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『未来に繋ぐ歴史の語り部』
吉良川 奏la0244


 ナイトメアとの決戦から5年ほど月日がたった頃。ナイトメアと人類の歴史資料を公開する「ナイトメア歴史資料館」が完成した。
 この資料館の設立に尽力した吉良川 奏(la0244)は資料館入口で人を待ちながら、物思いにふける。
 人もナイトメアも問わず、戦争の中で死んだ者全てを弔いたい。人間側は自然と作られるから、奏はナイトメアの慰霊碑を作りたいと考えていた。
 しかしそれは多くの人の猛反対を受けて諦めざるを得なかった。例え人類に味方したエルゴマンサーもいたとはいえ、大多数の人間にとってナイトメアは悪であり、その慰霊碑を作ることは許されなかったのだ。
 けれど人とナイトメアの歴史資料を集めて陳列することは、間接的に「ナイトメアの慰霊碑」になるのではないかと考えた。彼らの記録はここに残るのだから。
 歴史資料館の設立に奏は奔走し、長い時間をかけて、やっと今日開業を迎えた。
 考え事をしてる間に待ち人来たる。九条雛姫(lz0047)が奏に手を振って笑顔で歩いてきた。
「奏ちゃん。久しぶり」
「雛ちゃん、今日は来てくれてありがとう! 大学はもう休み?」
「うん。春休みでのんびりしてる」
「紅葉さんは? 許可があれば、久遠ヶ原が出られるくらいにはなったんだよね? 久しぶりに会えるかと思ったけど」
「面倒くさいって逃げられたの」
 雛姫が小さくため息をつく。志鷹紅葉(lz0129)の性格は相変わらず、今も久遠ヶ原で教員を続けているようだ。
 今日は奏の誘いで二人で歴史資料館の完成式典に参加することにしたのだ。
 二人で式典に出席し、資料館を眺めて回っていると、雛姫は感嘆のため息をつく。
「こんな立派な施設の資料に、自分の名前が刻まれるのが不思議だな」
 ヨーロッパで起きた怪人事件の証言資料の中に、雛姫の名前を見つけ恥ずかしそうに俯く。
「私達は歴史の転換期に生きていたんだって、今さら実感するよね」
 この資料館に刻まれた名前は、雛姫より奏の方が遥かに多い。それだけ色んな事件に関わってきたからだ。

「雛ちゃん、この後時間ある? 久しぶりに飲みにいかない?」
「うん。あ、でも私弱いから、軽めのお酒が飲める場所がいいな」
「この近くにオシャレなカフェバーを見つけたんだ。軽いカクテルもあったと思うよ」
「わぁ。楽しみ」
 資料館を眺めたあと、二人はカフェバーに向かった。
 カプレーゼやアヒージョなど軽いつまみを食べつつ、甘いカクテルを楽しむ姿は女子高生時代と変わらず華やいでいた。
 自然と二人は近況報告をし出す。
「雛ちゃんが大学卒業後も、また久遠ヶ原に残るなんて思わなかったよ」
「史学科に専攻を変えて、入り直した時は紅葉さんに嫌な顔されたな。『いつまで居座る気だ』って」
「紅葉さん、学園ではどうなのかな?」
「怖がられてるよ。経歴も色々あるし、性格も問題あるし……教員としても厳しいんだ」
「簡単に想像がつくね」
「私はもう慣れてしまったから、紅葉さんを怖がらずに小言を言える貴重な存在と、周りに思われてしまって……色々大変なの」
 雛姫に小言を言われても紅葉がやりかえす訳にもいかない。雛姫が泣いたら怒りそうな、おっかない人達が大勢いる。奏もその一人だろう。だから雛姫は紅葉に煙たがられている。
「でもどうして史学科に入り直したの?」
「紅葉さん、教師としては優秀で、しっかり剣術を教えてもらって。私も強くなれたんだ。でも極めたからこそ自分の限界にも気づいてしまって」
 どれだけ努力しても、奏や紅葉のような一流の武術は身につけられない。そう気づいた雛姫は別の方法で『正義の味方』を目指すことにしたのだ。
「人類とナイトメアの歴史は、私が生まれるずっと前からあって。久遠ヶ原にはその歴史資料が豊富にあるの。それを学ぶことは、将来的にまたナイトメアのような存在が現れた時に、必ず役立つはずだから」
 戦闘技術を身につけるだけが戦いではない。それは怪人事件で調査に携わったときに、雛姫が経験したことだ。
「教員免許もとろうと思ってて。卒業したら久遠ヶ原学園で歴史の先生になりたいな」
「紅葉さんの同僚になるの?」
「うん。きっとまた嫌な顔されると思うけど、武術とは別の形で、肩を並べられるのも良いなって」
 苦笑いを浮かべつつ、雛姫は楽しそうに笑った。
「紅葉さんと上手くやっていってるんだね。雛ちゃん、まだ紅葉さんが好きだったり?」
「それはありえない」
 真顔できっぱり言い切ったのが雛姫らしくなくて、思わず奏は笑った。
「強さに憧れや尊敬する気持ちは今もあるけど、異性としては最低な所は何度も見てきたの」
 紅葉が恋愛沙汰で問題を起こす度に、雛姫が呼び出され小言を言う担当をしていたらしい。
「奏ちゃんが羨ましいな……素敵な旦那様と可愛い子供がいて幸せそう」
「うちの子も大きくなったよ。写真見る?」
「見たい!」
 奏の子供は二人いて、もう幼稚園に通っているという。写真を見ては、雛姫は眩しそうに目を細めた。
「いつか奏ちゃんみたいに、素敵な人と結婚したいなって憧れる……けど、まだこれからかな」
「良い出会いがあると良いね」
「うん」
 その後も二人で様々な話をしている間に、奏はメールの着信に気づいた。
「あ、紅葉さんからだよ」
「今日、サボったから奏ちゃんにお詫び……?」
「うーん『酒の奢りなら付き合うが、面倒な用事は付き合わない』だって。相変わらずだね」
「……やっぱり。もし伝言があれば伝えるけど、何かあるかな?」
「大丈夫。会いたくなったら自分で話ししにいくよ。奢りなら付き合ってくれるみたいだし。たまには直接会って話したいよね」
 雛姫も紅葉も、ずっとあの学園に居続けるのだろう。定期的に久遠ヶ原学園に遊びに行くのも良いかもしれない。奏はそう思った。
 奏自身が通った学校ではないけれど、何故か懐かしいと感じる場所だから。

 二人でカフェバーを出る頃には空に星が見えていた。
「奏ちゃんの歌は、ネットやテレビで良く見ていたよ。子育てもして、歌手としても忙しいのに、その合間を縫って歴史資料館まで作るなんて、やっぱり凄いな」
「やりたい! って思ったら止まらなくて」
 奏を支える夫の協力があったからこそでもある。母となって人生に厚みができたのか、奏の歌声はアイドルを通り越して伝説の歌姫と呼ばれるほどの存在になっていた。
 その輝きが眩しすぎて、雛姫は空に手を伸ばして微笑んだ。
「奏ちゃんは私の一番星なんだ。夜空で一番綺麗に輝いて、絶対に届かない」
 正義の味方として憧れ、高みにいる存在。どれほど焦がれても手が届かない。
 雛姫の手をぎゅっと握りしめて、奏は明るい笑顔で雛姫の不安を吹き飛ばす。
「雛ちゃん。私はいつも隣にいるよ」
「ありがとう、奏ちゃん。大好きだよ」
「私も大好き!」
「私も奏ちゃんの夢を手伝えるかな。歴史を学んで、一緒にナイトメアの過去を語り継ぐ語り部になれたらいいな」
「雛ちゃんが手伝ってくれるの、嬉しいよ。一緒にやろう」
 互いに成人して何年もたつのに、少女のように笑い合って手を繋いで歩いた。二人の友情は永遠なのだと誓うように。
 奏は歩きながら歌を口ずさむ。死んでいった人とナイトメアを弔うように、優しい音色が夜空に溶ける。
 優しい歌に包まれながら、歴史の語り部達の歩む道は、これからも続く。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
●登場人物一覧
【吉良川 奏(la0244)/ 女性 / 17歳 / 歴史の語り部】


●ライター通信
いつもお世話になっております。雪芽泉琉です。
ノベルをご発注いただき誠にありがとうございました。

ナイトメアに殺された人が多数いるので、味方になったとしても「ナイトメアを記念」する物は作れないのではないかと考えこういう形にしました。
NPC二人を登場させると字数が足りないので、紅葉はメールだけになりました。
雛姫の今までから将来を考えて、こういう結論がでました。
奏さんと雛姫の友情や未来を、少しでも楽しんで頂けると幸いです。

何かありましたら、お気軽にリテイクをどうぞ。
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雪芽泉琉 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年03月25日

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