならフォークでご飯を食べればいいじゃないということになりました。皆さん天才ですね。天才なのでそれぞれに5000兆ポイントのKPが入ります。そんなこんなで最終ラウンド、えー、思いつかないので適当にか弱さをアピールしてください! 司会者にはか弱いの定義が分からなくなってきましたのでお任せしたく思います!」

 この司会者、投げやりである。
 やれやれ、千羽矢は肩を竦めてこう言った。

「一回戦も二回戦も圧勝しているか弱い千羽矢ちゃんだけど……三回戦も雰囲気で勝って優勝していることは間違いなしだよね!」
「……でも、チハヤって自分のことか弱いって言うけど……あんまりか弱いって感じ、しないよね」

 控えめに祭莉が言った。千羽矢は食い気味に答える。

「で……でもKPは5000兆ポイントもあるよ?」
「ボクら全員5000兆ポイント入ってるよ……」
「あっそういえば第一回戦のKPがどうなのか聞いてなかったっ。司会者さーん!」

 司会者に聞いてきたところ、「そういえば入れるの忘れてたから全員に5000兆ポイントで」と返ってきた。

「ちょっと待って1京点になっちゃったんだけど」
「なにこのクソデカか弱い王決定戦」

 これには思わずクローバーもつっこむ。

「……」

 参加者達はふと空を見上げた。
 春の始まり、桜の花びらが一枚ひらり。

「……1京点もかよわいポイントがあるなら、もう争う必要なくない……?」

 クローバーが言った。「確かに」「そうかも」と千羽矢と祭莉は頷いた。もうこれだけか弱ければそれでよくね……?
 平和なひとときと、あったかくなってきた風。そういえばなんでこんな意味不明な決定戦をしようって話になったんだっけ。そもそもそこから思い出せないが、まあいいか。これはこれで。

「じゃあ引き分けってことで……」

 千羽矢が言う。「異議なし」「異議なし」と二人も答えた。
 そんなこんなである。謎のトンチキバトルはここに幕を下ろしたのであった。

 さて。クララはそんな仲間達の様子を穏やかに眺めている。
 彼女はそろそろ旅に出るつもりだった。つまりこれが最後の機会。楽しい時間はあっという間だった。
 楽しい時間は終わってしまう、だからこそ今、微笑みを浮かべよう。

「――うん、楽しかったっ!」



『了』

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました!
どったんばったん書けて楽しかったです。
Gではたくさんお世話になりました!
またご縁がありましたら、どこかでお会いできますように……。
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グロリアスドライヴ
2021年03月24日

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