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『この『国』を護るのは 1』
水島琴乃la4339

 少々不本意ながらも、仕方ない事はあるものです。

 ……ええ。不本意と言っても、不満がある訳ではありませんよ?
 あくまで“本意では無い”と言うだけで。
 今のわたくしは自由にわたくしのやりたいように、望むまま動けますから。自由裁量を許されている範囲も広いですし、結果として充分に満足な生活を送れてはいます。
 ただ、その為にSALFでライセンスを取り、ライセンサーとして活動する、となりますと。
 殆ど書類上だけの如き建前の話になりますが、帰属先が国際組織SALFにならざるを得ないのが――何でしょうね。どうにも失笑してしまうと言うか。

 それだけの話です。

 わたくしはどうあっても、自分の国――日本を護る為に戦う、くノ一でしか無いのですから。



 時は西暦2058年。

“自らを進化させること”を目的とし、異世界から来たる侵略生命体――通称ナイトメアとの開戦より35年が経過。
 ナイトメアの侵略により、人々の生存領域は縮小の一途。
 人類は今まさに、存亡の岐路に立たされようとしている。

 ナイトメアに対抗出来るのは、イマジナリードライブ――特定の伝達物質を介して自身の想像力を実現、具現化させる技術――に対する適性のある“適合者”のみ。よって、この御時世、限られた資産であるイマジナリードライブ適合者の力は、時を追う毎に重視されて行く事になる。

 SALFとはそんなイマジナリードライブ適合者の効率的な管理と活用を行うべく設立された国際組織。各国のパワーゲームから切り離す意味で独立した組織として発足。但しそれは御多分に漏れずほぼ建前。EXISやアサルトコアと言ったイマジナリードライブを活用できる装置、武器、兵器自体を手掛ける世界各地のメガコーポレーションの支援を受け組織が発展して行く事になるのは必定だった。結果としてこのSALFの活動は、国のみならず各巨大企業の利権と保身も複雑に絡み合う事となる。

 ……ですので。
 わたくしの様な立場のライセンサーも居る事になるのです。

 場所は、日本。
 建前は、SALFからの長期出向。
 けれどその本質は――自衛隊内に非公式に設立された暗殺、情報収集等の特別任務を目的とした特殊部隊に元通り所属しているだけなのだと水島琴乃(la4339)自身も当たり前の様に認識している。当然、表向きのダミーとしての身分もある――表立ってSALFに話すのはあまり宜しくないかもしれない任務に携わっている事もまた、多いので。
 故にSALFにはダミーの身分が居るべき立場に出向している、としてはある。……まぁ、実際の所は筒抜けかもしれないが。それでも余程目に余る事柄で無ければまず目を瞑る。自由裁量は伊達じゃない。持ちつ持たれつ、お互い様。それで全て事も無し。
 ……ええ。心からのわたくしの帰属は、こちらの自衛隊の方なのですよ?

 古来より国家的にも非公式に確認されて来ている魑魅魍魎の類。その殲滅も重要な任務とするその部隊が、自衛隊の中のここ。……その“魑魅魍魎”の正体がナイトメアである場合も多い事は、この御時世になって漸く判明する。古来から存在したそれらは寧ろナイトメアの送り出したこの世界への先遣隊だったのだろうか。はたまた、ナイトメアとは何の関わりも無い文字通りの魑魅魍魎だったのか。もしくはナイトメアとは異なる異世界からの来訪者と言う例もある――この世にはわからない事は多々あるらしい。
 ……どちらにしても、敵性存在は殲滅すれば済むだけの事ではあるのですけれど。

 一応ながらライセンサーとなってから、琴乃の世界は広がった。本来の帰属になる特殊部隊では元々ノータッチだった類の国内任務へ駆り出される事もまた増えた。それ全てSALFの絡み。結果としてグロリアスベースやそこを経由しての世界中の土地と言った――それまで訪れた事の無い名所などの事も知った。
 まだ出会っていない運命の人が居るかもしれない、土地だと感じた。
 わたくし達の――人類の在るべき場所。
 そこを荒らすなんて許さない。
 この『国』を護りたい。元々あったその思いに――今となってはそんなモチベーションもまた、当たり前の様に追加されている。

 ひとりで出来る事など高が知れている?
 ……それはそうでしょう。ナイトメアの侵略は世界レベルの話ですから。物量物理の仕方無い制限は、わたくしであっても流石に人間一個人ですから存在します。ですが“そういった敵”を相手にするとしたならそれなりの武装や兵力、情報を備えるだけの事。それらを揃える所からわたくしが行えるのならば、まず大抵の事は十全に可能です。
 ですが、身軽に動くにはどうしてもそれでは差し障りますので。
 わたくしは己の身一つで行える任務を好みます。……その方が、わたくしのこの容姿を見せ付けて“遊ぶ”事も遣り易いですし。

 クス、と口の端に笑みを乗せつつ、琴乃は呼び出された先、部隊の上官が待つ部屋の扉を開ける。
 ……今宵の任務は、どんなものでしょうか?



 とある地方に現れた、ナイトメアの疑いが濃い犯罪集団の殲滅。
 言い渡された任務は、端的に言うならそれだけの事だった。然るべく、といつも通りに受領はしたが、正直な所自分に回される様な難しい任務だろうかと疑問にも思える様な内容。……元々この部隊で琴乃に回されるのは、個人〜小隊レベルで行うとされる程度の、けれど特別に難易度の高い任務になる事が多い。二十歳にも満たない年頃である琴乃の実力が、若いながらも並ぶ者が無い程に圧倒的であるのは上司含め皆承知である。ならば相手がナイトメアと思われるからこそか――いや、この部隊に居るライセンサーは琴乃だけでは無いから、ナイトメアの疑いがある“だけ”ならば琴乃にまでは回って来ない。
 つまり、言葉面で想像される以上の難しさを伴う任務である事は容易く想像が付く。
 一応その辺りの事を上官にもそれとなく確かめ、匂わされた事で確証も得る。どうやら皆まで言えない、のが本当の所であるらしい。ならば仔細はわたくしの方で探った上で遂行せよと言う事ですね。承知しました――そう含んだ上で「然るべく」とだけ応えてから、琴乃は上官の執務室を辞する。

 支度を整える前に、可能な限り情報は得ておく。普通に部隊内の情報技官に頼む事もするが、それ以外も事前に出来る範囲で行えるだけは行う。現地の情報。殲滅対象自体の情報確認。一般的な表層部分からアングラ、機密に掛かりそうな部分まで。違和感のある情報は無いか。横槍が入る可能性。ひとまず片端から頭に叩き込んでおく。

 琴乃は取り敢えずの情報を得たそこから、次に向かうべき場所へと直行する。



 出る所は出、引っ込む所は引っ込んだグラマラスな琴乃のその肢体。凶器にも似た胸元も色めいた臀部も、艶やかにはちきれそうなその身をぴったりと包んでいるのはまず黒の色。上のインナーも下のスパッツも、どちらも体のラインがはっきりと出る形のフィットした作りで密着度合いも抜群。首を通してから長い髪をかきあげて挑発的に払う事もし、布地をぴったりと伸ばしつつ胸の位置も慣れた手付きで整える。その様だけで僅かに揺れる胸元は、さりげなくも吸い込まれそうで、見る者が居たならどうしようもなく目を惹くだろう。

 要するに、琴乃が直行し向かったその場所は、くノ一の姿になる為の――戦闘服を纏う為の、更衣室。


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グロリアスドライヴ
2021年03月29日

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